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♯18 秘密の花園

 早朝の散歩タイムでは、いつにも増して走り込みを行っていた弾美。昨日の練習試合での敗戦が、どうにもショックだったのは瑠璃にも理解出来るのだけれど。

 とても同じペースでは走れないと、付き合う身の上としては厳しい状況。マロンとコロンの兄弟犬は、二人のちぐはぐなペース配分にちょっと混乱している模様。

 薫は今日は顔を見せていない。準備に忙しいのか、寝坊したのか。


 日曜日の朝なので、瑠璃としても寝坊したかった気もする。夜遅くまで小説を読んで、お気楽な時間を過ごしたかった。今は散歩を終え、コロンに朝ご飯を出して家の扉を潜った所。

 朝からヘトヘトなのだが、8時40分には再び出掛ける予定が待っている。


 両親に限っては、今日も出勤のようだ。最近は月に5日も休みが取れたら良い方だと、母親が愚痴をこぼしていた。風邪で休んだ事が、受け持ちのプロジェクトに幾分響いているらしい。

 一緒に朝食を取りながら、そんな話を聞かされている瑠璃だったけれど。今日の予定で、瑠璃が大学の見学に行くと口にすると、母親の恭子さんは興味津々。

 娘はいなくなると不便だから、やっぱり大学は近場が良いと少々勝手な物言いなのだが。


「今年は忙しくて、臨時講師もやってないわねぇ……若い人に教えるのも、なかなか面白いんだけど。瑠璃が生徒で通うようになったら、意地でも教えに行ってあげるわよ」

「そんなの、まだまだ先の話だよ。大学院の生徒さんに知り合いがいて、ハズミちゃんと遊びに行くついでに敷地内を見て回ろうかなって」

「へええっ……確かに大学の施設は、義務教育の中学校なんかとは段違いだけどねぇ。その学生さんの学部は何?」


 そんな話から、話はいつの間にか両親のキャンパス時代の出会いに移行していた。照れながら話す恭子さんに、父親がもう仕事に出掛ける時間だとはぐらかして来るのだが。

 やっぱり父親も照れた様子で、瑠璃はちょっと笑ってしまった。


 両親が仕事へと出掛けてしまうと、家の中は途端に静まり返ってしまう。こう言う静けさがあまり好きではない瑠璃は、読み掛けの本を片手に家の中をうろつき回る。

 最終的にベランダを開け放って、コロンと戯れながら時間を潰す事に。外の空気に触れながら、読み掛けの本を寝転がって読み進めてみたり。日曜の市街地は、静かで庭先にいても気にならない程。

 ふと気が付いたら、弾美が迎えに来てくれていた。


「何やってんだ、瑠璃。コロンが変な動きしてると思ったら、庭に通されたぞ」

「あっ、ハズミちゃん……もう出掛ける時間? 仕度して来るね」


 慌てた感じで、瑠璃が家の中へと引っ込んで行く。コロンと一緒に庭に残された弾美は、暇潰しに犬の毛並みチェック。春先の毛の生え変わりは、お庭犬でも注意が必要。

 やんちゃなコロンも、弾美の前では何故かネコを被って大人しい。いつしかブラッシングにも熱が入って、コロンもどこか気持ち良さげではある。完全に身体を預け、リラックスムード。

 そんな事をしていると、瑠璃の用意が整ったよう。


「お待たせっ……あ~っ、コロン奇麗になったねぇ! 私がブラシ持ってても、全然じっとしてくれないんだから」

「お前は犬達に嘗められてるんだよ、散歩の時とか自由にさせ過ぎてるから。びしっとリーダーシップ取らないと、どっちが飼い主か分からなくなるぞ」

「そうだねぇ……もう遅い気もするけど」


 そんな話をしながらも、二人は予備モニターを抱えて集合場所へと歩き出す。そんなに重くは無いのだが、かさばる事は確か。傷つくと大変なので、持ち運びも慎重になる。

 学区地区は休みの日の午前中だけあって、人通りもほとんど無く閑散としていた。大学区に行くには中学校の敷地よりも、もう少しだけ坂を上る感じで歩かなければならない。

 弾美も瑠璃も、ほとんどここら辺は訪れた事が無いのだけれど。


 何しろお店や飲食店の類いは、全部大学とは逆方向に集まっているのだ。道はなだらかな坂となっていて、ちょっとした高台にキャンパスは存在している。

 高低差の余り感じられない大井藍蒼空町なのだが、町の東側には高台が存在する。大学の敷地のほとんどがそこに存在していて、薫の暮らしている女子寮もそうらしい。

 今日の待ち合わせ場所は、大学の正門前となっているのだけれど。辿り着いてみると、薫と美井奈が並んで二人を待っていたよう。こちらに気付いて、大きく手を振って来る。

 予定通り、午前9時に約束の場所で全員合流。

 

「おはよう~っ、二人共っ! あのぅ……やっぱり部屋の整頓が間に合わなくて。今から弾美君の所に、場所の変更出来ないかなっ?」

「何だよ、薫っち。今日はお昼を大学の学食で食べるって決めてるんだから……今更変更は利かないからなっ!」

「意地悪言わないのっ、ハズミちゃんっ。薫さん、時間あるんだし、ゲーム始める前に掃除手伝いましょうか?」

「は~っ、女の人でも一人暮らししてたら、人を寄せ付けれない程に汚い住まいになるんですか」


 美井奈の言葉に、そこまで酷くは無いと薫は弱々しく抗議して来る。ただ少しだけ、四人の入る余地を作るのに片付けが間に合わなかったのだと弁解。長年の研究資料などの、多大な荷物が邪魔をしているらしいのだが。

 弾美の指示で、美井奈が薫の背を押して女子寮へと歩を進め始める。休日のキャンパスとは言え、人気は少しはあるようだ。休みの日も、学食など開いている施設もあるのだから当然とも言えるかも知れないが。

 瑠璃は物珍しそうに、そんな風景をキョロキョロ見回してみたり。


 美井奈はマンションからの近道で、よくここの敷地を無断で抜けさせて貰っているようだ。背を押されている薫が、気を取り直して点在する建物の説明を一行に始める。

 総合学部を誇る大学内は、それなりに校舎の数も多いようだが。何故か大講堂とか体育館に相当する建物が見当たらない。すぐ近くに公共の総合会館があるので、入学式とか卒業式関係はそちらを使わせて貰って不便は無いらしい。

 体育館も同じ事で、近くに運動公園すらも存在するので体育の授業に全く不便はナシ。お陰で広々とした敷地には、緑豊かで落ち着いた雰囲気が感じられる。

 そんなお洒落で落ち着いたキャンパスを、一行は歩いて行く。


「わ~っ、何だか面白いねぇ……ゲームの冒険で、見知らぬフィールドに入った時みたいじゃない、ハズミちゃん?」

「確かにそうだなぁ……むっ、チビッ子モンスター発見!」

「何ですかっ、お兄さんっ……きゃ~っ、私はモンスターとは違いますよっ!」


 美井奈が後ろから弾美に抱え上げられ、きゃいきゃいと楽しげに声を上げる。ぐるぐると回転が加わると、美井奈は実に楽しそうにアンコールの雨嵐。

 3度目のアンコールで、遂に弾美もダウン。大学のキャンパスで一体何をやっているのだと、瑠璃と薫は呆れ顔。それでも楽しそうな美井奈を見て、ほのぼの感は上昇中。

 そんな事をしている内に、校舎の奥に温室と登り階段が見えて来た。


「ほらっ、あれが私達の管理してる温室と花壇だよっ。色々と珍しい植物も育ててるの。だから本当はここら辺は、関係者以外は立ち入り禁止なんだけど」

「ああっ、薬学部で危ない植物とか育ててるってアレな? 何でか知らないけど、そういう噂が中学まで流れて来てたりするのはなんでかなぁ?」

「その噂は小学校にも流れてますよっ! 大学生が、口に出せないようなハイな薬草を栽培して、それを使って夜な夜なパーティをしているとかっ! 本当なんですか、薫さんっ!?」


 薫がやや疲れたような顔で、そんな噂が自分の学部にあるのかと驚いた感じ。案外、自分達の事を外野がどんな風に捉えているかなど、本人からは見えないものらしい。

 美井奈が温室に張り付いて、中の様子を覗い始める。瑠璃も興味が湧いたのか、少女の隣から同じ動作。分かったのは、良く分からない植物ばかりという事だけ。

 毎日の管理は、薬学部の寮生が行っているらしいのだが。


 そんな寮の建物は、すぐそこの階段を上がった場所に建っていた。割と奇麗な外観で、3階建てで収容人数も多そうな感じ。今は町の外周近辺にもコーポやアパートが増えたので、規則のうるさい寮は敬遠されがちらしいのだが。

 長年住み慣れた薫などは、既に5年越しを記録していて寮の主扱いだったり。家賃も安いし大学の敷地内なので、門限などの規則を抜きにすれば割と快適なのだ。

 そんな説明を皆にしながら、薫は一同を入り口に案内する。


 女子寮の周囲にも、緑や花壇が豊富なのが目立つ。ハーブが多いようなのだが、弾美でも聞いた事のある名前が幾つかあった。ただし、名前と見た目が一致しないのがほとんど。

 これはパスタとかに入れたり出来るとか、これはレモンの香りがするとか、薫はいったん話し出すときりが無い感じ。さすがに育てている者の話は軽快で、知識量が違うのだが。

 早く中に入れろと、容赦の無い弾美の言葉。


「何を必死に時間伸ばしてるんだよっ、薫っち。さっさと中に入らないと、午前中にゲーム終わららなくて予定が狂うじゃんかっ!」

「うっ……じゃ、じゃあどうぞ中へ……靴をそこでスリッパに替えて頂戴。靴箱はそこだから」

「わ~っ、中は結構古風な作りなんですねぇ、薫さん」


 スリッパに履き替えた一同は、薫に続いて寮の中へと入って行く。管理人室らしき場所には、人影は無し。話によると、今は最古参の薫が兼任しているらしい。

 なかなかの薫の権力者振りに、弾美もテンションが上がって行く。しかし、2階の奥の一室に通された一同は、その中の有り様を見て言葉を失うしかなく。

 とにかく荷物が多くて、とても四人が入れる空間は無さそう。


「こ、これは……想像以上に凄い部屋だなぁ」

「うわぁ……2段ベットの上まで、荷物が溢れてますけど。一体どこに寝てるんですか?」

「そこの隅に、布団を敷いて……一応、邪魔な物はゼミ室に持って行ったり、押入れにしまったりと努力はしたんだけど。なにぶん荷物が多過ぎて」

「資料とかクリップとか、ファイル関係が多いですねぇ……これはいくら整頓しても、スペースを減らしようが無さそうな?」


 弾美が部屋に入って、テレビの周辺を一人チェック。それからその前に置かれている荷物の山を、手でポンポンと叩いてみる。窓際に置かれている棚の前も、荷物を置く余地は無し。

 2段ベットの上も下も、机の上も下も、同じようにファイルや本が山を作っている。これは大事なものなのかと問いに、薫は大真面目にモチロンだと答えて来る。

 捨てれる物ならば、とっくにそうしている。


「それじゃあ仕方ないな、一時だけ廊下に置かせて貰おう。それ位なら、怒られる事もないだろ? 瑠璃、ついでにちょっと掃除しておこう」

「ほいほい~っ、じゃあハズミちゃん荷物運びお願い。薫さん、掃除道具ありますか?」


 手際の良い少年少女の働き振りで、あっという間に6畳の部屋に床が出現して行く事に。美井奈も元気にお手伝い。弾美の後について、本の山を廊下にきちんと並べて行く。

 部屋の中にある程度の空間が出来たら、今度は中の整頓に走る一同。ここでも指揮権は瑠璃が握っており、部屋主の薫は何だか身が縮む思いだったり。

 部屋が小さ過ぎて、弾美は入り口で待機モード。幼馴染の働き振りを、扉の向こうから眺めていたのだが。美井奈が資料の間から取り出した布を広げるのを見て、思わず吹き出してしまった。

 何と言うか……女性用の下着にしか見えなかったので。


「美井奈……そういうのは、そっと持ち主に渡してやれ。いや、広げて見せなくてもいいから」

「えっ、何? ……きゃあっ、美井奈ちゃんっ! お願い、返して~っ!」


 恐らく部屋干しか何かしていて、資料の間に落としてしまって行方不明になったモノなのだろうか。薫は顔を真っ赤にして、自分の下着を必死に取り戻す。

 当の美井奈はしれっとした感じで、他に面白いものが無いかと探す素振り。


「もっと派手なパンティ落ちてないですかねぇ……お姉ちゃまの方が、可愛いのいっぱい持ってましたよっ。この前お邪魔した時、ちょっと拝見したんですけど」

「み、美井奈ちゃん……そう言うのは口にしちゃ駄目だよ」


 ちょっと赤くなりながらも、瑠璃と薫が少女の言動に厳重注意を行う。同時に薫に対しても、もう少し部屋の管理をちゃんとしてと、瑠璃にしては厳しいお言葉。

 言い返す言葉もなくうなだれる年長者の姿は、ちょっと哀れな気が。


 ようやく何とか片付いた空間に、瑠璃は満足げな表情なのだが。弾美が持って来た予備モニターを接続して行くと、あっという間にその空間も手狭に感じられてしまう破目に。

 時間は既に10時に近い。それでも一行は、満足げにゲームを繋ぎ始める。





 ようやく部屋の中での位置取りも決まって、肩を寄せ合うようにしてのログイン作業。いつもと勝手が違うのは仕方がないが、ちょっと狭いと美井奈あたりが文句を言って来る。

 その狭い部屋に、4つものモニターが並んでいる光景は、ちょっと異様かも。


「狭いのは仕方がないな、取り敢えず2時間だけ我慢しろ、美井奈」

「そうですねぇ、でもキャラ操作が上手くいかなくっても、今日は仕方が無いって事で!」

「そうだねぇ、ちょっと画面も見にくい……」

「ご、ごめんねみんな……もうちょっと、荷物を整頓しておけば良かったかな?」


 メンバー全員に責められている気がして、何となく恐縮してしまう薫。それでも、各々のキャラがイベント画面に降り立つと、感情移入でそんな事も忘れ去ってしまう。

 今日はどうするのとか、買い物をしなきゃとか、各々のキャラは自在にエリアを走り回り。突入前のあれこれを、各自分担してこなして行く。地上の中立エリアは、朝から割と混み合っている様。

 闇市で買い物をしていた瑠璃は、自分の荷物を見て昨日のクエを思い出す。


「あれっ、薬品いっぱいあると思ったら、昨日結構補充出来たんだっけ? クエストアイテムも、カバンに入ってるや。先に交換しておいた方がいいねぇ」

「そう言えばそうだった。クエ大臣、しゃきっとしてくれよ!」

「はっ、はいっ……何か自分の部屋なのに緊張しちゃって……」


 どういう心境なのか、言葉通りに何故か緊張気味な薫だったり。それでも、皆を引き連れて中立エリア内を巡回。昨日の太陽の鍵エリアでこなしたクエストの報告へと回って行く。

 お馴染みの情報ノートを取り出して、報酬をNPCから受け取る一同。虫退治クエではドロップ品を渡すと5千ギル貰えて、根っこクエでは3千ギルと、初っ端からなかなか好調。

 レアアイテム屋依頼の薬用の水汲みクエでは、闇の秘酒をお礼に貰え、さらに以降買える様になったとの報告が。1個1千ギルもするのだが、アタッカーには是非欲しい所。

 弾美がそう言うと、美井奈は苦しい家計から予備を幾つか購入。


 次のクエストクリアの報酬には、皆がいきなりテンションアップ。鍛冶屋の素材取りクエのお礼は、何と好きな部位の装備を、1つだけ良物に打ち直してくれるらしい。

 レア装備はさすがに駄目らしいが、その他の装備なら防御や何やらの性能が上がる筈と言われ。途端にそわそわと、自分の装備をチェックし始める面々。

 

 呪いの解除された装備とかも駄目らしいと、パーティでの試行錯誤があれこれと行き交う中。最初に決めたのは薫で、首装備の懐中時計を打ち直して貰うと宣言する。

 両手武器使いにとって、攻撃速度UPはとても有り難いのだが。防御力の低さが、本人は気になっていたらしく。早速戻って来た改装備は、SPも増えて予想以上の出来栄え。

 その報告を聞いて、他の面々もようやく打ち直し部位を決定した模様。それぞれ戻って来た改装備を、お互い比べ合って色々と批評しあってみたり。

 ――魔人の下衣改 攻撃力+5、体力+3、腕力+3、防+15

 ――プラチナの指輪改 腕力+4、HP+20、攻撃速度UP、防+8

 ――複合素材のベルト改 ポケット+4、器用度+5、MP+13、防+11

 ――進みがちな懐中時計改 SP+15%、攻撃速度UP、防+8


「むっ……ほとんどの数値が上昇してるなぁ、結構いいかも。1回限りなのが残念だな」

「そうですねぇ、私の改装備なんて、MPが+5も上がってますよっ。お姉ちゃまっ、良ければお姉ちゃまのベルトと交換しますよっ!」

「えっ、いいの? ありがと~、美井奈ちゃん」


 相変わらず仲の良い二人の、装備交換など挟みつつ。ルリルリの各数値は、冒険前から結構な上昇振り。それをえこ贔屓だとは、メンバーの中では誰も思わない。

 何しろ瑠璃のMPは、パーティの生命線と言っても過言ではない。パーティのために踏ん張り、そして回復を飛ばすキャラを優遇するのは、当然といわんばかりの一同である。

 これで全部のクエストは片付いたと、薫はクエ一覧リストを見直すのだが。何故だか1つだけ、後から書き足された文字を発見してしまい。妖精の依頼というクエストに、薫は不審顔。

 弾美が自分が受けたクエだと言うと、なる程そう言えばと一同思い出した表情。


「クエストエリア内で、クエを受けるってパターン、珍しいわねぇ」

「合成屋に話を聞きに行くんだっけ。じゃあ、これも進めておいていいかな? あっ、あと苔の生えたレンガって、これもクエアイテムじゃなかったっけ?」

「あ~、そうだった! えっと……こっちかな? うんうん、このNPCだった筈っ!」


 またもや皆で、ぞろぞろと中立エリアを横断しにかかる一同。目的のキャラにレンガをトレードすると、報酬に3千5百ギルと、さらにもっとあれば頼むと言われた。

 苔レンガの連続クエは、まだまだ続くらしい。


 妖精のクエはと言えば、合成屋さんに相談した所、水の水晶玉と3千ギル分の材料費で事足りるらしい。幸い水の水晶玉はカバンの中に入っていたので大助かり。

 って言うか、カバンの中にじゃらじゃら存在している水晶玉。研究所の畑から失敬した、実りの一部なのは言うまでもない。それをお金と一緒にトレードすると、案外と呆気なく『水性爆弾』というアイテムが入手出来た。

 これでクエの取っ掛かりが出来たと、瑠璃と美井奈が喜んで報告して来る。しかし、今日の予定ではイベントエリアの攻略がメインだと、弾美に釘を刺されてしまって。

 遣り残しがあちこちに結構あると、瑠璃はちょっと心配模様。


 それでも、イベントを進めないといけないのは公然たる事実ではある。昨日の落ちる間際に進に聞いた、次の層への進出者が出たと言う話は、さすがに一同に驚きと焦燥を与えた。

 何しろ、弾美達はまだ1つもクリアしていないのだ。この差は歴然。


「今日のイベントエリアの初挑戦はいいとして……遺跡エリアの葉っぱの取り残しはどうするの、弾美君?」

「ん~、先に取っておいた方がいいかな? 条件には無いけど、その方が良さそうだなぁ」

「そうだねぇ……あっ、ゴメン。もうちょっと時間ちょうだい、呪いの人形とか呪いの兜の料金チェックだけして来るね」

「そう言えば、そんなものを昨日入手したなぁ。んじゃ、それが終わったら遺跡エリア入るぞ~」


 了解との声が部屋に木霊して、瑠璃だけが一人教会に走る事に。ついでに聖水も買っておこうと、瑠璃は心の中で所持金とポケットの遣り繰り計算を繰り広げていたのだが。

 呪いの解除に掛かる値段を聞いた途端、そんな心の余裕は吹っ飛んでしまった。兜の方は1万ギルと通常料金だったが、人形の方は何と5万ギルと信じられない値段設定。憤慨しつつも教会を後にしたルリルリだったけど。

 そのせいで、聖水を買う計画も虚空の彼方へぶっ飛んでいたりして。


「5万ギルって、信じられないっ! とっても払えませんっ!」

「瑠璃ちゃんがそんな怒ってるのも珍しいけど……こうなったらもう、妖精頼みしかないのかな?」

「んむぅ……値段からすると、かなりの性能が予想されるんだけどなぁ。確か、妖精には3日後に来いって言われてたんだっけ?」

「3日後に、またトレード可能って話じゃなかったですか? 確か、この前行ったのが……えぇと、金曜日だったですかねぇ?」


 確かに金曜日の夜だったと、皆の記憶から正確な答えが導き出され。丸々3日縛りだとすると、次にトレード可能なのは月曜日の夜10時くらいになる筈で。

 明日の月曜日は、合同インの出来る日なので、基本夕方の攻略になってしまう。どちらにしても、今日幾ら気を揉んでも無駄な事には違いないと、瑠璃は気持ちを切り替える算段のよう。

 皆に合流して、準備オーケーのサインを出す。



 2度目のインとなる、不完全なマップの遺跡エリア。このマップ内で思い出深いのは、何と言っても偶然入手した宝の地図と、その番人のドラゴンとの熱き熾烈な戦いなのだが。

 そのせいで思いっきり時間が足りなくなってしまい、肝心の葉っぱ取りがお預けとなってしまったのが前回の顛末。取り直しに向かう弾美は、何となく二度手間に思えて不服顔。

 さっさと済ませて、次のエリアへ向かう気満々のよう。


 エリアに入った一行は、有無を言わさずひたすら北の方角を目指す。他の場所は、何しろ前回攻略済みなのだ。枝道が無いかだけチェックしながら、変化があるまで真っ直ぐの歩み。

 薫が時々、マップを開いて現在地の確認作業。景色は相変わらずの、古びた遺跡が延々と続いている。完全に更地になった遺跡の跡地も多く、敵の姿がちらほらと存在するのだが。

 弾美の口から出るのは、放っておけとの冷めた言葉。


「まぁ、こんな取りこぼしの後始末に、時間を掛けたくないのは分かるけどさぁ。もうちょっとテンション上げて行こうよ、弾美君?」

「そうですよ、隊長! いつもみたいに、野生の赴くままにですよっ!」

「え~っ、美井奈ちゃんは、ハズミちゃんをそんな感じに捕らえてるんだ?」


 ちょっと面白そうに、瑠璃が少女に尋ねるてみるのだが。美井奈は小首を傾げて、じゃあお姉ちゃまはどんな風に捕らえてるのかと逆に問うて来る。改めてそんな事を聞かれた瑠璃は、かなり困った様に唇を窄めて考え込む素振り。

 薫から見れば、弾美は元気な割には大人びた所があって、信頼のおけるリーダー格に見受けられるのだけれど。瑠璃の感想は、どうやらそれとは全くの逆であるようだ。

 説明に困っている感じではあるが、ようやく口にしたのは。


「あったかい、日溜りみたいな存在かなぁ? だからみんなが、近くに寄って来るんだよ?」

「それは自分が能天気だって事の証言だろう?」


 弾美が辛辣にやり返すのだが、瑠璃は全く気にしていない様だ。弾美の隣でニコニコしながら、呑気にその通りかもと言って来る。美井奈は不思議そうに、二人の様子を窺うのだが。

 自分の両親よりも、よっぽど仲が良くて結構だとの印象が浮かんで来るのみ。


 画面の中ではようやく、突き当りの終点が見えて来たようだ。キャラが辿り着いた地点には、こんもりとした雑木林に隠れるように建つ崩れかけた建物群。それがいきなり振動を始め、大きな破片が上から降って来る。

 何事かと身構える一行に、その強制動画は不意討ちを与えて来る。呑気な雰囲気は消え去って、強化魔法を掛け始めようとするものの。何時の間にかの、続いての強制イベントに。

 もう1つ最初に入った遺跡エリアでは、魔女との不意の遭遇が記憶に新しいのだが。どうやら今回も、そんなサプライズらしい。遺跡の一つから人影が現れたかと思うと、先ほどの振動が再度巻き起こる。

 崩落する建物の壁、陥没を始める大地。またかとの思いの一行。


 今回のお助けキャラも、やはり天からやって来た。宙を見上げる魔女は、忌々しげに転移の魔法で逃げに掛かる。天使は追尾に忙しいらしく、こっちはまるで見ていない様。

 後に残されたのは、陥没からの落下被害に逢ったパーティ一同。


「……前もこんな目に遭ったよなぁ、俺達」

「前回の遺跡エリアの事かな、それとも昨日のモグラの時の事かな?」

「あっ、今回はちゃんと通路があるみたいだよ、ハズミちゃん!」

「上には登れそうも無いですし、お姉ちゃまの言った道を進むしかない……んですかね?」


 道と言うよりも薄暗い地下通路なのだが、確かにそこを進むしか手段は無いようだ。ハズミンを先頭に隊列を組んで、一行は暗く不気味な通路を進み始めてみる事に。

 途中、通路に出てくるウォームは凶暴でなかなかの邪魔具合。いきなり地面から飛び出して、強烈な酸を吐いて来る。数は多くないのだが、不意討ちは心臓に悪い事この上ない。

 そんな敵を片付けながら進んで行くと、次第にちゃんとした石畳の通路が出現して来た。さらに敵はコウモリや地虫に変化して行き、とにかく邪魔だとやっつけながら進む一行。

 道はあっているのかと、行き先を危ぶむ声も聞こえて来るけど。一本道なので迷い様も無い。


 最後には突き当たりの扉にぶち当たって、門番のゴーレムが待ち受けていた。そこそこの硬さと強さを誇る敵だったが、今更ゴーレム1匹にてこずるパーティでもない。

 ものの数分で撃破して、門番ゴーレムから扉の鍵をゲット。その鍵を使って部屋に入り込むと、地下の部屋は屋根が抜け落ちて、半ば崩壊状態という有り様だった。

 どうやらそこは、以前は隠し部屋だったらしい。部屋の中では、手前の本棚と抜け落ちた天井下の光る物体――目的の木の葉がクリック出来る様子。その他には、普通の宝箱が3つほど壁際に置いてある。

 何かの秘密の実験室のようだが、今はかろうじて面影が窺えるのみ。


「わっ、本棚からフリーエリアとクエストエリアの地図が見付かったけど……持ち出すにはボロボロ過ぎて不可能だって!」

「薫っちに、簡単に書き写して貰うか……ってか、今更分かっても半分は無駄になってる気が」

「そうだね~、ここは先に来た方が良かったみたいだけど……取り敢えず、後半必要になるかもだし、怪しい場所が無いかだけチェックしておくね」


 薫が地図のチェックに従事している間、弾美は宝箱を開けたり青色の木の葉を回収したり。宝箱からは、転移の棒切れが4本、風の水晶玉、神水が1個出て来た。

 さあこれで帰れると、一息付いた弾美だったけれど。急に壁の一部が動き出したのにはビックリ仰天。瑠璃と美井奈があれこれと本棚をチェックしていたのだが、その拍子に隠し部屋のスイッチを作動させてしまったらしい。

 喜び勇んで一行が中を覗いてみると、設置されていたのは鍵付きの宝箱が2つ。瑠璃が合鍵を使って開錠すると、中からは金のメダルと剣術指南書が出て来て何ともラッキー♪

 見逃さないで良かったと、皆からは安堵の笑顔。


 結局、皆が木の葉をゲットして、転移の棒切れで脱出するまでの時間は20分程度。これでパーティでの木の葉収集達成率は8枚のノルマに対して、ようやくの3枚目である。

 休日だけに、まだまだのんびりムードの一行。ホストの薫が、何か飲み物出そうかと皆に訊いて来る。瑠璃以外は欲しいと答え、冷蔵庫からジュースを取り出す部屋の主だったり。

 持ち上がるのは、次はどこに行くかの論議。


「お兄さん、イベントエリアって、どの位の時間が掛かるんですか?」

「さあ……今までのエリア構成からみて、1時間は掛からないと思うけどなぁ」

「私が友達から聞いた情報だと、部屋ごとにタイムリミットがあるらしいよ? アスレチック系に近いノリと、あとはラスボスがちょっと手強いって話だったけど」

「そうなんだぁ……アスレチック系かぁ、私はちょっと苦手だなぁ」


 瑠璃の言葉に私もですと、激しく同意する美井奈だったが。取り敢えず時間の余裕のあるうちに行こうかとの弾美の問いに、渋々と頷く年少組の少女達。

 ほとんど使わなかった薬品類はともかく、他に用意するものは無いかと慌しい空気の流れる中。こんなのはノリでちゃっちゃと行けば良いのだと、弾美が喝を入れる。

 ノリで挑んで失敗して、怒られるのでは敵わないと二人は渋い顔で見つめ合う。



 数分後には、一行は初めてくぐるイベントエリアの門前に集合していた。NPCが門番をしていて、あんた達なら資格は充分だと仰々しく請け合って来る。

 葉っぱの事には何も触れて来なかったので、ここの資格とは関係ないのだろう。一行が門を通ると、登り階段が大きな幹の右手沿いに、曲線を描きながらずっと上へと続いていた。

 細長く続くそれは、天へと達するかのよう。


 イベントエリアはどこだと探す一同だが、やがて大きく口を開ける洞を発見。近くにナイフで紙が留めてあって、妖精と共に更なる高みを目指す冒険者用の注意事項が書かれてある。

 ざっと読み上げる一行だが、要するに時間制限があるらしい。1部屋45分以内にクリアするように。部屋内で入手したお助けアイテムは、持ち出し不能。妖精の指示には従うように。一旦入ったら、転移系のアイテムは使用不可等々……。

 ここでは妖精の助けと指示は、絶対必要らしいとの事。


「ようやく妖精の出番だね~、せっかく味のあるキャラなのに、活躍の場が遅すぎるよ」

「そ、そうかな? 私は結構、妖精に装備とかアイテム貰った覚えがあるんだけど」

「あ~、早解きだとそうなんですか? 確かに私も、妖精装備とか貰いましたけど」


 薫は、迅速装備や報酬のアイテム類は、全部妖精に貰ったと口にする。カバンに放り込みっぱなしの遅解き組とは大違いで、毎回活躍してくれていたようだ。

 それはともかく、初のイベントエリアへのインを果たす一行。グランドイーターの幹の中は、一風変わった異空間チックな造りだった。


 完全に四角に区切られた、割と広い空間の中。部屋の中に配置されているのも、四角くてキャラよりも大きな木箱の列だった。木目も鮮やかで、たまに色違いも存在しているよう。

 壁際に沿って並べられた木箱は、4面ともに完全に隙間無く3段に揃えられていた。中央の木箱の山は、それよりもっと不規則で、数え上げれば4段まである。

 一行が入室を果たすと、妖精はカバンからピヨッと出現。キャラに対して指示を出して来る。


 ――さあっ、いよいよアナタ達が、グランドイーター自身に試される時が来たようネ☆ 樹木に意思があるかって? モチロンあるに決まってるじゃない!

 彼女が敢えて魔女の姦計に乗って、冒険者を呼び集めたのも、こうして逆襲の機会を待っていたからよ! 影でアナタ達を支えていた事も含めてネ☆

 それぞれ45分以内に、3つの部屋に配置されているスイッチを同時に押しなさい。そうすれば、最後の部屋でアナタは資格を得る事が出来るでしょう!

 そうそう、移動補助のお助けアイテムを使う時には、ワタシに話し掛けて頂戴♪

 それじゃあ、頑張ってネ☆


「良く分からないが、45分以内にスイッチを同時に押せばいいんだな?」

「そうらしいねぇ、お助けアイテムって何だろう?」

「あそこに大きな宝箱がありますね、あの中に入ってるんじゃないですか?」

「フムフム……あっ、上の方にスイッチらしき物発見!」


 薫の発言に、一行は揃って上を見る。壁際の割と目立つ場所に、小さな台座に乗ったスイッチらしき物が確かに設置されていた。わらわらと移動しながら、一行は登れる場所を探し始める。

 パーティの注意力が別の所に逸れたのを見計らったように。木箱の影から、2匹のモンスターが顔を出して来た。木製のおもちゃのような、虫か何かの積み木人形のようなフォルム。

 驚きながらも、戦闘へと移行するものの。4人掛かりで呆気なく撃沈。


「び、びっくりした。広くも無いマップなのに、見落としなんて洒落にならないねぇ」

「薫っちが、上を見ろなんてそそのかすからだろっ。いや、今は登り口を見つけよう」

「コレじゃないかな? この茶色い木箱をこっちに動かせば……」

「あっ、この木箱動くんですか? どうやって箱の上に乗るんだろうって思ってましたけど」


 それは見た目、簡単なパズルのようだった。横に1マスずらせば、2段目から伸びている梯子に手が届くようになっている。何しろ、その木箱にも梯子が設えてあるのだ。

 弾美が近付いて、茶色い木箱をターゲッティング。思わず攻撃してしまい、木箱のHPがガクッと減って行く。一同からは、驚きの悲鳴とブーイングが湧き上がり。

 弾美もちょっと焦って、キャラ操作を一時中断。


「ハズミちゃんっ、壊したら駄目だよっ。登れなくなっちゃう!」

「いや、動かすつもりだったんだが……ボタン違いだったようだな」

「何やってんですかっ、お兄さんっ。全く粗忽者ですねぇ!」


 美井奈の言葉に、思わず弾美は反撃の素振り。美井奈は慌てて、瑠璃の影で丸くなる。薫が自分のキャラを操作して、木箱をゆるゆると動かしに掛かる。どうやら、方向ボタンのみの操作で良いようだと、年長者らしい何気ない報告。

 これで壁際を登れるようにはなったよう。試しにミイナが、調子に乗って梯子を登り始める。動かした茶色い木箱の上に立って、そして壁の木箱に設置されている梯子へ。

 どうやらここは、アスレチックと言うよりはパズル要素の強いエリアのようだ。そう薫が口にすると、明らかに瑠璃は安堵したように顔色が晴々として来る。


 中央のパズルは、壁際よりは複雑な様子。美井奈からは、反対側にもスイッチがあるとの報告が入った。中央の木箱の上にも、3段目と4段目にスイッチが置かれている。

 これで全部で4つ、人数分に丁度足りている。

 

「これをこっちに移動して……この木箱が邪魔だけど壊せるのかなぁ?」

「上に木箱が乗っかってるけど、無視しても平気なのかな? でないとクリア無理なんでしょ、瑠璃ちゃん?」

「木箱が引っ張れるんなら、話は別ですけど……やっぱり壊すしか手は無いのかな、ハズミちゃん?」


 上の段で一人騒いでいた美井奈は、ちょっと寂しそうに三人の会話を聞いていたのだが。壁際にも茶色の木箱が埋まっているのを発見して、あれで試してみればと提案する。

 そこが万一2段へと陥没しても、スイッチへの到達には影響は出ない。反対側から回り込めば済む話なのだから。そう口にすると、皆から急に賞賛の視線が。

 ちょっと照れた感じで、美井奈は満更でもない様子。


「どうした美井奈、急に頭が良くなったような指摘なんかしちゃって!」

「いやいや、なかなか柔軟な考えと鋭い観察眼なんじゃない? やるわねぇ、美井奈ちゃん!」

「すごいすごい、ハズミちゃんからポイント上げたよ、美井奈ちゃん!」

「えへへ、それ程でも……」


 隣の瑠璃も、しきりと少女を褒め称え、嬉しくなった美井奈は恒例の抱きつき攻撃。操作どころではない少女達の騒ぎの中、弾美と薫だけは早々と実験に赴いている。

 茶色い木箱は、4~5撃程でたやすく壊れていった。そして、周囲を巻き込んでの派手な爆発を引き起こす。思いっきり喰らってしまった弾美と薫は、あまりの仕打ちに絶句。

 気まずい空気が、小さな部屋を支配する。


「……美井奈、お前は褒めるとすぐこれだ!」

「ええっ、私のせいなんですかっ!?」

「完全に油断してた……」

「あっ……でも、実験は成功だねっ! 上の木箱は落ちてこないみたいだよ?」


 瑠璃のフォローも虚しく、何となく悪役に祭り上げられてしまった美井奈だったけど。取り敢えず実験結果は上々で、目的の邪魔な木箱は壊してしまう事に。

 弾美が強化をかけまくって、ソロで問題児に向かい始める。しかし今回引き起こった騒動は、爆破ではなくモンスターの襲撃。どうやら、箱の中にじっと潜んでいたよう。

 ポリゴン模様がやたらと目立つ、恐竜のような敵が、弾美を一噛み。


 虚を突かれた一行だったが、フォローに入ってしまえば戦闘終了まではスムーズな流れ作業。なる程、色んなパターンがあるのだと、パーティで気を引き締める意思統一が。

 その後は、動かした木箱で作られた通路の評論会。案外簡単に出来上がったパズルの回答に、一同やや拍子抜けな感じ。後は、スイッチを皆で一斉に押せばよいのだが。

 美井奈が、やや躊躇いがちに見落としを指摘する。


「あの……どうして大きな宝箱をみんな無視するんですか?」

「おおっ、そう言えばあったな。怪し過ぎて、ちょっと本気で忘れてた」

「ちょっと警戒するよね、でも一応空けてみようか?」


 言い出した薫が、近付いて宝箱を開け放つ。何事も無く入手出来たアイテムは、推理通りのお助けアイテムのようだった。聞きなれない名前ばかりで、3種類がパーティ用の予備アイテム管理欄にプールされる。

 『魔法のハスの葉』と『Jの豆の木』と『次元固定スプレー』というアイテムが、数個ずつパーティ所有となったのだが。移動補助が『魔法のハスの葉』と『Jの豆の木』の2つらしく、これはどうやら横と縦の移動に使えるらしい。

 最後の『次元固定スプレー』は、透明化しているスイッチを見えるようにしてくれるらしい。そういう仕掛けも出てくるのかと、思わず先読みしてしまう面々。


 もう見落としは無いかと、ちょっと神経質に瑠璃などはエリアを駆け回って見渡すのだが。どうやら大丈夫との太鼓判がチームのブレインから押され、それぞれスイッチを目指し始める。

 弾美と美井奈が壁際のスイッチに、瑠璃と薫が中央に積まれた木箱を登り、スタンバイオーケーだと伝えて来る。ここまで掛かった時間は10分程度、45分も必要ない有り様である。

 余裕のクリアに、弾美も鼻歌交じり。


「よしっ、それじゃタイミング合わせるぞっ。いっせーのー、せいっで皆で押す……」

「……あっ!」


 慌てた声を思わず上げたのは、やっぱり美井奈だった。弾美の言葉につい釣られて、一人先行して押してしまったらしい。ピコッとスイッチ音と共に、ランプが明るく光る。

 エリアに入ってからずっと付き添っていた妖精が、ミイナの先走りにおカンムリ。


 ――ちょっと、ハナシ聞いてたのっ? 一緒に押さないと駄目って言ったでショッ!


 言葉と共に飛んで来た妖精パンチは、ミイナの鼻っ面にヒット。ダメージも丁寧に計算されていて、HPが1程減ってしまう。美井奈はやっちゃった感と妖精の叱咤に、トホホな表情。

 弾美は、美井奈の画面のランプが消えたのを横目で確認。それから何事も無かったかのように、声をさらに張り上げて言葉を続ける。


「いいか、ちゃんと聞けよ~っ! いっせーのー、せいっで皆で押すんだぞ!」

「りょ、了解?」

「い、いいよ、どうぞ?」


 何となく仲間外れの美井奈を気遣うような、曖昧な返事の中。美井奈も小さく、同意の頷き。今度は間違いなく、全員の動作がシンクロした模様。

 仕掛けが作動して、次のステージへと移動するパーティ。



 次のステージも、最初と似たような造りだった。ただし、今回は右と左で3段の木箱の列はが別れていて、3段目にはボス級の敵がスイッチを警護しているようだった。

 ずんぐりしたカブト虫のような体型だが、突き出した角の他にも前脚が鋭い鉤爪仕様となっている。周囲に飛び回る3つの光球は、美井奈のあの魔法を連想させた。

 カブト虫は、3つのスイッチが窺える左のスペースに鎮座し、上からパーティを見下ろしている。


「むっ、今度はボスがいるな……登り口の確保は、まだまだ簡単そうだなぁ」

「そうだねぇ、後の違いは床の色かなぁ? さっきは赤っぽくて、今は濃い緑っぽいねぇ」

「なる程、あとの変化といえば……木箱の配置かな? 上から見たら、右が凹で左が凸の形状で、さらにボス付きって感じかな?」

「はあ……あのボス、ここから攻撃出来ませんかねぇ?」


 弾美がすかさず、止めろとの制止の声。瑠璃も一応、魔法での攻撃範囲内だと知らせて来るのだが。ボスの周囲を飛び回る光球は、絶対何か邪魔してくるに決まっている。

 何より、敵の反撃が無い筈は無い。下手したら、範囲攻撃で仕返しされるかも。


 そうなった時に、前衛が敵まで辿り着けないと話にならない。遠隔の撃ち合いで始末出来れば良いが、このパーティは遠隔持ちが回復役も兼ねているのだ。

 恐らく手が回らなくなって、ジリ貧に追い込まれてしまうだろう。


 敵の攻略については、リーダーの弾美の指示に従うのに全くためらいの無い女性陣。先にルートを確保してしまおうと、一斉に木箱のパズルの解読に掛かる事に。

 スイッチが1つだけ設置されている右の凹の登り口は、先ほどの応用で済みそうだ。邪魔な木箱を片付けて、梯子付き木箱を押して行ってやれば良いのだが。

 やはり弾美が代表して、邪魔な木箱を殴り壊してみる事に。今度はどちらに転ぶだろうと、警戒していた一行だったが。壊れた地点から出て来たのは、今度は宝箱だったり。

 どうやら良い結果もあるようだと、盛り上がりを見せるパーティ。


「おっ、大ポーションか。よしっ、邪魔は排除したぞ、薫っち」

「了解~、動かすね~」


 何となくゲーム内の雰囲気で、力仕事は前衛が担う取り決めとなっていたのだが。そんな訳で今回襲われたのも、前衛のカオルだったのは幸いだったのだろうか。

 茶色い木箱を動かした跡に、壁側に木箱1個分の隙間が出現して。要するに、木箱で蓋をされていて、その隙間にモンスターが閉じ込められていたという仕掛けらしく。

 うぞうぞと出てくる多足の昆虫モンスターに、一同絶叫。


「きゃ~っ、隙間にいっぱい隠れてた~っ!」

「わっ、わっ、こんなパターンもあるんだねっ!」

「気持ち悪い~っ! お兄さんっ、さっさと倒してくださいっ!」


 呼ばれて果敢に、敵の集団へと突っ込むハズミン。敵の数が多くて、キープは3匹がやっとなのだけど。瑠璃と薫も前衛に出張って、必死に前線キープに掛かる。

 HPが減っていった敵を見計らって、美井奈がとどめを遠隔で刺して行くいつもの流れに。一時の混乱が治まってみれば、大きな被害も無く戦闘は終了していた。

 ちょっとドキドキだったが、何とか仕掛けは分かって来た。


 今度は凸の登り口を作ろうと、一行は頭を寄せて相談を始めるのだが。今度は動かす茶色の木箱の数が2つ、壊す木箱が1つで上までの梯子が繋がりそうだ。

 今度は何が出るかと用心しながら、箱を壊しに掛かる弾美だったが。今回は爆発してしまい、隣の木箱にもダメージが。これが壊れては上に行けないと慌てる一行だったけど。

 幸い、他にお邪魔の影はなく。程なく3段まで到達する道のりが完成。


「さて……敵はどこまで近付いたら反応するかな?」

「どうだろう……試しに2段目から攻撃してみる? 反応したら前衛が突っ込む感じで」

「2段目は面積が狭いから、そこで戦闘になったら怖いけどな。まぁ、試しにやってみよう」

「ほいほい~、それじゃあ強化掛けるね~」


 どの程度の強敵か良く分からないが、意外と戦闘の少ないイベントエリアの仕様である。ひょっとしたら、ここら辺でガツンと強い伏兵が登場する可能性もありそうだ。

 強化とMP回復が終わって、2段目へとぞろぞろと進む一行。敵の動きは、今のところまだ無い様子。動きを合わせる確認をしつつ、前衛組がそそくさと3段目の梯子へと向かう。

 それに合わせて、まずは遠隔攻撃組の攻撃。瑠璃の呪文と美井奈の《みだれ撃ち》が、カブト虫に降り掛かる。ところがその攻撃は、3つの光球が案の定のブロック。本体に毛ほどの被害も無く、カブト虫からは反撃の魔法の詠唱がやって来る。

 大慌ての後衛達だが、止める手立てがないっ!


 範囲の爆風魔法を喰らって、後衛陣は下段まで吹っ飛んでしまった。しかも、足場にしていた茶色の木箱もHPが完全消滅、何と木っ端微塵に破壊されてしまった。

 これには全員大慌て。3段目に前衛陣が孤立してしまう結果となり、しかも壊された木箱からは新たにモンスターが出現して来たのだ。さらに、カブト虫の周囲の光球にも変化が。

 光るのを止めた飛行物は、矢尻状の浮遊虫へと本体を曝け出す。


「にゃ~っ、落ちちゃった! ど、どうやって合流したらいい、ハズミちゃんっ?」

「やばいよ~っ、敵が4匹に増えちゃったっ! これ二人で抑えておけるかなっ?」

「ってか、お姉ちゃまっ! 敵が箱から出てきましたよっ!」

「雑魚っぽい、飛んでる奴から倒そう、薫っち! 瑠璃っ、1匹足止めで止めてくれっ!」


 慌しい事この上ない惨状の中、弾美の叱咤する感じの指示が飛び交う。自身はカブト虫に《グラビティ》と《上段斬り》を通して、移動能力と魔法詠唱を一時的に奪い取る事に成功。

 続いての《ドラゴニックフロウ》で、矢尻状の浮遊虫に範囲攻撃をぶちかまし。タゲを強引に取ってから、カブト虫と距離を置くため部屋の隅に移動するハズミン。

 すかさず瑠璃が、下段から《魔女の足止め》で浮遊虫を1匹固めてくれた。ここら辺は阿吽の呼吸、だてに長年幼馴染をやっている訳ではないバッチリなタイミング振り。

 後は残りの2匹を引き連れて、薫と一緒にたこ殴りの予定の弾美だったが。


 距離を取った途端に、特殊技の空中チャージを喰らい、文字通り矢に射られた感覚を味わうハズミン。その2連撃に、さすがの盾キャラもHP半減のピンチに追いやられ。

 《シャドータッチ》での反撃も、魔法耐性が強いのかあまり効果が無いよう。薫が1匹タゲを取ってくれて、そちらから二人で削りつつ。ハズミンは改めて《竜人化》で硬化を図る。

 カブト虫がゆっくりとこちらにやって来るのが見え、焦る前衛陣。


 一方の後衛は、何とか木箱のポリゴン猿人を倒し終えたのだが。このまま下段から、攻撃や支援をして良いものかと悩み中。何しろ一旦タゲを取ったら、段差で前衛の加護が望めないのだ。

 こんな時まで、ちょろちょろと妖精が後ろを飛び回っている。邪魔と言う訳ではないが、集中力が削がれるのは確か。そう言えば、さっきのエリアで何かお助けアイテムが……。

 それを思い出した瑠璃は、咄嗟に妖精に話し掛けた。妖精は気安く、何かアイテムを使うかと問うて来る。縦の移動に使うのは……そう、確か『Jの豆の木』だっ!

 目の前に使用スペースを確保してくれとか、色々注文が帰って来たが。出現した梯子は上々の出来だった。


「わっ、お姉ちゃまっ、何を使ったんですかっ!?」

「お助けアイテム……かな? 美井奈ちゃん、これで上まで上がろうっ!」


 いきなり出現した緑色の蔦の梯子は、見事に3段上まで到達可能な優れモノ。途中の段にも降りれるような作りだが、後衛組が目指すのは今は前衛との合流のみ。

 瑠璃と美井奈が合流した時も、敵の数は1匹も減っていない始末。美井奈が遠隔援護に入り、瑠璃も回復や支援に入ると、ようやくこちらのペースが戻って来た。

 前衛陣は束の間ほっとした表情を浮かべ、安心して削りとブロックに力を発揮し始めるのだが。忘れていた敵のボス、カブト虫に掛けていた重力の鎖がとうとう解き放たれる。


 まずはタゲを取っていた弾美に、角での強烈チャージ技がやって来た。吹き飛ばしも相まって、ハズミンは部屋の端でスタン状態。幸い落下はしなかったものの、木箱で出来たコーナーに追いやられてしまう。さらに範囲魔法での追撃、しかし標的の弾美は孤立状態のままだったり。

 その隙に、美井奈が見事に浮遊矢尻虫を1匹撃退。


「やった、1匹倒しましたよ~っ、隊長!」

「私が1匹足止めしておくから、美井奈ちゃんと薫さんで雑魚片付けちゃって~」

「そっち3人で片付きそうなら、俺はボスキープに回るぞっ。カブト虫は範囲魔法バリバリ使うから、こっちには近付くなよ~」


 カブト虫キープの弾美は、部屋の隅で孤軍奮闘。殴りもなかなかに凶悪な敵だが、耐える程度なら何とかなりそう。魔法をスキル技で潰しつつ、ひたすら仲間の合流まで耐える事に。

 浮遊矢尻虫は、チャージの他にも魔法反射などの隠し技を持っていたものの。普通に殴っていればそれほど怖い技も無く、女性陣チームに1匹、2匹と倒されて行く運びに。

 ようやく合流してしまった後は、お決まりのフォーメーションでの必勝パターン。


「よしっ、勝った……けど、戦利品はほとんどないのな、ここ」

「そうだねぇ、ちょっと寂しいかな?」

「時間もまだ30分経ってませんし……案外ちょろいみたいですねぇ、イベントエリアって」

「そうだねぇ、ここはあと1面だっけ? ってか、スイッチどうやって押そう?」


 それを聞いた瑠璃は、再び妖精とヒソヒソ相談。お助けアイテムの『魔法のハスの葉』を段の端っこで使うと、凸から凹の、ハスの葉の掛け橋が出来上がる。

 おおっと、部屋に賞賛のため息。コントローラーを手放しての拍手まで湧き起こり、瑠璃はひたすら照れまくる。それでもパーティに使い方を教えて、知識の共有を図ってみたり。

 何しろ、これから色々とお世話になるアイテム達なのだ。


 これでとにかく、4つのスイッチの前にキャラが立つ事が出来た訳である。再び呼吸を合わせての作動によって、パーティは見事に最終ステージへと移動となった。

 入る前の苦手意識は、今では完全に払拭されているよう。



 今回は、先程のような殺風景なフィールドとは違うようだ。相変わらず立った位置から全てが見渡せる広くないステージだが、立体的な造りは統一されているよう。

 木立ちの中の、遺跡っぽい風景だけど、木立ちには切れ目が見当たらない。どうやらグランドイーターの空洞の内側っぽいのだが、何故か日差しが神秘的に降り注いでいる。


 その壁面に沿って、通路が3層くらい通じているのだが。中央は完全に吹き抜けで、下は深い水溜まりになっているようだ。グリーン色の水面には、日差しが揺れている。

 さらに上を見上げると、中央の高い位置に浮島のような物体が。一応上の層の通路から細い蔦の橋が続いていて、それを渡っての移動は可能のようなのだが。

 島の地上は蔦のカーテンが覆っていて、今は何があるのか窺えない。


「ほへ~、何か急に指向が変わってますねぇ。とても奇麗じゃないですか」

「そうだねぇ、遺跡っぽい景色だけど、何だかロマンチックだねぇ」

「いや、とにかく先に敵だとかスイッチを探してくれ、二人とも」

「えぇと……妖精が何だか騒いでるみたい。ポケットに空きを1つ作れって」


 薫の指摘通り、どうやら『次元固定スプレー』というお助けアイテムが、今度は活躍するようだ。皆がそれぞれポケットに空きを作ると、強引にそのアイテムが割り込んで来た。

 姿の見えないスイッチは、妖精が逐一場所を教えてくれるみたいなのだが。一行が移動を始めた途端に、スイッチの確保より先に、石造りの階段の上から敵が押し寄せて来る。

 いつか見たような、トーテムポールのモンスターや、大きなバッタ虫に乗った、小さな姿の半裸の獣人達。獣人は木製のマスクをつけており、手斧をブンブンと投げつけて攻撃して来る。

 さらには、飾りと思っていたゴーレムまで動き出し、進む事も侭ならない有り様。


 ゴーレムは硬かったし、獣人はフォーメーションでの攻撃がとてもウザい。前衛と後衛の役割がはっきりしていて、乗り物のバッタも奇抜な動きで奇襲を掛けて来るのだ。

 位置取りという点では、トーテムポールも立派な凶悪な仕掛けである。高い位置からの押しつぶしスタン技は、他の敵に混じると厄介な事この上ない。

 それでもパーティは、範囲技や複合スキル技で、HPを減らした敵から上手に殲滅して行く。ルリルリまで前衛に出張って、美井奈の安全をサポートしつつ。

 安心して弱った敵に止めを刺す美井奈は、この陣形も既に慣れたもの。


 敵の姿がようやく片付くと、ようやく上の層へと進む事が出来るように。右の端に最初のスイッチが見付かったが、高い位置からの見晴らしも見事なものだと、呑気なコメントを放つ者も数名。

 美井奈に拳骨の喝を入れつつ、弾美は最初のスイッチの確保を宣言。何しろ同じ層の視界内には、奇妙な蔦の形状の植物が、近付くものを捕らえようと待ち構えているのだ。

 よく見れば、薔薇のような部位もあったりして。


「あ~、あんな感じの似たようなモンスターは、一度戦った事があるねぇ」

「そう言えば、隠し通路の先の空中庭園であったな。確かその時に、美井奈がワイバーンに連れ去られて慌てたような……」

「そんな事実はありませんよっ! 何勝手に捏造してるんですかっ、お兄さんっ!」

「と、とにかくやっつけようか?」


 薫がそういって進み出した途端、遺跡の罠が作動。壁面の巨大な顔面の石像の口から、大きな岩が転がり出る。慌てて避ける一同だが、岩の数も結構多い。

 その内に、岩を避けてる最中に仕掛けの床を踏んづけるキャラも出始めて。気が付けば、いつの間にか作動している石像の数が、3つに増えている始末。

 無論、転がる岩から受ける被害も×3の有り様に。


「……遺跡はロマンチックとか、誰かが呑気に言ってたな。言い直すのは、まだ遅くないぞ?」

「ええと……遺跡は怖いねぇ? ここはアスレチックエリアだね、美井奈ちゃん?」


 瑠璃が恐々と、美井奈と顔を見合わせて、素直に訂正して来るのだが。こうなると、歩を進めるのも休息するのも怖くなる、不思議な刷り込みが一同に作動してしまう。

 仕掛けのせいで、危うく落下しそうになっていた美井奈も、一同に合流しつつ回復魔法を唱え始める。それから減ったMPを回復しようと、弾美を窺って休憩の了承を得ようとするのだが。

 ルリルリと二人で固まっての休憩は、どこか挙動不審な感じ。


「な、何も起こりませんかっ? 隊長、ちゃんと見てて下さいよっ!」

「あ、あれ……? MP回復しないよ、ハズミちゃん?」


 最初に瑠璃が、異変に気付いて弾美にそんな報告を。次いでの変化は、石畳に緑の苔が増え始めた事だろうか。何事かと周囲を窺う一同だが、薫が敵の接近に気付いたよう。

 端っこでスイッチを守っていた筈の敵が、いつの間にか近くまで来ていた。茨の触手は伸び放題。先程までは変わった所が無かったので、どうやら地中を移動して来たようだ。

 さらにカーソルを操作していた瑠璃が、上を見上げて悲鳴をあげる。石の天井の暗がりの中には、苔むした背中の巨大で平たい蟲が張り付いていた。

 背中にはさらに卵を張り付かせたそいつは、田舎によくいるカメムシだ。


 どうやら休憩をとってもMPが回復しないのは、こいつか苔かが邪魔しているせいだろう。嫌な仕掛けのアスレチックエリアパターンは健在。仕方なく、立ち上がって臨戦態勢を取る一同。

 皆の準備が整ったのを見た弾美が、まずは薔薇の蔦に挑発魔法を打ち込んだ。途端に、何故だか天井の蟲型の敵も反応して来る。どうやら、2匹同時の相手は免れられないようだ。

 しかし、その初期動作には一同引きまくるエフェクトが。


「わ~っ、ヘコキムシが屁をひった~っ!」

「さすが田舎の出だな、薫っち! 田舎じゃそう言うのか……」

「ひ、酷いっ、MPが減って行くよっ! どうしよう、ハズミちゃんっ?」

「落としちゃっていいですかっ、隊長!?」


 巨大カメムシの特殊技で、一同は精神的にもダメージを喰らったよう。もちろんMP消耗も痛いのだが、臭いが充満しているエフェクトは何だか精神的にとっても嫌。

 美井奈が頭に来て矢で撃ち落とそうとするのだが、お返しの範囲魔法は強烈だった。どうやら大樹の歪んだ魔力のお陰で、ここいらの虫はほとんど魔法が使えるようだ。

 そんな訳で、爆裂吹き飛ばし魔法でパーティは散り散りに。


 完全に頭に来た美井奈は、お返しにと吹き飛ばしのスキルスクリューアローを敵にぶち込む。さすがに今度は、ダメージと共に天井から落下する巨大カメムシ。

 そのままマラソンでキープしますと、皆に意気込みを語る美井奈だったが。弾美からは、するなら階段を降りてしろと言われて、さすがに視界から消えるのには不安そう。

 それでもこの層の罠っぽい仕掛けは、全部引っ掛かって解いた確証も無い一同。それが万が一マラソン中に作動したら、目も当てられない惨事を引き起こすのは確かである。

 渋々と、言われた通りに敵を引き連れて下の層に向かう美井奈。

 

 匂いの攻撃は、薔薇の特殊技にも存在していた様子である。こっちはまだ精神的にもマシなのだが、誰かが寝る度に起きろコールが湧き上がる変なノリの戦闘模様。

 眠りの吐息を瑠璃がようやく《麻痺撃》で防ぎ始めると、パーティのリズムで順調に削りが進み始める。茨の鞭の反撃は痛いが、エーテルでMPを回復させた瑠璃が、どんどん回復魔法で治して行くサイクルに。

 そんな訳で、ようやく薔薇のモンスターは散り散りに。


「倒したよ~っ、美井奈ちゃん。カメムシ持って来て~」

「了解ですっ、こいつとっても足が遅いから、マラソン楽でしたよっ!」

「何か特殊技使ってきたか、美井奈?」

「ん~っと……オナラくらいですか?」


 そうらしい。そんな訳で瑠璃に特殊技の止めを指示して、四人で仕留めに掛かる。幸いオナラの発動前には、カメムシがお尻をフルフルと振るわせるので、止めるのはさほど苦ではない。

 魔法も弾美の《上段斬り》で、完全に止めてしまっているせいで。危ない場面も来ないまま、最後まで削り切れると思った矢先。巨大カメムシのHPが半分を切ったくらいで、特殊技が発動。

 背中に背負った卵が割れ出して、黒い霧が立ち込め始める。


 蟲の卵と思っていたのは、どうやら苔の一部だったらしい。苔が溜め込んでいた黒い霧は、パーティの視野を塞ぎつつ、SPやMPを容赦なく吸い取って行く。

 慌てた時にはもう遅く、敵の姿は闇の中。ターゲットを失って右往左往する中、巨大カメムシの攻撃だけが激化して行く。前衛は空振りばかり、その内に毒の霧まで立ち込め始める始末。

 頼みの美井奈も、本気を出して良いものかと不安げに弾美を見遣る。


「わっ、毒状態になっちゃってる! MPもSPも減って行くし、ここは嫌だっ。一旦離れるね?」

「美井奈っ、吹き飛ばしで敵を燻し出してくれっ! 魔法で攻撃したいけど、MPが無いっ!」

「りょ、了解ですっ、隊長!」


 一行が黒霧のエリアを離れても、賢い巨大カメムシは追って来てくれない。それどころか魔法の詠唱音が聞こえて来て、ビビリまくるパーティ一同だったのだが。

 美井奈の一撃が、詠唱を止めつつ敵を後方に吹き飛ばしてくれた。ようやく姿を見せた敵に、瑠璃がなけなしのMPを使っての《魔女の足止め》での釘付け。

 前衛陣が取り付いて、新たな戦闘地帯を築く。瑠璃は離れた場所でヒーリング。再びの黒霧の気配を感じて、後衛に陣取っていた美井奈が再度の《スクリューアロー》を放つ。

 最後はほぼ、美井奈の遠隔と瑠璃の回復したMPでの《ウォータースピア》で削りきっての戦闘終了。凶悪な臭いと黒い霧のコラボに、ややてこずった感はあったものの。

 苦労しつつ、何とか1つ目のスイッチ確保である。


 右の壁沿いの通路に、上へと登る階段が見えているのだが。妖精の話では、左の崩れかけた細い通路の先に、透明スイッチが1つ隠れているらしい。そちらを先にと進む一同だったが、下層の見える壊れかけた石の畳を見るにつけ、瑠璃と美井奈の足が止まってしまう。

 どうやら自然に、ここは弾美か薫の担当になってしまいそうな雰囲気たけれど。ここから落っこちて余計な手間を掛けられても困るので、弾美は敢えて語らずじまい。

 妖精がとうとう、ここだと場所を限定した。ポケットからのアイテム使用で、スイッチ出現。


「後ろの二人~っ、使い方ちゃんと見てたか?」

「う、うんっ、使い方はちゃんと見てた」

「何か光ってると思ったら、蛍が飛んでますね~、お姉ちゃまっ」


 弾美の制裁の拳が伸びてきたのを、美井奈がすかさずキャッチ。兄弟喧嘩のような遣り取りを楽しむ二人に、画面の中のキャラは置いてけぼり。一足先に戻っていた薫は、気を利かせてハズミンも操作して安全圏へと連れ戻す事に。

 肝心の弾美と美井奈は、瑠璃を挟んで攻防中。ちょっと迷惑そうな瑠璃だったり。


 何とか一息付いて、一行はさらに上の層へと向かう。雑魚が何匹かうろついている中、スイッチも2つ確認出来た。周囲の掃除を皆で仲良くしつつ、安全の確保を図りに掛かるパーティ。

 この層には、見た限りでは仕掛けの類いは無いようだ。慎重に歩を進めていた前衛陣だが、何事も無くスイッチ前に辿り着いてしまうと、ちょっと拍子抜けの感じ。

 この層のスイッチは、右の壁際の階段を上がって一番広い手間のフロアに1つ。手前から見て左の壁の細い通路の奥の方に1つ設置されていた。

 あとは四人が、1つずつスイッチを受け持てば良いのだが。


「あれっ、これでこのエリアはクリアですか? ここに入ってまだ40分位ですけど」

「そんなもんだろ、最初のステージだから簡単に作られてんだよ、きっと……さて、俺と薫っちが下を受け持つかな? 上は適当に二人で分けてくれ」

「あれぇ……中央の浮いてる鳥の巣みたいなのは飾り? 本当に終わりなんだ?」

「さっき調べたけど、蔦の橋みたいなのは乗れなかったよ? もういける場所は無いかな?」


 弾美と一緒に下の層に移動しながら、薫がそう報告する。それならいいかと、瑠璃が左の壁のスイッチに向かう事に。場所的には、丁度弾美の受け持ちのスイッチの真上の感じだ。ただし、こちらは辿り着くまでの通路は壊れていないので、瑠璃でも安心。

 自然と美井奈が、最後の広場のスイッチを受け持つ事に決定して。何故かそれは、手前のフロアの一番目立つ中央の場所に設置されていたのだが。

 正面には、皆が首を傾げた浮島が。美井奈、ちょっと嫌な予感。


 念のためと、後衛陣は休息を取ってMPの回復。弾美と薫が配置につくまでに、回復は終了したのだけれども。やっぱり仕掛けが無い事に、かえって不信感が募ってしまう。

 一番距離のあった弾美が、ようやく配置についたとパーティに報告。音頭を取る声が室内に響き、リズムを揃えてスイッチを押す四人。光は確かに、ちゃんと4つ同時に灯った。

 今度も転移が起こって、いよいよステージクリアなのだろうと予想していた一同だったのだが。そんな安易な想像を覆す、画面上の変化はやっぱり美井奈のまん前のアノ場所から。

 鳥の巣のような浮島の、ドーム状の蔦のカーテンが萎れて行く。


 そうして浮島に姿を現したのは、有翼の巨大な白い豹だった。翼も白く、すらりとした体躯の神秘的な姿である。お付きに、これも真っ白で大きなトーテムポールを2体従えている。

 美井奈の悲鳴は、本能的に危険を察知したためだろう。遮るものの無い視界の先に、確かに少女は孤立していたのだから。もちろん、出現した敵の狙いもソロで佇む雷娘。

 浮島から真っ直ぐ飛来して、急襲を浴びせて来る。


「美井奈っ、魔法使えっ! 光の玉呼び出せっ!」

「にゃ、にゃあっ、魔法っ!」

「い、今行くねっ。美井奈ちゃんっ、頑張って!」

「おっ、同じくっ! でも遠いかもっ?」


 少女の悲鳴と同時に、異変を悟ったパーティメンバー。ヘルプに駆けつけようとするのだが、何しろ戦場まで距離がある。同じ層にいる瑠璃でさえ、魔法攻撃範囲に入るまでもう少し時間が掛かりそう。

 美井奈は下手に動かずに、弾美の指示通りに《フェアリーウィッシュ》を自身に掛ける事に辛うじて成功。何とか、敵の襲撃前に掛け終えれたのは僥倖だった。

 熾烈な噛み付きと、鉤爪攻撃をダメージを受けずにいなせたのだから。


 その隙に《幻惑の舞い》を掛けたルリルリが、タゲを取ろうと突っ込んで来る。それに反応したのは、空中のトーテム2体だった。ブロックするように、瑠璃の前に立ちはだかる。

 相変わらず宙に浮いているトーテムに、剣の切っ先は届きようもない。魔法で攻撃しながらも、何とか美井奈のサポートをと必死に動き回る瑠璃だったのだが。

 美井奈の周囲の光球が1つ、2つと減って行くのにはさすがに不安顔。


 次に戦場に駆けつけたのは薫だった。掛かった時間はそれでも1分程度なのだが、戦場は酷い有り様。美井奈は既にHPが半減しており、雷精まで召還して瑠璃に回復を貰っている。

 その瑠璃も、決してフリーな訳ではない。敵も直接攻撃をして来ないので、魔法を唱える時間が何とか取れるのだけど。トーテムから逃げ回って、それ程余裕も無い感じ。

 薫は素早く、弾美の到着時間を隣の画面からチェック。


「弾美君、私はどっちをフリーにしようか? 美井奈ちゃん、結構ピンチかもっ!」

「取り敢えず瑠璃をフリーにして、瑠璃がサポートに廻ってくれっ。すぐ行くからっ!」

「りょ、了解~っ!」


 弾美が一番遠い場所にいた事が、これ程響くとは思っていなかった一行である。辿り着いたばかりの薫が、範囲魔法の《炎のブレス》でトーテムのタゲを取りに掛かる。

 ところが、戦場は混迷の度を増して行くばかり。瑠璃が魔法で攻撃を仕掛けていた事もあり、さらに回復の飛ばし過ぎで有翼の白豹のタゲまで取ってしまって。薫がタゲを取る前に、何だか敵の標的はぐっちゃぐちゃに。

 思うように侭ならないのは、現実でもゲームの世界でも同じ事。弾美が到着した時は、戦場はとてもとても酷い有り様。ほとんど皆のHPが半減しており、回復にMPも底を尽いている。

 呆れ顔の弾美は皆に喝を入れつつ、白豹のタゲ取りを敢行。


 さすがに弾美のタゲ取りは、他のメンツとは一味違う。武器もレイブレードに取り替えて臨んだ大ボス戦。各種の魔法強化も、到着前にばっちり済ませてある。

 これで何とかフリーの者が出来た。美井奈から早速ヒーリングに入り、ポケットの整頓で戦線復帰の準備に掛かる。MPが回復したら、皆に《風の癒し》と自分に《フェアリーウィッシュ》の魔法の掛け直し。

 それから今度は瑠璃をフリーにすべく、トーテムに全力の《スクリューアロー》で攻撃&タゲ取り。お礼を言いつつも、瑠璃もようやく休息のサイクルに突入して行く。

 反撃のビームも光球がブロック。美井奈の攻撃は続く。


「柱~っ、降りて来い~っ! もうMPがないからブレス吐けないっ!」

「前はどうしたら、こいつら降りてきましたっけ?」

「ボスを倒したら……かな? よしっ、弱ってる方に攻撃を集中してみようっ!」


 瑠璃の提案で、ルリルリの水魔法とミイナのスキル技がHPを減らしたトーテムを襲う。HPが半減した敵は、浮遊状態を放棄。そこにすかさず、カオルの《貫通撃》が見舞われる。

 お付きのトーテムの1体が、ようやく消滅したと思ったら。有翼の白豹が急にやる気モードに突入。翼で浮き上がったと思ったら、咆哮からの特殊攻撃の三連牙を弾美に仕掛ける。


「わ~っ、強化がほとんど消えた所に連続スキル喰らったっ。酷い、HP半減だっ!」

「わ~っ、こっちにも届いたよっ。咆哮の効果だねっ、このスタン!」

「な、長引かせると怖いですねぇ……薬品使って、ちょっと強引に行きますよっ!」


 美井奈は言葉通りに、残った雑魚に《みだれ撃ち》からの《貫通撃》の連続スキルを使用。さらに闇の秘酒を使用しての《スクリューアロー》で、近付いて来た敵と距離を取る。

 瑠璃の《ウォータースピア》の加勢も飛んで、2体目の雑魚も浮遊状態を手放す結果に。それを見た薫が、こいつも槍の餌食にと勢い良く突っかかって行く。

 どうやらお付きは片付きそうと、瑠璃と美井奈は弾美を気にするのだが。


 弾美は強化の張り直しに悪戦苦闘。《闇の腐食》と《竜人化》を消されては、強烈な攻撃を凌ぎ切るのは困難なのだが。白豹の牙と爪の攻撃が、なかなか途切れてくれないのだ。

 手の空いた美井奈が、SP貯めの軽いジャブ攻撃を開始する。白豹には自動回復能力が備わっているらしく、ちょっとの傷はあっという間に治ってしまうらしい。

 ようやく休憩の終わった瑠璃と、お付きを倒した薫も合流。ここからだと気合も新た。


「よしっ、一気に削るぞっ……瑠璃、飛行しそうになったらスキル技で止めてくれっ!」

「りょ、了解~」

「さてっ、削ろうか、美井奈ちゃんっ!」

「おっけ~ですっ、薫さんっ! 初っ端に、滅茶苦茶殴られた仕返しをしますよっ!」


 気合も入り過ぎなパーティは、SPが貯まると強烈なスキル技で敵を追い込んで行く。反撃も強烈なのだが、弾美は硬い盾と的確なガードで何とか凌いでいる。

 白豹はHPが半減すると、今度は雷のブレスやスタン咆哮での攻撃に切り替えて来た。しかしそれも、瑠璃に飛翔からの必殺攻撃を封じられてはお手上げの様子。

 あれを何度か喰らっていたら、かなり怖かったのだが。


 最後は美井奈が恨みのこもった《貫通撃》で、見事大ボスを仕留めるに至って。久々の全員でのハイタッチも、結構な盛り上がりを見せていたり。それだけ凶悪な仕掛けだったのだが。

 一歩間違えば、各個撃破されていた所。


 ようやく安堵して、一息付くパーティ。さらに瑠璃がこれで29にレベルアップ、皆に祝福を受ける。身についた癖で後衛が休息している中、薫が白豹の出現地帯に光る浮遊物を発見する。

 お祝いと報告が行き交う中、弾美もそれを見て蔦のつり橋をチェックしてみると。さっきは通れなかった通路が、何と今度は通れるようになっていた。

 中央の浮島には宝箱も置いてある様で。それを知り、浮き浮きと近付く一行。


「おっ、緑の木の葉ゲット! これで4枚目だなっ」

「ここは45分リミットだっけ? あれ、1部屋って事? 全部でその位だったね~」

「確か1部屋でしたね~。今日はまだ、1時間くらい余裕あるのかな?」

「宝箱ありますねっ、開けてもいいですかっ?」


 雑談と確認作業と、お楽しみの宝箱チェックに忙しい面々だけれど。4つある宝箱の中には、風の術書に金のメダル、知恵の果実と4万ギルが入っていた。

 それから先ほどのボス戦では、武器や防具のドロップが割と豊富に。ピアスは特に、ユニークでありながらも実用的な1品。協議の結果、これは弾美が貰う事に。

 ――神樹の長杖 攻撃力+25、知力+5、MP+28《耐久14/14》

 ――白豹のマント 雷スキル+4、器用度+4、MP+10、防+10

 ――白豹のピアス 器用度+3、HP+10、落下ダメージ減、防+5


「本当は、落下しそうな瑠璃か美井奈が持てばいいんだろうけどな。他の装備は美井奈かな?」

「放っておいて下さいっ……えっ、2つとも貰っちゃっていいんですか?」

「いいよ~、って先にここ出ようか? みんな木の葉取ったのかな?」


 木の葉を全員取ったと同時に、脱出用の魔方陣が浮島の端っこに出現したようだ。皆がそこに飛び込むと、中立エリアのイベントゲート前に放出される。

 さて買い物だとか、お金に余裕が出来たとか、実はマントも固定化されていてとの告白の中。取り敢えず、次はどこに行こうかとの協議がパーティ内でなされるのだが。

 弾美は入って来た通信を返すのに忙しいらしく、適当に決めておいてと他人顔。


 女性陣はそれを受けて、気楽にワイワイと話し始める。限定イベントの時間縛りも、まだ1時間程の余裕がありそう。それだけあれば、どこへ行くのも不自由はしない筈。

 慣れない場所でのインであっても、ゲームの中では別の話だ。


 薫も何とか、部屋の提供者としての責務は果たせた感じで安堵の表情。ここでエリア攻略失敗などしていたら、物凄くバツの悪い思いをしていたであろう。

 ツキの悪い部屋だとか烙印を押されたら、さすがに敵わない。





 ――そんな事を考えながら、後半の成功祈願を心に念じる薫だった。


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