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♯20 チャージ&ダーク!

 時間は昨日の夜に、一時さかのぼる。弾美パーティは、その日は夕方のインで見事イベントエリアの2個目と裏エリアの4個目をそれぞれ攻略したのだったけど。妖精の泉に行くためだけに、再度8時半にイベント限定エリアにインする約束をしたパーティだったりして。

 すっぽかす者も遅刻する者もいない優秀振りで、約束の時間に全員集合を果たし。リーダーの弾美としても嬉しいのだが、音頭を取るのは完全に瑠璃にバトンタッチしている感じ。

 それより気になるのは、写し身の鏡の性能である。レア装備でもオッケーなのか、コピーの回数は何回までなのか? 1回だけだと、割とトホホで誰が使うか悩ましいのだけれど。

 実は使う順番は、夕方の合同インで決定済み。女性陣は、弾美に最初を譲ってくれていた。


『今夜は、戦闘はほとんど無くて移動だけかな? みんなちゃんと、コピーする装備と妖精にトレードするアイテム考えて来たか~?』

『う~ん、そう言われてもねぇ……コピーは順番回って来るか未定だし、妖精は呪い装備以外は特に思い付かないし?』

『そうですねぇ……鏡が1回だけだったら、妖精に直して貰うってのはどうです?』


 それは良い案だと、美井奈の裏技っぽい発言にのっけから盛り上がってみたり。皆をパーティに誘い終えた弾美は、瑠璃に進行をせっつきながらも。自分はあらかじめ考えておいた、薫の腰袋のコピーを頼む。

 SPとポケットが増えるそれは、かなりの良品でハズミンにも欲しい。


 鏡を持っていたのも、実は瑠璃だったので。薫から絹の腰袋を受け取りながら、しばし写し身の鏡の使い方を模索している様子。程なく、コピーが完了したと言って、二人に同じ品をトレード。

 幸い、鏡はまだ壊れてはいないという瑠璃の報告に、パーティもやや興奮気味。それぞれ固定していない場所で、仲間の持っている装備品をチェックする時間が過ぎて行く。

 結局、美井奈は保留するとの事。瑠璃と薫も決断はつかない感じだ。


『ピアス……う~ん、勿体無いかぁ。私も保留かなぁ?』

『瑠璃はどうすんだ? お前も腰袋をいいのに代えた方がいいんじゃないか?』

『そうだねぇ、じゃあそうしようかな?』


 そんな訳で、見事2回目の使用にも耐え切った写し身の鏡。お前は偉いと、よく分からない鏡への褒め言葉が飛び交う中、ようやくパーティはフリーエリアへと進行する事に。

 このエリアは久々の感じもするけど、実は3日しか経過していない。その時は妖精の泉を探しつつ、トリガーを消費したり、合成素材を集めたりと忙しかったのだけれど。

 今夜は進むべき道は決まっている。サーチしてみたら、今日の活動パーティの数は微妙だと判明した。弾美パーティを数に入れないと、ようやく2桁程度は多いのか少ないのか。

 こちらとしても、邪魔はしたくないしされたくも無いので、それはそれで良い。


 美井奈が、時間があるならタウロス族の集落で落ちてくれたら有り難いと言って来た。砂嵐の矢束を買い足したいそうで、限定イベント終了までに、あとどの位必要かと訊ねて来るのだが。

 考えてみたら、あと1週間でこの世界ともお別れな訳である。気付いた弾美がそう口にすると、せっかく大事に育てたこのキャラはどうなるのかと、美井奈の問いも切実だ。

 そう言えば、最近はメイン世界のキャラと接続していない。弾美にとっても、ハズミンと言えばこちらのキャラとの刷り込みが、この短い期間の内に完成してしまっていた。

 せっかく育てたキャラとの別れを想って、皆ちょっとしんみりしてしまったり。


『そうだねぇ、寂しいよねぇ……たった4週間の付き合いだけど、思い入れがあるキャラだから』

『このキャラ……使えなくなるのは仕方ないけど、抹消されるのは悲し過ぎますよっ!』

『そうだなぁ、短い間だけど、苦楽を共にしたキャラだもんなぁ』


 瑠璃にしてみても、初めて前衛デビューした思い入れのあるキャラである。失敗や手痛い目にも何度となくあったけど、ハズミンを初めとして、色んなキャラに助けられて来た。

 その冒険の過程で、ミイナやカオルと出会ってとても仲良くもなれたし。例えイベントで入賞出来ない結末となろうとも、とても無駄だったと一言で片付けられるものではない。

 それどころか、お金を出したって得られない大切な想い出である。


 ほんの数週間の間の出来事などを話し合いながら、パーティはフリーエリアを順調に縦断して行く。平均のレベルが30に近いパーティは、今では絡まれても全く平気である。

 邪魔者にもほとんど出くわさずに、10分足らずで大きな湖水が見える場所に到着。それを迂回しながら、その奥に存在する妖精の泉を目指す一行だったのだけど。

 移動していたらどうしようと、美井奈などは心配な様子である。そんな意地悪な事にはなっておらず、今回もちゃんとポイントは存在していた。時間をチェックすると、丁度9時くらい。

 丸々3日、ちゃんと経過している計算である。


 まずは呪い装備の解除をしようと、まずは美井奈が瑠璃から人形を受け取る。妖精は今夜も、快くこちらの要望に応じてくれた。そして、戻って来た装備の性能に一同ビックリ!

 どよめきが収まらない中、薫も兜をトレード。こちらも良品に間違いない。

 ――精霊封入の人形 HP+50、MP+50、SP+10%、防+1

 ――サファイアの兜 腕力+5、SP+10%、攻撃力+5、防+12


『わ~っ、人形の性能凄いね~っ! これは、瑠璃ちゃん用かな?』

『そうだな……兜は美井奈だなっ。他のみんなは固定しちゃってるから』

『わ~っ、有り難うございますっ! 早速被ってみますねっ!』


 美井奈かそう言って、何故か鬼の面を被ってハズミンの前をぴょこぴょこ歩き回る。次は雪だるまのお面に変えて、その姿は実に楽しそう。ピエロのお面に変化するに至って、ようやく弾美からツッコミが。

 それを受けて今度は、瑠璃がファッションショーを開始。キツネやウサギの尻尾が、ルリルリのお尻から次々と生えて来る。ドラキュラのマントに至っては、何故か全身に変化が及ぶ始末。薫はそれを見学しながら、呑気に拍手で応えていたり。

 この後は戻るだけとは言え、実におおらかなパーティである。


『二人とも、気が済んだか? 俺は取り敢えず、妖精の呼び鈴をトレードしてみるぞ』

『それが出来たら、天使の呼び鈴も修理しちゃう? ハズミちゃんの剣はしなくていい?』


 美井奈がようやく、入手したばかりの兜を装着。なかなか凛々しいその姿だが、妖精の服にはやはり似合っていない。前まで被っていたのが海賊帽子なので、それよりはマシと言う程度。

 瑠璃の変身は、それに較べてかなり劇的だった。何とルリルリの真後ろに、キャラの半分位の身長のお人形さんが出現。瑠璃の動きに合わせて、ぴょこぴょこと付いて動き回る。

 女性陣からは、盛大な盛り上がりのログが。


『うわっ、お姉ちゃまっ……凄く可愛いお供じゃないですかっ!』

『おっ、呼び鈴も直して貰えたぞ~っ! ってか、限界使用回数がよく分からないからなぁ』

『ハズミちゃん、見て見て~っ! お人形さんが可愛いのっ♪』


 お人形さんと言う年齢でも無いだろうと言う言葉を、弾美は辛うじて飲み込んで。取り敢えず呪い解除を称えて、一応キャラから拍手を送ってみる。後でこじれて拗ねられても詰まらないし、なかなか似合っていると思ったのも本当だし。

 ようやく気の済んだ瑠璃が、もう1つの呼び鈴をトレードする。無事に修理をして貰うと、フリーエリアでやる事ももう無い。妖精は、最後にやっぱり次は3日後だと皆に告げて来た。

 また来ても良いらしいのだが、再び用事があるかは微妙。


 一行は、かなりルンルン気分で泉を後にする事に。その後は美井奈の希望通り、タウロスの集落に向かいながらも、時折NMが湧いていないかだけ注意する程度。

 そうそうそんな幸運には恵まれる訳も無く、時間制限が来る前にパーティは目的地に到着した。後は好きに落ちてくれと、事実上の解散通知。時間があまった弾美は、落ちるまでの間メールや通信チェックを始める。

 女性陣は会話モードに突入して、まだ落ちる気配は無いようだ。


『海賊の帽子、売っちゃってもいいですかねぇ? 矢束買うのに、私はいつも金欠なんですよっ』

『買ってあげるよ、美井奈ちゃん。私結構、お金貯まってるから』

『いいんですか、薫さん? じゃあ、済みませんが1セット程……』

『オッケ~、普通のと範囲の奴、両方買ってあげるねっ♪』


 美井奈と薫が矢弾などを買い物をしている間、瑠璃がやけに静かだと思ったら。どうやらNPCに話し掛けていたら連続クエが発生したと、戸惑いつつパーティに報告して来る。

 この前にチェリーパイを渡したNPCが、今度はブルーベリーパイを欲しいと言って来たと言うのだけれど。丁度自分が使う用に持っていた瑠璃は、気安くそれをトレードした所。

 そのタウロスNPCは、大喜びの上機嫌になって。食事のお礼にと、瑠璃を自宅に招待してくれたらしい。そう言えばルリルリの姿が無いと、周囲を駆け回って美井奈が報告して来る。

 クエをこなした瑠璃だけの特権らしいが、部屋の中にインプを見た瑠璃はビックリ。


 正確には、籠に閉じ込められていた状態の悪魔族。このインプもNPCらしく、話し掛ける事が出来たのだが……出してくれたら良い物を上げると、姦計を持ち掛けられたと焦る瑠璃。

 これを受けて、パーティはひと騒然が巻き起こる。貰っちゃえと軽くそそのかす者、絶対しっぺ返しがあると裏読みする者、賛成と反対に二分しての議論が熱く交わされる。家主らしいタウロス族は、甘い食べ物に夢中でこちらには注意を払っていないよう。

 話を進めるには、やっぱり悪巧みに乗るしかないよう。瑠璃はインプを逃がす事に。


 ――サンきュ、話の分カル奴だナ……助かっタゼ人間! オ礼の品はコレダ、コノ集落の南側ニ、色ンナ宝物ヲ溜め込んダ、欲張リナ奴の縄張リガ在ル。

 ソコに住む奴カラ、シッカリとセシメて遣リナ。ソノ後は、俺ハ知らン。


『……だそうなんだけど。闇の呼び水貰っちゃった、叱られない内に逃げるねっ』

『トリガーがやたらと貯まって行くなぁ。そろそろ消費しないと駄目たなっ』

『大丈夫ですか、お姉ちゃまっ! 立ち入り禁止になってたりしませんかっ!』


 仕掛けに対して、とことん疑り症の美井奈だったが。空の鳥籠に対するNPCのリアクションは、取り立てては無いらしい。そんな感じで、最後はごたごたして終わってしまったのだけれど。

 そんな流れを受けての、次の日の夜8時。インしてみても、やっぱりタウロス族の集落に変化は無いとの事。幾分安心して、瑠璃は中立エリアにワープで戻って行く。

 今夜はイベントエリアの3つ目の予定。上手く行けば、4つ目も行く事に。





 パーティメンバーの中で、一番最後にレア装備の鎧の入手となったハズミンだったが。嬉しい防御力の上昇と共に、装備2つの効果で新しい闇魔法まで覚えてしまった。

 待望の攻撃魔法は、何と範囲効果で《闇の刺針》と言う名前。周囲の敵達の影から刺針が飛び出して、敵の本体を攻撃する感じの魔法だが、実は威力はそんなに強くない。

 それでも、一瞬の足止め効果もある魔法なので、使い様によっては便利かも知れない。さらにポケットが1つ増えて、武器も新たな片手剣に新調する事となった。

 最近では珍しく、急激なパワーアップに本人もご満悦。


名前:ハズミン  属性:闇  レベル:31

取得スキル  :片手剣64《攻撃力アップ1》 《二段斬り》 《複・トルネードスピン》 

                 《下段斬り》 《種族特性吸収》 《攻撃力アップ2》

                  《上段斬り》 《複・ドラゴニックフロウ》

          :闇62《SPヒール》  《シャドータッチ》  《闇の断罪》 

              《グラビティ》  《闇の腐食》  《闇の刺針》

          :竜10《竜人化》   :風23《風鈴》 《風の鞭》  

          :土25《クラック》 《石つぶて》

種族スキル  :闇31《敵感知》 《影走り》 《SPアップ+10%》 

          :土10《防御力アップ+10%》


装備  :武器  破邪の剣 攻撃力+21、HP+20、耐呪い効果《耐久15/15》

     :盾    龍鱗の盾 耐ブレス効果、防+18《耐久15/15》

     :筒    絹の腰袋 ポケット+4、HP+10、SP+10%

     :頭    暗塊の兜 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+15

     :首    鬼胡桃のペンダント HP+8、体力+2、防+6

     :耳1   黒蛍のピアス 闇スキル+3、SP+10%、防+4

     :耳2   白豹のピアス 器用度+3、HP+10、落下ダメージ減、防+5

     :胴    暗塊の鎧 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+25

     :腕輪  暗塊の腕輪 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+15

     :指輪1 サファイアの指輪 腕力+3、SP+10%、防+5

     :指輪2 古代の指輪 体力+1、防御+5

     :背    砂嵐のマント 風スキル+3、敏捷度+4、防+8

     :腰    獅子王のベルト ポケット+2、攻撃力+4、HP+15、防+8

     :両脚  魔人の下衣改 攻撃力+5、体力+3、腕力+3、防+15

     :両足   暗塊のブーツ 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+10



 レベルが30になったルリルリは、新種族スキルでMP量がちょっとアップした。そして背中に背負う人形で、さらに+50のMPアップ。天使魔法も使いやすくなり、何より回復支援役としては、安定してヒールを飛ばす事が出来るようになった。

 他で言えば、弾美と同じくコピーして貰った腰袋のお陰で、胴装備の交換で減ったポケットが1つだけ戻って来た事。SPも人形と合わせてかなりの上昇である。

 弾美には、意地でも二刀流を取れと何度もせっつかれているのだが。今でも結構お気に入りな万能キャラに成長していると、本人は割と自画自賛だったりする。

 確かに他の削りキャラに較べ、ガツンと削る能力に劣るのは確か。そこが課題と言えば、まぁ課題だろうか。


名前:ルリルリ  属性:水  レベル:30

取得スキル  :細剣52《二段突き》 《クリティカル1》 《複・アイススラッシュ》 

                《麻痺撃》 《幻惑の舞い》 《Z斬り》

       :水58《ヒール》 《ウォーターシェル》 《ウォータースピア》 

              《ウォーターミラー》  《波紋ヒール》 

         :光30《光属性付与》 《エンジェルリング》 《ライトヒール》

          :氷41《魔女の囁き》 《魔女の足止め》 《魔女の接吻》 《氷の防御》

種族スキル  :水30《魔法回復量UP+10%》 《水上移動》 《MP量+10%》


装備  :武器  戦闘ネコの細剣 攻撃力+15、敏捷度+2、MP+8《耐久12/12》

     :盾    豪奢な大盾 体力+4、防+12《耐久8/8》

     :筒    絹の腰袋 ポケット+4、HP+10、SP+10%

     :頭    流氷の髪飾り 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+8

     :首    サファイアのネックレス 腕力+3、SP+10%、防+5

     :耳1   天使のピアス 光スキル+3、知力+2、MP+8、防+3

     :耳2   流氷のイヤリング 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+5

     :胴    流氷の鎧 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+18

     :腕輪  バトルグローブ 攻撃力+3、HP+8、防+12

     :指輪1 光の特級リング 光スキル+4、HP+15、攻撃距離+4%、防+4

     :指輪2 プラチナの指輪改 腕力+4、HP+20、攻撃速度UP、防+8

     :背    精霊封入の人形 HP+50、MP+50、SP+10%、防+1

     :腰    複合素材のベルト改 ポケット+4、器用度+5、MP+13、防+11

     :両脚  流氷のスカート 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+10

     :両足   ゾゲン鋼の戦靴 体力+2、HP+6、防+10



 前回、残念ながらもレベルが上がらなかったミイナだったけれど。自分の分身から性能の良い武器を入手した事で、攻撃力が上昇したのは嬉しい改良点。何より耐久力の高い武器だけに、単純に《貫通撃》を撃つ回数が増えたのは大きなパワーアップである。

 陰陽ピアスによって、攻撃魔法と回復魔法の基本数値が上昇したのも嬉しい。頭装備の交換で、何気に防御も上がっており、後衛キャラながらも万能タイプに育ちつつある。

 後ちょっとで30台、本人もやる気充分!


名前:ミイナ  属性:雷  レベル:29

取得スキル  :弓術46《みだれ撃ち》 《近距離ショット1》 《攻撃速度UP1》 

               《貫通撃》 《複・スクリューアロー》

          :光44《ライトヒール》 《ホーリー》 《フラッシュ》 《フェアリーウィッシュ》

          :風20《風の陣》 《風の癒し》  :水10《ヒール》

          :雷31《俊敏付加》 《俊足付加》 《スパーク》

種族スキル  :雷29《攻撃速度UP+3%》 《雷精招来》


装備  :武器  神樹の長杖 攻撃力+25、知力+5、MP+28《耐久14/14》

     :遠隔  雷鳴の弓矢改  攻撃力+20、器用度+5、敏捷度+5《耐久14/14》

     :筒    貫きの矢束 攻撃力+14

     :頭    サファイアの兜 腕力+5、SP+10%、攻撃力+5、防+12

     :首    サファイアのネックレス 腕力+3、SP+10%、防+5

     :耳1   白蛍のピアス 光スキル+3、HP+25、防+9

     :耳2   陰陽ピアス 精神力+5、知力+5、MP+15、防+6

     :胴    妖精のドレス 光スキル+4、風スキル+4、MP+20、防御+20

     :腕輪  星人の腕輪 光スキル+2、闇スキル+3、MP+8、防+8

     :指輪1 雷の特級リング 雷スキル+4、器用度+4、攻撃速度UP、防+4

     :指輪2 サファイアの指輪 腕力+3、SP+10%、防+5

     :腰    複合素材のベルト ポケット+4、器用度+4、MP+8、防+6

     :背    白豹のマント 雷スキル+4、器用度+4、MP+10、防+10

     :両脚  妖精のスカート ポケット+2、光スキル+3、風スキル+3、防御+12

     :両足   戦闘ネコの長靴 敏捷度+2、MP+6、防+10



 美井奈と共に、30手前で足踏みしてしまったカオルだが。炎スキルは順調に上がっており、範囲攻撃の《炎のブレス》の威力も少しずつだが上がって来ている。

 装備で言えば、両脚と指輪を変更出来た。防御やMPの上昇で、何より外見が大きく変わって和風テイストが加わっているのが何ともいえない感じである。迅速装備を崩しても、特に性能や特性に問題は無いらしく。

 ただ、ほとんどの迅速装備は固定済み。それがちょっと切ない薫だったり。


名前:カオル  属性:風  レベル:29

取得スキル  :長槍64《二段突き》 《攻撃力アップ1》 《脚払い》 《石突き撃》

               《クリティカル1》 《貫通撃》

          :炎35《炎属性付与》 《炎のブレス》 《レイジング》

          :雷20《俊敏付加》 《パラライズ》  :風13《風鈴》

種族スキル  :風29《回避速度UP+3%》 《魔法詠唱速度+6%》


装備  :武器  赤龍の大槍 攻撃力+32《耐久15/15》

     :筒    絹の腰袋 ポケット+4、HP+10、SP+10%

     :頭    迅速の兜 炎スキル+4、雷スキル+4、器用度+2、防+7

     :首    進みがちな懐中時計改 SP+15%、攻撃速度UP、防+8

     :耳1   サファイアのピアス 腕力+2、SP+10%、防+3

     :耳2   銀のピアス 器用度+2、HP+4、防+2

     :胴    迅速の鎧 炎スキル+5、雷スキル+5、腕力+5、防+20

     :腕輪  迅速の腕輪 炎スキル+4、雷スキル+4、腕力+2、防+7

     :指輪1 迅速の指輪 炎スキル+3、雷スキル+3、防+4

     :指輪2 蝶柄の指輪 器用度+4、体力+4、HP+12、防+5

     :腰    迅速のベルト ポケット+3、器用度+2、防+7

     :背    迅速のマント 炎スキル+4、雷スキル+4、防+7

     :両脚  朱色の袴 ポケット+2、精神力+5、MP+20、防御+12

     :両足   迅速のブーツ 腕力+3、器用度+3、防+7




 合同イン以外でのイベントエリアの攻略は、実は初めてなメンバーだったのだけれど。2度もエリア体験しているので、中でオタオタするような事は無いだろう。少なくとも、そう思いたいリーダーの弾美である。

 3つ目のエリアの制限時間は、25分との設定らしいが。今までの攻略スピードを吟味すれば、まだまだ平気な感じもする。不測の事態、例えば余程の強敵が邪魔したりしない限りは。

 パーティも着実に力をつけているし、何より謎解きの得意なメンツが多いのが心強い。


 取り敢えずリーダーとして、発破を掛ける弾美だったが。25分ならまだまだ余裕だと、美井奈辺りを安心させる。その美井奈は白い部屋以外なら多分平気だと、広いエリアに苦手意識。

 そんな訳で、いきなり初っ端からイベントエリアの攻略を開始するパーティ。薬品などの準備は万端。そして、まず最初に入った部屋は、例の赤い床のフロア。

 ところが何と、お助けアイテムの入っている筈の宝箱が無いっ!


『あれ、あれあれっ? お助けアイテムは、今回は無いのかな?』

『え~っ、あれが無いと、ちょっと攻略が困った事にならないかなぁ?』

『当たり前だっ、かなり困るぞ。だから何とか入手しよう』


 どうやってと訊ねるメンバーに、弾美は絶対何か方法がある筈と返すのみ。無ければ次の面にでもあるのだろうと、割とお気楽に攻略を進めるつもりのようなのだが。

 そんな最初のエリアの木箱の配置は、かなり入り組んでいて道を作るのにも苦労しそうだったり。こんな謎解きの段階で時間を食ってはイカンと、皆で協力して階段を繋げて行くパーティ。

 それに対して案の定のお邪魔モンスターの群れが、茶色い木箱を壊したり動かす度に湧き出て来る。そして有り難い事に、そいつらを倒した後のドロップに、必ず1つはお助けアイテムが。

 時間を取られるのは痛いが、お助けアイテムは欲しい一行。


『これもついでに動かしてみようか? お助けアイテム、もうちょっとは欲しいよね?』

『もうちょっとかなぁ? じゃあそれも、薫さんお願いしますっ』


 アイテムを補充しつつ、1つ目の通路を確保する事に成功するメンバー達。今度は2段目制覇だと、全員で木箱の山を登って行く。そして気付くのは、変な場所にある宝箱。

 あんな場所にあったら、取った後に木箱の檻に閉じ込められて、キャラが戻って来れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたら、瑠璃が相談もなしに単身飛び降りて行った。

 驚く一行を尻目に、宝箱をオープン。開けた途端に結構な経験値が入って来て、薫が30にレベルアップ。そしてお助けアイテムの1つで、ちゃっかり階段を作って戻って来る。

 仕掛けが分かれば、何とも単純な謎解きなのだが。


『閃きが無いと、延々と悩んでたよなぁ……さすが瑠璃』

『パーティで一番、私がお助けアイテムの使用に慣れてるからねぇ』

『お待たせっ、スキル振り込み終わったよ~っ、今度はどの箱動かそう?』


 一行は2段目の地ならしをして、いよいよボス級の敵の待つ3段目へ。魔法を使って来る甲殻虫を割とあっさり撃破して。3段目の地ならしも、皆で素早く進め終えてしまう。

 今回は4段目にもボス級の敵が待ち構えており、これが結構手強い能力持ち。弾美的には、形状も気に入らない蜘蛛型のモンスターは、敵を蜘蛛糸でがんじがらめにして、さらに毒や麻痺まで使って来る。

 1体だけだと油断していたが、なかなかに侮れない。


 しかも、やたらとボスの近くに茶色い木箱が設置されている仕様だと思ったら。嫌がらせのように、キャラが近付いたら爆発したり、勝手に壊れて敵が新たに出て来たり。

 わらわらと湧いて出た子蜘蛛の群れは、弾美が必死に《闇の刺針》でガードする。その隙に、薫がブレスで仕留めるコンビネーションは見事。蜘蛛嫌いな弾美は、自然と必死に。

 最後は必殺の《トルネードスピン》で、ボスの蜘蛛を仕留める事に成功して。これで4段目の邪魔な敵も、完全排除となったのだが。その後のヒーリング中に、美井奈がまたまたうっかり見つけた赤い木箱。

 4段目の端っこの木箱が、いつの間にか変化している。


『えっと、前は普通の色だったのは確か、美井奈ちゃん……?』

『赤は無かった筈ですよっ……でも、茶箱に隠れていたのかも?』

『確かにさっきの戦闘で、たくさん派手に壊れてたしなぁ。スイッチは4つ確保済みか?』


 瑠璃はちゃんと確保済みだと答え、美井奈はインしての時間は12分44秒だと報告して来た。どうやら手元に、ストップウォッチまで使用しての周到振りのご様子。

 時間は充分あるし、弾美は考えるのを放棄して木箱を破壊する事に。

 

 用心しながらも、前衛陣が壊した箱の中から出て来たのは。敵でも爆風でも宝箱でもなく、何かの招待チケットだった。試しに読み上げてみると『金の木箱から特別ルームへのご招待♪』みたいな事が、仰々しく書かれてある。

 入手した弾美が読み上げると、その招待チケットはキラリと光って消滅してしまった。まさか勝手に発動したのかと周囲を見回す一同だったが、金の木箱などどこにも存在しない。

 何となく、キツネに摘まれた気になりながらも、この面はクリア。


 美井奈がストップウォッチの再調整で、何やらどたばたしているようだったが。次は緑の床のフロアのようで、この面も最初からごちゃごちゃで動きにくい仕様になっている。

 そして見つかる、予言されていた金の木箱。爛々と光り輝くそれは、2段目の中央付近に目立って存在を主張していた。一行は気もそぞろで、謎解きは後にして特別ルームを伺ってみようとの話に。

 邪魔な敵や木箱を片付けて、2段目への階段を素早く繋げて。ようやく辿り着いて、弾美が金の木箱を殴った瞬間。一瞬のワープで、一行は先程と似たような部屋に飛ばされる。

 飛び回っていた妖精が、ここにいられる時間は3分だと告げて来た。


『あれっ、やけにカラフルな箱の多い部屋ですねぇ。ここで何をすれば?』

『全部タゲれるって事は……全部動かせるか壊せるって事かなぁ?』

『時間が3分って事は、ボーナスステージかな? ちょっと1個、赤いの壊してみよう』


 とにかく試そうとの弾美の言葉に、皆で一斉に赤い木箱へと殴り掛かってみると。壊れた木箱からは、何と炎の術書がドロップ。おおっと、ステージの仕掛けに興奮するパーティメンバー。

 何しろキャラの周囲には、色とりどりの属性に彩られた木箱が、所狭しと置かれているのだ。そして、このエリアに滞在出来る時間は、残り後2分ちょっと……。

 思い出したように、わっと散らばるパーティ。


『みんな、自分の欲しいの取りまくれ~っ!』

『私は欲しいの無いですから、お姉ちゃまの手伝いますよ~♪』

『有り難う、美井奈ちゃん! あと2枚で水の新魔法取れるの~』


 そんな訳で弾美は黒い箱を、瑠璃と美井奈は青色の木箱を、薫は赤の木箱を必死になって壊して行く。3分と言う制限時間内では、さすがに目的の属性を探し出す事もきついのだが。

 何とか制限時間内に闇と水の術書を2つずつ、炎を3つと光の術書を1つ取る事が出来た。なかなかの収穫に、一同はステージのクリアの事も忘れてご満悦。

 取り敢えず地ならしを始めるのだが、何となく次の赤い木箱を捜し求めてみたり。


 敵の数とかややこしい道順具合とか、先程の面とは大差は無いのだが。3段目に登ると、巨大な木槌を持った木製の操り人形が、あちこちの木箱を壊し始めるという仕掛けが作動して。

 何事かとぼ~っとしていたせいで、足場に必要な木箱が破壊されると言う最悪の事態に。真っ先に近付いた弾美が、さらに操り糸のトラップに捕まり、事態は益々カオス化してしまった。

 ハズミンを操る糸を持つ、一際大きな木製人形が、奥の木箱の陰から満を持して出現。パーティとの面前には、木槌持ちの人形が3体、プラス敵に回ったハズミンが。

 パーティは混乱しつつ、このピンチに大慌ての様子。


『わ~っ、ハズミちゃんが操られてるっ! ど、どうしようっ!?』

『前もこんな事あったねぇ、あの時は瑠璃ちゃんだっけ?』

『操ってる奴を殴ったら止まる筈っ、美井奈頼むっ!』


 頼まれた美井奈は、奥の敵に矢弾での一撃。しかし、今回はそんなヤワな仕掛けでは無かった模様。弾美の敵対行動は止まらず、とうとうカオルを殴り始めてしまう。

 木箱を壊されるのを一人《魔女の足止め》で防いでいた瑠璃だったが。この最悪のピンチに、ちょっと前に入手したあるアイテムの存在を思い出して使用する事に。

 木人の操り糸と言う、敵を操るアイテムだ。これにより操られた者同士の対決がスタート。


『わっ、今どうなってるの? どれから倒せばいい、弾美君?』

『手前の木箱は、もうどうしようも無いなぁ。お助けアイテム使う事前提で、俺を操ってる敵からやっつけてくれっ!』

『持ってるの忘れてたアイテムだったけど、上手く行ってるねぇ。それじゃ、今の内に大きい敵をやっつけようか!』

『了解ですっ、ヘナチョコな隊長よりも頼り甲斐がありますよっ、お姉ちゃまっ!』


 確かにそうだが、美井奈の当て擦りの言葉に弾美は軽い口調で反論。何しろ、操られているのでそれ位しかする事が無い。美井奈も瞬時にログで返して来るので、相変わらず母親に文字打ちを担当して貰っているのだろうか。

 女性陣が大きな人形を倒すのと、操られたハズミンが味方につけた敵を倒すのは、ほぼ一緒だった。操り状態を解除して貰った弾美は、女性陣に最大の感謝を述べつつ戦線復帰。

 こうなると、敵の排除は一瞬で終わってしまう。美井奈がこの時点で、既に20分が経過したと報告して来た。寄り道やら操りトラップやらで、少々時間を取られ過ぎてしまったようだ。

 ちょっと慌てつつ、瑠璃がお助けアイテムで蔦の階段を2箇所作る。第2面、クリア。


 最終面は、やっぱり毎回同じ作りの遺跡のよう。下層からのスタートも同じで、今回はいきなり一同の目の前、水面近くに最初のスイッチが設置されていた。

 手間が掛からない発見なのは、この後の道のりの厳しさの象徴ではないかと訝る一同。ところが、中層の仕掛けも前回よりかなり緩い感じ。敵の数にしても驚くほどには多くない。

 上層のスイッチは、透明化で探すのに苦労したのだが。2つ程、左と奥の崩れかけた通路に設置されていて、しかも今回は足場の悪い場所で、敵の群れが待ち受けていた。

 その敵を全滅させると、美井奈が30にレベルアップ。


 大喜びの美井奈に、皆でお祝いの言葉を投げ掛けるのだが。はしゃぎ過ぎの雷娘に、この後の戦闘も気を抜かないように、しっかりと釘を刺すリーダーの弾美だったり。

 それで無くても、ここは結構トリッキーなエリアなのだ。


『これで4つのスイッチ、確保出来たけど……今回は上層のどっちが狙われやすいのかなぁ?』

『う~ん……どっちを狙われても、戦闘エリアが狭くて厳しいかなぁ?』

『そうだな……やっぱ、上層は俺と瑠璃で、中層に薫っちで行くか』

『了解です、俊足魔法掛けておきますね~!』


 一番離れた下層のスイッチを任された美井奈は、俊足魔法以外に自分に《風の陣》と《フェアリーウィッシュ》を掛けておく。防御にも一応万全の状態なのは、瑠璃も天使魔法を掛けていたので、ヒーリングの時間がたっぷりあったからだ。

 MPが戻ったのを報告した美井奈だったが、何故かキャラの周辺に違和感を覚える。最初、ここには敵が配置されてなかったので、素通りだったため確かな事は言えないが。

 異変に気付いたのは、一緒に画面を見ていた母親だった。


『かっ、階段が無いっ! え~~っ!?』

『うん? スイッチ押し違えたのか、美井奈っ?』

『あれっ、スイッチは作動して……うええっ!?』


 美井奈の気付いた異変は、層を繋ぐ階段の消失だった。その後の薫の悲鳴の原因は、今回飛び出したエリアボスの場所。上層の浮島は、何と今回はフェイク!

 下層の水面から、巨大な双面のイモリが出現したのが、上の層の三人からも確認出来たのだけれども。美井奈の言葉を信用するなら、階段を目指すだけ無駄である。

 度胸一発飛び降りたのは、瑠璃が一番最初だった。何しろ、天使魔法でダメージが来ない身の上である。中層にいた薫も飛び降り、こちらはHPに3割の落下ダメージ。

 結構痛いが、ハズミンなどは上層からのダイブでHP半減である。


『いたたっ……ピアス効果あっても、半減は間逃れられないか』

『うわっ、水面からカエルと……鉄砲魚!?』

『み、美井奈ちゃん……合流に時間掛かるかもっ、雑魚の敵がいっぱいいるっ!』

『ふぇえっ! こいつ、接近して来ないとは言え、水系の魔法が強いんですよっ!』


 大ボスらしい双面のイモリは、結構グロテスクな色彩で、攻撃は今の所遠隔のみ。続々と湧き出ているカエルや鉄砲魚は、取り敢えず雑魚なのだが数が意外と多い。

 カエルはお馴染みの呑み込み技や跳び付き技、鉄砲魚はひたすら遠隔攻撃が厄介だ。三人ともに落ちた場所がバラバラなので、まずは合流を目指して敵を蹴散らして行く。

 弾美が瑠璃に、水面の鉄砲魚の掃除を指示。範囲魔法で自分がタゲを取りつつ、それ以上のMP節約のために、水面を歩ける瑠璃に止めを頼んでみだのだが。

 その甲斐あって、程なく弾美と瑠璃が美井奈に合流。薫はもう少し掛かりそう。


 弾美が挑発魔法で双面のイモリのタゲを取ると、残った鉄砲魚の掃除を美井奈が引き受ける事に。妖精のバリアはとっくに切れていたのだが、根性の粘りで何とか生き延びる事に成功した美井奈。パーティからは、よく頑張ったと賞賛の嵐である。

 そんな美井奈は、憂さを晴らすように遠隔攻撃にも力が入る。


 双面のイモリは粘膜ガードが厄介で、それ以上に双頭での交互の攻撃と魔法詠唱が凶悪だ。特に水系の《ウォータースピア》の魔法は、4本もの強烈な多弾攻撃振りである。

 弾美の《上段斬り》の詠唱禁止も効かない様で、1回魔法を喰らってしまうと、HPが一気に3割くらい削られてしまう。弾美にしてみれば、美井奈は本当に良く持ったと褒めるしかない。

 自動回復能力も厄介で、何とか水際から引き離したいのだが。相手もさるもの、その手には簡単に乗ってくれないよう。薫が合流して、ようやく削りの速度も格段に上昇したのだが。

 今度は範囲攻撃の連発に、とても苦しめられるパーティ。


『わ~っ、今度は範囲毒と範囲津波攻撃だよ~っ! 麻痺させても、もう片方の顔が呪文を完成させちゃうよ、この子!』

『自動回復がやたらと効いてるみたいねぇ、コイツ』

『瑠璃、さっき毒魔法覚えたって言ってなかったか? 水属性同士だけど、試してみろよ』


 ああっと、瑠璃が思い出したように相槌を返して来た。すぐさま新魔法の《アシッドブレス》が、戦闘区域に酸の霧を降り注いで行く。ダメージは何とか、水属性の大ボスにも入ったようだ。

 敵の回復能力は明らかに減退、勢い込むパーティ。


 美井奈も調子に乗って雷魔法の《スパーク》を浴びせ掛ける。水属性のボスにはかなりの効果だが、普通に弓で攻撃した方が、実は効率が良さ気だと判明したりして。

 ノコノコ前に出て来てする事かと、弾美にお叱りを受けた美井奈だったが。汚名返上の《みだれ撃ち》からの《貫通撃》は、すっかり優秀な削りキャラっぽいダメージ具合である。

 その後は安定した戦闘運びで、双面のイモリは程無く水没。


 歓喜するパーティの前に、上層から浮島がゆっくりと降りて来て蔦の橋を作って行く。味のある演出に、皆が驚きの表情を浮かべる。そして、毎度の宝箱と葉っぱとのご対面。

 宝箱からは、4万ギルの現金と金のメダル、氷の術書と器用の果実が。宙に浮かぶ黄色の木の葉を全員が触り終えると、いつも通りに退出用の魔方陣が出現する。

 ちなみに、ボスからの装備品のドロップは、短剣や斧や、水属性の首飾りなど。パーティには使えない感じのものばかりだったので、売ってお金にする事に決定した。

 クリアまで、50分程度だと美井奈の報告。まだ時間は半分ある。



 


 装備の整頓と売却に時間を使っている瑠璃はともかくとして、パーティは闇市で次の行き先を話し合っていたのだが。表通りは人が結構多くて、話に集中出来ないのだ。

 真っ先に提案した弾美は、指輪のトリガー戦が良いだろうと言い、薫も大方同意した。って言うより、たくさんあるトリガーの消費なら、何でも良いとの意見のようだ。

 それと言うのも、美井奈からイベントエリアの4つ目を明日にして、5つ目を合同インでしようとの案と言うかお願いが出たのだ。時間制限付きのアスレチック系は、やはり怖いらしい。

 そんな訳で、余った時間の使い方を検討中なのだ。


 瑠璃が、それなら妖精のクエを進めたいと言って来た。美井奈がそれに賛成し、意見は真っ二つに2対2に分かれた。両方行く時間はあるかもと、まずは瑠璃のクエを先にする事に。

 薫がノートを持ち出して、太陽の鍵のクエストエリアだった筈と答えて来る。クエストアイテムは既に瑠璃が持っている。以前作って貰った『水性爆弾』をカバンに、意気揚々のルリルリ。

 一同、懐かしの太陽の鍵エリアへ。


 弾美が先頭に立って、確かこっちだった筈とおぼろ気な記憶を掘り起こして案内を務める。何しろ、最初から迷いながらの捜索だったため、位置の覚え方もいい加減だったのだ。

 それでも5分程度で、大きな迂回も無く目的地に到着出来た。ところが前に訪れた時よりも、様子が明らかにおかしくなっている。川の濁りが増しており、周囲の雰囲気もやたらと暗い。

 弾美がそう言うと、皆は進んで戦闘準備。変化には敏感な冒険者達。


『取り敢えず、妖精湧かせた方がいいのかな? それともいきなりアイテム?』

『難しいとこだな……俺が最初に妖精試してみよう』


 弾美の妖精トレードは、しかし何の反応も無し。それならばと、瑠璃が水源爆弾をトレードに向かう事に。アイテムトレードの瞬間、自然ダムの濁った水面に変化が起こった。

 案の定と待ち構えていた一行は、今更驚きもしないのだが。敵の数が2体というのは、ちょっとだけ計算外。はっきりしているのは、狂った水の精霊と巻貝のようなモンスターの姿のみ。

 狂った精霊は半裸の姿で美しいのだが、整った顔は狂気に歪んでいる。


 さらに計算外だったのは、狂った水の妖精に通常攻撃がほとんど効かない事。焦った弾美と薫の声に、瑠璃が取り敢えず氷の複合スキルを撃ち込んでみると。

 そちらは大丈夫で、ちゃんとダメージの表示がログに出た。その代償として、、思いっきりルリルリにタゲが移ってしまったけれども。慌てる瑠璃を激励しつつ、ハズミンはダメージの通りそうな巻貝を相手に変えようとするのだが。巻貝はゴロゴロと転がって逃げ回るばかり。

 仕方なく、逃げない精霊を魔法で攻撃する一同。


 魔法の削りでもそこそこ削れるのだけれど、MPがあっという間に底を尽いてしまう。精霊の攻撃は、水で出来た短槍を次々と宙に出現させて投げつけて来るというもの。

 必中のそれは威力も高く、しかも近接では素手の殴りでキャラを毒状態にしてしまう。厄介な敵の特性に、次々とMP枯渇に追い込まれるパーティメンバー。

 美井奈が一言断りを入れて、MP回復の休憩に入った時、次なる悲劇が。


『わ~っ、巻貝が何か飛ばして来た~っ!』

『美井奈、何か付いてるぞ……うわっ、ヒルじゃんか。お前HP吸われてるっ!』

『わ~んっ、取って下さいっ、気持ち悪いっ!』


 身体に張り付いてうぞうぞと動くそれは、確かに気持ち悪い。救出に向かった弾美にもヒルの群れは飛び掛かり、弾美は必殺の《ドラゴニックフロウ》で巻貝もろともダメージを与えて行く。

 巻貝はヤドカリ形態にチェンジ、今度こそ弾美を迎え撃つ構え。その隙に、美井奈は先程邪魔された休憩をちゃっかりと取り始める。何しろ、MPが無いと精霊が削れない。

 薫も続いて休憩に入ったよう。孤軍奮闘の瑠璃は《ウォーターミラー》で魔法をはじき、《幻惑の舞い》と《氷の防御》で直接攻撃に対応。さらに《光属性付与》で直接攻撃を魔法属性に変えつつも、MPが足りなくなったら《魔女の接吻》で目の前の敵から頂戴している。

 今やいっぱしの魔法戦士振り、本人は割と必死なのだが。


 炎系の魔法が水の精霊に効果が無いカオルは、MPが適当に回復したら、弾美の手伝いに回る事に。美井奈は残り物の破魔矢が精霊にダメージを出せると判明し、瑠璃のサポートに。

 狂った水の精霊のHPが半分を割ると、いよいよ攻撃に容赦が無くなって来た。味方の筈の巻貝まで巻き込んでの津波魔法で、大きな痛手を被ったパーティだったが。

 巻き込まれた巻貝が何と水没、これで弾美と薫がフリーに。


 しかし、怒涛の連続魔法は何とも強烈だった。水圧魔法と深海魔法のコンボで、パーティ全員にダメージと動きの封じ込み、さらには魔法詠唱不可のバッドステータスに!

 水系でも、これは滅多に見れない上級呪文である。水圧効果で、パーティのHPはみるみる半減して行く。動きも鈍くなって、範囲外へ逃げる事もままならない。美井奈に至っては、既にHPが3割で雷精が飛び回っている始末。

 それでも、パーティの与ダメージ源はなおも潰れていないのが幸いした。瑠璃の複合スキルでの追い込みと、美井奈の破魔矢での《貫通撃》が精霊を追い詰めて行く。

 闇の秘酒も勿体無いなどと言ってられない。何故か竜魔法だけは唱えられると知った弾美は、鈍くなった足取りで精霊に近付いての《ドラゴニックフロウ》を放つ。

 そこに追撃の瑠璃と美井奈の追い込み。狂える精霊は、ようやく消滅して行った。


『か、勝てたっ、手強かった……!』

『瑠璃ちゃん大活躍だったじゃない、凄いよっ! 私は後半、全く見せ場無しw』

『瑠璃もようやく、魔法戦士らしくなって来たなぁ。後は二刀流だけか?』

『お姉ちゃまっ、格好良かったですよっ! あ~っ、私も魔法戦死目指そうかなぁ……?』


 美井奈のログを見て、思わず弾美が爆笑。よくある打ち間違いなのだが、魔法で戦死を目指すのは美井奈らしいとからかわれ、美井奈のキャラは束の間完全停止。

 その間に、瑠璃が水源爆弾を使用。短い強制ムービーでは、理性を取り戻した水の精霊とピヨピヨ飛び回る妖精が競演して、パーティ全員に感謝を述べて来る。

 お礼の品も滅茶苦茶豪華で、一同は驚喜のログでしばし混乱。まずは水の宝珠と短槍の複合スキルが水の精霊から。妖精からは妖精のクラウンと金のメダル、それから光の術書が。

 チョーご機嫌な様子の妖精は、最後にパーティに興味深い情報の提示をして消えて行った。このエリア内でもう一箇所、枯れ果てていた場所に変化があったよと言うのだが。

 暇があれば是非覗いて行ってと、ちょっと意味深な表情。

 ――妖精のクラウン 光スキル+4、風スキル+4、SP+15%、防御+10




『……お待たせしました、お母ちゃまときっちり話し合いましたから! 悪戯が好きで、困った大人なんですよっ!』

『そ、そうなの……わざとじゃ無いかも知れないし、程々にね?』

『妖精装備は、取り敢えず美井奈かな? 薫っちは長槍だから、ちょっと残念だったなぁ』

『そうだねぇ……まぁ、次に期待するよっ!』


 一行がいるのは、まだクエストエリア内である。分配などにあまり時間は掛けていられない。弾美は皆をせっついて、どうせだからと妖精の情報の確認に向かう事にしたのだが。森の中を進んで行くと、次第に以前も戦った獣人達が邪魔をして来る。

 視界が悪いせいで、不意に出くわす事もしばしば。ショートカットは止めて、道に戻ろうかとの薫の提案も、ここまで来たのだから後ちょっとだろうと、やっぱり強引に進む一行。

 こう言う時は、何かにぶつかる確率が高いのだが。


 今回立ち塞がったのは、巨大な猪顔の獣人。NMらしく、立派な装備を着込んでいて、茂みの上からパーティを睨み付けて来る。何よりも立派な前口上に、パーティは驚いて立ち止まる。

 要するに、前回散々手下を倒された恨みを述べているらしいのだが。たどたどしい口調の人語は、やや演出過剰かも知れないねとは、一人冷静に批評する瑠璃だったり。

 そんな事より、戦闘の準備をしろと気苦労の絶えないリーダーの弾美。


 戦闘は予想外の方向からのチャージで始まった。茂みから突進して来たウリボウの群れは、しかしパーティにぶつかって昇天してしまう。パーティにも結構なダメージを残しつつ。

 次のチャージは、しっかりとした体格の、しかし雑魚の一団だった。美井奈などは立て続けのダメージに、一気にHP的にピンチに追い込まれる。弾美に《スパーク》ちゃんと張っとけと言われ、パーティの建て直しも少しずつ進んで行く。

 さらに雑魚の群れから美井奈を囲うように、陣形の形成を。


 3度目のチャージ攻撃は、先程よりかなり強烈だった。ただし、美井奈の張った《スパーク》のお陰で、飛び込んで来た敵もダメージを負ってスタン状態なのは有り難い恩恵かも。

 きっきの雑魚よりは強い猪獣人の一団を、必死になって駆逐に奔走するパーティ。そろそろ後ろに控える大ボスが乗り込んで来ても、おかしくはない状況である。

 そう思っていた途端、茂みから一際大きな影が突進して来た。話し掛けられた方向を張っていたハズミンを欺いて、ほぼ反対の方向の瑠璃に猛烈なチャージが決まる。

 ボスが戦場に到着した途端に、《レイジング》状態でパワーアップする部下の獣人達。


『わわっ、大ボスこっちから来たよ、ハズミちゃんっ!』

『場所チェンジだ瑠璃っ、麻痺している内に俺が取るっ! 美井奈、敵の影はもう無いみたいだから、攻撃範囲まで離れて支援に入ってくれっ!』

『了解です、隊長っ。弱った敵から仕留めますねっ!』


 今更ながらに、自分の種族スキルの《敵感知》を思い出した弾美。回復に回っていた美井奈に周囲の安全を知らせ、攻撃に回って貰うように改めて指示を出す。

 これでこちらの反撃態勢も整った。弾美がボスを押さえ込んで、ガチでの殴り合いが始まる。


 美井奈の遠隔削り加入で、ようやく部下の猪顔の獣人の数が減って行く。長槍を手に持つ敵の群れは、チャージを別にしてもHP豊富でパワーも強く、侮れない存在だ。

 それでも薫の《パラライズ》や瑠璃の新魔法の《アシッドブレス》で、上手に敵を弱体して行き。ようやくたくさんいた敵は、大ボスを残すのみに。勢いづいたパーティは、四人で削りに掛かる。

 HPが減って行くに従って、猪顔の獣人ボスの鼻息は次第に荒くなる。何が来るかと用心していた弾美だったが、繰り出して来たのは武器と口から突き出た牙の継ぎ目の無い連続攻撃。

 盾での防御も間に合わず、盾役ハズミンの大ピンチ。


『わ~っ、スタンも全く効果ないよっ、滅茶苦茶に暴れ始めてるっ!』

『ハイパー化してるっ、これは上位のスタン技じゃないと止められないぞっ!』

『チャージ誘ってみましょうか? そしたらこの大暴れ止まるかもっ?』


 そう提案した美井奈が、妖精魔法を掛けて捨て身のタゲ取りを敢行する。妖精から貰った王冠を被っての、初の魔法使用なのだけれども。なんと、今回は光球の数が4つに増えている!

 勢いを得た美井奈は、大ボスに向かって《ホーリー》からの《みだれ撃ち》を使用。さらに《貫通撃》へと繋げると、光球が2つ追従して、普段の3倍の大ダメージ。

 大喜びの美井奈を襲う、目論み通りの大ボスの猪突猛進チャージ。残った光球がダメージを奇麗に消してくれて、敵の大暴れも止まっている。こちらもやっぱり、目論み通り。

 《竜人化》を掛け直した弾美が、多弾スキルと魔法でタゲを取り戻す。


『おおっ、このパターンは使えそうだなぁ。でかしたぞ、美井奈っ!』

『今の見ましたかっ? 妖精の光が、4つに増えてましたよっ!』

『王冠の隠し効果かなっ? 見た目も可愛いし、美井奈ちゃんは妖精の女王様だね~っ』


 瑠璃の褒め言葉に、ひたすら照れまくる美井奈だったが。戦闘の方も程なく終了、そのままの勢いで削り切る事に成功したパーティ。ひたすら無念そうな獣人ボスの最期の言葉。

 ドロップは金のメダルに土の術書、猪突猛進の札というお助けアイテムが1つ。そして、一同驚きの《複合技の書:長槍》が奇跡のドロップ。知らない内に、クエストエリアは複合技のドロップ地帯になって来ているらしい。

 興奮する薫だったが、残念な事に風スキルの値が足りない。


『うわっ、自分の属性スキルなのに……あと7個も足りないよ~っ!』

『えっと……今手元に、2枚術書があるのかな? それでも5枚も足らない~』


 今の戦闘で、弾美が32にレベルアップ。スキルの割り振りを風スキルにもすべきだったと、ひたすら後悔の薫なのだが。メダルの入手が、今日だけで3枚ある。

 買えるんだから、戻ってから買い足そうとの弾美の言葉に、薫は飛び上がらんばかりの喜びよう。何しろ、パーティで複合スキルが無いのは、もはや自分だけだったのだから。

 このエリアを早くも出て行きそうな薫を引き連れて、一行は目的の場所へ。


 その場所は確か、巨大な虫が樹木を食い散らして惨憺たる景色だったのだが。パーティが再び訪れてみると、ほのぼのとした感じの風景。さらには、立派な樹木が立ち並んでいる。

 この変わり様は何なのかと、一同ははしゃいで周囲を走り回るのだけれど。敵の姿などは全く見えず、その内美井奈が、巨大な木のうろに宝箱を見付けて嬌声を上げる。

 ひときわ大きなその樹木は、かつて木のトリガーを放り込んだ場所だった。


『わ~っ、凄いですよ~っ。みんな早くこっちに来て下さいっ! 大っきな木の中に、宝箱がいっぱい入ってますよ~っ!』

『むおっ……ここってそう言えば、滅茶苦茶ドロップの渋かったNMの湧いた場所かっ!』

『あ~っ、それで時間差の帳尻合わせなのかなぁ? わっ、7個もある、凄いね~っ!』


 時間差のご褒美を、皆で順々に開けて行くと。何と両手棍と片手棍の複合技の書が1枚ずつ! 信じられない大盤振る舞いの他にも、金のメダルやお金で2万ギル、レベルアップ果実や水晶玉などが入っていた。

 棍棒系の複合技の書はパーティでは必要の無いものなのだが。それでもメイン世界では、こんな大盤振る舞いなどまず無い事。幸せな気分に浸りながら、帰路につく一同。

 もう少し回ってみたかったが、インして既に30分は経過している。


『美井奈、この複合技の書って、メイン世界じゃ30万とか平気でするんだぞ』

『ええっ、そんな高価なものなんですかっ。えええっ、これ1枚でっ!?』

『人気の武器のだと、50とか100とか平気でするよね~! 自分の武器以外が出ると、みんな売りに出すんだけど、飛ぶように売れて行くよっ!』


 もちろん、メイン世界ではそんなものなどお目に掛かった事の無い美井奈だったのだが。弾美に、この感覚が当たり前だと思ってメイン世界に戻るなよと諌められる。

 そんな話を、中立地帯に戻った後で話していたのだが。残り時間はまだ30分近くある筈だと、今度は特級リング取りでどの属性にするかの議論に移るパーティ。

 薫はその間を利用して、瑠璃から渡された術書とメダルでお買い物。別の案では風の特級リングを取得して、その恩恵で風スキルを上げる手もあったのだが。メダル5枚程度なら問題ないと、リーダーの弾美の寛大なお言葉に。

 そして取得した《竜巻チャージ》は、複合の範囲技のようだ。


『おおっ、薫っちもとうとう複合技持ちになったか! おめでとう~っ、範囲技のチャージって、俺はメイン世界では見た事ないかな~?』

『ありがと~! メダルの融通、とっても感謝♪ それじゃあ指輪は弾美君の欲しいのでっ!』

『そうだね~っ、ハズミちゃんは闇でいいのかな? いっぱいあるから、ちょっと整理したい……』

『それじゃあ、必要なの以外は売るか処分しちゃえば? どうせ時間的に、何回も行けないし』


 そんな訳で、必要なさそうな指輪はまとめて処分。今夜は弾美の、闇の指輪を取りに行く事になったのだけど。月の鍵のエリアに入るのも、結構久し振りな感じ。

 そう言えば、ここにも行き忘れがあったと、皆で思い出しながら語ってみたり。クエストエリアでもう1つ鍵を見つけた筈と薫が口にして、それをカバンの中に探し始めるのだが。

 幾ら探しても見当たらないと、ちょっと焦った口振りの年長さん。美井奈がそれなら、自分のカバンに入っていると報告して、そう言えばあの時だけ操作を交代したのを思い出す薫。

 散々な迷子っぷりを思い出し、今更弾美にからかわれる美井奈。


『えっと、モノは相談なんですが……今回は安全なルートで行きませんか?』

『そんなルートは無いっ! 取り敢えず、街中エリアを抜けるまで頑張れっ』


 下水の溝の上を渡る、細い丸太の通路など当たり前のこのエリア。早速そこに突入すると、結構際どい道を落ちないように気をつけながら進むパーティ。危険区域を無事に過ぎたら、今度は平原を通って大樹の見下ろす森に入って行く。

 幸いにして、脱落者も無くそこまで全員で辿り着ける事が出来たようで何より。美井奈などは明らかにほっとしており、絡んでくる敵すら心地良く思えているみたいである。

 森の奥の精霊の絵画のある集落に辿り着くまでに、10分程度掛かってしまったが。以前ボス級の敵に襲われた、トーテムポールに囲まれた森の広場も、今夜に至っては平和なもの。

 ほとんど一直線に来れたのは良いが、前回のトリガー戦は熾烈だった。


『そう言えば、前回は水系の魔法が全く使えなかったんだよね~、ここって?』

『今回は何だろう? 仕掛けがあるとすれば、光系が駄目とか、真っ暗闇の中とかかなぁ?』

『分からないけど……危ない仕掛けがあれば、迷わずにお助けアイテム使ってくれ、瑠璃っ』


 了解と請け合う瑠璃だったが、今回は本人的には余裕の表情である。何しろ、必要の無い複合書を2冊店売りした結果、何と5万ギル以上もの大金が入って来たのだ。

 そのお金でパーティに、いつもの倍近く薬品を配布した財政大臣の瑠璃。闇の秘酒や神水などの、1個1千近くするお高い薬品も、ついでに買い貯めて配布済みである。

 水晶玉も貯まりまくっているし、この辺で使いまくっても全然平気。


 各自準備が出来たとの報告に、時間も勿体無いし入っちゃうぞと弾美の言葉。聖水は必要ですかねと、闇属性にちょっと嫌な思い入れのある美井奈だったのだが。

 確かに必要かも知れないので、ポケットに用意しとくべしとの返答は弾美から。


 突入してみると、前回と同じような丸いサークルに放り出された感触。敵は目の前にいたが、暗闇がきつくてよく見えない。ローブを纏った、長身の人間のように見えるのだが。

 敵が動かないのを良い事に、強化を掛けながら相手の反応を覗う一同。瑠璃は敵の呪い攻撃に備えて、早くも天使魔法を掛けて行く。その後、光魔法は詠唱可能だとパーティ報告。

 天使の輪の光の先に浮かぶ敵は、準備の完了した弾美が一歩踏み込むと反応して来た。ローブが下から風を受けたようにはためくと、何かが周囲に溢れ出して来る。

 襲って来たのは、圧倒的な闇の塊だった。


『わっ、わっ、ダメージ受けたっ! 今のは何っ、敵が良く見えないよっ!?』

『良く分からないけど、今の影は瑠璃と薫っちで頼むっ。俺と美井奈でボスを抑えるぞっ!』

『それは良いんですけど……あの、隊長? さっきから、SPが全く貯まって行ってませんけど?』

『『……ええええっ!!!』』


 一同の驚き様は、ちょっと尋常ではなかったりして。ごくごく普段から、放って置いてもSPは貯まるものとの思い込みと言うか常識が、心の中を支配していたのは確かである。

 それを根本から覆されて、浮き足立ってしまったと言うのが本音の話。妙な話だが、目の前の痩身のローブの敵まで、急に強く見えて来てしまう始末だったりして。

 それでも作戦を口に出した手前、率先してローブの敵を果敢に殴り始める弾美。念のためにと、武器をレイブレードに変更しておいたのが、唯一の心の支えであろうか。

 何にしろ、やっぱり殴ってもSPが貯まって行かないのはかなり凹む。


『やっべぇ、やっぱりSP全然貯まる気配が無いぞっ! 普通に殴って倒すしか無いかっ!』

『えっと……ま、魔法で追い込むとか?』

『方法はそれくらいかなぁ……あっ、闇の秘酒は?』


 弾美が代表して使用してみたのだが、消費した筈なのにSPは空っぽのまま。お高い薬品を、1本丸々損してしまっただけと言う結果に。痩身の敵は、両手鎌を手にまだまだ元気。

 美井奈は色々試した結果、やっぱり破魔矢が高いダメージを出す事に気付いたようだった。自身を妖精魔法と《スパーク》で固めて、万全の構えで敵を射殺しに掛かる。

 スキル技が使えないとなると、雷娘の基本スペックに掛かって来るのだ。


 一方、闇の塊は殺意を持って薫にばかり襲い掛かる。どうやら、天使魔法の掛かった瑠璃は苦手のようらしい。頭に来た薫のやけっぱちの《炎のブレス》で、とうとう闇の中から真っ黒なフクロウが飛び出して来たのが確認出来た。

 瑠璃は素早く、それをタゲって細剣で殴り始める。さらに、うっかり美井奈の放電地帯に飛び込んだ闇から、続いて真っ黒なサルが飛び出して来た。闇の塊の中身は、一つでは無かったよう。

 なおも俊敏に動き回る闇の塊は、小さくなったがまだまだ元気な様子。サルを殴りながら、薫の再度のブレス攻撃。ようやく闇の塊は消失して、最後に闇色の犬が出現する。

 しかしパーティに、手の空いた者はいない。


『わっ、雑魚も結構手強いみたいっ……天使を呼んでもいいかなっ、ハズミちゃん?』

『遠慮するなって、どんどん使えっ、瑠璃!』


 混戦模様の戦場に、2度目の天使降臨。闇の支配するフィールドは、天使の輪っか2つ分明るくなったのだけど。やっぱり言う事を聞きやしない天使は、フリーの犬には興味なし。

 瑠璃の殴っているフクロウに、果敢に細剣を振りかざす。


 そんな訳で、フリーの闇の犬は一番近い薫の元へ。瑠璃や弾美と違って、防御は華麗なステップが命綱のカオルは。多数の敵相手だと、モロにダメージを負ってしまう悲しい定めなのだ。

 仕方なくな感じで、薫がマラソン役へと早変わり。瑠璃と天使の殴っていフクロウが、今の所HPの減りが一番順調。そいつを美井奈も手伝って、さっさと沈める作戦へと変更するのだが。

 マラソン中の薫に、まさかの《グラビティ》が飛んで来て、鈍くなった薫がタコ殴りの目に。掛けたのはどうやら、闇のサルの仕業らしい。さらに《シャドータッチ》でHPを吸われ、孤立していた薫はかなり危うい場面に追い込まれてしまう。

 それをポーションがぶ飲みで、何とか凌ぐ薫。


 美井奈の《ホーリー》で、サルのタゲは何とか取り去ったものの。今度は美井奈が鈍い魔法の餌食に。頭に来た瑠璃が、敵の中心で光の水晶玉と水の水晶玉を連続使用。

 フクロウがよれよれになったよとの知らせに、美井奈がとどめの《ホーリー》をぶち込む。これで敵陣営の闇の塊から生まれたモンスターが、ようやく1匹減ってくれた事に。

 天使は続いてサルを殴り始めた。瑠璃と美井奈もそれに続く。


 弾美は痩身の敵を相手に、サシでの押さえ込み。今の所、危険な技も使って来ないが、時折混ぜてくる闇系の魔法が厄介だ。早々と潰しているが、通ると危険値が一気に上昇しそう。

 薫も鈍くなった足に鞭打っての、必死のステップで闇の犬相手に応対している。せっかく覚えた複合スキル技も、使えないのは心中複雑。俗に言う、フラストレーション溜まりまくりである。

 それでも今は、なるべく敵からの被弾を避けながら、この窮地を何とか乗り切るのみ。何しろ薫のポケットのポーションは、残り2つにまで減ってしまっているのだ。

 油断は命取りと、敵の動向を鋭い観察眼で覗う薫である。


『えっと……しゃがんでもMPも回復しませんねぇ、ここって』

『ええっ、マジかっ! ヒーリングも無効化なのかよ、ここっ!』

『ひ、酷いっ! でも、多めに薬品買っておいて良かった!』


 全く瑠璃の言う通り、薬品が本当に生死を分ける糧となりそう。ホーリーの撃ち過ぎでMP枯渇の美井奈が、エーテルをケチって休憩で回復しようとした矢先の会話である。

 幸い、天使も時折回復魔法や攻撃魔法を飛ばしてくれるので。闇形態の手強いサルも、程なく塵と消えて行ってくれた。あともう少しだと、エーテルをケチらずに奮起する瑠璃。

 彼女の《ウォータースピア》は今やスキル70となり、出現する本数も2本に増えている。


 突き刺さった複数の水の槍に、思いっきり怯む闇の犬。続いて光魔法と、天使の突進が襲い掛かる。時間を掛けていられないと、後衛陣はエーテル漬けで魔法の連打。

 それでも闇形態の犬が沈む頃には、とうとう天使魔法も妖精魔法も時間切れで消滅してしまった。天使の契約はまだ平気そうで、彼女が戻って行かないのが唯一の希望の光なのだが。

 最後のボスの痩身の敵は、周りを囲まれても平気な素振り。


『最後の1体だけど……なんだろうコイツ? 輪郭が変になって来てるんじゃ?』

『うわっ、さっきまで戦ってた闇の形態モードだねぇ。気持ちは悪いけど、これ意味あるのかな?』

『さあ……? って、わっ、さっき倒した敵がまた出て来ましたよっ!』


 美井奈の悲鳴じみた言葉は、半分だけ正解の様子。闇形態の犬は、今度は分離まで行かずに近くにいた天使に殴り掛かる。もちろん、大鎌の攻撃も継続しており、敵の攻撃手段が単純に増えた計算なのだが。

 最後のボスのHPが減る度に、今度は闇形態のサルが顔を覗かせて攻撃を開始。もはや、人間の形など留めていない闇の魔物は、近くの敵を複数手段で殴り続けるのみ。

 それでも限りあるMPを回復に回さざるを得ず、パーティとしてはかなり苦しい台所事情。こちらも何とか手数を頼りに、押し切る形でとどめまで持ち込んだのだが。

 エーテルをほぼ使い切った後衛陣は、ちょっと冷や汗タラリ。


『うわ~っ、たくさん買い込んだ薬品が……財力の勝利かな、今回は?』

『まさにそうだな……しかし、ここは毎回苦労するなぁ。仕掛けが何気なく酷いのばっかりだぞ』

『本当ですねぇ……だけど、SP無いとスキル技撃てなくて、戦闘に締まりが無いですよ?』

『確かに……単純に、削るのも苦労するしねぇw』


 ドロップ品を受け取って、フィールド外に排出されたパーティだけど。31に成長したルリルリを祝いつつ、ついでに先ほどのクエストエリアで入手したレベルアップ果実で、32への成長を勧めるメンバー達。

 色々と話し合った結果、やっぱり縁の下の力持ちの瑠璃の成長が、パーティにとって有り難いという結論に達したのだ。そんな訳で、ルリルリはレベルで弾美に追い付く事に。

 ドロップは弾美待望の、闇の特級リング。他には闇の魂斬り鎌と言う名前の大鎌に、闇のベルトと言う装備品がドロップ。性能が良いので、指輪とベルトは弾美が所有する事に。

 ――闇のベルト ポケット+4、闇スキル+3、SP+10%、防+10

 ――闇の特級リング 闇スキル+4、SP+10%、SP上昇率UP、防+4


 そろそろ時間も良い頃だと、中立エリアにアイテムを使っての転移で戻る事にしたパーティ。瑠璃などは、またまた薬品の買い直しだとブツブツ小言を言っているようだけれど。

 明日はイベントエリアの4つ目と、貯まったトリガーの消費だと弾美が皆に活動予定の報告。イベントエリアの4つ目は、最終エリア前の最初の難所っぽいので気を引き締めて掛かるように。

 承知したとの返事も、やや元気が無いのは自信の無い証拠か。


 何にしろ、泣いても笑っても後1週間程度で全てが終わるのだ。これ程長い限定イベントの開催は初めての事だが、振り落としの過酷さは別にして、冒険者達の受けは良好な様子。

 弾美達のパーティにとっても、今のところは楽しい思い出の多い期間となっているようだ。それでも、その終わりがどういう形で一行の前に姿を見せるのか、そこだけは未だ定かではない。





 ――順位など、今となってはもうどうでも良い。四人が全員無事での、達成感に彩られたクリアの訪れを、ひたすら願う一同だった……。


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