♯19 鬼の棲家へ!
週明けの月曜日、それぞれに休みの日を過ごした生徒達は、休憩時間には情報交換に余念が無い。弾美と進も同じく、進の手にはプリントアウトされた書類の束が。
二人が話し込んでいるのを見て、イベント生き残り組も次第に集まって来るのもいつもの事。各自が地上エリアの追い込みに急かされつつも、他チームの戦況も気になるところ。
書類を見ながら、弾美は気難しい顔。それを横から覗き込むクラスメート達。
――ステージ突破率&地上滞在率
*ステージ1突破率 ――
*ステージ2突破率 ――
*ステージ3突破率 ――
*ステージ4突破率 ――
*ステージ5突破率 ――
*ステージ6突破率 ――
*地上滞在率、27%(参加人数に対して) 活動確認済パーティ……65パーティ
――シリーズ装備
*妖精シリーズ 入手率、25%(全4部位)……最終部位入手率 4パーティ
*迅速シリーズ 入手率、68%(全8部位)……最終部位入手率 8パーティ
*流氷シリーズ 入手率、21%(全4部位)……最終部位入手率 9パーティ
*暗塊シリーズ 入手率、 9%(全4部位)……最終部位入手率 4パーティ
――木の葉&果実入手率
*1~3枚……24パーティ
*4~6枚……28パーティ
*7~9枚……13パーティ
「うわっ、活動確認済パーティが65パーティだって。結構減ってるなぁ、何故?」
「そりゃあ、イベントエリアの振り落としがかなり厳しいらしいからな。他のエリアでも、結構手強いNMが待ち構えてるのは、弾美だって知ってるだろう?」
「それにしたって、ライフポイント制なんだからさ。残りが少なくなったら、どのパーティも慎重に行動するだろ?」
「おっ、パーティ状況の新レポートじゃん。ちょっと見せてくれっ、弾美」
友達の一人が、話に夢中な弾美からコピーの紙束をひったくる。それから、自分の所属チームの現状の報告。木の葉の入手は8枚で、残りライフは2つらしい。
残り2つは厳しいなとの言葉に、イベントエリアの最終は本当に厳しいんだとの、しかめっ面の返答。同意する人物も数人現れて、終盤の佳境を物語っているよう。
弾美が裏エリアの経験者を訊ねるが、それに対する返事は無し。
「要するに、地上エリアでは金のメダルとお金の総合力が物を言うんだよなぁ。メダルが無いと、裏エリアどころか、自分のキャラの補強が出来なくて苦労する。お金が無いと、薬品が購入出来なくて、強い敵やエリア内でライフロストの危険に遭う」
「ふむふむ、確かにその通りかもなぁ。冒険に注ぎ込む薬品代って、結構バカにならないし。こればっかりは、自分のキャラをどれだけ強化しても、どうしても必要になって来るもんな」
「なるほど……しかし、このシリーズ装備の入手率は、洒落にならないほどに低いなぁ。弾美は最後の部位、幾つ揃えたんだっけ?」
「3つかな? 今日中に多分、4つ目行くかも……遅解きの特権で、金のメダルには不自由しないからなぁ。その代わり、木の葉はまだ4枚だなぁ」
おおっというどよめきが、クラスメートの中に広がって行く。裏エリアの権利を持つ者は、実際ほとんど目にしないのだ。性能が飛び抜けて良いとの噂の装備も、持っている者はほとんどいない。
そのために、無理して金のメダルで購入するパーティもいるそうで、それでもデータ上では入手したとみなされるよう。一概に装備を持っているからといって、裏エリアを制覇したと言う訳でも無さそうだと、進の付け足しの言葉。
弾美は性能云々よりも、裏エリアの楽しさを強調して話すのだが。昨日は大学の女子寮に潜入してゲームしたとの告白には、男子生徒達の悲鳴にも似た興奮の声が木霊する。
パーティの仲の良さを強調したかったのだが、騒ぎの大きさに引いてしまう弾美。
「ま、まぁそれは置いておくとして……やっぱり弾美のチームは有利になるのかなぁ? レア装備を入手しているパーティが何かしら優遇されないと、メダル10枚も払った甲斐が無いような?」
「そんな事もないだろ。裏エリアで、レア装備以外にも結構色んな補充出来たし。進のパーティは、昨日裏エリア行ってみたんだっけ?」
「あぁ、結構面白かったよ。迅速装備を取りに行った」
ほおっと、今度も感嘆の声が上がるが。先ほどの女子寮のくだりほど盛り上がらないのは、やはり仕方の無い事か。話し込む内に、皆の今後の方針も見えて来る。
どのチームも、まずはイベントエリアのクリアを一番に掲げているらしい。つまりは、イベントアイテムの木の葉を8枚揃えると言う事。逆にそのせいで、ライフを減らして行くチームが増えているのも事実なのだが。
そんな中、元からライフの減っている者が淘汰されて行っているのが現状らしい。
生き残りとクリアを目指し、どのチームも試行錯誤を繰り返しているよう。弾美のパーティは、そういう点では呑気過ぎると言う意見が出るのも当然かも知れない。
マイペースで何が悪いと言う気持ちで、弾美当人は特に焦った感も無いけれど。今回のレポートにある木の葉の収集データ―を見ても、さ程遅れている風でもないようだし。
そんな感じで、情報のすり合わせは過ぎて行くのだった。
ここの所毎日会っているので、何となくこれが日常かと思ってしまうのだが。華やかなメンツにも徐々に変化が現れ、美井奈と薫もかなり打ち解けて来ている様子。
その証拠に、美井奈が今度は自分の家で合同インをしようと提案して来た。四人が揃って弾美の家へと向かう途中に、美井奈が積極的に話を盛り上げるのはいつもの事なのだが。
美井奈の家に遊びに行った事のあるのは、この中では瑠璃のみ。
「あ~っ、いいんじゃないかな? マンネリになるより、色々と計画立てた方が面白いもんね~」
「瑠璃の所以外なら、どこでもいいと思うぞ。瑠璃の家は、恭子さんに捕まる危険性が高いからお奨めしないけど」
「そ、そうねぇ。何回か、津嶋先生の講座受けた事あるけど……20分オーバーは当たり前の、凄い密度の講座ばっかりだったわねぇ」
「あっ、薫さんはお母さんの講義聞いた事あるんだぁ」
ちょっと嬉しそうな瑠璃だが、薫の顔色は微妙な感じだったりして。取り敢えず美井奈に、遊びに招いても良いかを親に訊いておけと、弾美は無難に会話を締める。
母親の沙織さんとは何度か会った事はあるものの、留守中に大勢で押しかけるのにも向こうの都合は存在するだろうし。美井奈は元気に請け合って、自分の計画に実に楽しそうな表情。
そんな事を話している間に、犬達の散歩も終了。
レベルが30に達して、新たに《SPアップ+10%》を種族スキルで取得したハズミン。これで連続スキル敢行にも弾みが付き、前衛に必要な削りの瞬発力も上昇。
装備もピアスや改装備のお陰で、防御やHPなどが上昇した。特にピアスの、落下ダメージ減という特殊スキルは有り難い。何しろイベントステージには、至る所に段差が存在するのだ。
本当は美井奈にでも融通したかったのだが。防御の高さとHPのアップが魅力的だったために、結局弾美が貰う事に。
名前:ハズミン 属性:闇 レベル:30
取得スキル :片手剣62《攻撃力アップ1》 《二段斬り》 《複・トルネードスピン》
《下段斬り》 《種族特性吸収》 《攻撃力アップ2》
《上段斬り》 《複・ドラゴニックフロウ》
:闇52《SPヒール》 《シャドータッチ》 《闇の断罪》
《グラビティ》 《闇の腐食》 :竜10《竜人化》
:風23《風鈴》 《風の鞭》 :土23《クラック》 《石つぶて》
種族スキル :闇30《敵感知》 《影走り》 《SPアップ+10%》
:土10《防御力アップ+10%》
装備 :武器 石割りの剣 攻撃力+19、防+4《耐久10/10》
:盾 龍鱗の盾 耐ブレス効果、防+18《耐久15/15》
:筒 大麻袋 ポケット+3、HP+5、SP+5%
:頭 暗塊の兜 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+15
:首 鬼胡桃のペンダント HP+8、体力+2、防+6
:耳1 砂塵のピアス、土スキル+3、体力+1、防+3
:耳2 白豹のピアス 器用度+3、HP+10、落下ダメージ減、防+5
:胴 龍鱗の鎧 耐ブレス効果、体力+4、防+18
:腕輪 暗塊の腕輪 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+15
:指輪1 サファイアの指輪 腕力+3、SP+10%、防+5
:指輪2 古代の指輪 体力+1、防御+5
:背 砂嵐のマント 風スキル+3、敏捷度+4、防+8
:腰 獅子王のベルト ポケット+2、攻撃力+4、HP+15、防+8
:両脚 魔人の下衣改 攻撃力+5、体力+3、腕力+3、防+15
:両足 暗塊のブーツ 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+10
細剣スキルが区切りの50へと達したルリルリは、新しく《Z斬り》という技を覚えた。今まで敵の危険なスキルを止めるのに、ダメージのほとんど出ない《麻痺撃》を使用していた瑠璃だったけれど。結構なダメージ付きの技で、これからは特殊技のストップに対応出来る。
氷スキルからも《氷の防御》という魔法を取得出来たのも、ルリルリにとっては大きな改善点だろう。魔法の防御によるダメージの一定量カットに、前にも出やすいキャラになって来た。
改装備の防御力上昇も重なって、さらにはHPもMPも上昇する形となった。さらにはレア装備の最終セットとなる流氷の鎧の入手により、MPが飛躍的に上昇。
魔法を唱えられる回数の上昇により、縁の下の力持ちの立場も安泰。何よりもグラフィックの統一感によって、本人がとても嬉しそうなのは言うまでも無い。
名前:ルリルリ 属性:水 レベル:29
取得スキル :細剣50《二段突き》 《クリティカル1》 《複・アイススラッシュ》
《麻痺撃》 《幻惑の舞い》 《Z斬り》
:水55《ヒール》 《ウォーターシェル》 《ウォータースピア》
《ウォーターミラー》 《波紋ヒール》
:光30《光属性付与》 《エンジェルリング》 《ライトヒール》
:氷40《魔女の囁き》 《魔女の足止め》 《魔女の接吻》 《氷の防御》
種族スキル :水29《魔法回復量UP+10%》 《水上移動》
装備 :武器 戦闘ネコの細剣 攻撃力+15、敏捷度+2、MP+8《耐久12/12》
:盾 豪奢な大盾 体力+4、防+12《耐久8/8》
:筒 大麻袋 ポケット+3、HP+5、SP+5%
:頭 流氷の髪飾り 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+8
:首 サファイアのネックレス 腕力+3、SP+10%、防+5
:耳1 天使のピアス 光スキル+3、知力+2、MP+8、防+3
:耳2 流氷のイヤリング 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+5
:胴 流氷の鎧 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+18
:腕輪 バトルグローブ 攻撃力+3、HP+8、防+12
:指輪1 光の特級リング 光スキル+4、HP+15、攻撃距離+4%、防+4
:指輪2 プラチナの指輪改 腕力+4、HP+20、攻撃速度UP、防+8
:背 クモの巣のマント HP+7、MP+7、防+7
:腰 複合素材のベルト改 ポケット+4、器用度+5、MP+13、防+11
:両脚 流氷のスカート 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+10
:両足 ゾゲン鋼の戦靴 体力+2、HP+6、防+10
マントの交換で、雷スキルが区切りに達したミイナ。その結果取得したのが《スパーク》という新魔法。一応の範囲魔法で、待ち構えての使用も出来るので、使いようによっては素晴らしい威力を発揮するのだが。
長杖の交換でMPも上昇したので、瑠璃に改装備を融通しても全然平気とは本人談。瑠璃のグラフィックの統一感を羨んでいて、自分も新しい帽子が欲しいと最近はおねだりモード。
そうそう簡単に、欲しい装備の入手など出来ない限定イベントだが。この先どうなる事やら?
名前:ミイナ 属性:雷 レベル:29
取得スキル :弓術46《みだれ撃ち》 《近距離ショット1》 《攻撃速度UP1》
《貫通撃》 《複・スクリューアロー》
:光40《ライトヒール》 《ホーリー》 《フラッシュ》 《フェアリーウィッシュ》
:風20《風の陣》 《風の癒し》 :水10《ヒール》
:雷30《俊敏付加》 《俊足付加》 《スパーク》
種族スキル :雷29《攻撃速度UP+3%》 《雷精招来》
装備 :武器 神樹の長杖 攻撃力+25、知力+5、MP+28《耐久14/14》
:遠隔 雷鳴の弓矢 攻撃力+17、器用度+4、敏捷度+4《耐久12/12》
:筒 貫きの矢束 攻撃力+14
:頭 船長の帽子 腕力+4、SP+10%、HP+5、防+10
:首 サファイアのネックレス 腕力+3、SP+10%、防+5
:耳1 血色のピアス 耐呪い効果、HP+10、防+2
:耳2 金のピアス 敏捷度+2、MP+4、防+2
:胴 妖精のドレス 光スキル+4、風スキル+4、MP+20、防御+20
:腕輪 星人の腕輪 光スキル+2、闇スキル+3、MP+8、防+8
:指輪1 雷の特級リング 雷スキル+4、器用度+4、攻撃速度UP、防+4
:指輪2 サファイアの指輪 腕力+3、SP+10%、防+5
:腰 複合素材のベルト ポケット+4、器用度+4、MP+8、防+6
:背 白豹のマント 雷スキル+4、器用度+4、MP+10、防+10
:両脚 妖精のスカート ポケット+2、光スキル+3、風スキル+3、防御+12
:両足 戦闘ネコの長靴 敏捷度+2、MP+6、防+10
炎の術書の融通で、今やカオルの代名詞となりつつある《炎のブレス》が少しだけ強化された。その他の改善点と言えば、改装備でのちょっとした防御の上昇くらいだろうか。
本人は、武器の長槍による範囲攻撃手段も欲しがっているのだけれど。それは恐らく、複合技で無いと無理な相談。そう簡単に、ピンポイントでの入手とは行かないのも世の道理である。
じっと我慢で、今持っているカードでの勝負に徹する薫であった。
名前:カオル 属性:風 レベル:29
取得スキル :長槍64《二段突き》 《攻撃力アップ1》 《脚払い》 《石突き撃》
《クリティカル1》 《貫通撃》
:炎33《炎属性付与》 《炎のブレス》 《レイジング》
:雷20《俊敏付加》 《パラライズ》 :風13《風鈴》
種族スキル :風29《回避速度UP+3%》 《魔法詠唱速度+6%》
装備 :武器 赤龍の大槍 攻撃力+32《耐久15/15》
:筒 絹の腰袋 ポケット+4、HP+10、SP+10%
:頭 迅速の兜 炎スキル+4、雷スキル+4、器用度+2、防+7
:首 進みがちな懐中時計改 SP+15%、攻撃速度UP、防+8
:耳1 サファイアのピアス 腕力+2、SP+10%、防+3
:耳2 銀のピアス 器用度+2、HP+4、防+2
:胴 迅速の鎧 炎スキル+5、雷スキル+5、腕力+5、防+20
:腕輪 迅速の腕輪 炎スキル+4、雷スキル+4、腕力+2、防+7
:指輪1 迅速の指輪 炎スキル+3、雷スキル+3、防+4
:指輪2 遺跡のリング 器用度+2、HP+5、防+3
:腰 迅速のベルト ポケット+3、器用度+2、防+7
:背 迅速のマント 炎スキル+4、雷スキル+4、防+7
:両脚 迅速のズボン ポケット+2、腕力+2、防御+7
:両足 迅速のブーツ 腕力+3、器用度+3、防+7
「さて、今日はどこを巡ろう?」
「イベントエリア2つ目は決定だよね? 後は……最後の弾美君の裏装備かな?」
「昨日の調子だと、ちょっと時間余っちゃうよねぇ? そしたら妖精の泉いけるかなぁ?」
「丸々3日縛りだと、夜にならないと願いを聞いてくれないんじゃないか? 時間残して、夜に再ログインするかなぁ?」
皆に平気かと訊ねる弾美だが、取り分けて不都合な者はいないよう。いつもの並びで限定イベントエリアにインを決め込んだパーティは、今からと今夜の割り決めに夢中な様子。
何より、今日の情報公開で自分達がそんなに遅れていないのが確認出来たのが大きい。この調子でも不都合は無いようだと、マイペースを守る構えだ。
急いでもいい事ないぞと、色んな方面から釘を刺された事もあるのだが。
最初の行き先の話し合いは、割と簡単に決着がつく運びに。弾美の暗塊装備を先に取って、その後イベントエリアを有利に進めようと言う案も出たのだけれど。
時間がたっぷりある内に、大事な進行エリアは済ますべきだとの意見が多く。要するに、昨日と一緒の廻りで行こうと言う事で意見の決着は呆気なくついてしまった。
そんな訳で、イベントエリア2つ目にまずはチャレンジ。
昨日のプレイで、エリアの大体の感じは掴めているのだが。入り口に立つと、張り紙には1部屋35分リミットとの知らせが。この調子で進むと、最終エリアは何分制限?
これが皆が苦心する仕掛けだろうと、弾美がぽつり。
「みんな、ことごとく失敗してたもんなぁ。最後の振り落としは要注意だぞっ!」
「こ、この部屋はまだ大丈夫なんですよねっ? ま、まだ平気……」
「美井奈ちゃん、まだ慌てなくっても平気だってば」
薫がお姉さんらしく、優しい声で宥めるのだが。入ってみて、ちょっとびっくり。敵はわらわらと出て来るし、スイッチの置かれている段差は今回は5段並びとなっているし。
慌てて戦闘準備をして、群がってくる敵に対応するパーティ。前衛が頑張って敵の数を減らしているその間も、瑠璃などはスイッチの場所をチェックしていたり。
大きな宝箱は目の前にあるのだが、敵が静まるまでは取れない感じ。
敵の強さは大した事も無く、あっさりと戦闘からは開放されたのだが。美井奈はしっかり時間チェック。余裕のある内に、感覚を掴んでおきたいようだ。
それからはスイッチを探すもの、階段の仕掛けを解くものとバラバラに行動しての時間節約。弾美はしっかりと宝箱を開けて、お助けアイテムをゲットしている。
何しろ、この先の大事な命綱なのは確かなのだから。
「ハズミちゃん、この両端の木箱を壊してくれるかな?」
「ほいさっ、2個も壊して大丈夫なのか、瑠璃?」
「うん、ただのお邪魔キャラだから」
「また何か出てくるかもですよっ! 一応張ってましょうか!」
右側の木箱は、爆発もせず敵の伏兵も無く、ただ音を立てて壊れて行った。左側に限っては宝箱が隠れていて、中からは風の術書が出て来てある意味期待外れ。
木箱を動かしても伏兵は無し、滅茶苦茶怪しむ美井奈。
肝心のスイッチは、4段目と5段目に散在しているようだ。瑠璃が木箱の位置を指定して来るのだが、今度は2段目の木箱が邪魔をしているとの話。
2段目の茶色い木箱を壊すのは初だが、弾美は段に上がって問題なくクリア。ところが、ここで初めて見るトラップが発動した模様。弾美の画面は、急に壊れたように真っ黒に。
どうやら、どこかに閉じ込められているようなのだが。
「わっ、ハズミちゃんが消えちゃった!」
「ここどこだっ? 動けるけど出口が無いっ!」
「えっ、えっ、同じエリア? そこどこっ!?」
「むむっ? 今、そこの木箱が赤に変わったんですけど……関係ありますかねっ?」
一同はまさかとの思いで、美井奈の指し示した赤い木箱の前に集まる。ちゃんとタゲれる事を確認して、薫が殴ってみると。中の弾美にもしっかり衝撃が通じて、皆で驚きのリアクション。
こんな仕掛けがあっても良いのかと、ブーブー言いながら木箱を壊すと。闇の中からようやく救出されたハズミン、一同で一斉に安堵のため息をつく事に。
美井奈の注意力が無ければ、救出に時間を食っていたかも知れない。
「ってか、四人閉じ込められたら完全アウトだなっ……怖っ!」
「た、確かに……木箱を壊すのは、ちゃんと確認して1個ずつが基本かな?」
「そうですねぇ……美井奈ちゃんが、今回はよく見ててくれてたよっ!」
「えへへ、ちょうど視界の正面でしたから」
それ以外は特に驚く仕掛けも無く、一同は順調に3段までの道順を製作。面積にして、部屋の半分近くを木箱が床を作っているので、動き回るのに不自由はしないのだが。
4段目と5段目に登って、スイッチの前に到達するには、もう少し頑張りが必要だ。少なくとも、あと3つは木箱を壊さないと駄目だと瑠璃が報告して来るのだけれど。
ややビビリ気味の弾美。美井奈がそれなら遠隔でやっちゃいますかと軽く請け負う。
遠隔攻撃ならば、そもそも爆風も受けないし良策に聞こえるのだけれども。ものは試しで一度やってみようと、弾美は下がって傍観に回る事に。
瑠璃の指定する茶色の木箱を1つ、2つと何事もなく壊して行く美井奈。何の変化も無いのは良い証拠かしらんと、3つ目に移ろうとする美井奈だったが。
今度は薫が赤い木箱を発見。例の如く、普通の木箱が変化したらしい。
「えっ、でも全員います……よね?」
「それじゃ、何が入ってるのかな?」
「2つ壊して、変わったのは1つだけか? 取り敢えず、3つ目壊して考えようか?」
訳の解らない問題は取り敢えず後回しが身上の弾美。ところが回答は、3つ目の茶色い木箱を美井奈が壊した途端に、向こう側から差し出された。
勝手に破裂した赤い木箱からは、ミイナのドッペルゲンガーが出現。
慌てる美井奈に、矢弾の遠隔攻撃が敵から降り注ぐ。今度のパターンは強烈だぞと、弾美が接近して殴り始めるのだが。もちろんタゲが移らないのは、この敵の恐ろしい所。
ひたすら美井奈が標的にされて、必殺の《フェアリーウィッシュ》でとにかく防御に掛かるのだけど。何と、光球の1匹が勝手に敵側に付いてしまうハプニングが発生。
どこまでも恐ろしい、分身の特殊能力。
「わ~っ、泥棒っ! 私の大事な光の玉がっ!」
「さすが分身だな……見事欺いてる」
「ちょっとこれは……酷いねぇ」
それでもパーティは、数の優位で美井奈の分身を削って行く。美井奈は強烈な遠隔スキルの連続攻撃に晒されながらも、こちらも遠隔スキルでひたすら反撃。魔法が解ける前に倒して下さいと、かなり必死な様子である。
その甲斐もあって、パーティの削りスピードは加速するのだが。分身が残りHP3割となった所で、再び嫌な特殊スキルが発動。呼び出された雷の精が、ハズミン達の攻撃をガード。
殴る度に、反撃の放電が痛いの痛くないのっ!
倒し終えた時には、殴っていた前衛もボロボロ、遠隔をひたすら一身に受けていた美井奈もボロボロという悲惨な状況に。ヒーリングしつつ、何となく美井奈は申し訳なさげ。
それでもドロップは上々。雷の術書と水晶玉、武器では雷鳴の弓矢改という弓矢まで出た。
――雷鳴の弓矢改 攻撃力+20、器用度+5、敏捷度+5《耐久14/14》
「おおっ、かなりいい武器だなっ! まぁ、赤い木箱の仕掛けも分かったし、何よりかな?」
「ハズミちゃんもレベル上がったし、美井奈ちゃんのお陰……かなぁ?」
ミイナのドッペルゲンガーを倒して、弾美が31にレベルアップ。確かに美井奈のお陰と言えるかも知れないが、本人はかなり微妙な顔付きだったり。
休憩後に木箱を動かし終えると、それで全部のスイッチにキャラが到達可能となった。これでこの面をクリア出来ると、皆でタイミングを合わせて恒例のスイッチ押し作業。
これで赤床の面はクリア。次は……。
次の面にワープで通され、ビックリ仰天の一同。木箱の木の字も見えない真っ白なエリアで、ひたすら立体的な構造の部屋となっているのは見て分かるのだけれど。
階段があちこちに設置されていて、細い通路が迷路のように張り巡らされている。エリアの広さはさっきの赤い床のエリアよりは広いが、端が見えない程ではない。
それでも障害物が無いので、かなり広く感じてしまう。
「あれれっ、次は緑の床のエリアかと思ったのに。白いエリアってのもあるんだねぇ」
「だなっ、敵の数は少ないけど……スイッチが一つも見えないなぁ」
「透明なのか、下の通路の死角に隠れているのか……探すのに苦労しそうだねぇ」
「俊足の魔法掛けましょうか? これって意外と役に立ちますねぇ」
全くもって美井奈の言う通りである。タイムアタックとまでは行かないが、探し物のあるエリア内では、もたもたしていると状況が変化してしまい兼ねない。
エリアの上空に漂っているのは、いつかのマンタに乗ったクラゲ人間達だった。透明な身体がとっても不気味ですねぇと、魔法を掛けながら美井奈が呟く。
他の皆は妖精チェック。ポケットを空けろとの催促は、やっぱり透明スイッチがある模様。
一行は飛び回る敵になるべく見付からないように、エリアの探索を始める。最初の広場は上層で眺めは良かったのだが、そこに留まると敵に上空から狙われそうで怖い。
下層は全く安全そうだが、眺めは最悪で進んでいる通路がどこに繋がっているのかも分からない有り様。取り敢えずは真ん中まで中層を伝って行こうと、弾美は口にするのだが。
真ん中辺りで妖精がせっついて来た。スイッチが近いらしい。
「あっ、ここかな? やった、1個目頂き~っ♪」
「おおっ、見事です薫さんっ、ちなみにノルマは一人1個ですか?」
先を越された美井奈は、いたくライバル心を刺激された様子である。次は自分の番だと、きょろきょろとキャラを動かしてスイッチが隠れていないかチェックに余念が無い。
先程までは新しい弓矢を試すのだと、敵を射る事しか考えていなかったと言うのに。
2つ目は、ちゃっかりと弾美が見つけた。下層の通路の突き当たりの目立たない場所に、普通にスイッチが設置されていたのだ。悔しがる美井奈は、視界の良い場所にキャラを移動。
その途端に、上空からシャボンの泡が降って来た。どうやら偵察部隊の1組に見付かってしまったらしい。絶対やると思ったと、弾美は冷たい視線を向けるのだが。
マンタの吹き出すシャボンは厄介で、当たると爆発してダメージを受けてしまう。
「わっ、このシャボンはどうすればいいの、ハズミちゃん?」
「ひたすら避けろ。そしたら地面に落ちて、勝手に壊れて行くから。コイツ等、マンタとクラゲで部位違うから気をつけろ~」
「了解っ……ってか、コイツ等地面に降りて来てくれないのかな?」
ちょっとずつは、パーティの近くに降りて来ているのだが。薫が《炎のブレス》で応戦すると、シャボンは奇麗に消え去って、敵も一気にこちらに近付いて来た。
ここぞとばかりに迎え撃つパーティ。マンタの麻痺がウザいと、まずはそちらから。お陰でクラゲ人間には攻撃され放題。放電が始まると、弾美が《闇の断罪》でスタンさせると言ったサイクル。
マンタがようやく墜落して、あとはクラゲ人間をぼこ殴り。
戦闘は、割と短い時間で終了したのだけれども。せっかく掛けて貰った俊足魔法は時間オーバーで切れていた。美井奈はひたすら恐縮して、再び魔法を掛け直す。
上空の敵は、数えてみるとあと5セットくらい。どうやら巡回する道順は決まっているらしいのだけれど。そこから逆算して、スイッチの場所を判明する事はちょっと無理っぽい。
残る手掛かりは、妖精の言葉のみ。聞けばちゃんと答えてくれるのだが。
「私の妖精は、さっきからずっと右って言ってるよ?」
「私のは逆方向だって言ってるけど……ちょっと別れてみる?」
「んじゃ、俺が瑠璃の護衛をするか……薫っちは、美井奈のお守りな」
何で私はお守りになるんですかと、美井奈はひたすらヒートアップ。事実なのだから仕方が無いと、弾美や残りのメンバーも心の中では思っていたかも知れないが。
ちゃんと護衛を勤めますと、カオルの後ろに奮起して張り付くミイナだったけど。薫チームは、肝心の道が段差で渡れない事態に陥っているようで進むに進めない。
階段は遥か向こうで、そもそも戻って来れるのかも覚束ない。
瑠璃が、こういう時のお助けアイテムだよと、さり気なく示唆してあげるのだけれど。ここで使わないでどこで使うんだと、弾美などははっきりクッキリ皮肉を口にする。
美井奈がその皮肉に敏感にムッとするのだが、薫の方は使い方の習得に夢中。程なく緑色のハスの葉っぱの架け橋が出現して、薫はおおっと驚きの様子。
薫チーム、透明スイッチに一歩近付く。
瑠璃の妖精ナビゲートは、向こうに較べると至って簡単だった。近くの階段を上って、巡回中の敵に捕まらないように、上層の広場を猛然とダッシュで横断に掛かって。
ついて行く弾美も同じ速度で追従。こんな時の《俊足付加》は、本当に有り難味が分かる。瑠璃は反対側の下り階段を目指していたのだが、到達してみると何と階段は壁で行き止まり。
困惑する瑠璃に、妖精はこの向こうだとしきりに指し示すのだが。
「ハズミちゃん、飛び降りるしかないのかな? お助けアイテム使ってみようか?」
「むうっ、数が結構あるから、全然構わないと思うけど。階段の奴か? 空中で使えるのか疑問だけどなぁ」
弾美の推測通り、妖精はこんな使い肩は出来まセンと言って来た。弾美はここで待っているから、探して来るようにと瑠璃に指示を出す。
探し当てたら、そこで瑠璃がスタンバイすれば良い。自分は簡単に別の場所に戻れる。
瑠璃は新魔法の《氷の防御》を己の身に張り巡らして、果敢にダイブを敢行。とは言っても、ほんのキャラの背丈2つ分の高さの距離なのだけど。
魔法のお陰でノーダメージの瑠璃は、ちょっと得意満面。鼻歌交じりに透明なスイッチを、妖精の言葉で探し回っている。弾美は敵に注意しながら、段差の上からそれを眺める。
程なく瑠璃は、3つ目のスイッチの透明化を解除したと報告。
「よしっ、あと1個だな……俺は最初のスイッチに行くかな? そっち手助け欲しいなら行くけど?」
「心配無用ですっ! こっちももうすぐに探し当てますっ!」
「うん、近くまでは来てるんだけど……美井奈ちゃん、やたらとスプレー使わないでっ! 次の面でも使うかも知れないんだからっ!」
「あっ、そうかっ!」
呆れ顔の面々、どうやら美井奈はやたら滅法に消耗品のスプレーを使っていたらしい。その甲斐も無く、スイッチは順当に薫が探し当ててしまったのだが。
見付けたばかりのスイッチを美井奈に任せて、薫がもと来た道をダッシュで戻って行く。中層の通路なので、上の敵はあまり気に掛けなくて済むのが有り難い。
弾美に続いて、薫もスイッチを受け持ち。これで2つ目のエリアも順調にクリア。
ここまで合計で、30分も掛かっていない計算だと美井奈の報告。戦闘らしい戦闘と言えば、ミイナの分身騒ぎだけなのが好タイムの原因のようなのだけど。
経験値も欲しいかもと、ちょっと贅沢な悩みも心中渦巻いてしまうのは仕方が無い。そんな期待に応えた訳でも無いのだろうが、例の最終面では敵がたくさんお出迎え。
いきなりの混戦に、ややパニックであちこちで殴り合いが始まる。
エリアのつくりは、前回とだいたい似たような感じらしい。手前にどっしりとした3段の石造りの遺跡の断面層が存在し、中央が綺麗に吹き抜けになっている。
壁伝いに石畳の廊下は存在するのだが、所々壊れていたり、又は塞がっていたり。中央の吹き抜けの底は深い水貯めになっていて、上には例の浮島が存在する。
光のシャワーが、どこか神秘的にエリアに降り注ぐのも前回と一緒。
「あっ、スイッチ見つけましたっ! すぐそこにあるみたいですよっ!」
「いいから敵を減らして行け、美井奈っ! くそっ、魔法で強化する時間を与えて来ないとはっ!」
「あっ、今の蛮人、お助けアイテム落としたみたい。ラッキー……なのかな?」
「う~んっ、どうせなら薬品類が欲しいかも?」
薫の疑問符付きの言葉に、チョー真面目に考え込んで返答する瑠璃だったり。女性陣は当てにならないと、弾美は一人奮起して、敵をキープしつつ減らして行く。
鮮やかなペイントの木面をつけた茶褐色の肌の蛮人は、どうやらそれ程強くはないのだけれど。色々と特殊攻撃が厄介な上に、前衛と後衛で組織だった攻撃をして来る。
薫と美井奈が、息を合わせての範囲攻撃で、一気に敵の殲滅に掛かり始める。弾美も、その隙を利用して《竜人化》からの《ドラゴニックフロウ》を敢行。
雑魚には覿面の効果のその複合スキルは、あっという間に敵を一掃。
「うわ~っ、やっぱり強いねぇ、弾美君の複合スキル!」
「魔法を最初に掛けるのが面倒だけどな。1回撃つと解けちゃうし」
「これっ、このスイッチは私が見つけたんですからねっ!」
やや必死かつ得意な口調で、美井奈がスイッチの権利を主張する。一体何の権利だろうとか、そんな遊び方だったろうかなどの疑問は、この際どうでも良いというか。瑠璃が美井奈に良く出来ましたと、素敵なフォローを入れて。
これでこの件は、一件落着。
上機嫌の美井奈が先行しようとするのを、弾美が何とか宥めつつ。ここが仕掛けだらけのステージなのを、少女に思い出させて警戒を促すのだが。
確かに手前の壁面の彫刻や彫り物は、そう言われて見れば無気味に見えて来る。前回はそこから、等身大の岩が無数に転がり出て来たのだった。
パーティが今いるのは、一番下の層である。そしてスイッチはあと3つ。
「反対側の壁際に、1個見えるね~。ほら、一番上の丁度真ん中辺り」
「あ~っ、あるなぁ……ってか、浮島に近くて嫌な場所だな。美井奈、アレ押す権利をやろうか?」
「私はここを見つけたから、ここを押しますっ! あれはお兄さんが押して下さいっ!」
美井奈の理論の通りだと、あの危険な場所は見つけた瑠璃が押す事になるのだけれど。とにかく休憩を終えた一行は、階段を伝って中層へと辿り着く。
今度のお出迎えは、羽音も強烈な蜂の群れ。6匹程度が宙を漂いながら、制空権を主張している。掃除しない事には、通り抜けられそうに無いと、弾美は挑発魔法を掛けるのだが。
迎え撃とうと一歩踏み出した途端、仕掛けが作動。今度は落とし穴らしい。
慌てている残りのパーティメンバーに、タゲを失った蜂が襲い掛かる。下の層に落とされた弾美は、落下ダメージを喰らってやっぱり大慌て。すぐに戻ると階段を目指すのだが。待ち構えるように、スライムが階段の隙間から湧いて来てビックリ仰天。
どうやらパーティ分断の仕掛けの続きのよう。
仕方なく2手での戦闘に入る一行。薫のステップでの前衛盾も最初こそ順調だったが、美井奈の攻撃でタゲが揺れてしまう。慌てた所に麻痺の一撃が入り、しかも蜂同士のリンク発生。
これは不味いと動き回った結果、何と薫まで落とし穴に落ちてしまった。氷魔法で足止めしていた瑠璃は、途方にくれて仕留め損なった蜂の1匹を見遣る。
こうなったら、全員で覚悟を決めて落ちようかと、美井奈と顔を見合わせるのだが。
「ようやく倒せたっ! 瑠璃っ、階段まで連れて来いっ!」
「わ~っ、待ってたよ、ハズミちゃんっ!」
ようやく弾美が仕掛けを突破したようだ。今度は蜂退治に合流して、後衛のためにがっちりタゲキープ。落下仲間の薫は、3割近くHPを減らしつつ再び中層を目指す。
薫が皆に合流しようとした矢先に、やっぱり階段で2匹目のスライムに行く手を阻まれ。泣きそうな悲鳴が、薫の口から発せられる。そのスライム、結構手強いぞと弾美のアドバイス。
蜂も結構、雑魚とは思えないHPの豊富さだったり。
敵の掃除が全て終わったのは、それから結構経ってから。パカッと開いた落とし穴もそのままに、中層は移動可能な状態になったのだけれども。
まだ開いていない落とし穴があるかもと、一行は慎重に移動する。手前のフロアの端から端への横断を終えて、取り敢えず階段へは到達したのだが。
瑠璃によると、妖精はこの層にスイッチがあると言っているらしい。
左の壁沿いの石造りの細い通路を、取り敢えず弾美と薫が進んで行く事に。ところが崩れかけた通路は、四角い石像で突き当たりの行き止まりとなっていた。
妖精はと言えば、まだ先の地点を示している。
「反対側から回り込めばいいのか? あれっ、でも道続いていないかな?」
「んっと、お助けアイテムで乗り切れないかな?」
瑠璃のアイデアは大成功で、お助けアイテムの『Jの豆の木』で四角い石像のスルーに成功する。なる程、木箱でなくても平気なのだと、一同は驚きと納得の表情なのだが。
伸びた豆の木の階段は、何と真っ直ぐ上層まで続いている。これはひょっとしてショートカット出来るのではと、新たな攻略法も生まれそうな勢いなのだが。
取り敢えずは石像の両端に階段を作って、何とか2つ目のスイッチを見つけ出した。
上層にも、ちゃんと敵は待ち構えていた。しかも、今度も飛行型のコウモリの群れと言う設定に、一行は不審感を募らせて行く。ひょっとしたら、再び落とし穴が?
パーティは自然と、戦闘地域を狭めての予防措置で対応するのだが。敵を全て倒し終わっても、微妙な位置に透明のスイッチがあるらしい事が判明して。
どうしようかと、皆が顔を寄り合わせて相談タイム。
「えっと、落とし穴はあることが前提なの? 場所の位置を、下と照らし合わせるとか?」
「確かに怪しいですけど……でも、下まで落ちちゃったら、怖いですよっ?」
「瑠璃が天使魔法掛けて、走り回るってのはどうだ?」
「えっ、あの魔法は宙に浮いちゃうけど、平気かな?」
流氷装備が揃った事もあり、既にMPは300を超えているルリルリ。《エンジェルリング》の魔法も随分と掛けやすくなっており、一応ダメ元で試してみる事に。
半分期待してなかったその作戦だけど、信じられない事に仕掛けはパカパカと派手に作動するに至って。瑠璃の足元に大きく開いた落とし穴、その数何と6個!
作り過ぎだろうと、非難轟々。
「うわっ、こんなにあったんだっ! ちょっと……洒落にならない仕掛けだねぇ」
「隊長、この落とし穴……下層まで貫通してますよっ!」
「おおっ、俺が落ちた穴と見事に繋がってるなぁ。引っ掛からなくて良かったよ!」
弾美の作戦は見事成功。空いた落とし穴を皆で眺めつつ、しみじみと話し合っている間に。瑠璃が妖精の情報を元に、3つ目のスイッチを出現させていた。
4つ目は、その丁度反対側に見えている。浮島を挟んで、結構際どい崩れた通路の途中に設置されているようだ。さて次は、誰がどれを担当するかを決めないとならない。
パーティが今いる場所も、落とし穴だらけで決して戦闘に向いている場所ではない。両端の穴の無い場所におびき寄せる事が出来るなら、話は別だが。
敵の動きも未知数で、反対側の者が襲われる可能性も無いとは言えない。
「取り敢えず、一番下は美井奈が受け持って、俊足飛ばして駆けつけるでオッケーな?」
「上の層は、私と弾美君かなぁ? でも、天使魔法の掛かってる瑠璃ちゃんも素早く動けるねぇ」
「そうだなぁ……中層のスイッチは、戻って来るのに手間取ると怖いし。薫っちに頼むか」
「それじゃ、私が向こうに行けばいいんだね? あっ、この落とし穴塞げるねぇ」
そう言うと、瑠璃はハスの葉のお助けアイテムで、落とし穴の1つを塞いでしまった。コレは便利だと湧くパーティ。どうせもう使うエリアも無いのだし、全部使って塞いでしまう事に。
その後いよいよ、一同はそれぞれ移動して4つのスイッチの前にスタンバイ。前回と同じ仕掛けなら、これを押すと浮島から敵が出現する手筈なのだけれど。
仕掛けを全面的に信頼するのも、実は怖かったりして。
弾美の号令で、スイッチは同時に押され。同時に浮島の蔦のドームが萎れて、3匹の飛行物体が出現する。1匹は大きな蛾のモンスター。追従するのは白と黒の光を発するホタルのよう。
敵の集団は、案の定ルリルリ目掛けて襲い掛かって来た。宙を飛べる利を活かして、3匹同時の接近。他のメンバーは、瑠璃の脱出を祈りなら上層での合流を目指す。
瑠璃はホタルの1体を氷魔法で足止めしつつ、猛然と弾美の元へ駆け出す。
天使魔法の加護もあって、壊れかけの細い通路も何のその。弾美もフロアの端まで出張って、魔法の範囲に入るや否や挑発魔法を黒ホタルへと飛ばす。
瑠璃は続けて、蛾のマラソン。落とし穴を塞いだのが幸いし、走り回るスペースには不自由しないのが良い感じだ。美井奈が俊足を飛ばして、もうすぐ上層に辿り着きそうと報告。
弾美もレイブレードで、ガシガシと黒ホタルを削っている。
「うわっ、このホタル……殴る度にこっちのMPを吸いやがるっ! 黒い発光も強くなってるな」
「何の仕掛けかな? 白い方は、まだ平気?」
「足止めが解ける前に、そいつを倒したいですねぇ。隊長、到着しましたっ!」
薫よりも先に到着した美井奈は、勢い込んで矢を射始めて削りのお手伝い。さらにスキル技の使用に、黒ホタルの黒い光の玉は弾美を包み込みそうな程。
これは不味いかもと思った時には、既に特殊能力は発動していたようだ。弾美のMPを吸い尽くした黒ホタルは、発光も勇ましく今度は弾美のSPを吸い始める。
弾美はスキル技を断念、美井奈に全てを託す事に。
黒ホタルがヘロヘロになった頃に、ようやく薫が中層から合流して来た。そこに白ホタルも戦線復帰、弾美はエーテルを使用して白ホタルにタゲ取り魔法を放つ。
その頃には黒ホタルがようやく沈んで、ようやくMPとSPの吸収地獄から解放されたハズミン。ホッとしつつも、今度は三人での白ホタル削りへと移行。ところが白ホタルの発光は、殴る度にこちらのHPを減らして来る始末。
どうやら与えるダメージの3割程度を、見返りに要求して来るらしいのだが。何とも無いのは美井奈の遠隔だけ、回復役の瑠璃はマラソンで忙しいと来ている。
ここまでは順調なようでいて、実は危なっかしい戦況なのかも。
「わ~っ、結構きついなぁ、お返しのHP吸収。私と瑠璃ちゃん、交代した方がいいかな?」
「むっ、そうだな……削りは美井奈に任せて、回復役が欲しいのは確かだなっ!」
そんな訳で、マラソン役を交代する女性陣。スイッチは割とスムーズで、今度は瑠璃が弾美の支援に回る事に。この交代は、結果的には凄く良いタイミングだった。
何しろ、白ホタルの発光が増すのと同時に、通常攻撃が通り難くなったのだから。
「あれっ、攻撃ダメージが急に減っちゃいましたね、隊長?」
「むっ、本当だ……魔法はどうだ? 瑠璃、試しに撃ってみてくれ」
「了解~っ、行くよ~」
瑠璃の放った水魔法は、難無く白ホタルのHPを削って行く。黒と白を同時に相手にしなくて良かったと、弾美は改めてぞっとする思いだったのだが。
その後は、美井奈と瑠璃とで魔法の連打。二人のMPが切れる前に、白ホタルも没。
「終わったぞ~っ、薫っち、大ボス行こうかっ!」
「了解っ! こいつ鱗粉の毒が痛いね~っ、近付くだけで浴びちゃうみたい」
「MPが無いよっ、ちょっと休ませて~っ、ハズミちゃんっ」
「同じくです~っ、毒の治療がいらないなら、すぐ駆けつけますけど?」
それなら休憩してMPの回復をしておこうと、弾美は予防策を張り巡らせておく事に。何しろコイツは大ボスなのだ、一体どんな攻撃をしてくる事やら。
そう弾美が思っていた矢先に、落とし穴を塞いでいたハスの葉に異変が。蛾の特殊攻撃の鱗粉に晒されたせいなのか、1箇所萎れて消え失せてしまったのだ。
1箇所くらいは、別にどうって事はないと思いつつ。前衛が殴りにと取り付いた途端に、さらに大ボスの特殊技の暴風が発動。吹っ飛ばされた前衛陣は、ビビリまくって足元確認。
そして床の有り難さを改めて実感、穴を塞いでいるハスの葉に感謝しまくる事に。
ようやく復帰して来た瑠璃に、特殊技の暴風だけは防いでくれと懇願する前衛陣。かなり必死に、弾美と二人掛かりで吹き飛ばし技だけはスタン防御で実行させない構えである。
何しろ、今や萎れたハスの葉は3つにまで増えてしまっているのだ。
「きゃ~っ、落とし穴の半分が口を開けちゃった! ハスの葉ガードまで折り込み済みとはっ!」
「確かに侮れないな……毒も結構ダメージ酷いし」
「あと半分だよ~っ、みんな頑張ろう~っ」
瑠璃の掛け声に、力を合わせての最後の追い込み。防御力は低いらしい蛾のHPは、見る見る減って行き。残り2割となった所で、大ボスの意地なのか最後の悪あがきを見せる。
なんの事は無い、ただの連続での暴風使用だったのだが。止められなかった代償は、相当なものとなった。弾美と瑠璃が、何と仲良く落とし穴に落ちてしまったのだ。
この日一番の絶叫は、果たして誰のものだったのか。
それでも薫と美井奈の、闇の秘酒のガブ飲み連続スキル技使用によって。何とか最後まで削り切る事にに成功したパーティ。落ちた二人は落下の手痛いダメージもそのままに、上層に戻った時には既に浮島への架け橋が固定化していたという状況。
ヤレヤレと安心しつつ、皆で合流後にゆっくりと蔦の橋を渡って行く。前回と同じく、中央にフワフワと浮く紫色の木の葉を発見。その周囲に4つの宝箱があるのも前回と同じ。
ここまで45分程度、これもほぼ前回と同じ。
宝箱からは4万ギルの現金と金のメダル、闇の術書と力の果実が出て来た。他にボス戦のドロップで、白蛍のピアスと黒蛍のピアス、蝶柄の指輪がドロップ。
――白蛍のピアス 光スキル+3、HP+25、防+9
――黒蛍のピアス 闇スキル+3、SP+10%、防+4
――蝶柄の指輪 器用度+4、体力+4、HP+12、防+5
相談の結果、黒蛍のピアスを弾美、白蛍のピアスを美井奈、蝶柄の指輪を薫がそれぞれ貰う事に。イベントエリアの装備品のドロップは、毎回良品が多くて評判も上々だ。
一行は出現した退出魔法陣に飛び込みつつ、ちょっとだけ今のステージを振り返ってみたり。
「俺のピアスの落下ダメージ減って、実は結構実用的なのかなぁ?」
「あ~っ、今のエリアでは大活躍な感じ? 同じイベントエリアで入手したんだっけ?」
「そうそう、何だかこれから先も役に立ちそうだ」
「それって、落ちる事限定じゃないですか」
美井奈が冷ややかな調子で、心に思った事を口にするのだが。さっきみたいな、突き飛ばし技との凶悪コンボだって有り得るじゃないかと、弾美は反論する。
後衛に陣取る美井奈には、実はあまり関係ない話だと薫が口を挟んで来る。その割には、何かと呑み込み技などでのトラブルが多いのはどういう事だろうと、弾美などは訝るのだが。
何にせよ、中立エリアに戻った一同は、束の間羽根を伸ばして買い物や雑談などを。
買い物のためもあって、突入口の闇市へと集まるメンバーだったが。珍しく人がいるのに、やや驚きのリアクション。ここで他のキャラと出会うのは、そう言えば初めてかも。
弾美がレア装備の取得状況の低さを、データを基に口にすると。あんな面白いエリアを攻略しないとは、実に勿体無いと瑠璃と美井奈が文句を口にする。
確かにあんなに変化に富んだエリアも少ないと思うが。大切なのは装備の入手では?
「ところで、なんでこいつは一人なんだ?」
「さあ……あっ、でもソロの修行の塔もあったよねぇ?」
「あ~っ、そう言えば……どうやって入るんだっけ?」
「確かソロ用の、自分の修行したい部屋のチケットを買って、入り口は同じ裏エリアかな?」
「個人の強化手段も、確かにメイン世界じゃ普通だしなぁ……美井奈、入ってみるか?」
美井奈は遠慮しますとそっけない返事。金のメダルは、実はまだまだ20枚近くあると瑠璃が報告する。最後の裏エリアのチケットを購入した後にも拘わらず、まだその数字である。
最近は裏エリアに通い詰めで、減って行く数字の方が多いのだが。販売機の値段表を見ながら、スキル60以上を伸ばすのには、メダル4枚が必要らしいと確認。
それなら全員、突入可能である。
「スキルによって必要枚数が違うのか。何だ、瑠璃や美井奈だったら3枚で済むじゃんか」
「へぇっ、割とお得な……修行の塔って、確か倒されても経験値とかロストなかったよね? ライフも減らないんじゃないかな?」
「仮に減っても、実は命のロウソクも3つあるから……そう言えばライフもメダル3枚だったねぇ」
そう言われれば確かに全然怖くないかもと、美井奈は簡単に前言撤回。メイン世界でも入った事が無くて、実は怖かったらしいビギナー美井奈である。
メダルがこんなに貯まるのは、メイン世界ではまず有り得ないから、今の内に慣れておくのも手だと弾美のお勧めに。美井奈もいつの間にやら、ついついその気になって行く。
取り敢えず、いつかソロ修行の機会をつくろうと弾美は約束。
話に熱中している間に、知らない名前のキャラはどこかに消えてしまった。自分達も突入しようかと、ようやく話を中断しての攻略モードに移行するパーティ。
瑠璃が購入したチケットを、暗色系の扉の前に佇むNPCに渡す。4度目の裏エリアに、一行も既に慣れたもの。床の模様も、3つは攻略済みで消失している。
今日は謎解きの必要も無いと、瑠璃はお供え物の鬼の金棒を北東にトレード。
今回のフィールドは、今まで以上に突飛さに輪が掛かっていた。夜の深い森に、大きな満月が出ている。そのためか、夜中でも明るさに不自由は無いのだけれど。
道なりに枝に吊るされた紙ちょうちんが、淡い光を投げ掛けて来ている。一行の前には大きな赤い鳥居が建っており、境内に導くように存在を誇示している様子である。
道があるにも拘わらず、一行が進むのを躊躇っているのは。境内を歩き回っている大きな人影と、鳥居の横に立っている公家の衣装を着た不気味な人影のせい。
着物を着た人影の顔は四角い布で隠されており、大きな人影は……鬼に間違いない。
「……でっかい、でっか過ぎますよ、あの敵はっ! 建物より大きいじゃないですかっ、とても倒せませんって!」
「落ち着け、美井奈……滅茶苦茶弱いかも知れないじゃないか。それよりあれはNPC?」
「敵じゃないみたいだけど、夜中に出会うと不気味だねぇ……何か手招いてるよ?」
それはそれで怖いのだが。弾美が代表して近付いて行くと、NPCの後ろの奥に大きな案内板があるのが見えて来た。境内の様子も、前の位置からよりはっきり視界に入って来る。
ものは試しと、NPCに話し掛ける弾美。
――ようこそ、鬼の社へ……。ここは雑多の鬼のたむろする、異界の聖域ですじゃ……。皆様には、その鬼達と戯れる度胸がおありでしょうや?
境内には、宝物庫を守るべく、鬼達が警護にあたっておりまする。見事、彼らを欺いて宝の山に辿り着ければ、報酬はよりどりみどり……イーッヒッヒッ!
あぁ、ちなみに大きな鬼は、攻撃は出来まするが決して倒せませぬ。捕まってしまうと、パーティごとエリアの入り口に強制送還となってしまうのでお気を付け下され。
視界を避けて建物内を行くも好し、運を頼りに近道をするも好し……皆様方のご武運を……。
そう言い終えると、不気味なNPCは音も無く暗闇の中に姿を消してしまった。弾美は先程耳にした言葉の中から、何とかキーワードを抜き取りに掛かっている所。
進むルートは、どうやら2つはあるらしい。その1つは外を進む方法で、無敵の鬼に捕まってしまうとアウト。建物の中は安全……とは、どう考えても行かないだろうが。
目的地の宝物庫に無事に辿り着いたら、報酬が待っているとの事らしい。
「えっと、大きな鬼は無敵らしいなぁ……宝物庫はどこだ?」
「地図あるねぇ。ここが現在地で、こう……建物の梁の下越しに、隠れて移動すれば平気?」
「なる程、見付からなければ平気なんですねっ! 俊足魔法掛けて、ぱっと走り抜けるとか?」
皆でルートの確認をしながら、案内板の前で作戦の示し合わせ。そもそも建物の中には入れるのだろうかとの問いには、誰も言葉に詰まって答えられず。
ペナルティのエリアの入り口とはここなのかとの問いは、そんなに甘くないだろうで意見は一致した。恐らく、再びお供え物を買って、突入からのやり直しに違いない。
つまりは、金のメダル1枚分の損失が出る訳だ。
それは嫌だと、思わず真剣になる一行。しっかり地図を頭に叩き込んで、いざ最初の建物に近付いて行く。砂利の敷き詰められた和風の景色の小道を抜け、境内の奥へと入り進み。
近くで見た大鬼は、やっぱりチョーでかかった。
「でっか! でっか過ぎますよ、あの敵はっ……建物より大きいじゃないですかっ!」
「それはさっき聞いた。美井奈、こっそり魔法掛けてくれっ!」
「こっそりと……? 大鬼は音にも反応するのかなぁ?」
そうなると魔法を掛ける音とか、砂利を踏む音とか、色々と不利になって来るのだが。こちらに大股で近付く敵に、美井奈を始め、パーティ全員ビビリまくって慌てて物陰に隠れる。
大鬼はそのままスルー、考え過ぎは心臓に悪い。
取り敢えずは、建物の軒下は安全だと信じて、皆でダッシュを決め込む一同。大鬼がそっぽを向いている間に、掛け声と共に境内の敷地を一丸となって駆け抜ける。
見つかった気配は幸いにも無し。案内板の地図を思い出して、ドキドキしながら鬼の目を盗んで歩を進める一行だったが。木製の建物は終わりを迎え、次なる難所が視界を遮る。
今度も大鬼は、建物の間に居座っていた。大きな瞳はどこを見ているのか。
この大鬼は、動きが少なくて今の所助かっている感じだろうか。途中、こっちが近道だと瑠璃が指し示すのは、右手にある屋根付きの板張り通路。手すりが一部開いていて、確かに入り込めるようになっている。
瑠璃の言葉を信じて、雪崩れ込むようにその通路に飛び込む一同。今度は軒下でなく建物の横に張り出した通路を進む事に。しかし、ここから手すりの迷路が始まってしまう。
大鬼の視線だけかと思ったら、こちらもかなり厄介だったり。
「あれっ、思った建物に行けない……こっちは不味かったかなぁ?」
「でも、さっきの建物、軒下が左半分しか無かったですよ? 大鬼がめっちゃ近くでしたし」
「だよなぁ、モロ近くすり抜けるのはさすがに怖いぞっ。もういいや、中に入ってみるか?」
「かくれんぼなんだか、鬼ごっこなんだか……結構嫌な仕掛けよねぇ?」
とにかく思った方向に行けない一同は、思い切って建物の中に入る事に。建物の外を伝って行くと、否応なしに大鬼の視界に曝されてしまうのだ。
中も木造の和風の造りで、さらに登りが畳の造りになっていた。そして、一行を迎え撃つ鬼の群れ。わんさかと普通のサイズの、ややコミカルな顔付きの鬼が襲い掛かって来る。
顔がやたらと大きくて、髪の毛がぼさぼさ。ギョロッとした目が人目を引く。
突然の小鬼の出現に、美井奈などは大ビビリだったが。これは普通に倒せる敵だと、弾美が何とか安心させる。それでも金棒で殴りかかって来る鬼の群れは、結構な強敵だ。
久々のガチの殴り合いの感覚に、前衛は得意の武器を思う存分振るいに掛かる。敵の金棒の振り回しも然るもので、ガードのタイミングがなかなか難しい。
苦労しながらも、敵の群れを何とか一掃し終えるパーティ。
「あ~っ、ビックリですよっ。見付かって、ゲームセットかと思っちゃいました!」
「それはビックサイズだけだ……ってか、ここからどう行けばいいんだ?」
「一応魔方陣が出たけど……これは退出用じゃないよね?」
それは無いだろうと言う意見と、新たな鬼が奥からやって来たのとで、一行はその魔方陣に飛び込んでみる事に。その結果に放り出されたのもやはり室内で、ここでも戦闘が待っていた。
今度の鬼はやっぱり小柄だが、肌の色はさっきと違って青い。武器もトライデントになっていて、種類が違うのかと思っていたら。ぽろっと1匹から水の術書がドロップ。この幸運に湧き上がる一行だが、ドロップ率はすこぶる悪い感じ。
次の一団は赤鬼の群れだったが、残念ながら術書のドロップは無し。
そんな感じでワープ先の自分達の場所を窺いに、ようやく外に出られた一行なのだが。夜中の境内には間違いなさそうだが、ここがどこだか見当がつかない。
密かに地図を描いていた薫が、皆に五重の塔の位置を探すようにと頼み込む。一番目立つ建物で、境内の位置を把握する目印には持って来いなのは確かなのだけど。
大鬼がうろつき回って、こっちが先に見付かりそうで怖い怖い。
「あっ、あった……かな? 左の端っこの方ですっ」
「えっと、それじゃあ……こっちの方向に、建物2つ分進むのかな?」
薫のマメさが、こんな所で役に立った。こんな怖い場所で行き先を失って、挙句に大鬼に追い掛け回されるのは御免である。一行は真剣に、次の進み方の打ち合わせへと入る。
右手に見える大きな建物の軒下に入り込んで、左方向にスッと抜けてしまえば、本殿らしき建物の前に出る事が可能だ。ここからは大鬼との『達磨さんが転んだ』コースに戻ると言う事で、とにかく気合を入れ直すパーティ。最初の大鬼は、特に問題もなくスルーに成功。
ところが次の難所は、建物までの距離が遠過ぎて、しかも大鬼が2匹もいる。
「これは……外コースは諦めよう。ワープの法則、誰か分かるか?」
「地図でチェックしてみると、近場同士の建物のワープだと思うけど。それが確定だとは、ちょっと言えないかなぁ?」
「でも、ここを見つからずに渡り切るのはちょっと不可能っぽいから、中が正解じゃないかな?」
ここまで来て振り出しに戻るのは嫌だと、皆の本音が眼に出てしまっていたり。そんな訳で、木製の階段をそろりと登って、近くの建物の中に入る一行。
今回は、やたらとふすまが視界を遮っていた。敵は必ずいるとの前提で、一行は部屋を通り抜けようとするのだが。いきなり斬り掛かられるとさすがに驚き慌てる前衛陣。
敵の急襲は、かなり効果的だった。美井奈まで斬撃範囲に入り込まれ、そのため反撃も覚束ない。今回は赤鬼と黒鬼の混成部隊で、こいつらは腕力とスキル技の総攻撃が凄い。
一行は何とか動き回って、ふすまを逆に上手く使って敵を分散させる事に成功。美井奈がようやくフリーになると、弾美の範囲スキル技と薫のブレスでの削りが炸裂する。
瑠璃と美井奈が、弱った敵に止めを刺して行き、激しい戦闘はようやく終了。
今回は、薬品系の闇の秘酒が数個、炎の術書などのドロップも上々だ。それから今度は、移動用らしき色違いの魔方陣が2つ出現する。どっちが正解かはヒントも無く微妙な所だが。
取り敢えず移動先に近い方を使おうと、そんな呑気な意見も出たりして。どっちが近いかも判然としない上、またもや新しい敵の集団がこちらの判断をせかして来る。
こうなれば奥の手しかない。美井奈に選べと、弾美がせかす。
「えっ、ええと……じゃあ手前の青い方でっ!」
「んじゃ、奥の赤いのに入ろうか」
選択は実は大正解のようだった。静かな部屋を出てみると、見事に三面からなる宝物庫が目の前に存在していて。この離れの建物とあわせて、丁度四角形の小さな内庭を形成している。
砂利が敷き詰められた静謐な内庭には、スタート地点でこの境内の説明をしてくれたNPCが、一足先に一行を待ち構えていた。その姿は、今見てもやっぱり無気味である。
そんな不気味なNPCが、不気味な口調で宝物庫の説明をして来た。簡単に要約すると、宝箱は取れるだけ取っても良いが、後で苦労しても知らないぞとの事らしい。
全部で3部屋、順番はお好きなように。
「欲張ると、後で泣きを見るパターン……ですかね? それからお兄さん、貸し1つですよっ!」
「そうだな……取り敢えず1つ目行ってみようか」
「あれっ、美井奈ちゃんの恨み言は、さり気なく無視? えっと、左右と真ん中の部屋があるみたいだねぇ、どれを最初に廻ろうか?」
弾美は適当に、まずは右の部屋から行こうと提案する。それに応じて早速入ってみた右の部屋には、文字通りよりどりみどりの宝箱が鎮座していて。その数は何と10個、何故か箱には数字が割り振ってあったけれども。
よく見れば、宝箱の後ろに1から10の数の書いてある額が飾ってあった。そして手前には、小さな日本人形が一体。クリックしてみると、日本人形がルールを説明して来た。
どうやら簡単なクイズが出題されて、間違う度に報酬が減って行くらしいのだが。
出された10の出題は、体育の日がある月は? とか、12の最大公約数は幾つ? とか、サイコロの2の反対の面の数字は幾つ? とか、小学生でも分かるような基本的なものばかり。
プレーヤーに小学生もいるとなれば、そんなに難しい質問も出せないのだろうが。パーティのブレイン役の瑠璃にとっては、ちょっと物足りなさそうな問題ばかり。美井奈とワイワイ相談しながら、出題された質問に順次答えて行く。
宝箱の中の報酬も、最初の7つは時化たもの。水晶玉や食事アイテム、5千ギルとか薬品系の神水とか。最後の方で、やっと土龍の尻尾や光の術書などが出てきた程度だ。
それでも消耗品の補充に、瑠璃や美井奈は嬉しそう。
「わ~い、大エーテル2つも出たよっ、嬉しいな~っ♪ 美井奈ちゃんも3つも出題答えられたし、上々だねっ!」
「えへへっ、頑張りましたよっ!」
「宝箱、数はあったけど、大したものは出なかったなぁ。ってか、暗塊装備はどこだ?」
「やっぱり最後じゃないかな? 大ボスとか、まだ出てないしねぇ……」
最後には絶対に戦闘があるだろうとの、薫の穿った読みなのだが。今までの裏エリアの流れから行くと、確かにボス級の敵は何体か出て来てもおかしくは無い。
今度は反対側の、左の部屋へと進む一行。この裏エリアに入って、まだまだ30分程度しか経過していない筈である。この部屋の中にも整然と宝箱が10個置かれていたが、今回は特に難しいルールは無いようだ。
ただし、取り過ぎに注意と案内役の日本人形。
弾美が小手調べにと、取り敢えず近くの宝箱を開け放つ。その途端に、キャラのSP+20上昇を獲得したとの知らせのログ表示。調べてみると、なるほど確かにSPが上がっている。
どよめく一同、これは凄いかもと弾美はテンションを上げるのだが。
「弾美君、こう言うのは引き際が肝心なんだよ? 絶対に当たりの数は3つか、多くて4つなんだから。統計的に言って、全部開けると損する作りにしてる筈!」
「なるほどぉ、確かに……全部開けて得するなら、みんなそうしちゃいますもんねぇ?」
「そうだねぇ、薫さんの言う通りだよ、ハズミちゃん」
「じゃあ、後1個で! 当たりがあと3個だとしたら、確立は3分の1じゃんか」
それは要するに33%で、外れる確立の方が遥かに高いと、瑠璃は反論するのだが。そんな事ではゲーマー魂に反するとか、あとで宝箱の中身が気になって眠れないとか。弾美はひたすらに、我が侭全開な論理で武装して次の参加者を募る。
仕方なく、瑠璃が代表して次のチャレンジャーに。当てる気の無い覇気の無さが祟ったのか、連続して外れの宝箱を引いてしまう。HP-10はともかく、MP-10はとても痛かったのだが。
次に腕力+3を引き当てて、何とか面目を保ってみたり。
薫も美井奈も揃って不参加を表明して、これにて2つ目の部屋は終了の運びに。弾美はあまり納得していない表情だったのだが、強制も出来ないのでとうとう諦めてしまった。
ギャンブル好きの旦那は苦労すると、薫が瑠璃に同情する素振り。何故かしきりに頷く美井奈は、何事も程々が肝心だと何となく悟った口調。瑠璃はちょっと頬を染めて、もごもごと弾美を弁解しようとするのだが。
明らかに分が悪そうな弾美は、今回は敢えて反論せずにスルー。
真ん中の部屋には、色の違う宝箱が3つ。今回は案内の人形も置かれておらず、しかも全部の宝箱に鍵が掛かっていた。合鍵も通用しないそれは、明らかにボスを倒しておいでなさいとメッセージを発しているようなのだが。
敵はどこだと、部屋を出て周囲を見渡すパーティ。砂利の敷かれた内庭には、先程の和服のNPCと、2体の鬼が待ち構えていた。鬼は先程までのコミカルタイプとは、まるで違う。
プロレスラーのようながっちりした体躯と、恐ろし気な、まさに鬼の表情をしていた。
和服の人影に話し掛ける前に、一同は打ち合わせるまでも無くそれぞれ強化を掛け始める。間違いなく、アレが最後のボス級の敵だと全員が同時に気付いたようだ。
2体の鬼は、手に金棒と薙刀を持っていた。和服の人影は昔の修験者が持つような錫を手にしている。大柄な体躯の赤鬼と青鬼が、一行が近付くとゆっくりと顔を上げて行く。
和服の人影が、先手を取って呪文の詠唱に入る。弾美がそれを潰そうと動き出すのに合わせ、鬼達も盾になるべく前に出て来た。その動きは、先程までの雑魚とは迫力がまるで違う。
戦闘は始まり、まずは和服男の強化系の魔法が鬼達をパワーアップする。
「わっ、強化系唱えられるんだ、向こうの敵っ!」
「どんどん掛けられたら厄介かもな……うわっ、鬼の武器にも付与魔法が掛かってる!」
「隊長、今どっちのタゲ取ってるんですか? ってか、後ろの魔法使い、放置してて平気?」
「うっ、そう言われれば放置は怖いかも……でも、絶対鬼が邪魔して来るよねぇ」
敵の戦法が今までと違う事で、こちらの戦術もなかなか上手くまとまらない。後衛の術者を先に仕留めたいのだが、それを阻止するための2体のブロッカーが邪魔である。
その前衛を先に相手にすると、後衛の術者が遣りたい放題。ある意味、自分達がいつも取っている戦法なだけに、向こうに真似をされると無性に腹が立つとも言えるのだけど。
取り敢えず、妖精光球ガードをして、美井奈が術者を仕留める方向に。
敵の和服術者は、さらにその間にも防御系の強化を鬼達に掛けて来た。身を反らして悔しさを表現する弾美を尻目に、敵のチームワークは程々に良い感じな様子。
美井奈がそれを打ち破るべく、単独術者を削りに掛かる。いきなりの《みだれ撃ち》からの《貫通撃》に、敵の術者は美井奈をターゲットに定めたようだった。
紙吹雪を散らせたかと思ったら、矢の攻撃がガードされ始め。さらなる動きが。
「にゃっ! 向こうのボスが何か召喚してますっ、部屋にいた小鬼ですかっ!?」
「ええっ、一体何匹呼び出すのっ!? ちょっとこれは洒落にならないよっ!」
「美井奈の範囲攻撃で何とか凌いでくれっ! 近付いて来たら、俺と薫っちの範囲攻撃に巻き込んで何とかするしかないっ!」
「りょ、了解っ! 吹き飛ばしですねっ!」
敵の後衛を攻撃対象に選んで、果たして良かったのか悪かったのか。どちらにせよ、嫌がらせの支援はバンバン飛んで来ただろうし、こうなったらここは凌ぐしかないのだが。
黄色い肌の小鬼の群れは、真っ直ぐこちらに突っ込んで来る。攻撃範囲に入るなり、ハズミンの《ドラゴニックフロウ》が炸裂する。さらに追い討ちにと、カオルの《炎のブレス》が小鬼の群れを焦がしに掛かる。
小鬼達のHPは、それによっていきなり半減。そこに狙い済ましたように、美井奈の範囲矢尻の《スクリューアロー》がヒットして。小鬼の群れは、成す術も無く術者の前まで吹き飛んで行った。
闇の秘酒を使用しての止めの一撃は、美井奈の雄叫びと共に放たれる。
敵の術者もこれには慌てたようだ。紙のガードも範囲攻撃に巻き込まれて、奇麗に吹き飛んでしまった様子。これで再び、美井奈の強烈な遠隔攻撃に晒される事になってしまった敵の術者。時折、回復の合間に瑠璃の魔法攻撃も加わり、術者のHPも既に半減。
敵の反撃の口火は、いきなりの範囲魔法。土系の呪文の地震攻撃が来たと思ったら、続いて炎系の呪文の爆裂魔法がパーティに降り注ぐ。呼応するように、鬼達も口から毒霧を吐き出し、皆が悲鳴をあげつつ非難轟々。
さらに術者の、蜘蛛の糸での動きの封じ込め攻撃が始まると。回復に徹していた瑠璃も、黙って見てはいられない。減ったMPを遣り繰りしての《エンジェルリング》の使用は、戦場に思わぬ効果をもたらした。
使った本人もビックリ、弱体系の魔法の除去と共に、敵が怯む気配を見せ始める。
「ぬおっ、鬼達が怯んでるっ……攻撃の間隔が鈍くなって来てるな!」
「あっ、本当だ! 金縛りも解けたし、反撃のチャンスだよっ!」
「だなっ……もう一回、範囲攻撃に巻き込んで弱らせてやるっ!」
後衛からの好き勝手な翻弄に、いい加減頭に来ていた弾美。薫も青鬼を引き連れて、術者に接近しつつスキル技を撃ち込む。さらに追い討ちの弾美の範囲技に、術者もきっちり巻き込まれ。
止めとばかりに美井奈の《貫通撃》で、敵の後衛術者がようやく倒される運びに。パーティの歓喜の叫び声の中、気付けば鬼達のHPも残り6割近く。今度は薫の受け持つ青鬼からだと、取り決めたのは良いのだが。
倒した筈の術者の身体が、ムクリと起き上がって一同を驚かせる。
「わわっ、ボス術者が生き返ったよっ!?」
「あれっ……いえ、どうやら中身無いですねぇ。着物だけが浮いてるみたいですけど?」
「何だそりゃ、そんなの構ってられるかっ。何かして来たら対応してくれ、瑠璃っ!」
青鬼の攻略に必死な削り組は、とにかく敵の前衛の一角を倒してしまいたくて仕方が無い。HPが半分を切ると、鬼の攻撃に範囲技や毒霧攻撃が混じりだして、厄介極まりない。
幸い、まだまだ瑠璃の天使の領域が生きているので、鬼の動作は緩慢なのだけれど。肝心のその術の掛かっている時間も、それ程長くないのは体感で皆が知っている事実。
何とか力を入れての追い込みが効を奏し、青鬼も続いて地に伏して行く。
それとほぼ同時に、瑠璃の天使魔法も時間切れを迎えてしまった。それでも残る敵はあと1体だからと、パーティ内では既に余裕のムードが漂っていたのだが。
術者の置き土産の仕掛けを、ついうっかり忘れていた一同。その結果、上着の一番近くで警戒に当たっていた瑠璃が、何と身体を乗っ取られてしまうと言う事態に。
着たくもない着物を着せられ、ルリルリは操縦不能の我が侭放題。
「わ~~っ、ゴメンみんな! 天使魔法解けた途端に、着物にキャラ操作を取られちゃった!」
「ええっ、白ガスみたいなアレですかっ! それって、どうやれば解けるんですかっ?」
「むっ、どうだろう……わっ、こっちに来るなっ、瑠璃っ!」
冷たく言われた瑠璃は途方に暮れるのみだが、ルリルリはとっても積極的。操られた勢いで、ハズミンをガシガシと殴り始める。貯まった恨みでもあるのかと、憤慨する弾美だったが。
薫の《炎のブレス》の試し撃ちで、着物にもHPがある事が判明した。
敵に回った瑠璃にも、ダメージは及んでしまったのだけど。後ろから攻撃すれば、着物だけにダメージを与えられる事が分かってから、薫と美井奈がタゲの取り合い。
弾美の《グラビティ》で動きの遅くなったルリルリは、タゲを翻弄されてあっちを向いたりこっちに移動したり。そんな事をしている間に、ようやく憑き物が落ちてくれたよう。
操作を取り戻した瑠璃も、回復役を取り戻したパーティも安堵のため息。
ここから一行は怒涛の寄り切り。最後まで残った赤鬼を叩き斬って、全員で元気にハイタッチで締める。苦しい戦闘を切り抜けただけあって、ドロップも上々で嬉しさもひとしおな感じだ。
炎と水の術書の他にも、楽しげな装備が幾つか。術者からは、陰陽ピアスと朱色の袴が、鬼達からは鬼の面や鬼の金棒など。それに加えて、お待ちかねの宝箱の鍵が3つ。
とって返して、念願の正面の宝物庫の小部屋に戻ったパーティ。宝箱からは、お待ち兼ねの暗塊の鎧をゲット。その他にも、性能の良さ気な片手剣と謎の鏡アイテムが出て来た。
4つのレア装備のコンプリートに、一行は再び盛り上がってのハイタッチ。
その後内庭に出現した魔方陣に飛び込んで、全員でエリア脱出の運び。ボス戦で操られた瑠璃が、めでたくレベル30へとアップした。パーティでは、これで30超えは2人目である。
この裏エリアで掛かった総時間は、だいたい45分くらいだったろうか。何より、かなりの数の術書が補充出来た事に、瑠璃を始めパーティもホクホク顔だったり。
ちなみに入手装備はこんな感じ。
――陰陽ピアス 精神力+5、知力+5、MP+15、防+6
――朱色の袴 ポケット+2、精神力+5、MP+20、防御+12
――鬼の面 知力+5、SP+15%、HP+20、防+4
――破邪の剣 攻撃力+21、HP+20、耐呪い効果《耐久15/15》
――暗塊の鎧 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+25
「昨日行った裏エリアでは薬品が補充出来たけど、ここは術書が凄かったねぇ」
「んじゃ、それも含めて今から割り振りしようか」
「写し身の鏡って、アイテムをコピー出来るんだって……どういう感じに使えばいいのかな?」
「そりゃ、強い装備とか……呼び鈴とかでもいいのかな?」
「確かに勿体無いから、呼び鈴はよっぽどの危機じゃないと使わないもんねぇ」
珍しいアイテムの入手に、パーティのテンションも上がり気味。薫はひっそりと、両脚装備を迅速装備から袴に変更するか悩み中。防御は上がるのだが、せっかくのセットが崩れてしまう。
別にセットを崩したペナルティも無いようなので、変えてみればとの弾美の軽い言葉。それによってMPも上がるし、ブレスの使用回数も上がるのもパーティには有り難い恩恵である。
何しろ、段々と範囲攻撃でなければ切り抜けられないピンチも多くなって来た。
中立エリアにキャラを移動させた一行は、完全にお気楽ムードに浸っていた。和気藹々とお喋りしながら、アイテムの分配や使用に興じている。今日は時間を夜に残す算段で、つまりは夜まではもうする事もない。落ちる前に、ハズミンの新装備のお披露目など。
暗塊装備の鎧は、暗色系のダークな感じで、格好いいと評判のよう。弾美も気に入ったのだけど、苦労して取った龍鱗装備にも、何となく思い入れがあって寂しい気もする。
何より、裏エリアは全て制覇してしまった。その事もやっばり、少し寂く思ってしまう。
術書や装備の配分を、瑠璃が真面目な顔付きで行っている。各々新魔法こそ覚えなかったが、それによって今覚えている魔法の威力の強化にはなるのでオッケー。
そんな合間に、今日も上手くクリア出来て良かったとか、夜は何時に待ち合わせしようかなどの雑談を交わすメンバー達。渡された術書を早速使って、キャラの強化も忘れない。
そろそろ、おいとまする時間も迫って来た。薫が今日も、美井奈を送って行くと申し出る。
「有り難うございます。お母ちゃまが最近、仕事が忙しくて帰宅が遅いんですよっ。家に戻っても一人だし、帰り道も寂しいですからね~」
「あ~っ、その気持ち分かるなぁ。私も家に人がいないのは嫌いだなぁ」
瑠璃がそう答えるのだが、薫などは既に一人暮らしが長いせいか、その感覚もよく分からなくなっている。それでも年少の美井奈に頼られている感があって、悪い気はしないのだが。
階段を降りて、弾美の母親の律子さんとおいとまの挨拶を交わす女性陣。お邪魔しましたの言葉に対して、夕ご飯食べて行けばとの弾美の母の大らかな答え。
薫などは惹かれるものがあったが、丁寧に断って帰路につく事に。
「それじゃ、また今夜ねっ。美井奈ちゃん、行こうかっ」
「はいっ、お兄さんっとお姉ちゃまっ、また今夜っ!」
元気良く手を振って別れを告げる少女に、弾美と瑠璃も和やかな表情で手を振り返す。最近見慣れたサイクルに、ほのぼのと玄関先で感慨に耽る二人。
小さくなっていく美井奈と薫の後ろ姿は、手を繋ぎあって実に仲も良さそう。
「二人とも結局、仲良くなって良かったねぇ、ハズミちゃん」
「心配する事無いって、俺が言っただろ。二人共、喧嘩出来るような性格じゃないもんな」
「本当だねぇ……何だかちょっと、奇跡的なメンバーだって思えるよ」
弾美も全く同じ思い。胸の内を見られた思いで、弾美は驚いて隣に立つ幼馴染の横顔を覗う。瑠璃はそんな弾美に微笑んで、ただ瞳のシグナルを送って来るのみ。
――奇跡はこれからも起こるのだ、シグナルはそんな風にも読み取れた。