表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/37

♯15 パーティ初の裏エリア!

 朝の散歩もそうだったが、ようやく元気を取り戻したマロンとコロンの兄弟犬の散歩の同行に。何となく、飼い主の弾美と瑠璃の気持ちもウキウキである。

 ペットも家族の一員、当然と言えばそうかもなのだが。


 美井奈が瑠璃の隣で、はしゃいだ声を上げている。今日も学校の終わりに合流して、家まで一緒に歩いて来たのだった。日曜のしんなりした感じは完全に払拭されており、これには弾美と瑠璃も一安心の様子。

 代わりにちょっと心配しているのは、美井奈と薫のファーストコンタクト。待ち合わせの夕方の公園で、薫は元気に手を振って一行に合流を果たすのだが。

 美井奈の様子がちょっとヘン。厳しい目付きを作って、新メンバーを観察してみたり。


「はじめましてっ、あなたが美井奈ちゃんね……可愛いっ!」

「……あなたが薫さんですか。何か大学院に通う優秀な方って聞いてましたけど、ちっともお洒落じゃないですねぇ」

「えっ、そうかなっ……一応この服、お出かけ用なんだけど」


 戸惑う薫の服装は、いつものジャージ姿よりはかなりマシなのだが。おしゃまな小学生から見れば、部屋着と大差なく見えても仕方ない。荒いざらしのジーンズに白いTシャツ、その上にクリーム色の上着を羽織っているだけ。

 何と言うか、コロンにじゃれ付かれても被害は無い程だ。

 

「アホだな、美井奈。都心の洒落た文系短大生じゃあるまいし、実験やレポートに追われる理系の大学在校者が、お洒落に気を遣ってる暇なんかある訳無いだろ」

「そうですかねぇ……それでも人に会う時には、それなりの格好ってモノがあるじゃないですか」

「普段はボロボロのジャージに白衣で歩き回ってるんだ、勘弁してやれ。寮生活で、バイトもしてないんだ。服買う余裕もある訳ないだろ」


 そこまで言われる謂われも無いのだが。弾美の言葉はほぼ当たっているので、言い訳の仕様も全く無い。たまに校外でばったり会うのだが、その時の格好を強烈に覚えられていた様だ。

 瑠璃が同情に似た視線を送って来るのが非常に痛い。確かに毎月、仕送りの中でのギリギリの生活を送っているのも確かな話。家に無理を言って、大学院まで上がってしまった身分なのだから、仕送り額に文句など言えた義理でもない。

 そこら辺の事情を初対面の子供に話す訳にもいかず、もじもじする薫。


 マロンとコロンは公園で勝手に遊び始め、時折遊びに誘うように弾美たちの間を駆け抜けて行く。言い訳じみた説明を受けた美井奈の顔は、それでもなおも納得いかない様。

 弾美が美井奈の頭をくしゃくしゃと撫でて、少女のご機嫌を取ろうとする。要するに、新しく入ったメンバーに強く出て、順位付けを確定させたいのだろうと察するのだが。

 それでもやっぱり子供らしく、弾美にちょっかいを掛けられると嬉しそうに声を上げて、瑠璃の方へと逃げて行く。それから、いい所も見てやれと弾美に諭されると。

 難しい顔をして、薫をジロジロ。


「……む、胸が大きい所?」

「あ~……薫さん、胸大きいよねぇ」


 少女二人が、羨ましそうに薫の胸元に目を遣る。弾美は何と返答して良いのやらと、ちょっと醒めた様子。薫はひたすら恥ずかしそうに、自分の胸元を隠してみたり。

 とにかく四人でパーティを組むと決めた手前、皆で仲良くやって行かないといけない。弾美はその四人のリーダーなのだから、色々と難しい舵取りもこなさなければ。

 美井奈はあれでも少女らしく、多感でちょっと扱いにくい所がある。なにしろ一人っ子で育って来たので、我が侭が顔を覗かせる時がしばしばあるのだ。

 そんな少女に、前衛で操作の上手なプレーヤーは是非必要なのだと道理で攻めても、かえってむくれるだけのような気がする。美井奈より前に知り合っていると言う点でも、恐らく気に入らないのだろう。

 弾美にしてみれば、頼りない美井奈の穴埋めを実力者にして欲しいのが本音。


 瑠璃が必死に、薫のフォローに回っているのだが。美井奈の偏見から入っているいちゃもんなので、道理によって矛先を収め難い面もあったりする感じである。

 それでもお姉さんと慕う瑠璃から皆で仲良くしようと言われれば、自分の我が侭を通す訳にも行かず。渋々と言う感じで、自分から薫に握手を求める少女。

 取り敢えずは休戦的な雰囲気に包まれる、最年長と最年少の二人。


「薫っちは、最後のパーティメンバーだからなぁ。みんなと早目に打ち解けるために、次の日曜日にでも薫っちの所で合同インを企画するかっ」

「ええっ、うちは大学の女子寮だよっ? そりゃあ、遊びに来るのは構わないけど……とっても狭いし、ちょっと掃除もしないと駄目かも……」

「大学の寮ですかぁ……私ちょっと、大学の中とか見て回りたいかも?」

「私のマンションからも近いですけど……裏山に眺めの良い神社とかあって、散歩にもいいんですよねぇ、あそこら辺はっ」


 弾美の週末の合同インの提案で、会話もようやく程よく盛り上がって来た。女性陣も、大学やその周辺の区域の情報交換では、結構言いたい事が多い様子。

 マロンとコロンの兄弟犬も、そろそろ放ったらかしには飽きたよう。いそいそとご主人の元に戻って来て、家に帰って水を飲ましてくれのサインを送って来ている。

 何とかギクシャクした雰囲気から脱した一同は、それをきっかけに弾美の家へと移動する事に。今日のインの予定などを話し合いながら、ゆったりとした歩調での移動。

 四人での冒険は、地上エリアで既に体験済みなのだし。弾美はあまり思い煩わない事に。


     *     *


 昨日の2つの地上エリアの冒険で、めでたく28にレベルアップしたハズミン。闇のスキルも50の区切りを迎え、新しい魔法の《闇の断罪》を取得した。近距離使用に限られるが、ダメージに加えてスタン効果も与える、使い勝手の良い魔法である。

 装備ではベルトの交換で、様々なステータスが上昇した。ポケットの数は1つ減ったものの、総合力では確実にアップしている感じに、本人も満足そう。


 名前:ハズミン 属性:闇 レベル:28

 取得スキル  :片手剣55《攻撃力アップ1》 《二段斬り》 《下段斬り》 

                  《種族特性吸収》 《攻撃力アップ2》 《複・トルネードスピン》

           :闇51《SPヒール》 《シャドータッチ》 《闇の断罪》 

               《グラビティ》 《闇の腐食》

           :風23《風鈴》 《風の鞭》 :土23《クラック》 《石つぶて》

 種族スキル  :闇28《敵感知》 《影走り》 :土10《防御力アップ+10%》


 装備  :武器 魔人の剣 攻撃力+17《耐久14/14》

      :盾 豪奢な大盾 体力+4、防+12《耐久8/8》

      :筒 大麻袋 ポケット+3、HP+5、SP+5%

      :頭 暗塊の兜 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+15

      :首 鬼胡桃のペンダント HP+8、体力+2、防+6

      :耳1 砂塵のピアス、土スキル+3、体力+1、防+3

      :耳2 遺跡のピアス 器用度+1、HP+5、防+2

      :胴 ゾゲン鋼の鎧 体力+2、HP+8、防+12

      :腕輪 暗塊の腕輪 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+15

      :指輪1 サファイアの指輪 腕力+3、SP+10%、防+5

      :指輪2 古代の指輪 体力+1、防御+5

      :背 砂嵐のマント 風スキル+3、敏捷度+4、防+8

      :腰 獅子王のベルト ポケット+2、攻撃力+4、HP+15、防+8

      :両脚 魔人の下衣 攻撃力+3、体力+2、腕力+2、防+10

      :両足 暗塊のブーツ 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+10

 


 ルリルリは装備の変更は全くなし。ただし、レベルの上昇などのMP上昇で、条件付きながら《エンジェルリング》を詠唱出来るようになったのは大きいかも。

 まだまだ謎の多い呪文なのだが、パーティの呪い解除効果は前回立証された。他にも何かありそうなのだが、MP消費量が多すぎてホイホイ使えないのが痛い。

 術書で覚えた新しい水系の魔法の《波紋ヒール》により、範囲回復が可能になった。癒し手としての立場が更に向上、縁の下の力持ちキャラの立場は磐石である。



 名前:ルリルリ 属性:水 レベル:26

 取得スキル  :細剣42《二段突き》 《クリティカル1》 《麻痺撃》 

                 《幻惑の舞い》 《複・アイススラッシュ》

           :水50《ヒール》 《ウォーターシェル》 《波紋ヒール》 

               《ウォーターミラー》 《ウォータースピア》 

           :光30《光属性付与》 《エンジェルリング》 《ライトヒール》

           :氷30《魔女の囁き》 《魔女の足止め》 《魔女の接吻》

 種族スキル  :水26《魔法回復量UP+10%》 《水上移動》


 装備  :武器 天使のレイピア 攻撃力+14、知力+2、MP+8《耐久14/14》

      :盾 大亀の大盾 耐水魔法効果、防+10《耐久15/15》

      :筒 大麻袋 ポケット+3、HP+5、SP+5%

      :頭 流氷の髪飾り 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+8

      :首 サファイアのネックレス 腕力+3、SP+10%、防+5

      :耳1 天使のピアス 光スキル+3、知力+2、MP+8、防+3

      :耳2 流氷のイヤリング 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+5

      :胴 薔薇のローブ ポケット+2、HP+10、MP+10、防+9

      :腕輪 ゾゲン鋼の手甲 体力+2、HP+6、防+10

      :指輪1 光の特級リング 光スキル+4、HP+15、攻撃距離+4%、防+4

      :指輪2 水の指輪 水スキル+3、精神力+1、防+1

      :背 クモの巣のマント HP+7、MP+7、防+7

      :腰 マジックベルト ポケット+3、MP+2、防+2

      :両脚 流氷のスカート 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+10

      :両足 ゾゲン鋼の戦靴 体力+2、HP+6、防+10

 


 前回防御力の低さを露呈してしまったミイナだが、星人装備との交換でちょっとはマシになった感じである。更にクエで貰ったベルトに交換して、ポケットや防御力が増えた。

 攻撃力が高いので目立たないが、実はパーティで一番武器スキルの低いミイナ。しかし後1つレベルが上がれば、何とか4つ目のスキル技を習得出来そう。

 何だかんだと言われつつ、期待を持たれている削りキャラである。その点では、本人も進化の頂点を模索中だったり。



 名前:ミイナ 属性:雷 レベル:25

 取得スキル  :弓術38《みだれ撃ち》 《貫通撃》 《近距離ショット1》  

           :光36《ライトヒール》 《ホーリー》 《フラッシュ》 

           :雷22《俊敏付加》 《俊足付加》

           :風10《風の陣》 :水10《ヒール》

 種族スキル  :雷25《攻撃速度UP+3%》 《雷精招来》


 装備  :武器 大樹の長杖 攻撃力+11、知力+3、MP+20《耐久12/12》

      :遠隔 雷鳴の弓矢  攻撃力+17、器用度+4、敏捷度+4《耐久12/12》

      :筒 貫きの矢束 攻撃力+14

      :頭 飛竜の兜 敏捷度+4、腕力+2、HP+10、防+8

      :首 幸運のお守り ポケット+2、移動速度UP、耐呪い効果、防+2

      :耳1 血色のピアス 耐呪い効果、HP+10、防+2

      :耳2 金のピアス 敏捷度+2、MP+4、防+2

      :胴 星人のローブ 光スキル+2、闇スキル+3、MP+12、防御+12

      :腕輪 星人の腕輪 光スキル+2、闇スキル+3、MP+8、防+8

      :指輪1 遺跡のリング 器用度+2、HP+5、防+3

      :指輪2 サファイアの指輪 腕力+3、SP+10%、防+5

      :腰 複合素材のベルト ポケット+4、器用度+4、MP+8、防+6

      :背 砂嵐のマント 風スキル+3、敏捷度+4、防+8

      :両脚 鉤爪付きの腰布 雷スキル+2、器用度+1、防御+7

      :両足 編み上げブーツ 攻撃力+3、防+6

 


 武器スキルがレベルアップと共に、急激に上がっているカオルだが。新しく覚えたのは補正スキルの《クリティカル1》である。突きの武器には出易いとは言え、本人はもっと強いスキル技を覚えたかった模様である。

 魔法系は全く伸ばしていないので、そちらに関する変更は無し。レベル20で覚えた種族スキルの《魔法詠唱速度+6%》が、少しと言うかかなり勿体無い気もするが。

 ポケットが最大の12まで伸びた事は嬉しいが、前衛だけに防御力の高い装備に交換したい気もする薫である。削り力は今の所問題の無いレベルと太鼓判を押されているだけに、他を伸ばしたいと思うのは当然かも。

 パーティに加入して、今の所可もなく不可もない働き振り。問題児のミイナをフォローしてくれればもっといいと、リーダーのハズミンは思っているとかいないとか……。



 名前:カオル 属性:風 レベル:23

 取得スキル  :長槍52《二段突き》 《攻撃力アップ1》 《脚払い》 

                 《石突き撃》 《クリティカル1》

           :炎15《炎属性付与》 :雷15《俊敏付加》 :風13《風鈴》

 種族スキル  :風23《回避速度UP+3%》 《魔法詠唱速度+6%》


 装備  :武器 トライデント 精神力+2、攻撃力+25《耐久11/11》

      :筒 絹の腰袋 ポケット+4、HP+10、SP+10%

      :頭 迅速の兜 炎スキル+4、雷スキル+4、器用度+2、防+7

      :首 金のネックレス 敏捷度+2、MP+8、防+3

      :耳1 遺跡のピアス 器用度+1、HP+5、防+2

      :耳2 銀のピアス 器用度+2、HP+4、防+2

      :胴 超プニョンの赤鎧 火スキル+3、腕力+2、防+14

      :腕輪 迅速の腕輪 炎スキル+4、雷スキル+4、腕力+2、防+7

      :指輪1 迅速の指輪 炎スキル+3、雷スキル+3、防+4

      :指輪2 遺跡のリング 器用度+2、HP+5、防+3

      :腰 迅速のベルト ポケット+3、器用度+2、防+7

      :背 迅速のマント 炎スキル+4、雷スキル+4、防+7

      :両脚 迅速のズボン ポケット+2、腕力+2、防御+7

      :両足 迅速のブーツ 腕力+3、器用度+3、防+7



「4人での合同インは初だな、今日はどこを廻ろうか?」

「美井奈ちゃんの強化に、裏エリアに行くんじゃなかったっけ?」

「えっと、裏エリアの情報も、私集めておいたよ?」


 6畳の部屋に4人のプレイヤー。最初の位置取りのごたごたからやっと解放され、予備モニターの数も4つとなると。やはり、ちょっと手狭な感も出て来るのは仕方の無い事。

 ぎゅうぎゅう詰めとまではいかないが、お互い肩が触れ合うくらい。右端から薫、弾美、瑠璃、美井奈の順番なのは、弾美のモニターを動かすのが不向きなタイプな為の配慮。

 弾美としても、全員のモニターをチェックし易いのは文句ないのだが。


「何か、女性率が異様に高いパーティになったな……」

「そうですねぇ……こういうのをハーレムパーティって言うんですか?」

「そんな単語、良く知ってるねぇ、美井奈ちゃん……」


 そんな笑えない話も交えながらの、昨日の戦闘での戦利品の整頓や妖精チェック。クエ大臣の薫からも、昨日のクエ報酬をちゃんと貰わないととの提言があって。架空世界でのごたごたも、それなりに収拾が大変な様子。

 忘れない内にクエの報酬を貰おうかと言う話になって、改めて薫を先頭にNPCの元を廻る事に。昨日はNMを倒した後、エリア脱出してそのまま全員落ちたのだ。


 迷子の研究者からは報酬5千ギルのお礼をれぞれに、工具のお礼には炎の神酒を、レンガ持ち帰りの報酬は1千ギルだったが、どうやら連続クエのようで、他にもあったら持って来てくれと頼まれてしまった。

 妖精の泉での水汲みの報酬には、何と金のメダルを貰いかなり恐縮する一行。何しろ、本当は清浄な場所でも何でもないとの、妖精のお墨付きだったのだ……。


「これは……ちょっと気まずいねぇ。詐欺みたいな結末じゃないの」

「本人が嬉しそうだから、いいんじゃないのか? 信じるものは救われるって昔から言うし」

「それはそれで、エセ宗教みたいな話になっちゃうじゃないですかっ」

「う~ん……メダルを有効に使う事で、この人も喜んでくれるんじゃ無いかなぁ?」


 何とか上手に締めようと、前向きな言葉を継いでみる瑠璃だったが。報酬を返す手段もない訳だし、貰っておく事に。それから弾美は、報酬の総合計をカバン大臣に訊ねてみる。

 昨日の結果は、最後のNM戦でハズミンが28にレベルアップしたのを含めて上々だった。


 へそくりニャンコのドロップは興奮モノで、何と金のメダルだけで8枚! 更にお金を8万ギル、土の術書と水晶玉、カメレオンジェルまで落としたと、カバン大臣は報告する。

 昨日の2エリアだけで、何と金のメダル15枚も入手してしまったパーティ。何より瑠璃が喜んだのは、ギルの補給が出来た事。闇市やタウロス族の集落で装備をたくさん買い込んでしまったために、パーティ財産が4万ギルを割り込んでいたのだ。

 廃墟エリアと星の鍵エリアでのクエストは、そんな感じで上々の制覇具合だった。


「うわあっ、金のメダルが40枚超えちゃった。美井奈ちゃんにカメレオンジェルを買って上げても、まだまだ余裕だねぇ……」

「美井奈が昨日出た装備、胴と腕を固定解除して交換したんだろ? 今日出た装備次第で、足と背中も解除していいぞ」

「えっ……そんなにメダルを注ぎ込んで貰っても、ちょっと心苦しいものが……」

「でもまぁ、また泣かれちゃ困るからな」

「なっ、泣いてませんよっ! 誰ですかそんな事言ったのはっ、お母ちゃまですかっ!?」


 真っ赤になって否定する少女だが、慌てるその動作でバレバレなのがちょっと悲しい。瑠璃が隣で必死にフォローなどしつつ、恒例のイン前の薬品補給も同時に進めて行く一行。

 少女はなおも納得が行かない様子だったが、今日の主役は美井奈だと薫や瑠璃が巧みに持ち上げると。途端に頬を紅潮させて、満更でもない顔付きを見せる。

 いよいよ弾美が闇市で裏エリアのチケットを購入すると。初のステージ攻略に、一行のドキドキ感は否応無しに増して来る。その裏エリアのチケットは、たった1枚がメダル5枚もするらしい。

 果たしてこの入場券、高いのか安いのか。

 

 扉前で薫が、闇市にいた情報屋から買った情報を皆に報告して来る。持って来たノートには、結構びっしりと書き込みがされていて、それには皆が驚きの反応を示す。

 これでも限定イベント専用の情報ノートなので、それほど量は多くないと薫は口にするのだが。結構な気合いの入り方な気がするが、情報を制する事は時間縛りのあるイベントでは、かなり重要だと本人談。

 読んでみて納得。裏エリアの選別には、この情報が無いと無理らしい事が判明。


 **カオルのクエスト・噂レポート**

  ……噂……

*裏エリアの修験の塔では、4つあるシリーズ装備の最後の部位が入手可能。入りたいエリアにそれぞれ『お供え物』を捧げよ、さすれば路は開く。

*暗塊装備は鬼に遭え、流氷装備は地面の無い大地に在り、迅速装備は視えても遭えぬ朧なる土地に、妖精装備は人に近き場所に。

*修験の塔には何度もトライ可能だが、装備を入手した場合はそのエリアは消滅する。シリーズ装備が3つ揃っていない場合も、一応はチャンス有り!

*『技』の修行場は完全に一人専用、最大で武器スキル+10が可能。その他、スキル強化やスキル取得にも使用可能である!

*技の修行場の利用チケットは、利用者のスキルに応じて金のメダルが必要となる。

 

「裏エリアって、こんな感じに分かれてたのか。ええとっ、今日は美井奈用に妖精装備を取りたいから……人に近き場所に、お供え物を捧げればいいのか。お供え物はどこにあるんだ?」

「ん~、闇市には売ってなかったし、多分中じゃないかな?」

「そっか、じゃあ準備出来たら入ろうか」

「了解です、隊長!」


 美井奈の隊長発言に、隣の薫は面白そうに弾美を盗み見る。それからこのノリが普通だと理解すると、楽しそうに身体を震わせて気合いを入れる仕種。

 チケットを使用して入った裏エリアの最初の部屋は、それ程広くはなかった。床の紋様と壁際の自販機が、やけに目立つ感じで置かれている。瑠璃と美井奈が自販機に近付き、弾美は床に書かれた字を判読に掛かる。薫はと言えば、必死に間取りや仕掛けをノートに書き取っている。

 自販機がまたあるという衝撃の事実は、パーティにそれなりの動揺を与えた。その隣にいるNPCの言葉は、メダル1枚で何やら貢ぎ物を販売しているとの恭しい入手勧告だったり。

 間違えたらメダルを丸損してしまうっぽい仕掛けに、一同困惑の表情。


「もう1回ゆっくり読み上げて、瑠璃ちゃん。ノートにメモしておくから」

「んっと……お供え物が全部で4つです。『鬼の金棒』と『月の宝珠』と『永久氷土の欠片』と『忠実な卵』ですね~。全部メダル1枚で買えるみたいです、薫さん」

「薫っちが情報買ってくれてて大助かりだな。無かったら、全く訳分かんなかったよ」

「そうだね~、そっちはどんな仕掛け、ハズミちゃん?」


 地面の仕掛けは、見た目には6等分された円グラフのような感じ。中央には供え物を置く石製の台がせり上がっており、円の外周には漢字が等間隔で書かれている。

 地面の文字は、どうやら干支の巡りを東西南北の方向に6等分したセットのようだった。結構大雑把だが、2つの干支が1つの枠に入るように区分されている。

 薫はそれも、しっかりノート取り。簡単に整理するとこんな感じらしい。

 

 **カオルのクエスト・噂レポート**

  ……裏エリア情報……

*北……猪、鼠 

*東北……牛、虎

*東南……兎、竜

*南……蛇、馬

*西南……羊、猿

*西北……鶏、犬


「ん~、鬼に遭う暗塊装備のルート巡りは簡単だな。鬼の金棒を北東にトレードだろ」

「えっ、何でその組み合わせなんですか、お兄さん?」

「桃太郎の謎って、前に見たテレビ番組でやってたからな。北東が鬼の出る鬼門になったのは、鬼が牛の角を生やして虎模様のパンツを穿いているからだって」

「あ~、あ~!」


 美井奈は感心したように、弾美の言葉に何度も頷く。瑠璃はモニターを指差して、それじゃあ人に近き場所はここではないかと皆にお伺いを立てる。

 瑠璃の推理は、至って簡単な導き出しによるものだった。


「犬と鶏は、昔からペットと家畜として飼われてたし。人に1番近い存在なんじゃないかなぁ?」

「お~、さすがです、お姉ちゃまっ! でも、ネコとかもそうじゃないですか?」

「ネコは干支にいないだろ、アホ美井奈。んじゃ、卵を産む生き物をこの中から選んでみろ」

「ええと……ね、ネズミと竜?」


 瑠璃越しに頭にチョップが飛んで来て、美井奈は悲鳴を上げて瑠璃に抱きつき批難顔。その瑠璃も微妙な顔付きをしているのを知ると、美井奈はちょっと間違えましたと訂正。

 再度必死に考えて、鶏がいましたとやや小さな声で答え合わせの確認。


「蛇もそうだねぇ、竜はどうか知らないけど。でも、お供え物に忠実な卵ってのがあるから、それが犬と鶏を示してるのかな? だから、多分それを西北にトレードでいいんじゃないかな?」

「そうだな、薫っちもそれでいいか? 美井奈にはもう聞いてやらない」


 薫はそれで良いと答え、美井奈はちょっと不貞腐れた模様。毎回弾美に弄られていて、いい加減慣れて来た様子ではあるが。クラスの男の子にも、あんな感じで意地悪な子がいると、瑠璃に甘えながらもチクリと反撃。

 瑠璃もやっぱり、そういう感情にはほど遠く。薫がさり気無く、会話に割り込んでみる。


「きっとその子は、美井奈ちゃんの事が気になってちょっかい掛けて来るのよ。ひょっとして、美井奈ちゃんの事が好きなんじゃないかしら?」

「私はその子、嫌いですけど」


 実も蓋も無い返し方だが、少女の中では何かが解決したようだ。少し余裕を持って弾美を見つめると、瑠璃と顔を見合わせて幸せそうに微笑み合う。

 モニターの中ではハズミンが、金のメダルをお供え物に交換し終えた模様である。パーティに突入の合図が掛かって、さて今日最初のエリア攻略へと突入。皆の画面は一斉に暗転。

 西北のゲートに固まっていたパーティは、どうやら無事にエリア進出したようだ。




「うわわっ、何だかポエミーなマップだね~」

「キノコ型のハウスとか出て来そうだね~。あっ、あそこに何かいる!」


 一行が排出されたのは、一見のどかな原っぱのような場所。ファンタジー童話の田舎のようなマップに、ポツンと佇む人影だけが不審点というか次への変化の手掛かりか。

 近付いて行くと、それは人ではなくネコだった。直立して赤いベストと可愛い帽子、何よりも長靴を履いているネコは、パーティが近付くと慇懃に一礼して来る。

 そして、断りも無くパーティの一員に無断籍入り。


「わ~、可愛いネコですねぇ。武器は細剣のようですよ、お姉ちゃまっ!」

「そうだねぇ、名前何て言うんだろう。礼儀正しいねぇ」

「長靴を履いたネコだそうだ……勝手にパーティに入って来やがった」


 弾美の言う通り、パーティの名前リストの一番下に、長靴を履いたネコというのが見て取れた。ビックリ仰天しているパーティだが、反対に長靴ネコは知らん顔。

 それでも定期的に一礼する長靴ネコに対し、ルリルリが調子に乗ってエモーションで礼を返す。それを見てミイナも真似して一礼。いつの間にか、パーティ全員が恭しく礼をし合ってる始末。

 それがトリガーだったのか、長靴ネコは新たな動きを見せ始める。


 くるりと方向転換したネコは、細剣をシャキンと抜き放つと、ある丘を剣先で示した。そこに鎧を着込んだブタ顔の獣人の軍隊が、突如として出現する。

 展開についていけないパーティの面々は、ひたすらに困惑顔。喜劇かムービーでも見ているつもりで、ただただ成り行きを見守るばかりだったのだけれども。

 長靴ネコが単独、ブタ顔の軍隊に突っ込んで行くのを見た弾美は絶叫を上げる。


「わ~、あいつ今俺等のパーティメンバーだっ! 死なせちゃ不味いっ!」

「えっ、えっ、向こうの奴等が敵なのねっ?」


 敵とみなされたブタ顔の軍隊の連中は、容赦なく長靴ネコを取り囲んで殴り始める。突如始まった動物大戦争は、パーティを巻き込み大混戦の状態へと突入する。

 いち早く遠隔攻撃で、敵1匹のタゲを取った美井奈。そいつがもの凄い形相で、こちらに突進して来る。それを薫が、スキル技の撃ち込みでかっちりキープ。弾美と瑠璃は、ひたすら長靴ネコのいる戦場を目指す。

 気付けば長靴ネコのHPは半分を切っており、慌てて瑠璃が足を止めて回復を飛ばす。すると長靴ネコは戦闘中にもかかわらず、慇懃に瑠璃の方向に向き直って感謝の一礼。

 どこまでも礼儀正しいネコに、しかし一行からは批難殺到。

 

「こっち向いてんじゃねえっ! オマエは今戦闘中だっ、殴られ放題だろっ!」

「かっ、薫さんっ、もう1匹釣っていいですかっ!?」

「オッケ~、長靴ネコを助けてあげようっ!」

「わっ、私もタゲ取った方がいいみたいだね……」


 長靴ネコの命を救うために、パーティ総出でタゲの取り合いを敢行する破目に。何とかブタ顔獣人を退治し終わったと思ったら、時をおかずに今度は、違う丘にサル顔の獣人がポップ。

 そして細剣を手に果敢に突っ込んで行く、長靴ネコ。


 どこか憎めない飛び入りパーティメンバーに、一同は10分あまり引き回されて。それでも、自分の都合のみで動き回る長靴ネコに、一同の堪忍袋の緒も切れかけの様子。

 何しろ、ネコの実力は一言で言うとチョー弱い。10回も敵に殴られると、恐らく死んでしまうだろうし、何より回復を貰うたびに剣を納めて一礼する礼儀正しさ。

 何というか、戦士に向かないですよ?


 ようやく戦闘が終わった時には、メンバー全員ホッとした様子。長靴ネコも何とか生き延びていたようで、剣を納めるとやはり一礼して感謝を表明して来る。

 メンバーも渋々と言った様子で、取り敢えず礼を返すと。ポンっと音がしてネコが宝箱に変化。


「おおっ、何とかクリアしたみたいだなっ、良かった!」

「わ~いっ、この中に、妖精の装備が入ってるのかなっ?」

「美井奈ちゃん、代表して開けてみて?」


 瑠璃の言葉に、おずおずと進み出たミイナが箱を開けると。中から出たのは妖精シリーズでは無かったものの、結構な性能の装備の一覧がわんさか。

 ――戦闘ネコの長靴 敏捷度+2、MP+6、防+10

 ――戦闘ネコの細剣 攻撃力+15、敏捷度+2、MP+8《耐久12/12》

 ――戦闘ネコの尻尾 敏捷度+15、MP+15、防+1


 長靴は文句無く美井奈に、細剣は瑠璃へと渡されたが、ユニークアイテムの尻尾は微妙な所。敏捷度の上昇は凄まじいが、いかんせん防御がぐんと下がってしまう。

 ちなみに尻尾は背中、つまりマントと同列扱いの様子で、本人は付けてみたいと楽しそう。グラの変化が楽しそうだと、瑠璃と何やら盛り上がっている。


 そんな話をしていると、今度はパーティの前を直立兎が横切って行った。時折立ち止まっては懐中時計を見る、タキシード姿の紳士ウサギだ。雰囲気は急いでいるらしいのだが、短い足なので歩いても追い付くほど。

 休憩していた一行は、やんやと盛り上がりながら後を追尾に掛かる。今度は『不思議の国のアリス』だと瑠璃が盛り上がっていると、美井奈が悩みながら訊ねて来た。


「えっと……アリスって、どんなお話でしたっけ、お姉ちゃま?」

「今流行りの、異世界召喚ファンタジーの先駆けだな。不思議の国に召喚されたアリスが、ブリキの戦士やライオン戦士と熾烈な戦いを繰り広げるんだ」

「へ~っ、ウサギはそれじゃあ、魔女っ娘のマスコットみたいな存在?」

「全然違いますっ、オズの魔法使いも混じってるじゃない、それっ! 美井奈ちゃん、ハズミちゃんの言葉を信じたら駄目だよっ! 今度、ちゃんと本貸してあげるからっ!」


 洗脳されそうな少女を必死で守ろうとしながらも、奇妙な行進はなおも続く。弾美が更に、アリスの話を創作して行こうとするが、瑠璃がすかさず訂正してしまう。

 薫辺りはその遣り取りまで含めて楽しめるのだが、美井奈はひたすら混乱するばかり。そんな事をしている内に、紳士ウサギはいつの間にか、小さな町並みに辿り着いていた。

 ファンシーな造りの家屋が多く、やっぱりここは創作ファンタジー世界を思わせる。しかしそこの住人が扉や窓から顔を出しては、驚いたように冒険者を見つめて隠れてしまうのは如何な事か。

 不審に思う間もなく、次の変化は何となく察してしまう一同。当然の如く湧いた敵は、笛を吹き鳴らしながらの登場。トランプの兵隊の一団は、距離を置いてパーティを取り囲む。

 って言うより、紳士ウサギとの間に割り込む素振り。


「あれっ、兵隊さんに道を塞がれちゃったね。どういう事かな?」

「……なんか、さっきから変だと思ってたけど。街の人にひょっとして、不審者って思われた?」

「ちっちゃいウサギをストーキングしてたからな。通報されても仕方ないかも(笑)」


 ケラケラと笑い出す弾美だが、トランプの兵士には言い訳は通用しない様子。手に持つ長槍を構えて、冒険者達をひっ捕らえるべく。問答無用の態度で一斉に襲って来る。

 その間にも紳士ウサギは遠ざかって行き、ようやく弾美にも焦りの色が。


「やっ、やばいっ、このままだとウサギを見失う。さっさと倒して追いかけよう!」

「了解です、隊長っ!」


 戦ってみると、意外に弱いトランプの兵士達だったが。数字が高くなって行くにつれ、段々と強敵にと変化して来る。10を超えると、HPも高く厄介なスキル技まで使用して来るトランプ兵士。

 4種類のカードで揃えて来られなかったのが有り難い、などと思っていたのもジョーカーが乱入して来るまで。範囲攻撃で雑魚を掃除していた美井奈にタゲが向かいそうになり、慌てて瑠璃がブロックしたのだが。何とその瑠璃が、ジョーカーの特殊能力でいきなり無力化。

 カードに閉じ込められてしまい、移動すらままならない状態に。


「わっ、わっ、カードにされちゃった! 美井奈ちゃん、逃げてっ!」

「調子に乗って、範囲攻撃続けてるからだっ。俊足魔法、指示通りに掛けてるなっ? ちょっとマラソンでキープしてろ、美井奈っ!」

「りょ、了解ですけど……お姉ちゃまは放置……?」

「う~ん、呪い状態なのかなぁ……? 駄目だ、ポケットアイテムも使えないや。多分、時間が経てば元に戻ると思うけど」


 強敵のクイーンとキングを相手にしているため、動きの取れない弾美と薫コンビ。クイーンは回復魔法を唱えて来るし、キングは攻撃威力が高く、スキル技を連発して来る。

 クイーンから倒すつもりのパーティは、強敵のキング放置が祟って殴られ放題である。頼みの回復キャラの瑠璃は、まだ一風変わった呪い状態から復帰出来ず。

 美井奈は付いて来た雑魚は片付けたものの、ジョーカーが奇抜な動きで怖いとの報告。


 複合スキルを使用しての追い込みで、ようやくクイーンを仕留めた弾美達。それを機に瑠璃のカード状態が解け、一行は一気に数の優位でキングへと襲い掛かる。余裕を感じた途端に、範囲攻撃の連続使用をして来る厄介な難敵だったものの。

 皆で力を合わせてのスキル技で、ようやくキングも昇天してくれた。


「美井奈っ、こっち終わったぞ。ジョーカーどこだっ!?」

「今連れて行きます、隊長っ!」


 ジョーカー戦は、かなり熾烈を極める戦いとなった。弾美の《闇の断罪》でのスタンと、瑠璃の《麻痺撃》での特殊技止めの2段構えで、カードの呪いを何とか完封出来たのが大きかった。

 美井奈が言っていた怪しい動きと言うのは、すぐに解明というか体感出来てしまった。範囲技のカード乱舞で、視界を奪われつつダメージを与えてくる特殊技らしい。

 さらに長槍でのスキル技も使って来るので、全部止めるのはとても不可能。


 それでも何とか、大きなダメージを受ける事も無く戦闘は終了する。ヒーリングも後回しで、大急ぎでウサギを探すパーティだったが。どうやら何とか間に合った様子。

 道なりに進んでいた紳士ウサギは、一行には全く構わずマイペース。そして、前方に出現した草むらの中の縦穴に近付いて行く。そこで立ち止まったかと思うと、再び懐中時計を一瞥。

 それからいきなり、ドロンと宝箱に変化してしまった。


 中身は進みがちな懐中時計、幸運ウサギの尻尾、タキシードなどの装備類。それから先程の戦利品にジャックの切り札、クイーン札、キング札などの消耗アイテム類など。どうやら水晶玉のように、範囲攻撃手段として使えるらしいのだが、他の装備同様にユニークなのかも知れない。

 ――進みがちな懐中時計 SP+10%、攻撃速度UP、防+4

 ――幸運ウサギの尻尾 器用度+15、HP+15、防+2

 ――タキシード ポケット+2、SP+10%、MP+15、防+10


「あ~っ、何だか妙に疲れるエリアだね~? やたらとユニークアイテムも多いし」

「そうだなぁ、せっかく入手出来ても、使えるかどうか微妙なの多いよな」

「お姉ちゃま、背中も服も固定じゃないですよね? ちょっと装備して見せて下さいっ!」

「いいよ~」


 ヒーリング座り状態のままに、ルリルリのグラは目まぐるしく変化する。タキシードを着たりお尻にネコの尻尾が生えたり、ウサギの尻尾になったりドラキュラに化けたり。

 少女達は大喜び、薫も楽しそうに笑いながら手を叩いている。


 そんなパーティの視界を、再びよぎる赤い影。小さな子供のような格好だが、今度はウサギほど歩みは遅くない。森に入る道を行くその姿は、まさしく赤頭巾ちゃんである。

 一同は、またストーカーになってしまうのかとため息一つ。しかし、不意に森の木立から現れた狼男にはビックリ仰天。赤頭巾に戦闘能力を求める訳にも行かず、助けようと飛び出すものの。

 狼男の数が半端でなく多い。視界に入るや否や、美井奈が弓で釣るのだが、倒すと同時に次が湧く感じである。終いにはお化け木も出て来て、パーティは大慌て。

 

 赤頭巾は狼男に捕まると、どうやら攻撃をされる訳ではない様なのだが。予定の道を逸らされて森の奥へと連れ込まれるようで、恐らくそれでゲームオーバーなのだろう。

 一応抵抗の素振りを見せる赤頭巾ちゃんなのだが、弾美達が敵を狩って行くとスタスタ先へと進んでしまう。そこでまた被害に遭うのだからこちらとしてもやってられない。

 ぶん殴ってでも引き止めろと弾美が口にしたのも、無理の無い事なのだろうが。


「弾美君、あれは守る対象なんだから……殴るのは不味いよ?」

「ああいう身勝手な奴は腹が立つ! 守って欲しいなら側にいろっ!」


 弾美の魂の叫びは、とうとう最後まで届く事は無かったようだ。それでも、何とかかんとか赤頭巾ちゃんの貞操の危機は回避出来た模様、良かった。

 そう弾美が思わず口にすると、聞いた事の無い言葉にやっぱり美井奈が不思議そうな顔つきになり。初めて聞いた言葉の意味を、隣の瑠璃に尋ねて来る。

 瑠璃はちょっと赤くなり、狼には気をつけないととモゴモゴ口にする。


「狼はね~、下心がいっぱいなのよ? だから男は狼で、女は気をつけないと駄目なのよ?」

「そうそう、薫さんの方が説明上手だよねぇ。それより美井奈ちゃん、宝箱出たよ!」


 はぐらかされた気がしないでもない美井奈は、今回の宝箱もドウゾと進められて開けてみる事に。入っていたのは、案の定のユニークアイテムやお酒や食事の類い。

 赤頭巾は頭装備だが、その他には炎の神酒やSPを一瞬で回復させる闇の秘酒という薬品も入っていた。ボス戦などで、一気に追い込みをかけたい時には超便利である。

 ――赤頭巾 ポケット+3、移動速度UP、MP+10、防+3


 インしてそろそろ30分も過ぎ、ヒーリング中も今度は何が通り過ぎるかと身構えていた一行だが。何も起きないまま時間が過ぎ、弾美は少し焦れ始める。

 先ほどの赤頭巾ちゃんが配達に訪れた簡素な小屋が、視界の先にあるのだけれど。何気なく美井奈が近付いて行き、扉がタゲれると報告して来た。

 他にこれと言った不審点も見られないマップに、パーティは揃って扉前に移動。


 弾美が代表して開けてみると、何とそこはお祖母ちゃんの室内などでは無かった。海に続く石畳の坂道が目の前に広がり、左右には低い軒並みの石造りの港町。

 驚くのも束の間、宙を横切って現れたのは小さな体躯の羽根の生えたフェアリー。女性陣は興奮で声を発し、きゃいきゃい言いながらフェアリーの後を追い始める。

 どうやら坂を下った港の方向へと、パーティを誘っているよう。仕方なく弾美も後を追う。


「妖精さんに、やっと逢えたね~! 今度は何の物語かなっ?」

「外国の童話だと思うけど……大きな船が見えて来たよ、海賊船かな?」

「あ~、この前映画でやってた奴じゃ無いですか? 何とかカリビアンって海賊の映画ですよ!」

「あれは童話でもないし、妖精も出て来ないぞ……もう少し本読め、美井奈」


 ぐっと言葉に詰まる美井奈だが、言い返せないのが悔しい。それよりも隣の瑠璃の目がキラリと光って、幾らでも貸して上げると語っているのが何となく怖かったり。

 瑠璃には既に答えが分かっているらしく。ネバーランドとか時計を呑み込んだサメとか、キーワードらしき言葉を次々口にする。薫はそれで理解したようで、分からないのは美井奈だけ。

 弾美もとうとう、海賊船の乗り込み口まで案内された一行に対し、気をつけろと指示を飛ばす。


「フック船長がラスボスかな? 何か強そうだし、気をつけろよ~」

「ああっ、ピーターパンですかっ!」


 ようやくの回答だが、既に戦闘は始まってしまっている。雑魚らしき手下共が船の看板に陣取っており、パーティを発見するとわらわらと襲って来始めた。

 手にしているのはシミターや短剣、さらに細剣使いや銃を持つ者もいて侮れない。前衛が壁になり、美井奈のSPが貯まったのを確認して、スキル技で1匹ずつ確実に沈めていく。

 高低差のあるマップに、周期的に混乱がやって来るものの。何とかパーティの息も合い始め、美井奈を守るフォーメーションが出来上がって来る。

 フィニッシャーに成長しつつある美井奈だが、武器の壊れるのも早いとぼやいてみたり。


「そう言えば、耐久度0にした弓矢、ちゃんと作っておいたか、美井奈?」

「あっ、忘れてました! 今から作っておきますね!」


 まだまだ指導が必要な下っ端少女だが、薫の参入によって破壊力を発揮しやすい環境を得つつあるのも事実。前衛がHPを減らした敵に全力の《貫通撃》を見舞いながら、着実に敵の数を減らして行く。

 しかし今回に限っては、敵の数が減っていった事が新たな仕掛けへの導火線だったようだ。船首に設置されていた大砲を、雑魚の一人が触っていたかと思うと。不意に、大きな音と共に範囲ダメージに見舞われるパーティ。

 強烈な一撃だが、そこはゲーム内でのお約束。甲板や敵の雑魚には被害は皆無。慌てて瑠璃が大砲使いの手下を引き止めに行くが、今度は甲板の上から銃の支援。

 段々と熾烈になって行く戦場に、いよいよフック船長が乱入。


「美井奈、範囲矢束で銃使いを潰せっ! 瑠璃っ、大砲潰したら戻って来いよっ!」

「了解ですっ……わっ、妖精から回復貰っちゃった!」

「ハズミちゃんっ、また大砲の導火線に火がついてるっ……!」

「うげっ……薫っち、さっきのトランプでこっちも範囲攻撃返しだっ!」


 了解との薫の元気な返事と共に、クイーンのカードがフック船長や銃使いの手下を切り刻んで消えて行く。前衛が相手にしていた雑魚がほとんど倒れる程の、なかなかのダメージ具合。

 フリーになった弾美がすかさずフック船長をブロック。船長は鉤爪と片手剣の二刀流で、その攻撃力は半端ではない様子だ。ハズミンのブロックを破って攻撃がヒット、HPがぐんと減る。

 薫がフォローに入った事で、敵の数がある程度絞られた事がわかった。大砲の範囲攻撃も何とか3度目は喰い止められ、瑠璃が回復魔法を唱えながら戦線復帰。

 美井奈が遠隔合戦に勝利を収めると、いよいよ勝利の方程式が完成したっぽい。


 終盤、フック船長のハイパーモードが炸裂し、弾美が危ない場面があったものの。瑠璃と妖精の回復支援で、何とか持ちこたえて倒し切る事に成功。

 それでも以前ほど切羽詰っていないのは、削り役が一人増えたのも大きな要因だろうか。敵の種類にもよるが、割と安定した戦闘が増えてきた感じがする。

 フック船長のドロップは船長の帽子と船長の鉤爪。帽子は例の海賊帽で、鉤爪はどうやら短剣扱いの模様。更に案内役でもあり回復もしてくれていた妖精が、パーティの前で宝箱に変身。

 開けてみると、妖精のドレスと妖精の呼び鈴と言うアイテムが出て来た。


 これが最終戦だったようで、甲板に脱出用の魔法陣がようやく出現する。エリア攻略に掛かった時間は45分くらい、初の裏エリア攻略にしては、まずまずな感じである。

 ちなみに妖精の呼び鈴は、妖精を助っ人に呼び出せるアイテムらしいのだけれど。他の装備の性能はこんな感じ。

 ――船長の帽子 腕力+4、SP+10%、HP+5、防+10

 ――船長の鉤爪 攻撃力+14、腕力+2、《耐久9/9》

 ――妖精のドレス 光スキル+4、風スキル+4、MP+20、防御+20


「おおっ、さすがメダル5枚分のエリアだけはあるな。妖精のドレス、見た目は柔らかそうな装備だけど、防御力高いな~!」

「あっ、私が装備するんですよね! 光スキル……あっ、大丈夫です!」

「うわっ、見た目もなかなか可愛い感じねっ!」


 女性陣が再び勢いで、ファッションショーを始めそうなのを察知した弾美。さっさとエリアアウトして、時間の減少を一度止める事に。闇市には幸い人の気配は皆無。

 美井奈が調子に乗って、頭装備を赤頭巾に変えたり海賊帽子に変えたりして遊んでいる。海賊帽子は、何故かアイパッチまで付いてくるようで、皆がやんやの喝采を上げている。

 最終的には、赤頭巾に妖精のドレス、ネコの尻尾が可愛いんじゃないかとの結論に。


「そうかなぁ……でもやっぱり、微妙かも?」

「そうですねぇ、色合いが悪いかもです。尻尾はグッドですけど」

「尻尾誰か使うの? 私は固定してて無理だけど」

「防御が高ければ、かなり使える装備なんだけどな。取り敢えず瑠璃か美井奈、持ってろ」


 ドロップ品の整頓や薬品の補充、範囲攻撃アイテムの分配やあとどの位の経験値でレベルが上がるかの報告まで。弾美がテキパキと指示を出し、再びの突入の準備を進めて行く。

 それからクエ大臣の薫が、情報ノートを見ながらクエストを提示してくれるNPCを案内して歩く。今日は月の鍵のエリアに入ろうとの事なので、クエを受けるのはそこだけなのだが。

 進が言っていた転移の棒切れを買えるようになるクエをこなすのが、今日の主な目的だ。


「あぁ、エリアに近いNPCが鍵をくれるんだなっ!」

「そうそう、3つともそんな感じ。クエストの数も、3エリアとも一緒くらいかな?」

「昨日のエリアと同じくらい広かったら、ちょっと厄介ですねぇ」

「そうだねぇ、ええと……木の実と木の枝を探すのと、あとは迷子の犬の捜索、それから目撃情報がトーテムポール?」


 例のアレかと一同は不思議顔だったが、それならそれで性能の良い指輪がゲット出来る。先日の失敗も踏まえて、強敵も紛れ込んでいるつもりで探索しようとの弾美の言葉。

 念のためにと、ポケットに聖水を常時入れておく事にした一同。肝の冷える経験は、もう懲り懲りだ。地上エリアでポケット数に余裕が出来たから、選べる選択肢でもあるのだが。

 気を引き締めての月の鍵のエリア進出。今回はいきなりの夜模様に、ビビリまくるパーティ。


「ちょっと、何か嫌だなぁ……」

「……別行動するの、怖いなぁ」

「仕方ない、じゃあ今回は2手に分かれようか」


 尻込む女性陣に、折れた感じで弾美は提言。今回も弾美と美井奈、瑠璃と薫でエリア探索に挑む事に。とは言っても、見える範囲では進める方向は決まっているようだが。

 このエリア、やたらと樽や障害物が多く、海辺に流れ着いたガラクタ置き場な雰囲気。段差も多く、しかも一度落ちたら上って来れないような嫌らしい仕組みのようだ。弾美は相棒の美井奈に、散々と酸っぱく注意を飛ばすのだが。

 それがプレッシャーになるのが、人生の侭ならない所だったり。


 このエリアもほとんど敵はおらず、たまに見掛けるネズミや小カエルはノンアクティブ。木の箱や板のトンネル、折れた枝が古い街の下水道やレンガの通りと素敵なコラボ。

 自然に出来た感じの迷宮に、パーティは歩みも遅く進むしか無い。


 薫が街の細い路地の向こうに、やっと広い場所に抜ける道を発見した。付いて行った瑠璃と一緒に調べていると、大型の鳥系の敵に突然襲われたと報告して来る。

 一方弾美組は、そちらと合流しようにも出来ない事情が。美井奈が結局、プレッシャーに打ち勝てず道を転落。上って来る場所を探している内に、どんどんと訳の分からない場所に。

 多分、一人だと泣いていたであろう。今もちょっと、半泣きではあるが。


「ううっ、ごめんなさいぃ、お兄さん。でも、こっちも何か道が続いてますっ……!」

「仕方ないな……薫っち、美井奈とコントローラー交代してくれるか? んで、後で案内出来るよう、簡単にマップ作っておいてくれ」

「オッケ~、さっきチラッと犬の姿が見えたから、多分クエのあの犬だと思うよ?」

「ううっ、済みません薫さん、薫さんのキャラ、大事に扱いますからっ」


 プレーヤーの場所の交代と共に、ハズミンが瑠璃達に合流。街の外れに廃墟の教会が見付かり、教会の子供から迷子の犬の捜索を受けたのと、どうやら符合が一致する。

 襲って来る敵を撃退しながら、一行は廃墟の教会を目指す。美井奈は初めて操作する、カオルの両手武器キャラに興味津々。とりゃ、とかうりゃ、とか口にしながら、殴り掛かっているのは平和な風景に見えてしまうのだが。

 

 反対にミイナのキャラを任された薫は、真面目な顔付きでマップ作りに専念。幸い敵は襲って来ないタイプばかりで、キャラは独りで下水道に迷い込んでいる模様。

 弾美が、一区切り付いたら転移の棒切れで一旦脱出してからの合流にしようと薫に提言。薫はニパッと笑って、その時になったら知らせると返して来る。

 しかしその薫も、一転難しい顔をして黙り込んでしまった。教会に犬の姿を発見した弾美達は、クエの達成が4人で出来ないと2度手間だと言う事態にやっと気付き。

 ミイナを迎えに戻るため、せっかく来た道を引き返す事に。


「薫っち、どうした? ってか、そこどこだ?」

「ん~、なんか隠し通路っぽいところを見付けちゃって……下水を筏で下って、途中の広場でポンって降りたのよ。そしたら地面に『満月の鍵』ってのが落ちてて」

「あ、あんまり危険な場所に、ミイナを連れ込まないで下さいね、薫さん……」

「自業自得だろ、美井奈。構わないから、もうちょっと進んで見てくれ」


 そんな訳で、ミイナ一人での地下探索。皆が見守る中、雷娘は薄汚れた下水道をひたひたと進んで行く。しばらくして少し開けた場所に出ると、そこにあるのは紋様の描かれた扉と、鍵付きを示す色の宝箱。

 鍵付きはヤバイと弾美が言うと、隣に移動していた美井奈がぎゅっと腕にしがみ付いて来る。確かに今までのパターンだと、どこかに鍵を落とす中ボスが潜んでいる可能性が高い。


 これ以上の危険は無意味だと、薫が転移の棒切れを使用。弾美がタウロス族の集落で、結構大量に買い込んでおいたのだ。それでも無くなると補充はきついので、さっさと中立エリアで買える様にしたいというのが本音なのだが。

 入り口付近で無事合流した一行は、キャラの交換もちゃんと終え、再び廃墟の迷路を目指す。今度は落ちるなよと釘を刺された美井奈は、真剣な目でキャラ操作。何とか危険区域を抜けると、ホッと安心して脱力。

 余分な時間を掛けつつ、一行は犬探しのクエストをクリア。


「1つめクリアだ~、次は向こうの大樹の方向かな? 廃墟の町エリアは、下水道以外は狭いね」

「えっと、次のクエは……アイテムが大樹に関係してるから、多分そうかもね~」

「平原を突っ切る感じの移動になるな、敵が結構いそうだなぁ」

「何でもいいですっ、もう変な仕掛けさえ無ければ!」


 平原には先ほど襲ってきた大鳥や猛獣系のモンスターが、大樹に近付くにつれて昆虫系が混じって来るように。慎重に歩みを進める一行は、東の空が白んでくるのを見て安堵のため息。

 強敵はどうやら混じってはいないようだが、それでも大樹に近付くにつれ異変が起こって来る。昆虫系の敵が魔法を唱えて来たり、魔法生物のモンスターが出没し始めたり。

 弾美が試しに、瑠璃に《魔女の接吻》を使ってみてくれと指示したら。何故か昆虫からしっかりMPが吸い取れて、これはどういう仕様かと一同困惑。

 普通、昆虫型の敵にMPなど、メイン世界ではあり得ない仕様である。


「バクじゃ無いって事よねぇ、MPがしっかりあるって事は?」

「そうだな、特に強くはないから、中ボスでも無いよなぁ」

「大樹に関係あるんじゃないかなぁ? さっきの敵は魔力の果実落としたし、ここはちょっと美味しい狩り場かも?」

「お姉ちゃまのMPアップのためにも、ちょっとここで果実集めしましょうか!」


 美井奈が張り切って敵を釣り始めるので、何となくそんな感じで敵のドロップ目的の狩りが始まり。20分以上も移動しつつ狩りを続けて行く内に、それなりに果実も貯まってしまった。

 更に景色が木材置き場みたいな感じに変化して来ていたりして。古い切り株も増えて来て、これはひょっとして目的の場所ではないかと期待も高まるパーティだが。

 木製の奇抜な姿のゴーレムがわらわら湧いていて、何だか変な雰囲気。


 木材の中には、トーテムモドキの作りかけ放棄なども見付かって。不用意に近付くとビームを撃って来たり爆発したりと、パーティの危機感を煽って来る。

 木製ゴーレムはなかなか強く、操り人形のようなコミカルな動きから放ってくる格闘攻撃は侮れない。しかも魔力の乗った拳は、盾でのブロックなどお構い無しにダメージを与えて来る。

 なおかつ木製ゴーレム、組織だった動きでパーティをトーテム地雷地帯に誘い込む周到さ。


「美井奈、そっちに逃げたら地雷に捕まるって!」

「ええっ、じゃあどこに逃げればいいんですかっ?」

「わっ、爆発した後に吹き飛ばし効果のタイプもあるよっ! こっちも駄目みたい、ハズミちゃん」


 パニックに襲われるパーティだったが、とにかく安全な場所へと戦場を移動させるのが先決とばかりに。広い場所から木立の茂る森の中へと、敵を引き連れながらじりじりと逃げて行く。

 敵の数がようやく4匹になった頃に、瑠璃と美井奈からそれぞれ怪しい場所を発見したとの報告が。戦いは雑魚戦にしてはかなり熾烈だったが、何とか全て倒し終わると。

 パーティの戦利品の中に、大樹の木の実というクエ用のアイテムが3つ。あと一つ足りないと、弾美が美井奈をちらりと見遣る。


 クエストアイテムが、モンスターのドロップだと分かったのは結構な事である。しかし、人数分ドロップしてないので、結局美井奈が木製ゴーレムを探してうろつく事に。

 瑠璃が見つけた怪しい場所は、切り出した木材を重ねて保管している空き地。木材の1つにカーソルが移動するので、逃げている途中に目をつけていたのだそう。

 ところがメンバーがそこに移動した途端、美井奈が新しい木製ゴーレムの一団を連れて来る。


「美井奈っ、何で5匹も釣って来るんだっ! 1匹ずつが常識だろうっ!」

「仕方ないじゃ無いですかっ、ついて来ちゃったんですからっ!」


 そんな訳での再戦闘で、何故か無意味に3つもドロップするクエストアイテム。先ほどは10体以上倒して3つしか出なかったと言うのに、結構雑なランダム性である。

 さらに瑠璃が発見した木材保管場所からは、これもクエストアイテムの大樹の枝をゲット。これでインして45分で、目標の3つのクエストをこなした計算となった。

 色々回り道をした割には、なかなかの達成率のような気が。


 後は何があるだろうかと、パーティでごそごそと相談会モードに移行する。薫が情報ノートを取り出して、後残っているのはトーテムポールの目撃情報だけだと報告して来た。

 それって今の場所ではとの問いに、誰も答える術なし。


「あっ、でもでも、さっき森の奥に道らしきのが続いてましたよ?」

「むっ、他に情報も無いし、仕方ないから行ってみるか」


 仕方ないとは何ですかと、瑠璃の隣で暴れる少女は取り敢えず放っておいて。森の小道は変にくねくねとしていて、一行を惑わしているようにも伺える。

 その内、見覚えのあるトーテムポールの、乱立する広場に出る事が出来た一同。どれがトレード出来る奴だろうと、嬉しそうに探し始める美井奈に悲劇が舞い降りる。

 クモの巣の仕掛けに引っ掛かり、美井奈は悲鳴だか泣き声だかを上げる破目に。


「きゃ~っ、木の上に何かいっぱいいますよっ! 私今、動けません~!」

「わっ、ハズミちゃんの苦手なクモだ~!」

「えっ、弾美君、クモ苦手なの?」


 呻り声を上げつつ、クモの巣を破壊してミイナを救出した弾美だったが。頭上からボトボト落ちてくるクモを見てしまい、思わず美井奈と一緒に悲鳴を上げる始末。

 雑魚ばかりだと思っていたクモの巣エリアだったが、トーテムポールの柱を伝って降りて来た大グモには一同大仰天。クモの糸でパーティの動きを封じつつ、地面からは何と、追加の木製ゴーレムが2体も湧き出てくる。

 雑魚のクモすらまだ地面に蠢いており、収拾のつかない戦闘場面。大グモのクモの糸で薫が捕まってしまい、反撃しようにも動ける人がいない有り様に陥るパーティ。


 取り敢えず、嫌々ながら大グモをブロックしに行ったハズミンだったけれども。不意をついての出現の2体の木製ゴーレムは、動けない薫を遠慮なくガシガシ殴り始める。

 これは不味いと助けに入ったルリルリだが、2体を相手取るには役不足か。ミイナはとにかく殴られないように、必死に距離を取っての雑魚の小グモ掃除。

 弾美が範囲攻撃を使えとの指示を出すと、薫がトランプを、瑠璃が水晶玉を使用。ついでに美井奈も矢弾を交換、ヘロヘロの雑魚を一掃する範囲スキル技の使用。

 何とかこれで、雑魚の姿は戦場からいなくなってくれた。


 ところが木製ゴーレムはどうやらボス仕様のようで、HPも豊富で力も強い事が判明。何とか薫は自由になれたが、今度は木製ゴーレムの特殊技が発動する。

 操り糸の特殊技で、1体のゴーレムの動きは完全停止。代わりに操られたルリルリが、近くにいたカオルを殴り始める。


「わ~っ、薫さんごめんなさい~! ゴーレムの糸に操られちゃった!」

「ええっ、これってどうしたら解除出来るのっ!?」

「操ってる奴を殴ったら、取り敢えず止まる筈っ! 美井奈っ、1匹マラソンしてくれっ!」

「りょ、了解ですっ、隊長!」


 雑魚は片付いたが、まだまだ相手のペースのままの状態。美井奈の遠隔攻撃で、何とか瑠璃の操り状態は解除されたものの。大グモも木製ゴーレムも、特殊技が侮れない。

 緊張した戦闘場面が続くが、追い討ちをかけるように木製ゴーレムが範囲土魔法を使用して来る。運の悪い事に、離れた場所の弾美まで巻き込まれて、一行は大ピンチ。

 揺れる地面にダメージと共に動きを封じられ、弾美は大グモに余計なダメージを貰ってしまう。


 瑠璃の水の新魔法の《波紋ヒール》で、パーティは何とか崖っぷちから寄り戻す事に成功。弾美は《闇の断罪》で敵をスタンさせてから、ステップで距離を置いて素早く装備の変更。

 虎の子のレイブレードに武器交換し、アイテム画面から炎の神酒をぐいっとあおる。手強い相手にちょっと焦った弾美の選択だが、その隙に大グモが毒の霧を範囲に放出。

 またまた3人が範囲に巻き込まれ、阿鼻叫喚の戦場に新たな悲鳴が。


 回復を担う瑠璃はてんてこ舞い。万能薬をケチる訳ではないが、先ほどからハズミンは通常攻撃で何度も毒を受けているのだ。弾美のポケットには、既に万能薬は皆無である。

 瑠璃の回復の頑張りを受けるように、弾美も最強装備で反撃に転じる。《トルネードスピン》で派手に大グモのHPを減じさせて行くと、そこからは一気呵成な攻撃振り。

 目の前のコイツを、早く倒した方が良いとの弾美の指示に。瑠璃は水の槍魔法の《ウォータースピア》から、近付いての複合技の《アイススラッシュ》の連撃を炸裂させる。

 これが決め手で、ようやく1匹目の敵が倒される運びに。


「やっと1匹倒れてくれたっ、次は薫っちの前の敵な。範囲魔法は絶対潰すぞ、瑠璃っ!」

「わ、分かった、ハズミちゃんっ! あっ、操り技は複数で殴るから怖くないのかなっ?」

「隊長、そろそろこっちも連れて戻りますよっ!」


 三人で殴り始めると、ペースは終始こちらのものに。ハズミンが無理やり魔法でタゲを取ってしまえば、薫も瑠璃も攻撃に集中出来るようになるという寸法だ。操り技も、常に敵にダメージが通っている状況では怖くは無い。

 あっという間に木製ゴーレムも屠り、残りの敵を美井奈が連れて来る……筈が。


「美井奈っ、なに操られてんだっ!」

「すみません~! 最後タゲ切れそうだったんで、攻撃してたら捕まっちゃいましたっ!」

「弾美君~、私レベル上がったよ~!」


 そんな呑気な薫の報告に、戦闘中のおめでとうコールが湧き起こって。そのお蔭もあって、美井奈への叱責はうやむやに。感謝の念を込めつつ、反対側の薫を見遣る美井奈だったり。

 最後の木製ゴーレムも、意外と呆気なく殴り殺してしまうと。残されたのは24に上がったカオルと、各種ドロップ品。金のメダルに混じって、グランドイーターの果実がある事に一同興奮模様。

 その他には木人の操り糸というのが2つ、敵を一定時間操れるモノらしいのだが。


 ヒーリングとポケット交換が終わって、森の小道の奥の探索を続けようとしたパーティだったが。1分も経たない内に、トーテムポールの並んだ集落らしき入り口に辿り着き、たじろぐ破目に。

 危険な敵はいないらしいが、話し掛けるべきNPCも視界には見当たらず。大きくは無い木立ちの多い集落を手分けして探索するが、怪しいのは丁度真ん中の壁の無い建物だけだと判明。

 そこにあるのは、大きな板に描かれた生き生きとした精霊の絵画だった。一面だけ存在する壁に描かれたその精霊は、やっぱり近付くとパカッと口を開けて、一行にトレードを促して来る。


「あれっ……パターンを変えて来ましたねぇ。トーテムポールかと思ってたんですが」

「そうだなぁ。これじゃまるで、湧かしNM仕様みたいだな……ちょっと嫌な予感」

「私これは初めてなんだけど、何をトレードするの?」


 瑠璃が自分の指輪を見て貰って、段階を得てこれが出来るのだと説明すると。かなりの性能の良い指輪装備に、薫も何気に乗り気になって来たりして。

 しばしの間、どの属性を誰のために成長させるかの議論が熱く交わされる。今日は後半も美井奈でいいよとの優しい言葉に、感激の美井奈は瑠璃に抱きつき甘え始める。

 雷か風か、炎が良いんじゃないかと言われ、美井奈は自分の属性の雷を選択。


 湧かしNMの要領で、前もって強化魔法を掛けての戦闘準備。どちらにしろ、出て来る敵はボス仕様だという読みだ。最初から最強装備の弾美は、やる気満々で瑠璃にトレードを催促する。

 促されてのトリガー投入に、一面しかない壁の木面の床の間が淡く光を放ったかと思ったら。エリアは一転、円形のバトルフィールドへと瞬間移動。等間隔にトーテムポールが辺りを囲っており、広さはまあまあと言う感じ。

 敵は既にスタンバイ中の模様。6本の尻尾を持つ大キツネと、3本の尻尾を持つ、大槍を手にしたキツネのお面を被った女性のペアが中央に。女性の紫色の髪は長く、大柄で手強そうだ。

 手にした大槍は雷を纏っており、大キツネは身体中帯電している状態だ。


 大キツネは足が速そうだというので、キツネ面の女性を美井奈がマラソンする事に。弾美が大キツネを魔法で挑発、タゲを取ろうとした途端に大キツネが透明に。

 マラソンをする筈の美井奈も、いきなりのチャージ技に大ダメージを喰らって大わらわ。


「あれっ、キツネはどこ行った!?」

「隊長っ、槍が痛いですっ、削られましたっ!」

「えあっ……あれっ? ハズミちゃん、回復魔法が使えないっ、このエリア水魔法不可だって!」

「ええっ、それは思いっ切り不味いんじゃあっ!?」


 いきなりの混乱模様に、さらに拍車を掛けるエリア制限。ゲームの仕様で雷は土に弱く水に強い性質があるのだが、このエリアはそれがモロに体現されているらしいのだ。

 試しにキツネ面の敵に《クラック》を飛ばした弾美は、その効きの良さをパーティ報告。


「んじゃ、土の《石つぶて》のせいで、大キツネは消えたのかな? あっ、出て来たよっ!」

「取り敢えず、もう人間タイプを殴り始めちゃったから、こっちから片付けるか。チャージ技持ってるから、マラソン不向きだしな。薫っち、タゲ半々でやってみよう!」

「了解~、同じ槍使いとして負けられないね~!」


 現在フリーの大キツネに、弾美が定期的に土系魔法を飛ばして、動きを封じ込める方向に。ついでの闇魔法の《グラビティ》が通って、何とか作戦は上手く行きそうな気配。

 ところがお相手中のキツネ面の女性は、ステップも軽快にこちらの攻撃を翻弄して来る。今までに無い敵の動きに、パーティは面食らって追い掛け回すのだが。

 なかなか決め手に欠ける間に、大キツネに新たな気配が。


 ステップに惑わされない唯一の攻撃手段を持つ、美井奈がメインの削りを担っていたのだが。再びチャージが来ないかと、ややビクビクしているのは仕方が無い。

 その背後で、土魔法に翻弄されていた大キツネ。その呪縛も次第に薄まったかと思われた瞬間、6匹の雷のキツネに分離する。そいつらは、放電しながらパーティにアタック&アウェイ。

 雷の奔流に全員巻き込まれ、回復手段を封じられた一行は必死でポーションがぶ飲み。


「わ~っ、何でもいいからキツネの行進止めろ~っ! 範囲攻撃行ける奴っ?」

「お助けアイテム、取り敢えず何か使ってみるねっ!」


 瑠璃の使ったアイテムで、ピヨッと湧き出た妖精とジョーカーのカード。余程慌てていたのか、2つ同時使用でフィールドに出現したお助けキャラ達。パーティのピンチを尻目に、勝手気ままに動き始める。

 妖精はパーティに光魔法の回復を与え、ジョーカーは雷化したキツネを次々とカードに封じ込めて行く。ダメージこそ与えてくれないものの、その足止め振りには結果的に大助かり。

 その間隙を縫って、弾美が闇の水晶玉を使用。薫もカードの範囲攻撃の使用に踏み切り、キツネの群れはかなり弱体化されたようだ。


 美井奈が弱った小キツネの掃討に掛かり、瑠璃がその手助けに入る。弾美と薫はキツネ面のキープを続けているが、大槍のスキル技には相変わらず苦労させられている。

 タゲキープを半々のスイッチでこなしているので、幸いポケットの交換をする時間を得られているのが大きい。近付いた小キツネにもついでに《クラック》を喰らわして、弾美はとにかく邪魔でダメージを与えてくる敵を減らす手助けも忘れない。

 カード化された小キツネ以外を倒し終わると、何とか戦場は一息ついた模様。


「あっ、ジョーカー消えちゃった。でも大助かりだったよね?」

「大助かりでしたよ! 小さいキツネの残りは、後はカードになっている2匹だけです、お姉ちゃま」

「妖精はもう少し頑張ってくれるみたいだね。弾美君、今の内にやっつけよう!」

「おうっ、土魔法で翻弄してやるっ!」


 雷の附加された両手武器の攻撃力とスキル技は侮れないものの。キツネ面の女性のHPはそれ程高くない様子。複合スキルのヒットで、やっと落ちそうになったと思ったら。

 カード化から解除された小キツネが、キツネ面の女性に同化すると言う反則技を使用され。尻尾の数が合計5本になると、女性は徐々に獣化して行き、HPもぐんぐん増えて行く。

 あ~あと言いつつも、手出し出来ない一同は見守るしかなく。


 無敵状態の解除後に、気を取り直して再び陣形を組んで殴り始めるパーティだったが。敵の数が1匹だけになったのは良いが、最終形態の敵は防御力もHPも格段に上がっている。

 キツネのお面は完全に皮膚と融合し、半獣半人模様のボスである。せり上がった鼻面での噛み付き攻撃は、スタン効果が付属しているよう。更に狐火召喚で、数の優位をあやふやにして行く。

 さらにステップを使わなくなった分、範囲攻撃の放電でバリバリ削って来るように。


「うっ、やばいっ! 回復くれてた妖精が、範囲攻撃の放電で落ちちゃったよ~?」

「ポーションが持たないっ、こいつの放電強過ぎるぞっ!」


 弾美のスタン魔法か瑠璃の《麻痺撃》で止めようにも、放電はモーションが無い技なので基本的に無理。1回来る度に、パーティに50近いダメージを与えて来るので、水属性のルリルリなどは3回も喰らったらもうヘロヘロである。

 その流れを食い止めたのは、薫のクリィティカル入りの《二段突き》だった。その途端に、キツネ獣人の尻尾が1本減少してしまう。更に美井奈の《貫通撃》によって、もう1本消滅。

 放電のダメージの半減に気付いたパーティ、これなら行けると俄然やる気もアップ


 こうなって来ると、狐火を一人で相手していたルリルリも、削りに再び参加出来る雰囲気。《麻痺撃》のターゲットを、大槍のスキル技のみに絞って潰す作戦も功を奏して来る。

 気付けは女性の獣化も解けており、四人での総攻撃にステップも儘ならず。


 ようやく狐ボスが倒れての戦闘終了に、わっと湧くパーティメンバー。四人でのハイタッチも華々しく、エリア排出の画面暗転に、勝利の雄叫びを重ね合わせる。

 ドロップは雷の大槍や雷キツネの尻尾、そしてお待ち兼ねの雷の特級リングが1つ。今回は段階を重ねるのではなく、いきなり最良品が獲得出来る仕様のようだ。

 相談するまでも無く、大槍を薫が貰い、雷のリングは美井奈の手に。

 ――雷の大槍 器用度+4、攻撃力+28《耐久14/14》

 ――雷の特級リング 雷スキル+4、器用度+4、攻撃速度UP、防+4

 ――雷キツネの尻尾 器用度+4、狐火召喚、防+4


 エリアの突入から、ゆうに1時間は過ぎている。そろそろお終いな雰囲気はあるのだが、この指輪トレードの仕組みが知りたいと、弾美がトレード場所を弄っていたのだが。

 どうやらリアル1日過ぎないと、再度のトレードは無理な事が判明して。それより戦闘のご褒美の経験値によって、美井奈が26に、瑠璃が27へとレベルアップとなった。

 瑠璃のMPが、このエリアで入手した果実の効果もあって、250を何とか突破したと報告され。これで食事無しでも、光の奥の手魔法が詠唱可能にはなった訳である。

 レベルアップ果実で突入前に25になっていた薫共々、頼れる戦闘力は増加中である。




「は~っ、お疲れ様~! 今回も仕掛けとかきつかったね~!」

「お疲れ様~っ、今日もきつかったね~」

「けど、美井奈には良い装備補充だったな。裏エリアは良かったけど、さっきのエリアは半端な攻略になっちゃったなぁ。行ってない場所もあるし」

「裏のエリアって、結構面白かったですよねぇ! また今度行ってみたいです!」

「そうだねぇ、後はNMのトリガーもまだたくさんあるし、木の葉も集めるんだっけ? まだまだやる事が多いよねぇ」


 転移の棒切れでエリア脱出を終え、中立エリアでのんびり雑談などしつつ。クエストの報酬を貰って落ちようと、パーティは先ほど請け負ったクエのNPC巡り。

 教会の子供の犬探しでは、報酬に聖水をそれぞれに貰う運びとなり。大樹の木の実探索の報酬は2千ギル、大樹の枝の報酬は聞いた通りの転移の棒切れ。

 以降、アイテム店でも買える様になって、これで移動がスムーズになった気分。


「あれ、私がもう25になったから、これでイベントエリアも攻略出来るようになったんだよね?」

「あ~っ、そっか! でもまだ、遺跡エリアとかで木の葉が全部集まってないしなぁ。先にそっちを、全部やっといた方がいいのかな? 明日はどこに行こう?」

「う~ん、進行に欠かせない木の葉は、先に集めた方が気分的に楽かもねぇ……」

「そうですねぇ、強くなるのも楽しくていいんですけど。先のエリアに進めないと困りますからねぇ」


 呑気に談話を交えながら、時計を見ると既に6時過ぎ。美井奈は今日は、薫に送って貰う事に。各自落ちながらバタバタした時間を過ごしつつ、美井奈と薫は長居も迷惑だと、そそくさと帰り支度を整える。

 弾美の家から笑顔で飛び出す女性陣。それを見送りつつ、仲の良いパーティで良かったと何となく感謝の思い。元気に手を振る美井奈は、薫の隣で帰りの道順の確認中。

 この二人の仲も最初は心配したが、何とか折り合いがつきそうな雰囲気で何より。


 波乱があるとすれば、ゲームの中での事だろう。何しろ、自分達の順位と言うか立場がさっぱり分かっていないのだ。このままのペースで行けば良いのか、裏やクエストエリアを放っておいて、素早い攻略を目指した方が良いのか。

 それでも自分達のペースを崩したくない弾美は、最近はイベントの順位にはそんなに拘っていなかったり。そんな内心の感情に気付いて、ちょっとした驚きを発見する。

 この先の達成感より、いまの充実感が勝っているせいかも知れない。





 ――瑠璃と二人で遠ざかる二人を見送りながらも。隣に立つ幼馴染も、確かに同じ充実感を共有しているとはっきり感じる弾美だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ