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♯16 3つ目の木の葉ゲット?

 おかしな寒暖差の天候具合は、もう完全に街から去ったよう。日課の早朝散歩の空気は、週始めのような張り詰めた寒さなど、もう完全に無くなっている感じ。

 それでも用心して、上着を厚手のものにしていた瑠璃だったが。逆に暑くなり過ぎて、途中のベンチでそれを脱ぎ去ってしまう。コロンが近付いて来て、上着で遊んで良いかとお伺い。

 汚されたり破られたりしたら堪らない瑠璃は、駄目ですとやんわり拒否。


 代わりにボールを取り出してやると、マロンとコロンは大喜びで口に咥えて駆けて行った。散歩道の視界の隅で、早くおいでと仲良く瑠璃を待つ二匹の犬達。

 散歩のリーダーシップは、完全に向こうにあるようだ。荷物になった上着を手に、瑠璃はテクテクと歩き始める。しばらくすると、ボールの弾む音が聞こえて来た。

 弾むという言葉の響きは、瑠璃にとっては常に弾美を連想させる。


 運動用のコートには薫も顔を見せていて、弾美と何やら早朝から話し込んでいた。今は二匹の犬に捕まって、その相手も律儀にしている様子なのだが。

 ちょっと元気の無いような歳上の女性の態度に、瑠璃は小首を傾げて近付いて行く。


「おはようございます、薫さん。どうしたんですか、何だか元気が無いような……?」

「おはよう~、瑠璃ちゃん。ちょっとね~、美井奈ちゃんとの接し方をどうしたらいいのかなって、弾美君に相談してた……」

「あのな~っ、子供相手に気を遣い過ぎだって、薫っち。美井奈がまた生意気な事言ったら、一発頭突きを喰らわせてやればいいんだよ」

「子供は繊細で傷付き易いんだよっ! あ~っ、やっぱり第一印象が悪過ぎたかなぁっ? もっとちゃんとした、お洒落な服を着て行けば良かった……!」


 そんな見当違いの懺悔を聞いて、ケタケタと笑い出す弾美。確かに、子供とゲームを遊ぶためにお洒落をするというのは、行き過ぎと言うか笑える行為だろう。

 瑠璃は何と言って良いのか分からず、ただ何とかしての眼力を込めて弾美を見るのみ。小学校時代でも、子供同士の諍いや感情のもつれは数知れずあったのだが。

 大抵は、学級委員長をやっていた弾美が上手に仕切って、解決に持ち込んでくれていたのだ。もっとも、殴り合いの大喧嘩に発展した事も何度かあったりはしたものの。

 今度は悪い方に転びませんようにと、瑠璃は割と必死に瞳で幼馴染に語り掛ける。


 瑠璃の無言の圧力は、弾実ばかりか敏感な二匹の犬にも届いたようだ。瑠璃の前でお座りのポーズを取って、何かを期待する目付きでじっと佇んでいる。

 手の平でひたすらボールをくるくると回したりして弄っていた弾美は、やがてその圧力に屈してしまったよう。渋々とボールを椅子にして、悩みに埋もれている薫の隣に腰掛ける。

 それから言葉を選びつつ、薫に対してアドバイス。

 

「だから子供の我が侭に、一々敏感になる事無いって、薫っち。後から入って来た仲間が、自分よりゲームが上手くて瑠璃とも親しいから、ちょっとひがんでるだけだって」

「あ~っ……えっ、だから最初冷たくされたのかな、私?」

「そんなの昔からよくあった事だよ。飼い猫のアレだな……甘やかされたネコは、構ってくれないと憤慨して、厄介事起こすっての。子供も一緒だから、ちょっと構ってやれば気が済むって」

「そうかぁ……昨日は何だか、美井奈ちゃんがいつもより甘えて来てた気がしたけど。そういう理由だったのかぁ」


 人の心の機敏を全く理解していない奴らだと、弾美はやや呆れた顔付き。放って置いても次第に打ち解けるだろうと、弾美は余り気にかけていなかったのだが。

 念のためにと薫の所での合同インを企画したのも、それを早めてパーティのムードを盛り上げるため。そう諭すと、薫は何だか感激したように弾美の手を取ってみたり。

 歳上の癖に頼りないなと、弾美は心の中でちょっと呆れた様子。


「有り難う、弾美君っ! 私、頑張って部屋の掃除するよっ!」

「そ、そんなに汚れてるんですか、薫さんの部屋……?」

「汚れていると言うか、何と言うか……研究の資料とか、長年の雑多なあれこれとかが、人の生活領域をちょっと……本当に、あそこに四人も入れるのかしら?」

「まぁ、美井奈と仲良くなる第一歩だと思って頑張れ。だいたい俺も、一人っ子の性格は理解出来ないしなぁ。美井奈は普通に、自分の母親と友達感覚で喋ったり遊んだりしてるし」

「あ~っ、あれは私も驚いたよ。同世代の友達に一人っ子って少ないから、美井奈ちゃんとの比較は出来ないけど……でも、だからこそ歳上の薫さんとも、仲良くなるのに苦労はしないって思ったんだけどなぁ」


 薫も自分は妹が二人もいるが、美井奈とはまるでタイプが違うと打ち明ける。二人共に気弱さが前面に出てるから美井奈も付け上がるのだと、弾美に少々苛立って来た感じも出て来た。

 こうなったら八つ当たりが来るのは体験上知っている瑠璃。さり気なく後退して、自分からも美井奈と話し合ってみると提案などしてみるのだが。

 大事な練習時間を取られたと、弾美は聞いてなどいない。


「あ~っ、明日練習試合があるってのに! 負けたら罰ゲームだからな、瑠璃っ!」

「えっ、だって……わ、私っ!?」


 何となくとばっちりを喰らった気分の瑠璃に、薫も気の毒そうな表情を向けて来る。ひょっとして自分のせいかとオロオロする薫に、確かに自分達は気弱さが前面に出ていると認めない訳にはいかない雰囲気だったり。

 コートをそっと後にする女性陣に、マロンとコロンも大人しくついて来る。二匹とも、会話の前より気落ちしている飼い主に、何となく気を遣う素振りなのだが。

 取り敢えず今夜のインは頑張ろうと、お互いを励まし合ってみる瑠璃と薫だった。


 腕時計をチェックすると、後10分程度は散歩タイムの余裕があるのだが。すっかりと精神的な疲労で参ってしまった二人は、犬達の相手をするので精一杯。

 後ろのコートでは、ボールの弾む音がもうしばらくは続きそうだった。


     *     *


 パーティのみんなは定時前にはインしていて、それぞれお喋りしたり事前に準備に時間を取ったりしているよう。弾美もメールのチェックやギルドで会話をしたりと、入るなりやる事が多いのは確かなのだが。

 瑠璃が会話のためにと、既に美井奈と薫を誘ってパーティを作っていたようだ。自分も誘うようにとの指示を送りつつ、弾美は進達との会話を一旦打ち切る。

 向こうのパーティも、今夜はクエストエリアを中心にもうすぐ始動するそう。


『こんばんは~っ、今キャラのファッションチェックしてた所だよ~っ♪』

『こんばんは~っ、後は今夜回る所の候補とか出し合ってたの。イベントエリアにも、もう行けるらしいけど……どうしようか、ハズミちゃん?』

『私は、まだ怖い気がするんですけど……パーティでもう少し、パワーアップしませんか?』

『そうだな……進達もまだ行けないみたいだし、俺達も遺跡の葉っぱとか取ってないしなぁ』


 こうしてみると、テンションも高くて和気藹々のパーティに見えるけれど。早朝から不安いっぱいで、歳下の少年にまで悩みを相談したなどとはおくびにも見せず、薫はノリノリな調子。

 もっとも、画面の奥の本心など見通せる事は出来ないのだが。


 瑠璃が丁寧に、パーティのリーダーの資格を弾美にパスして来た。うっかり保持していると、他のパーティといざこざが持ち上がった際に、リーダーが矢面に立つ事になるのだ。

 その他のドロップ配分の権利などは、アイテム管理上、全部瑠璃が保有しているのだが。それ以外のややこしい話は真っ平だと、主張するかのようなパスである。

 それはともかく、昨日のおさらいを脳内で始める弾美だったり。



 パーティでの戦力アップだが、薫が25へとレベルアップし、とうとうイベントエリアの挑戦権を得る事となった。瑠璃と美井奈も1つずつレベルが上がり、美井奈は弓術の補正スキルの《攻撃速度UP1》を取得。雷の特級リングの性能も加えて、通常攻撃速度が飛躍的に上昇する事となった。

 美井奈は他にも、胴装備や靴の交換で防御力が上昇。船長の帽子の効果で、SPもやや上昇して、スキル技も使いやすくなった。

 反面、矢束の消費速度が格段に上昇。パーティの財源は、あっという間に火の車状態に。へそくりニャンコから授かったお金は、冒険のたびに万単位で減って行くという事態に。


 薫も首装備の交換で、同じくスキル技が使いやすくなり、更に武器の交換で攻撃力が上昇したのが嬉しいところ。瑠璃も全く同じで、胴装備でSPが上昇し、武器の交換で攻撃力が少しだけ上がった。

 ただし、瑠璃と美井奈の見た目がちょっと変になったのは、仕方の無い事なのだろうか……。



『パーティに変な格好の奴が、二人もいるな……』

『男装の麗人と、海賊風な妖精娘だ~! 結局、その装備使う事にしたんだねw』

『仕方ないじゃ無いですかっ! SPとか防御力とか、お姉ちゃまと色々相談した結果なんですからっ!』

『ハズミちゃん、今呪い装備が3つあるんだけど。1個呪い解くのに1万ギル以上掛かるから、お金無くて自粛している状態なの。出来たら今日、妖精の泉探さない?』

『あ~、トリガーもいっぱいあるしなぁ。沼にトレード場所あるんだっけ? そっち周りで行こうか』


 ついでのついでに、合成屋クエのベルトが欲しいと、瑠璃が珍しくおねだりするので。美井奈を始め、皆が異様な盛り上がりで絶対取ろうと掛け声も高らかに宣言するという事態に。

 何気なく言葉を発した瑠璃は、どんな態度を取れば良いのか分からずに。取り敢えず、やっぱり時間があったらで良いと、思わず怯んで訂正に走ったり。

 弾美に我侭を言うのは慣れている瑠璃だったのだが。パーティ発言は以後気をつけようと、密かに心に誓うのであった。


『えっと、情報ノートによれば、蛮族3種、猿人と魚人と馬人の落とす素材を集めるんだったね』

『それじゃ、ついでに集落に寄って、弓術のクエも進めちゃってもいいですか、隊長?』


 やけについでが増えてしまったが、廃墟のエリア攻略で葉っぱも入手しなければならないので。1時間を区切りにする事でパーティの行動指針が決定した。

 昨日の苦戦で消費した薬品を買い込んで、瑠璃と美井奈(?)は初のフリーエリアへと向かう事に。サーチした限りでは、今夜は結構フリーエリアも混んでいる模様。

 10パーティ程度が、どこかで活動中らしい。


 エリアに入って、さっそく美井奈が猿型の蛮族を数匹釣ってくる。つい数日前にはあれだけ苦労していた筈の敵なのだが、テンポ良く狩りを進めて行ける事実に驚く弾美と薫。

 2匹目を倒した時点で、早々と猿型の蛮族から目的のアイテムをゲット。皆が噂する瑠璃のドロップ運は、あながち嘘ではないと薫は実感してしまう。

 そこから真っ直ぐ東を目指し、めでたく瑠璃も赤の木の葉を獲得。所要時間、たったの5分。


『あれっ、私はこの場所の木の葉持ってました』

『母ちゃんが取ってくれてたんだろ。よしっ、このまま南下して沼の捜索に進もうか』

『あ~、そうだったねぇ。その後沼に行ったけど、2パーティがレベル上げしてたんだ』


 ところが沼場は、2パーティ所ではない混み具合。どうやら完全に、人気狩り場に認定されてしまったようだ。しかし、これだけ賑わってしまうと、美味しくも何とも無いだろうに。

 パーティはその盛況振りを横目で眺めつつ、時計回りで沼岸を進み始める。途中までは全く敵に出会わなかったが、その内待望の魚人やザリガニ、水鳥などが行く手を阻み始める。

 魚人のクエ用素材も、たっ3匹目でドロップ。お陰で妖精ポイントの捜索に集中出来る。


 そのせいという訳では無いが、沼に流れ込む小川の道を程なく発見出来たパーティ。深い藪を掻き分けてしばらく奥へと進んで行くと、ようやく水源へと辿り着く事に。

 何か敵でも待ち構えているかと思ったが、全く何もいない。ただ清浄な泉が存在するのみ。


『あった~♪ 結構沼から離れてたね~?』

『そうだね~、よしっ、マップに書き込みオッケ~♪ 呪い解けるの、ここで?』

『薫っちは初めてか。呪い解いたりとか、武器の修復とかをロハでしてくれる、有り難い場所だぞ』

『さて、何をトレードしましょうかね? 確定なのは呪い装備3つですか、お姉ちゃま?』

『1つは斧だから、別にいいかな? ハズミちゃんの武器は修理しなくていいの?』


 弾美は1つ分しか破損してないからまだいいと答え、それなら瑠璃は5つの妖精装備を同時トレードしてみたいとパーティに了解を得る。

 クエエリアで妖精に聞いた、とっておきの方法らしいが、何が出るかは今のところ不明。美井奈や薫から集めた同化終了装備は、5つどころかそれ以上あるので問題なし。

 妖精を呼び出した後に、早速瑠璃がネックレスやイヤリングを5つまとめてトレードすると。妖精はもの凄く上機嫌で、ルリルリの周囲を勢い良く飛び回り始める。

 今までに無い反応に、瑠璃もビックリ仰天。


 ――まあっ、今までの大変な冒険のお供に、こんなにたくさんワタシのあげた装備を使ってくれてたのねっ☆ 嬉しいわっ、アナタってば、ワタシ達の仲間になる素質があるかもっ!

 まずは格好から入ってみるのがいいかもネ☆ これをプレゼントするから、ちょっとは気分出るんじゃないカナ? ちなみにこれは、ドレスを持っているアナタだけに特別ヨッ?

 頑張ってもっと集めると、イイ事あるかもネッ☆


 特別扱いは嬉しいのだけれど、持っているのは実はルリルリではなくミイナだったりする。パーティ視点で見て貰ったらしいのだが、ラッキーだったのかは謎である。

 集めると良い事があると言われた妖精の装備は、今回はスカートのようだった。つまりは脚部位の装備である。瑠璃はパーティに、妖精の言葉をそのまま伝える。


 よくイラストに描かれている、裾口がギザギザにとんがっててその先にポンポンがくっ付いているタイプだが、美井奈の脚装備は固定されていて、すぐに着替えられないと嘆く少女。

 スカートなのにこの装備は♂キャラでも装備可能らしい。本当に可能かどうか、美井奈にちょっと着てみて下さいと薦められた弾美。渋々ではあるが、まぁ話のタネにと着用してみると。

 尖りスカートに緑のタイツ姿の、奇天烈な格好を晒す破目に。

 ――妖精のスカート ポケット+2、光スキル+3、風スキル+3、防御+12 


『アホ~、変な事を薦めるんじゃないっ、美井奈! ちょっと傷付いたぞっ!』

『ちょっ、これっ……あはははw』

『可愛いねぇ、ハズミちゃん。もう人の事笑えないよ~?』

『うるさいっ……って、アレ? 妖精のシリーズ装備って、確か4つで全部の筈じゃ?』

『えっ、そうなの……? じゃあこれは、隠し装備?』


 パーティ内で大ウケだったが、他人に見られずに済んで内心安堵している弾美。それよりもデータに無かった追加の妖精装備に、ちょっとワクワクな隠しルートを発見したような気分に。

 取り敢えず弾美は、さっさと危険な脚装備を美井奈にトレードで押し付ける。それから自分は、持っていた呪いのネックレスを、さっさと呼び出した妖精にトレード。

 薫にも呪いのピアスをトレードするように指示して、解除のお金を節約に走る一行。

 ――サファイアのネックレス 腕力+3、SP+10%、防+5

 ――サファイアのピアス 腕力+2、SP+10%、防+3


 前衛には有り難い、腕力とSPの増える装備の補充に、パーティ内での分配も和気藹々。結局ピアスは薫に、ネックレスは美井奈にと譲渡される事になって。

 アタッカーの攻撃力の上昇には、パーティとしても嬉しいところ。


『あと一人分、トレード出来るけどどうしよう?』

『う~ん、妖精は3日後にまたおいでって言ってるけど……』

『天使の情報も言ってたけど、それもこっちの知ってる情報だなぁ』

『あっ、私が妖精の指輪持ってるんで、それをトレードしてみていいですか? ひっょとして選択肢が出て、良いのが貰えるかもですよっ!』


 ――あなたが泉に落としたのは、この使い過ぎて擦り切れ……もういいわ、ネタ切れちゃったしネ☆ これから熾烈になる冒険のお供に、アナタには勿体無いほどの装備をア・ゲ・ル♪

 だからこれからも、天使様のために馬車馬のように働きなさいヨッ☆


『……馬車馬のように働けと言われました』

『わはは、さすが悪知恵の効く妖精だなっw んで、装備は貰えたのか?』

『一応、私には勿体無い程の性能のをくれたみたいですけど……使うのが屈辱ですっ!』

『み、美井奈ちゃん、妖精に何を言われたんだろう……?w』


 妖精の毒舌振りにヘソを曲げた美井奈は、指輪をいらないと言ったので。相談の結果、今日何も貰っていない瑠璃が貰う事に。固定装備を同化させないと交換出来ないが、この後のNM戦でのメダルドロップに期待する事に。

 ――プラチナの指輪 腕力+3、HP+15、攻撃速度UP、防+4



 パーティはようやく泉を立ち去って、今度は湧かせNMのポイント探しに奔走する。いったん沼まで戻って、やっぱり時計回りに沼の近場を捜索する事2分。

 意外と簡単に見付かった『魚』のトレードポイントに、さぁ戦闘だと張り切る弾美。


『弾美君、取り敢えずフリーエリアだし、シャウトで通告しておいたら?』

『そうだねぇ、あとは雑魚の掃除も、一応は必要かなぁ?』

『面倒だな、近くにパーティいないみたいだし、別にいいんじゃないか?』

『普通はするものなんですか? 良く分からないけど、しないと失礼?』


 薫は少女に、メイン世界では大抵は誰もがする行為だと説明。NMを湧かせると、近くの雑魚が変わった反応をする事もあるし、マラソンなどすると近くのパーティに迷惑をかける事もある。

 だから事前に近くにいる人に、大声で通知しておくのが一般的な行為になっているのだが。勝手の違う限定イベントでの情事だけに、そこは意見の分かれる所。

 美井奈がどういう風に呼びかけるのか知りたいと言うので。弾美はそれではと、模範的な言葉を選んで不特定多数に呼び掛ける事に。


 ――『今からG-7ポイントで、トリガーNM戦を行います。近くにいる人は注意をお願いします』

 ――『了解です~、見学してもいいですか?』


『わっ、普通は返事返って来るんですか? 確かに私も、こんな報告聞いたら見学したいって思うかもですけど』

『え~、普通はあんまり無いパターンかも……どうするの、弾美君?』

『見られて困るものでも無いし、別にいいだろ。ってか、時間縛りあるのに粋狂な申し出だな。薫っちの知ってるプレーヤーか?』


 薫は知らないと答えて来たが、どこかで見掛けているかもとあやふやな感じ。弾美は了承の返事を返しつつ、やって来るパーティを待つ事に。返事をして来たキャラの名前は、ハヤトというらしいのだが。

 程なくやって来たパーティは、雷属性や土属性など、種族的に背の低いキャラばかりの構成。唯一背の高いのは、リーダーらしい光属性のハヤトのみ。

 このパーティは典型的な遅解き進行らしく、土属性のキャラは暗塊装備を、氷属性の女性キャラは流氷装備をしっかり装着していた。それだけで、腕が立ちそうに見えるから不思議である。

 リーダーと雷属性の男性キャラも、かなりの良装備なのが見て取れる。


 中には弾美達の見た事の無い装備も含まれており、それはお互い様らしい。挨拶し合いながらも、お互いに情報交換。向こうの平均レベルは何と30前後で、今はタウロス族の集落に入るためのアイテム集め中だったらしい。

 トリガーNMの話になると、このエリアの中央の山でポイントを見たと話し出す相手パーティ。どうやら『炎』のポイントらしく、蛮族の集落の1つにゲートの仕掛けがあるらしいとの事。

 お返しにこちらも、タウロス族の集落に『光』のポイントを見つけたと報告。


『おおっ、それじゃあ集落のクエをこなすのも無駄じゃない訳だね。有り難う、いい事聞いたよ』

『それよりそっち、みんなレベル高いのね~。こっちは私だけ早解きでバラバラなんだけど』

『エリア廻ってると、自然とレベルアップ果実も集まるよ。そっちは面白い装備集めてるね~?』

『メンバーが風邪引いて、エリア探索がようやく3日目なんだけどな。まだまだ木の葉も2枚だけ』

『裏エリアで揃えたの、その変わった装備? 俺達ももっとチャレンジすべきかなぁ、リーダー?』

『中に入ってもメダル結構必要ですし。自分達はまだ1箇所だけですけど』


 NMを湧かすどころか雑談会に突入した一行。そのうち誰かが思い出したように、時間縛りがあると言う事実を口にする。もう少しで尻尾を使ったファッションショーに突入する所だった一行は、それを聞いて弾かれたように動き出す。

 向こうのパーティが、有り難い事に雑魚掃除の手伝いを申し出てくれた。それを受けて弾美パーティも、近辺の雑魚を倒しながら強化魔法でNM戦の準備を始める。

 ところが、ハヤトのパーティの戦闘シーンを見た一行は、向こうパーティの範囲スキル技の使用に驚く事に。派手なエフェクトもそうだが、とにかく強烈この上ない。

 レベルの平均が30という事もあるが、あっという間に雑魚モンスターを片付けて行く。


 トリガーをトレードする事も忘れて、相手パーティの戦闘を見つめる一行だったが。負けず嫌いの魂に火がついたのは、もちろんリーダーの弾美だったり。

 こちらも負けずに全力でNMを叩き潰すと、高々と宣言する。


『くそっ、あっちは範囲スキル技なんか使って、強さの誇示してやがる。こっちも出し惜しみせずに、最速で敵を倒すぞ!』

『特に見せびらかしている様には見えないけど。まぁ、こっちも手の内隠さず戦えばいいのね?』

『ケンカしたら駄目だよ、ハズミちゃん。じゃあ、トレードするよ~?』


 魚の呼び水を瑠璃が勢い良くトレード。トリガーで湧いたのは、巨大で奇抜な色合いのお化けナマズ。波を立たせての出現に、しかし一行は怯む事なく突っ込んで行く。

 敢えて水中での戦闘を挑むも、ルリルリは種族スキルのせいで全く苦は無い。弾美と薫は沼の浅い場所で削り始め、美井奈はその後ろから速い回転で矢を射掛ける。

 複合スキルも惜しみなく使用。いつしか見物する立場のハヤト組も、息をのむ削りの速さ。


 巨大ナマズの特殊技は、大きな口での丸呑みや、水中での渦巻き起こしなど多彩なようだ。範囲攻撃の渦巻きをスキルや魔法で早目に潰し、敵にペースを渡さずに削って行く。

 ミイナの《貫通撃》でタゲが動きそうになっても、ハズミンの《トルネードスピン》で強引にタゲを取り戻す。最後はカオルの《二段突き》とルリルリの《アイススラッシュ》で、水上決戦は案外早く終わりを迎える事に。

 ドロップは金のメダルに剣術指南書、水の術書に水の水晶玉と、意外と平凡だった。武器防具の類いは全く出ず終いだったが、それでも強さから考えたらこんなものかも知れない。

 トリガーNMと言っても、やっぱりピンキリなのは仕方が無い。


 反対にハヤトパーティは感心しきり。複合スキルを限定イベントで覚えているキャラは、恐らく2桁もいないだろうとの話である。そう言う向こうは範囲スキル技を覚えているのだが、その事はどちらも敢えて触れず仕舞い。

 お互いをライバルとして認めたからか、その後は両者とも口数も少なく。情報有り難う、またどこかでとの別れの挨拶も簡素なもの。お互い無事クリアを祈ると言ったが、果たして内心は。

 ハヤトパーティは弾美達の前で、転移の棒切れでエリアを脱出して行った。


『見られながらの戦闘って、何だか緊張しちゃいますねぇ! 思わず張り切りすぎて、タゲ取りそうになって済みません、隊長』

『まぁ、あんなものだろ……美井奈の攻撃速度が、思ったより速くなったのか? これから先は、ちょっと注意が必要かもなぁ』

『そうだねぇ、私にも強力なスキル技があればバランス取れる感じなのに、残念』


 パーティ内では、割とホンワカな会話が為されているのだが。ここ2日程度で、ハズミンの装備やレベルに変更が無いのが微妙に響いているのかも知れない。タゲの取り方など相談しながらも、次はどこに行こうかという会話になる。

 そうなると、もう1つ『炎』のNMに行くか、最後の素材取りに向かうかの2択しかなく。当初の予定からするとあまりもう時間も無く、それなら集落の近くでベルトの素材を取ろうという事に。

 移動だけでも10分は掛かってしまい、欲張らなくて良かったと安堵の声の中。ケンタ獣人を殴れば、5匹目のドロップで今日の目的の素材集め終了。


 ついでに弾美のレベルも29へと上昇。おめでとうの掛け声と共に、全員やり遂げた気分でタウロス族の集落へと入り込んで行く。ここが初の瑠璃は、珍しそうにあちこち行き来している模様。

 美井奈はこの前のクエを進めようと、耐久度を0にした予備の弓をトレードするNPCを探し回っている。結局は薫に聞いて、この件は一件落着だったのだが。

 その報酬に貰ったのが、何と《複合技の書:弓術》だったのには一同仰天。


『わ~っ……お兄さんっ、凄いもの貰っちゃいました、感激です~っ!』

『うおっ、こんな簡単なクエ報酬にしては破格だなっ。美井奈も複合持ちの仲間入りかっ!』

『うわ~っ……いいなぁ美井奈ちゃん、羨ましいっ!』


 残念ながら、使用条件が弓術スキル30と風スキル20だったので、すぐに利用という訳には行かなかったのだが。棚からボタ餅的な取得に、少女は狂喜乱舞の状態のよう。

 パーティ的には、後衛の美井奈がこれ以上強くなるのは、タゲが揺れてきついのだけど。それでもフィニッシャーとしての立場から見たら、ミイナの決定力は欲しい所。

 幸いミイナの風スキルも、妖精装備のお蔭で既に17もある。中立エリアまで戻れば何とかなりそう。


 そんな騒ぎの後で一息ついた後に、今度は瑠璃がチェリーパイがどうのと言って来た。何でそんな洒落たものを夜食にするのかと、弾美は不審げに訊ねるのだが。

 呆れた調子で、ハズミちゃんが数日前に頼んだのだと答える瑠璃。ようやく判明したのは、薫の口添えがあってから。弾美が瑠璃に、通信でクエスト用に買うのを頼んだ筈だったと。

 最初に訪れた際に、確かに言ったような記憶が微かに蘇る気のする弾美。


 薫の案内で、クエストをクリア出来た瑠璃。報酬に風の水晶玉を貰い、風の術書でなかった事を残念がってみたり。とは言え、水晶玉も激しい戦闘の末にその数を減らしており、補充は有り難い事なのだが。

 他のお店を覗いていた瑠璃も、ようやく納得がいった様子。中立地帯にワープで戻り、今夜の冒険の前半戦は終了。光の呼び水を使おうかという案も出たのだが、時間が中途半端に残る可能性もあるので。

 廃墟エリアに残り時間を、全力で注ぐ事に意見は一致したのだった。


『前回もかなり手強かったもんね~、引き締めてかからないと駄目だね!』

『そうだな。瑠璃、買い物終わったか?』

『もうちょっと~、メダルかなり減っちゃったよ~』


 メダルを使っての買い物は他でもない。瑠璃の指輪と美井奈の脚装備の同化のためのカメレオンジェル×2個と、美井奈の風スキル20に伸ばすための術書×3枚の購入だ。

 合計9枚のメダルの使用だったが、それでもパーティ的には強力な戦力を得た事となった。美井奈が風の魔法と光の魔法を、それぞれ取得したのだ。

 風の魔法は《風の癒し》と言い、どうやらパーティ全員に神水のような、緩やかなヒーリングを施してくれる効果のよう。光の魔法は《フェアリーウィッシュ》という名前で、3つの願いが何とかと、美井奈からはあやふやな説明があるのみ。本人も良く分かっていない様子だ。

 さらに弓術の複合スキルは《スクリューアロー》というらしい。風の属性の突き飛ばしが付与しているらしく、近付いて来た敵と距離を取るには良い技かも知れない。

 以上、急激な成長振りに、本人も混乱気味の模様の美井奈である。


『雑魚で1個ずつ、新魔法とスキルを確かめながら進もうか。複合スキルは、弱い矢束と範囲矢束で確かめてくれ、美井奈』

『了解しました、隊長! はっきり言って、大混乱ですっ!』

『でも、美井奈ちゃんが回復寄りにも動けるようになったら、大助かりだよね~』

『本当ですかっ、お姉ちゃまっ!?』


 それは本当に大助かりだと、弾美も請け合う。後半戦に向けて、詳細な打ち合わせと薬品類の補充。入る前に、瑠璃が慌てたように素材をベルトにしてもらうのを忘れていたとUターン。

 その間を利用して、弾美はフレンドとの通信チェックを数点消化する事に。進や知り合いからちょくちょく入っていたのだが、時間を気にして長話出来ないでいたのだ。 

 進のチームは、あれから廃墟エリアとクエストエリアを中心に廻っているようだ。メダルが貯まったら、こちらの情報を元に裏エリアにも挑戦してみるとの事。

 そこそこ順調そうな報告に、弾美も胸を撫で下ろす。




 ところがこちらのパーティは、廃虚のエリア2つ目の攻略にお世辞にも順調とは言えない展開。まずは美井奈の《フェアリーウィッシュ》が、実はMP100も必要だと判明。ミイナのMPが150ちょっとなので、一応足りてはいるのだが。

 それで何が起こったかと言えば、浮遊する光球を3つ呼び寄せたのみ。フワフワと周囲を飛び回り、楽しそうな魔法ではあるのだが用途は不明という始末。

 敵との戦闘中でもこれと言った支援はして来ず、その光は数分で消えてしまった。


『あれっ、消えちゃった……何だったんでしょうか、隊長?』

『ん~……雷精みたいに、ピンチな場面限定で手助けしてくれるのかもなぁ。よく分からない』

『取り敢えず、もう1つの魔法も試してみようか、美井奈ちゃん』


 ここのエリアも、やっぱり敵の数が少ないために。戦闘相手を探す事自体が、実は難しくもあったのだが。こちらの廃墟は、前回攻略したマップと違って、年季の入った用途不明の建物が多く。完全に崩れ去って、広場と化している場所もちらほら目立つ。

 そのせいか、大型のモンスターや魔法生物との遭遇率が高い。数は少ないが、嫌らしい強さの敵に手間取りつつも、ミイナの新風魔法の《風の癒し》はまずまずとの評価を受けた。

 風スキルが低いせいで強烈な効き目では無いが。神水程度の回復力はある様子。


 薫にマッピングを任せて進む一行だが、別に目標も無く歩き回ってなどいない。インしてすぐに見えたのは、霞む様にして背景の半分を占領するグランドイーターの大樹。

 そして台地には、昔に何らかの原因で枯れ落ちたのか、巨大な枯れ枝が丸太のドームのような仮の構造物に変化を遂げていた。マップの東の4分の1を占領しており、遠目からでも嫌でも目に付く。進達からの情報では、そこでレベルUP果実を見つけたらしい。

 皆で相談して、果実を先に回収に向かう事に。


 廃墟の各地に散らばる自立歩行ゴーレムに、美井奈は新複合スキルの《スクリューアロー》も試してみたのだが。削り力は強烈だが、ヒットすると敵を吹き飛ばしてしまうため、パーティ戦闘では余り使い道が無い事が判明した。

 ソロでピンチの時はそれなりに役には立つだろうと、弾美に慰められるのだが。SPの消耗も結構高く、連発もしにくいスキル技に美井奈は微妙なリアクション。

 強くなっている筈なのに、何故か腑に落ちないスキルや魔法ばかり集まっている気が。


 くり抜き丸太の巨大ドームは、そうこうしている間にも一行に大きな影を落とし始めていた。目の前には奇妙な平原が広がり、そこを渡らないとドームに辿り着けないようになっているようだ。

 平原の奇妙な所を一言で表せば、それは赤く色付いた突起を持つ植物だろうか。収穫を待つように頭を垂れているのだが、大き過ぎて形状もちょっと怖い。

 試しに誰か、安全性をチェックして来てくれと弾美が言うと。お調子者の美井奈が、自分に俊足と風の陣の魔法を掛け、自分の万能さをアピールしようと進み出る。

 瑠璃が止める間もなく、ミイナ出動。その後の騒動は、ちょっとした見物だった。


『美井奈ちゃん、危ないと思ったらすぐ戻って来てね?』

『あの~、赤い植物が点滅してる風に見えるのは、私の気のせい?』

『美井奈っ、いい所見せようとするのはいいけど、慎重に進めってば。走るなっ、アホっ!』


 雷娘が不用意に入り込んだのは、やはり仕掛けの施されたエリアだったらしく。侵入者を発見した赤い実を持つ植物が、破裂して種子を次々に飛ばし始める。

 その威力で侵入者を始末し、養分にしてしまうという自然界の知恵の発露なのだろうが。人より大きな植物の飛ばす種子の威力は凄まじく、美井奈のHPはあっという間に半減して行く。

 それを一身に受ける雷娘は、平原の真ん中でボロボロに。


『きゃ~っ、何ですかここっ!? 地雷が埋まってますっ、助けて~!』

『だから走り回るなっ! ってか、それを調べるために入ったんだろうが!』


 リーダーの弾美のお叱りで、ようやく大人しくなった美井奈……と思ったら、蟹鋏の食虫植物のトラップに捕まっていただけのよう。更にHPを減らしていく少女は、もはや哀れですらある。

 HPが3割を切ったところで、ようやく雷精発動で罠を脱出した美井奈だったが。慎重に近付いて来た瑠璃に回復を貰った途端に、何かかブチ切れた模様。

 周囲の植物に範囲矢束を打ち込んで、一斉掃討に取り掛かる。何というか、破壊神光臨?


『あ~あ、範囲矢束も安くないのに……ってか、こいつら攻撃出来るのな』

『環境破壊も何のその……? いやいや、安全な道が確保出来て何より?』

『美井奈ちゃん、その……そろそろ泣き止んで?』

『泣いてませんよ、お姉ちゃまっ! ……うえ~んっ(>△<)』


 最後の顔文字で、これは美井奈の母親の沙織さんの悪戯なのかと、皆ちょっとほのぼのとしてみたり。その後に危険区域を脱出して、不必要にMPを消費したルリルリの回復を待っていると。遠くから何かの機械音が、こちらに近付いて来る気配。

 昔は街の自動清掃機として作動していたのだろうか。それにしてはその機械、腕の部分にショベルや植物の蔦を生やしていて、原型を著しく歪められている気もするが。

 美井奈が矢弾で作った道を、そいつは清掃しながらパーティに近付いて来ている。結構大きくて、地面の吸い込み口はキャラ一人位なら簡単に呑み込めそう。

 嫌な想像は大抵当たるもの。パーティをゴミと認知したのだろうか、その巨大清掃機は一行を片付けに襲い掛かって来た。


『うわっ、美井奈が変なNM呼んだっ! 大人しく渡り切ってたら、絶対遭遇しなかっただろうに』

『し、仕方ないじゃないですかっ! ムカっと来たんですからっ!』

『この敵、植物が操ってるのかな? 部位が2つあるね~』


 瑠璃が冷静に指摘した通り、この敵は植物と機械の二部位を持っているらしい。まずは吸い込みやすいようにと、機械のショベルでゴミを細分化する事に決めたよう。

 振り回してきた腕をブロックした弾美だったが、侮れないパワーを持っているようだ。反撃しつつも、今度は鞭のようにしなる蔦の一撃。範囲にいた前衛に強烈なダメージを与えて来る。

 部位モンスターなどの巨大な敵の侮れない所は、攻撃が不意にタゲを持っていないキャラに向く事。弾美は反撃を注意しながら戦闘しているが、瑠璃や薫はたまの範囲を警戒する程度。だからと言って、敵の攻撃をがっつり受ける言い訳にはならないのだが。

 瑠璃が急に消えたのには、一同驚いて姿を捜し求める事態に。


『あれっ、お姉ちゃまっ、どこですかっ!?』

『瑠璃~っ、吸い込まれたのかっ!?』

『うにゅっ……すぐ吐き出されたみたい~、今敵の後ろにいるのかな?』


 言葉通り、トコトコとHPを半減させた瑠璃が敵の背後から姿を見せる。敵の正面にいた訳でもないのに、特殊技の吸い込みに引っ掛かってしまった瑠璃はおカンムリ。

 今度は絶対に特殊技を潰してやると、細剣を片手に《麻痺撃》の準備に余念が無い。先にHPを回復しとけと弾美に忠告されて、少しだけ冷静さを取り戻す瑠璃であった。

 今日は何だか、メンバーの沸点が低いようだ。弾美は別の意味で冷や汗たらり。


 敵の特殊技は、後半いよいよ冴えて来た様。排出口をこちらに向けての、風圧での吹き飛ばし技で、今度は薫が後方に戦線離脱。周囲に植物の地雷が残っていたら、強烈で凶悪なコンボ技だったと安心したのも束の間。

 どうやら美井奈のかんしゃくも、地中の食虫植物までは掃討出来ていなかった様だ。蟹鋏に捕まった薫は、慌ててヘルプの信号を出して来る。美井奈の弓矢で、何とか脱出できたものの。

 怪しげな場所を迂回しての戦線復帰のタイムラグは痛手だったり。


 吹き飛ばしと吸い込み技が、いよいよ後半激しくなって来ると。弾美と瑠璃でのスキル技潰しばかりにも、頼っていられなくなって来た。硬い装甲に手間取っていた削りだが、魔法での攻撃に切り替えた途端に程なく機械部分が没。

 拠り所を失った植物部分は、とうとう奥の手を出して来る。蔦を器用に動かして、ハンマーやシャベル、鉄球やドリルを振り回す凶悪な攻撃に切り替えて来たのだ。

 攻撃を与えて来る者に、漏れなくの反撃が来る仕様はかなりきつい。


『反撃きついな、瑠璃も後衛に下がれ。魔法での攻撃と回復に切り替えてくれっ!』

『了解~、ちょっとだけヒーリング挟むね~』

『私が《風の癒し》を使いますね~、SP貯まったら《貫通撃》行きますよ~!』


 幸い後衛からの攻撃は、反撃も届きようの無い蔦植物。後衛からの容赦のない魔法と弓術の削りが降り注ぎ始めると、機械部分に続いてようやくその活動を止めたのだった。

 インして10分余りの強敵の出現も、何とかケリが付いてホッとする一同。


 ドロップは金のメダルに剣術指南書、雷の術書に水晶玉、体力の果実や精神の果実など。後は古びたバッテリーとかボロボロの地図とか、訳の分からない物ばかり。

 これは何かと相談するパーティだが、入手した地図を広げてみてもやっぱり良く分からない。どうやら廃墟の端にある貯水地に、入り口のマークが為されているようなのだが。

 擦れたマップを見る限りでは、このエリア内なのは間違いない筈である。巨大丸太ドームの丁度反対側に当たるようで、同じエリアなら後で行ってみようとの話し合いに。

 宝の地図ではないかと、美井奈や薫は楽しそうなのだが。


『これが宝の地図なら、絶対に強い番人がいるな!』

『ドラゴンとかですか? お宝を貯めこんでいそうで、いいじゃないですか♪』

『私はちょっと嫌かなぁ? さすがにこのレベルで、ドラゴンは出さないでしょ?』


 そんな事を言われても、弾美には回答のしようも無く。瑠璃は瑠璃で、ドラゴンの出てくる有名な童話の話を披露し始める始末。収拾の付かなくなる前に、弾美は皆を促して慎重にドーム内へと進み始める事に。

 トラップの食虫植物は、あるパターンで地面に生えているようだった。それが分かってしまうと、地中にぴょこって飛び出している茎を見分ける事に集中して歩を進める一行。

 ところが、今度は物理的な方法での足止めのつもりか。段々とモンスターが増えて来て、昆虫やお化け木、ゴーストや壷型の敵が行く手を阻み始める。


 奥に進み始めるにつれ、奇天烈な形のキノコや発光苔が迷路を形成して来るようになった。空中からは定期的にコウモリの襲撃、こちらを疲弊させる気満々である。

 おまけに休息の姿勢になると、周囲のキノコが毒の胞子を飛ばして来る嫌な仕掛けが。久々感のあるヒーリング潰しに、今度は弾美がプッツンしそうになる。

 どうせ近くにボス級の敵がいるはずと探し始める一行。見つけた敵の姿に、一同騒然。


『キノコ魔人だ……格好いいっ?』

『何かユーモラスな中ボスだな……何故に侍装束なんだ?』

『笠繋がりなのかな……ほら、時代劇とかで浪人が被ってる奴とキノコの笠?』

『あそこにはどうやって行くんでしょう? あっ、ここからかな?』


 キノコ魔人は、巨大なキノコの笠のフィールドに直立していた。そこまで行く道を美井奈が見つけ、一行は慎重にそこまで上がって行く。キノコ魔人はノーリアクション、不気味な佇まい。

 一定の距離までキャラ達が近付くと、舞台は途端に賑やかになった。発光苔が頭上のドーム型の屋根をカラフルに照らし出し、菌糸の繊細なオブジェが浮かび上がる。

 いつの間にか鳴り始めたBGMも、何故か歌舞伎調。緊張感があるのか無いのか。


 大きなキノコ笠のフィールドを囲むように、細いキノコが伸びて来て。戦闘用のリングは、いつの間にか形成された様子である。そして先手はキノコ魔人から。日本刀での居合い斬りは、ハズミンのHPの半分を削り取って行く。

 パーティの混乱は一瞬で治まり、弾美と薫がすかさず前衛キープへと動き出す。美井奈は距離を取り矢弾でジャブ攻撃、瑠璃は回復を飛ばしつつ範囲攻撃の警戒。

 範囲攻撃は当然のように起こり、キノコらしい毒胞子攻撃が定期的に発射されるようだ。美井奈の《風の癒し》で何とか被害を最小限にとどめつつ、前衛の削りも順調な様子。

 

 先ほどの敵よりも断然防御力が低いため、何だか楽勝ムードが漂い始めるのだが。そんなに甘くはないよとの意思表示、魔人の再度の特殊技はキノコ召喚だった。

 フィールドにポコポコと生まれるキノコは、毒を振り撒きつつ足元を走り回る。攻撃はして来ないのだが、毒状態は最悪の数値。一定秒毎に10近くずつ減って行くHPに、パーティは絶叫しつつ子供キノコを追い払う。

 瑠璃の《波紋ヒール》も、根本の改善には役立たず。範囲を使えと弾美の言葉に、薫がカードの残りをばら撒き始める。そこに追い討ちをかけるように、砂嵐の矢を使用しての美井奈の《スクリューアロー》が炸裂。

 もの凄い勢いで、矢弾の一撃は範囲に散らばっていた子供キノコを薙ぎ払って行った。


 生き残ったキノコはごく僅か。しかもフィールドの端っこまで飛ばされて、パーティの毒状態は解除された模様である。安堵の通信が湧きあがる中、弾美が《トルネードスピン》からの連続スキル技使用で、キノコ魔人にとどめを刺す。

 残りのキノコも掃討されて、毒状態も魔法で回復。何故かキノコ魔人の死んだ場所には、日本刀が刺さったままになっている。その近くには、小さなキノコが転がっていた。

 クリックすると、宝箱にチェンジ。BGMも元に戻って、良く分からない仕様であった。


『果実ゲットだ~……あっ、刀は両手剣扱いか~。性能いいのに残念だね、弾美君?』

『そうだなぁ、地上に来てから武器交換してないな、俺』

『それは意外ですねぇ、私は矢束を新調出来てますよ』


 ドロップは金のメダルと日本刀、グランドイーターの果実と防毒マスク、土龍の尻尾と薬品類などなど。パーティに利用出来そうな装備は皆無だが、レベルUP果実は目論み通り取得出来た。

 金のメダルも、今夜3つ目の獲得となり。減った分の補充もまずまずな感じ。


 キノコの戦闘用リングも、主人がいなくなったせいか元通り通行可能の状態に。休憩の後、そそくさと抜け出す一行だが、止めに入る雑魚ももうほとんどいない状態。

 問題の赤い果実の平原も、まだ回復の兆しは見せていなかった。植物の地雷に再び通せんぼされては敵わないと、パーティはそこも素早く渡って戻る事に。

 スタート地点まで戻ったパーティは、廃墟で巡ってない場所を地図でチェック。残ったのは、地図にあった西の貯水池を含む施設跡地と、北へと伸びる大通りくらい。

 地図の怪しい場所を目指すか、木の葉集めに集中するか?


『さて、今度はどっちへ行こう? 地図の貯水池か北の通りか、二択だなっ』

『ん~、北はやっぱり最後じゃない? 木の葉が落ちてるとしたら、こっちな気もするけど』

『そうだねぇ、全部廻ってから、最後に北に向かうのがいいのかなぁ?』


 相談の結果、北は全員が最後だと口にしたので。意気揚々と入り口を通り過ぎて西の建物群へ。雑然とした狭い通りを抜けると、さらに廃墟独特の雑然とした景色が広がり始める。

 敵の影を追いかけつつ、たまに2階まで登れる場所などがあると。階段の上に宝箱が設置されていたりするので気が抜けない。中には闇市で買った遺跡シリーズや神水など。

 光の水晶玉や金のメダルをゲット出来ると、メンバーの目の色も変わり始める。一つも逃がしてなるものかとの視線の先に、不意に奇妙な動きをする小さな影が。止まっては動き、動いては不意に止まり、敵意は伺えないが不自然この上ない。

 そんな動きを示す小型のロボットは、美井奈が近付くと完全停止する。


『あらら、お手伝いロボットですか? 止まっちゃいましたよ、お兄さん?』

『何でもかんでも壊すなよ、美井奈』

『私は何もしてませんってばっ! ど、どうしましょう、お姉ちゃまっ?』


 瑠璃が近付いて調べてみると、活動停止したロボットから差し込み式のカードをゲット。地図と同じく、用途は不明のアイテムだ。他にも何かあるかと、皆であちこち探し回るのだが。

 いつの間にやら屋根のある建物群に入り込んでいた一行。まだまだちらほらと、宝箱は微妙に隠されて置かれている様子。誘われるように、しかしマップを確認しつつ、良く分からない探索は続く。怪しい物があるかと言われれば、はっきりしないのだが。

 そもそも、探し物は何だっけ?


 その内に、壊れたトンネルのような通路が、建物の奥へと続いているのを薫が発見した。恐る恐るその細い通路を固まって抜けると、どうやら外に通じているよう。

 古いコンクリート製の貯水池は、奇跡的に水を貯め続けていたようだ。階段を上って行くと、池の中を覗き込めるようになっている。そんな場所に出た一行は、ここが地図のマークポイントだと知ってちょっとドキドキ。

 さらに水の中にうっすらと、閉ざされた遺跡の入り口が見えるのに大興奮。


『むっ、いかにもゲームっぽい仕掛けかなっ? 水を抜いて入りなさいって事よね?』

『なるほど~、見つけただけじゃ駄目なんだ。でも、水はどうやって抜くんだろう?』


 瑠璃が不思議そうにそう言うと、トテトテと水の上を歩いて扉の上まで移動する。皆が謎を解いてくれるのかと期待したのだが、ルリルリはそのままトテトテと歩いて戻って来ただけ。

 拍子抜けの行動に、弾美から紛らわしい真似をするなと苦情が殺到。


『瑠璃っ、何がしたかったんだっ!』

『えっ、何だろう? 水の上を歩けるアピール?』

『お姉ちゃまっ、華麗に謎を解いてくれるのかと期待しちゃったじゃないですかっ!』

『そんなにぱっぱと解けないよ~、もうちょっと辺りを調べてみよう?』


 瑠璃の提案通り、あちこち調べて回ってみると。近くの小屋みたいな場所に、トレード出来る場所とスイッチを発見。スイッチは無反応だったが、電気が通っていないかららしい事が分かった。

 それならばバッテリーのトレードが正解だと、パーティ内で意見が出たのだが。バッテリーは電気が抜け出て貯まっていない様子。まだ何か足りないのかと、探し始める一行。

 施設内のまだ使えそうな部屋を見つけて入り込み、側面に光るランプを美井奈が発見。ようやく見つけ出した装置は、辛うじてまだ生きていた様子なのだが。

 残念ながら、使い方が分からない。


『他に回れそうな場所、ありましたっけ?』

『2階にも上がれないし、この施設は全部回った筈なんだけどな。何か無いか?』

『この生きてる装置に、2箇所ほどトレード出来る場所は見付かったよ? 後は何のアイテムを使うかじゃないかな?』


 装置はチカチカとたまに点灯している程度。それにコードで繋がるように、お手伝いロボが待機モードで鎮座している。美井奈がロボに訊いてみようと、何気ない一言。

 それに呼応して、さっきのカードが使えるんじゃないかと瑠璃が提案。試してみると案の定、ロボは目を覚まして指示を待つ。バッテリーの復活方法を訊いてくれとの、弾美の無茶な振りも。

 電力が足りないとのロボの言葉に、瑠璃は思い切ってある物をトレードする。どうせ間違っても、いきなり壊れる事は無いだろうとの思い切った行動に。

 いきなり生き生きと動き出す装置群。


『うおっ、何したっ、瑠璃? 装置が急に動き出したぞっ!』

『えっとね、持ってた雷の水晶玉を装置にトレードしてみたの』

『えっ……それだけ?』


 呆れるほどの明快な謎解きだが、それで通じてしまったのだから仕方が無い。むしろ、攻撃用のアイテムをここで使うかと、弾美などは驚き顔である。

 続けてトレードしたバッテリーは、無事に充電出来たとログ報告がなされたようだ。とにかくこれで先に進める様になるかもとの話に、しかし弾美が待ったを掛ける。

 廃墟エリアにインして、既に40分以上経つ。寄り道に時間を掛け過ぎると、本末転倒の結果になるかも。


『えっ、それじゃあの水の中の秘密の道を放っておくんですか? それは寝てる間中、ずっと気になっちゃいますよっ!』

『そうだねぇ……エリアに再度入り直した時に、もう一度謎解き用のアイテムが出てくれるかって言うのも不確定だし、このまま最後まで進む方がいいかも?』

『んじゃ、瑠璃の活躍に敬意を表して、このまま進む事にするか。時間足りなくなるかもだけど』


 何も活躍などしてないと謙遜する瑠璃だが、道を開いてくれたのは間違いない事実。復活したバッテリーを小屋の装置にぶち込むと、水の排出装置はちゃんと作動してくれた。

 ムービー演出まで使って、水が排出口から流れ出るシーンを数秒で見せてくれて。お陰で無駄に時間を使って、扉の出現を待たずに済んでホッとしてみたり。

 階段を使って貯水池の底に辿り着いたパーティは、扉をクリック。しかし開かない。


 今度は扉の鍵越しに光を灯せとのログが、クリックした弾美のチャット窓に流れて来た。これ以上一体どうして欲しいんだと、ハズミンはその場で地団駄を踏む。

 各々調べてみて、まだ仕掛けが残っているのかと微妙な顔付きに。瑠璃がおずおずと、光の水晶玉もカバンに入っているけどと申し出て来るのだが。瑠璃の考えが正しければ、メダル計算で既に2枚の出費になる。

 果たして、そこまでして進む価値が?


『あっ……関係ないけど貯水池の底の端っこに、苔の生えたレンガが落ちてたw』

『本当に関係ないな……でも拾っておこう!w』

『さすがクエスト大臣ですね~、薫さん!』

『それより先に進みましょうよ! 水晶玉なんて、戦闘してても消えていくんですから!』


 乱暴な意見だが美井奈の言う通りだと、弾美がオーケーを出して来たので。瑠璃は扉の鍵口に光の水晶玉をトレード。静かに扉は反応して、重々しく隙間を覗かせ始め。その奥に続く通路にも、点々と光が灯り始める。

 中はいかにも昔風のダンジョンみたいな感じで、丁寧に一定の床を踏んだら発動する罠なども取り付けられており。皆できゃいきゃい言いながら、3分程も進んだだろうか。

 ようやく広い場所に出たと思ったら、天井との距離がやけに遠い。


 弾美と薫が、その部屋の造りを慎重に調べ始める。瑠璃と美井奈は、何故か減ってしまっているMPの回復中。なかなかに激しい罠の連続に、苦渋を呑まされた結果だ。

 今回は先頭を歩く弾美も結構引っ掛かったので、美井奈としても文句を言われないとお気楽模様。ポケットの確認などしながら、何が見えるか前衛陣に訊ねてみる。

 暗くてよく見えないが、深い溝がコの字に走っていて進めなくなっているらしい。その奥は低い階段状の小山が見えるのだそうだが。


『ハズミちゃん、入った通路の真横に何か窪みがあるよ? 私の真後ろ』

『あ~、本当だ。前ばっかり見てて、全く気が付きませんでした!』

『粗忽者。瑠璃、調べてみてくれ』


 お兄さんだって気が付かなかったじゃ無いですかとの美井奈の批難声も。軽くスルーされて、瑠璃の報告に耳を傾ける一同。今度は真実を見極めるには炎を灯せとのメッセージ。

 反対側の壁の窪みには、戦いの指南を得たければ相応しき物を授けよとの言葉が。どんだけ搾取するんだとの、弾美の言葉も当然と言えるのだが。ここまで来て引き返すのも業腹だ。

 行けとかやれとか、弾美のちょっと自棄な言葉が飛び交い始める。


 瑠璃が3つ目のお供え物の、炎の水晶玉をトレード。途端に周囲が明るくなって、部屋の構造が丸分かりに。天井から吊るされている、古風なロウソクのシャンデリアに火がついたようだ。

 溝の向こうの段差の頂点には、やはり古風な騎士の姿の悪魔顔のガーゴイルが2体、宝箱を守るように佇んでいた。硬そうな鎧に引き締まった体躯。コウモリのような黒ずんだ象徴的な羽。

 宝箱は段差の頂点に赤い豪華のが2つ、その下の段に普通のが4つほど設置されている。意気の上がる一行だが、もう一つの仕掛けの解き方が分からない。

 恐らくフィールドを分離している溝を消してくれるのだろうが、何をトレードすれば良い?


『ん~っ、余った武器トレードしてみたけど、全く駄目みたい~』

『戦いたければ、相応しい物をトレードしろと言ってるんだろ? まさか命とか差し出せってか?』

『戦いの指南……ひょっとして剣術指南書?』


 薫の言葉に、それなら今日ドロップしたのが2枚あると瑠璃が答える。今日だけでそんなに稼いだっけとの弾美のボケた言葉に、瑠璃はちょっと呆れ模様な返答を送る。

 弾美が配分を指示しなかったから、自分が持っていたのだと瑠璃は言うのだが。このパーティ、自己主張とか欲とかが無さ過ぎだと思うのは、リーダーの弾美だけだろうか。

 誰かが欲しいと言わないと、配分する方も皆のスキル数値など覚えていないのに大変だ。


 瑠璃に文句を返したい弾美だが、ここはぐっと堪えて戦闘準備の指示を出すのが先。敵は2体なので、片方は瑠璃のキープか美井奈のマラソンが前提である。

 もう片方を弾美がキープして、薫と手の空いたアタッカーでさっさと削り切る。そう告げると、それぞれから了承の答えが返って来た。フィールドがマラソン出来る地形になってくれれば良いと、美井奈はちょっと不安そうだったが。

 瑠璃が指南書をトレードすると、溝はきれいにせり上がったブロックで塞がってくれた。


 一安心のパーティは、それぞれ作戦通りに動き出す。《幻惑の舞い》を掛けた瑠璃は、手強そうな敵を一人で果敢に押さえにかかる。弾美と薫も、タゲを取った敵を下段まで誘い込み、ガシガシと殴り始めた。

 美井奈も2つの場所の戦況を観察しつつ、弾美組の削りのお手伝いに矢を射掛ける。たまに前衛に回復を飛ばしたり、瑠璃のHPの確認も忘れずに行っている様子。

 今まで培った、なかなかに統率の取れた美しいフォーメーションだ。


 それが崩れ始めたのは、やっぱり瑠璃から。ガーゴイルの砂塵のブレスからHPを減らした瑠璃は、慌てた様子で《幻惑の舞い》を掛け直そうとするのだけれど。

 一歩遅く、その後に自己回復に繋げようとしたの瑠璃の目論みは潰える結果に。敵の特殊技の、鉤爪飛ばしという技でスタン状態に。ガーゴイルの左腕は、ルリルリに絡みついたまま本体から離れた状態。

 魔法生物らしい技だが、また生えて来ている所が憎たらしい。


『わっ、わっ、鉤爪に捕まっちゃった! 魔法も詠唱不可だよっ!』

『了解です、お姉ちゃまっ! タゲ取りますねっ!』


 美井奈の溜め込んだSPを使用しての、《みだれ撃ち》から《貫通撃》の連続スキル技は本邦初公開。最近の装備でのSPの上昇で、可能になった連続技である。

 ついでにホーリーをぶち込むと、さすがの感情を持たない石魔人も美井奈にタゲを変更する。ダッシュも素早く逃げ出す美井奈、これで瑠璃は安全になった。

 与えたダメージの大きさに、ちょっと楽しそうでもある美井奈だったり。


 弾美達の方は、かなりの激戦を繰り広げていた。何しろ相手の防御力は、折り紙つきの硬さを誇っている。両手武器の薫の攻撃でも、なかなか有効打は与えられない情況だ。

 それでも手酷い反撃を喰らう事もなく、二人掛かりで徐々に敵のHPを減らして行く。気が付いたら、周囲をミイナがマラソンを敢行しており、ヒーリングから蘇ったルリルリが攻撃魔法で手助けに入っていた。

 魔法の効きは素晴らしく良く、硬い外皮を物ともしない。再度の詠唱で、ガーゴイルは飛翔形態に移行。空中からルリルリばかりにブレス攻撃、さらには再度の鉤爪技の披露。

 どうやら、完全に敵を怒らせた模様である。


『わっ、わっ、また怒らせちゃった! 鉤爪飛んで来てまた動けない~!』

『焦るなって、瑠璃。魔法でこっちにタゲ取り戻すから!』

『私は何にも出来ない~! 二人とも頑張って、地上にコイツ降ろして頂戴~!』


 ハズミンが《クラック》を飛ばすが、石魔人は知らん顔。頭にきた弾美は、今度は《風の鞭》での遠隔斬りを試してみる。全く慣れない魔法だが、スキル技の《下段斬り》との併用で、敵の飛行スピードは鈍った模様。

 その後の《闇の断罪》で完全に停止、地上に落ちて来る石魔人。


 薫が張り切って再度殴り始めると、タゲもようやく落ち着いたようだ。弱ったところに瑠璃のとどめの《ウォータースピア》で、1体目のガーゴイルは倒される運びに。

 2体目に移ろうと敵に取り付く一同だが、タゲの横取りには一苦労。美井奈はマラソン中に《スクリューアロー》まで使用したらしく、石魔人もカンカンのご様子振り。

 仕方ないので、美井奈に新魔法の《フェアリーウィッシュ》を掛けて止まってくれと頼み込む。瑠璃が回復にスタン張っているし、雷精もいるから恐らく死にはしないだろう。つまりそれは死ぬ寸前まで追い込まれる事を意味するのだけれど。

 それでも恐々と、美井奈は止まって魔法詠唱を開始。


 ところが今回の光の粒子達は、美井奈が殴られるのを黙って見てはいなかった。巧みに敵の攻撃をブロックして、本体の美井奈の命を懸命に守ろうと見事な活躍である。

 なる程、こんな魔法なのかと周囲から感嘆の声が上がる中。弾美と薫の懸命の削りに、何とかガーゴイルもソワソワとし始め。光の粒子が1つ2つと消滅する頃に、ようやく弾美がタゲ取りに成功する。

 ここまで来たら、後は何とかこちらのペースで削り切る事に成功して。戦闘終了を喜び合うコメントが、程なく数分後にパーティ間を飛び交い始める。


『やった~、鍵が2個出たのは、赤い宝箱のだよね?』

『だなっ……こんな色のは初めて見たけど、何かいいの入ってそうだな!』

『お兄さんっ、使えそうな片手剣も出てますよっ! 良かったですねぇ!』

『ここまで水晶玉3つと指南書1つ使っちゃった訳だから、それに見合う報酬だといいね~』


 確かに瑠璃の言う通りである。ガーゴイルは赤い鍵の他にも、石割りの剣と闇の秘酒、土の水晶玉などをドロップするも。全然報酬の釣り合いは取れていないのが現状。

 普通の色の宝箱からは、光の術書にバトルグローブ、グランドイーターの果実に命のロウソクをゲット。待望の赤い宝箱からは《複合技の書:竜技》と天使の呼び鈴というアイテムが。

 2つとも超レアな予感は間違い無いが。竜技とは何だろうとどよめく一同。

 ――石割りの剣 攻撃力+19《耐久10/10》

 ――バトルグローブ 攻撃力+3、HP+8、防+12


 この戦闘で、薫が26にレベルアップ。果実も使えばとの言葉にも、ひょっとして村っちが困っているかもだから、良ければ融通したいとの話。弾美もそれには簡単に同意。

 2個とも上げても良いと、こちらも全く欲のない答えだったり。


『ありがと~、弾美君……それより、反対側にもまだ扉があるの知ってた?』

『えっ、この先まだあるんですか? もうそろそろこのエリアで1時間経っちゃいますよね?』

『う~ん、この先に敵がいたとしたら、強敵な気がするけどなぁ。帰りの魔方陣があるだけとか?』

『ヒーリングしてるから、仕掛けだけでも調べてみて、ハズミちゃん』


 扉には絶対に仕掛けがあるとの前提で、ヒーリング中の瑠璃が問うて来る。調べてみると案の定、最終の試練を受けるには命を捨てよとのメッセージが流れて来て。

 扉の左にトレード出来る窪みがあり、右側の窪みには闇にて退路を閉ざせとのコメントが。再びのダブルの謎解き試練に、今度もみんなで解こうと意気揚々なメンバー達。

 しかし美井奈の答えは頓珍漢過ぎて、参考にならず。


『命を捨てるって……仲間内で攻撃し合えませんしねぇ、このゲーム。友達が言ってましたけど、出来ちゃうオンラインゲームもあるらしいんですけど』

『それが出来たら、美井奈が生贄候補だな……』

『なんでですかっ! 私はちゃんと役に立ってるじゃないですかっ!』

『んと……素直に考えると、命のロウソクで良いんじゃないかな?』


 結局は瑠璃の推理力におんぶに抱っこで、次の部屋への扉開けとなってしまった。右の窪みは闇の水晶玉で良いだろうと、順番を迷いつつも先にトレード。

 部屋がいきなり暗くなって、溝が再び退路を断ってしまったのには一同驚いたが。これで完全に前に進むしか無くなった訳である。用意を整えて、瑠璃が扉を開けに掛かる。

 次の部屋も、かなりの大きさだった。そしてその中にいる敵も、遠目から見たら小山のよう。


 強制動画の挿入も、久々に思える気もするが。これ程の強敵相手だと、盛り上げ効果も必要ない気もしたり。ゆっくりと首をもたげた生き物の双眼が、鈍い光を放ってこちらを見遣る。

 光沢のある灰色の鱗が、部屋に灯る明かりに反射する。鋭い牙が口元から覗いた時、まるで犠牲者を望むようにクローズアップされて、その良く出来た映像は終わりを告げた。

 パーティはもちろん騒然、美井奈が招いたと批難も殺到。


『うわ~っ、美井奈ちゃんが番人を指定しちゃうから、招いちゃったよ~!』

『どうしてくれるっ、美井奈っ! ってか、改めて見ると目茶苦茶でかいなっ!』

『メイン世界でも数度しか見たことないね~! 勝率はちょっと言えないけど……』


 瑠璃の言葉も当然で、今まで3回蒼空ブンブン丸で戦って、1回しか勝った事が無いと言う有り様だ。団長の弾美にしても、苦々しい記憶。しかも、余り思い出したくない類いの記憶である。

 それでも出て来たものは仕方が無い。何しろここに辿り着くまで、一体幾つのアイテムを犠牲にして来たか。是が非でも倒して、その元を取るのみである。

 弾美がそう宣言すると、パーティのヤル気度も上昇して行く。勢い込んで、戦闘開始!


 攻撃範囲内に飛び込むと、いきなりの炎のブレスがハズミンを襲って来た。それを予想していた後衛組が、すかさずヒールを飛ばして回復を行う。タゲ取りもこれだけ大きい敵だと、攻撃の当たる範囲が見極め難く大変である。

 前衛が順次取り付くと、いよいよ勇んで削り始めるパーティ。瑠璃も、普段はMPコストを考えて使わない《ウォーターミラー》まで使用して、ダメージの軽減を図る。

 宝物庫の番人は、容赦のない攻撃力と体力で一行に立ちはだかる。数の優位など無いに等しい程だ。

 

 硬い鱗は、普通に殴っていても武器の耐久度を消耗させて行く仕様となっている。戦闘が始まって数分は経過したが、まだまだドラゴンのHPは旺盛である。

 反対にパーティは、牙と尻尾とブレスのローテーションの攻撃で、徐々にジリ貧に追い込まれて行く。魔法やスキル技のスタンでは、竜のブレス攻撃は全く止められない。

 ドラゴンの強さの一端たる所以の、スタンや毒攻撃無効化である。


『ハズミちゃん、回復が追いつかないよ~! ヒーリングしていい?』

『ちょっと長丁場になりそうだな、オッケ~』

『回復足りなさそうなら、さっきの天使の呼び鈴使うよ?』

『瑠璃ちゃん、お願いっ! 尻尾がガンガンぶつかって来るのよ~!』


 とにかく回復の手が足りないパーティは、とうとう先ほど手に入れた天使の呼び鈴を使用。ピヨッと出現した天使は、細剣を手に凛々しく戦場に立つ。

 パーティの希望は回復支援なのだが、天使はそんな事はお構い無しにドラゴンに斬り掛かって行く。よく見れば、光の粒子が3つ付き添っており、天使の動きをサポートしているようだ。

 薫の叫び声に呼応するように、ようやく回復魔法も使い始める天使。どうやらパーティメンバーのHPが5割に近くなると使用するようだ。

 ポーションの残り少ない一行には有り難い恵み。瑠璃の復帰で、攻撃に幅も出てくる。


 ドラゴンに変化が出て来たのは、敵のHPがようやく7割まで減った時だった。鱗の色が赤へと変わり始めたと思ったら、急に上体を起こして翼をはためかせ始める。

 何事かと見守る一同だが、距離を詰めるのはちょっと怖い。あの巨体に踏み潰されたら、どんな結末が待っているのやら。竜は歯軋りのような音を口から発しており、やがて手前の空間に3体の骸骨兵士を召喚した。

 骸骨兵士は骨の隙間から炎を吹き出し、両手持ちの大鎌を振り上げてパーティに襲い掛かる。


『わ~っ、竜の召喚魔法っ? この現状で、それは反則だよっ!』

『ドラゴンは俺と天使で何とか抑えておく! 範囲アイテム全部使っていいから、雑魚頼むっ!』

『りょ、了解っ! 雑魚と言っても、骸骨強そうだけどねっ! 時間掛け過ぎると弾美君が持たないから、アイテムケチらずに速攻で片付けようねっ!』

『妖精も召喚するね~、1回使ったけどまだ壊れてなかった!』


 そこからはまさに総力戦。呼び鈴で召喚された妖精も乱入して、更には範囲アイテムの水晶玉やカードが乱舞する。殴り合っているのはカオルと炎の骸骨兵士、そしてハズミンと竜の2ペアのみ。フリーの骸骨は、ふらふらとミイナを追い掛け回している。

 気付いたら、炎の骸骨兵士もドラゴンも、HPは半分を割っていた。ドラゴンは骸骨兵士の召喚の代償に、HPを数割ほど減じていたようだ。

 戦況はと言えば、弾美の回復手段のポーションと瑠璃のMPが、いよいよ危うくなって来た感じ。走り回る骸骨兵士に水魔法で攻撃を行う瑠璃は、エーテルもほぼ使い切る勢い。


 何より、召喚された天使もいよいよ虫の吐息。HPが半減したドラゴンは、防御力は下がって来た代わりに、攻撃力とブレスの威力が徐々に増して来ているのだ。

 弾美の悲鳴と共に、とうとうドラゴンの尻尾攻撃を受けて消滅してしまう助っ人天使。ポーションも使い果たしてポケットに無い今、ソロではとてもドラゴンの相手は無理。

 絶望感が漂う戦場に、しかし天使の残した奇跡が2つ。


 最初に気が付いたのは瑠璃だった。ルリルリの頭上に天使の輪っかが出現し、MPがちょっとずつ回復して行く。次に美井奈が、周囲に飛び交う3つの光球を確認。

 唱えていない筈の《フェアリーウィッシュ》と同じ効果を確信した少女は、立ち止まっての《スクリューアロー》に踏み切る。砂嵐の矢の効果で、2匹の骸骨がダメージと同時に吹き飛ばされる。

 美井奈は更に、ウィンドウから闇の秘酒を使用。全回復したSPで更に複合スキルを放つ。


 何がきっかけなのかは分からないが、ミイナの攻撃と同時に、3つの光球も矢の軌道を描いて敵に突き刺さって行った。威力は凄まじく、怒涛の追い込みに炎の骸骨兵士2体が消滅。

 もう1体も、瑠璃の輪っかをまとった複合スキルの《アイススラッシュ》に呆気なく蒸発して行った。もの凄い効き目に感動している暇も無く、全員が慌てて弾美のサポートへと舞い戻り。

 ハズミンのHPは3割まで減っていて、妖精の支援もスズメの涙。瑠璃は最後のエーテルを使用してMPを回復、弾美に回復魔法を飛ばしてHPを安全圏に引き上げる。

 それでも相変わらず、危ない状況に変わりは無いのだけど。


『後はコイツだけ~っ、攻撃通る様になったけど、向こうの殴る力も上がってるね~!』

『コイツ《シャドータッチ》すら効かないっ! 後3割、何とか削り切れ~っ!』

『お姉ちゃまっ、私のエーテル使って下さい!』

『有り難うっ、美井奈ちゃんっ!』


 嫌な特殊技を使って来る敵も手強いが、何よりこちらのスタン技や魔法が全く効かない相手というのも難儀だと言わざるを得ない。薫が最初使っていた《炎属性付与》の魔法は、追加で炎ダメージを与える効果があるのだが、それすら完全に無効化されてしまっていたのだ。

 瑠璃の水系の攻撃魔法なら、ひょっとしたらある程度ダメージが通るかも知れないが。回復ばかりにMPを割いているので、攻撃に回す余裕など無いのが現状である。

 それでもようやく敵のHPは2割を切った。後衛のMPも微妙な所、何とか持って欲しい……と思っていたら最悪の事態が。


 2時間縛りの発動で、ヒーリング中だった瑠璃は強制的にその行為を中断させられる。ダメージを負っている状態では、休息は一切出来ないゲーム仕様なのだ。

 パーティ内に悲鳴が飛び交い、これはいよいよ腹を括るかという空気が流れ始める。諦めを良しとしない前衛達が、半分ヤケでの踏み込んでのスキル技発動。懐に飛び込んだのが、結果的に幸いしたようだ。

 竜は対象を一瞬見失い、牙の攻撃を空振りしてしまう。


 そこに美井奈が《みだれ撃ち》からの《貫通撃》をお見舞いする。炎の神酒まで飲んでしまった雷娘のダメージは、フィニッシャーとして面目躍如である。

 さらに2本目の闇の秘酒を使用して、今度は《スクリューアロー》を見舞う。ドラゴンのHPが残り1割を切ったので、何とかなると踏んだのだろう。しかしドラゴンは吹き飛ばされもせず、逆に美井奈との距離を詰めて来る結果に。

 反撃のブレスでこんがり焼かれてしまったが、弾美が《トルネードスピン》でしっかりタゲを取り戻す。既にパーティのHPは、全員仲良く危険区域に突入している。


 再度のドラゴンの牙攻撃が、ハズミンのHPを赤表示に追い込んだ。その攻撃と刺し違えるように放った弾美のスキル技が、とうとうドラゴンのHPバーを消滅させる。

 どうっと倒れこむ巨体に、歓喜に湧くパーティだったが。残りのエーテルを融通し合っての回復が先と、大喜びには至らないのが悲しい所。前衛が保険に持っていたエーテルが、瑠璃と美井奈に渡される。それからようやく、安堵と歓喜がパーティに吹き荒れる。

 喜び合う一同の前には、お待ちかねの宝箱の山が。


 まずはドラゴンのドロップした武器や装備の数々。龍鱗の盾や龍鱗の鎧、赤龍の大槍や炎の術書や水晶玉など。他にも薬品類がちょっと、ギルと経験値は上等の部類だ。

 部屋の奥にあった宝箱の山は、見ているだけでとても幸せな気分になってしまう程。美井奈が記念写真を撮るから並んでくれと注文を言って来るが、その気持ちは重々分かるメンバー達。

 ようやく美井奈の許可が下りて、ポコポコと宝箱を開けて行く一同。ギルや術書や水晶玉の入ったのが10個程度。更に金のメダルに関しては、何と7枚の大盤振る舞い。

 当たりの箱には、カメレオンジェルやレベルUP果実が入っていた。


 一同を驚かせたのは、段の上にこれ見よがしに置かれた赤い豪華な宝箱2つだった。ドラゴンの落とした鍵でそいつを開けると、出て来たのは2つの宝珠だったり。

 炎の宝珠は分かるのだが、もう1つの竜の宝珠と言うのは誰も聞いた事も無い。

  

 先ほど入手した《複合技の書:竜技》と併せて使用するのだろうとの推測は立つのだが。何しろ複合スキル取得の条件が、武器スキル60、竜スキル10と明記されているのだ。

 危険に見合った報酬だとは思うが、どんなスキル技なのだろう?


『もう開け忘れはないかな? 衰弱がそろそろ不味いから、戻ろうよハズミちゃん』

『そうだな……美井奈、もう写真はいいな?』

『今日はいっぱい撮りましたよ~! 今度見せてあげますねっ!』


 パーティは部屋の隅にあった転移の魔方陣を無視して、転移の棒切れで中立エリアへ戻る事に。下手な場所に放り出されて、毒状態で戦闘に巻き込まれる事を恐れたのだ。

 時間も夜の10時をとうに過ぎている。明日が休みの美井奈は良いとしても、学校のある弾美と瑠璃はそろそろ落ちたい所。薫も先ほどまでの冒険の興奮を引きずりながら、分配は明日にして今夜は落ちようかとの提案。

 それに従う形で、今夜の冒険はこれにて終了。


 それにしてもと、弾美は先ほどまでの興奮を引きずったままに思う。ゲームでこれほどワクワクしながら明日を待ち遠しく感じたのは、いつ以来だろうか?

 初めて見るスキル技の出現は、それ程パーティを熱狂させたのだったが。考えてみたら、肝心の葉っぱ取りは失敗に終わっていたと言う、この顛末は如何なものか。

 明日も同じマップを巡るのかと思うと、ちょっとうんざりな気にもさせられるのだが。





 ――何となく、竜の宝物に包まれたような眠りにつけそうな夜の出来事だった。


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