表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/37

♯14 再出発の地上エリア!

 週末から流行した風邪も、ようやく沈静化の方向に向かっているようだ。弾美のクラスの担任も、今日から何とか復活。まだ休みの生徒もちらほらいるが、全体の学生数に対しては微々たるもの。

 瑠璃も今日からの復帰組に名を連ねる事が出来、本人もホッとしている様である。同じクラスの友達の静香も今日から登校して来ており、共に復帰を喜び合うシーンも。

 茜もこれには一安心。お見舞いなどの心遣いに感謝する友達に、ちょっと照れてみたり。


 瑠璃にしてみれば、ようやく動き回れる程元気になったのだが。風邪でダウンの最中に、何が一番不満だったかと言えば。暇な時に小説を読むのだが、字が急に大きく見えるのには参った。

 どういう作用か、脳が風邪のウィルスに誤作動を起こしていたようだ。目も乾燥して痛くなるし、本すら満足に読めないのなら、学校を休んでも退屈なだけである。

 さすがに朝の散歩は今朝はお休みしたのだが。コロンも復調しつつあると、登校時に弾美から報告があった。


 報告によると、美井奈の容体も今朝は順調の様子らしい。朝のメールで通達があったと、同じく弾美から聞かされていたのだが。これには瑠璃も大喜び。止まっていた時も、これで何とか動き出しそうな気配。

 リーダーの弾美としても、素直に嬉しい日である。


「それじゃ、そっちの組も今夜から本格始動になるんだな、弾美?」

「ああ、ようやくフリーエリア以外に挑戦出来るよ。進の組はどうするんだ?」

「こっちも、クエストエリアと遺跡エリアを、もう一度全部制覇しようって感じで話し合ってる」

「微妙に出遅れちゃったかな? まぁ、焦っても仕方ないけど」

「遅解き組は、確かにどんどんイベントエリアを攻略してるらしいな。連中はレベルを気にしないでも平気だから、アイテム収集に尽力してる感じかなぁ」


 ポカポカと日の当たる窓際で、お昼休みの時間を利用しての会話中。今朝も少々冷え込んだのだが、そのせいか日差しの割には空気は冷たく感じる。

 教室の雰囲気はこの2日間に比べると、賑やかさが違うように感じるのは気のせいだろうか。担任の先生も昼休みを利用して、休んだ生徒達の授業進行のケアをしているようだ。

 パソコンのモニターを指し示しながら、2日間で進んだ範囲を説明している。


「村っち、どんな感じだ? 半分強引に、そっちに押し付けちゃったけど」

「ん? そんなの気にしなくていいぞ、こっちも人が足りなくて困ってたんだし。実際ゲームは上手だし、気風はいいし。弾美の知り合いだから、何より信頼出来るしな」

「それを聞いて、ちょっと安心したな。イン時間とか合わなかったらどうしようかと思ったけど」

「昼間イン出来ないのは、それは仕方ないよ。パーティバランス的には問題ないし……問題があるとすれば、ぶっちゃけレベルだけかなぁ」


 ふぅむと考え込む弾美。そればかりは、時間をかけないと仕方ない問題ではある。そちらも実は同じ問題を抱えていると進に指摘され、そうだったかと思い出すのだが。

 薫も全く同じレベルである。装備は充実しているが、イベントエリアの入場資格と言う点では関係のない事。取り敢えず、今夜の冒険でのレベルアップを願うのみ。

 問題は割と山積みだが、それでも再スタートの待ち遠しい二人である。


     *     *


 メンバー各員のテンションが何となく高いのは、やはり攻略が再開出来る喜びからだろうか。瑠璃はメンバーが揃うと早々に、病気してしまって迷惑を掛けてごめんなさいと謝って来た。几帳面にも程があるが、弾美は病気中にも関わらず、平気にインしていた者もいるとチクッてみたり。

 美井奈が慌てた調子で、自分は画面を見ていただけだと言い訳をする。


『だめだよ、美井奈ちゃん。病気の時はちゃんと安静にしておかないと!』

『ごめんなさいっ、お姉ちゃまっ! 隊長っ、密告するなんてズルイですよっ!』

『告げ口しなくても、ミイナのレベルが上がってるからばれるっての。お前はテンション常に高いから、瑠璃に叱られてしょげてるくらいで丁度いいだろ?』


 どういう理屈ですかと、やっぱり美井奈のテンションは高めをキープしている様子。瑠璃は昨日の様子を前もって弾美に聞いているので、あまり深くは追求しなかったが。

 美井奈の身体を気遣っての言葉だというのは、本人も充分察知しただろう。初っ端からあまり拗ねられても困るので、弾美も追求はこれ位にしておく事に。

 恐らく今夜も、沙織さんはモニターの前にいるのだろうし。


 薫からも攻略スタート前に、些細な報告があった。自分が帰郷して、中立エリアにキャラを放っておいたせいで貰えた妖精装備が、同化を完了したとの事。

 これでもう少しマシな防具を装備可能になったと嬉しそうではあるが。さっそく皆で買い物……の前に、何と弾美と美井奈と薫の三人は、今いる所がタウロス族の集落だったりする。

 事の顛末を瑠璃に説明すると、自分も転移の棒切れと言うアイテムは持っていないとの事。


『さっき一通り見たけど、こっちのアイテム屋には売ってたみたいよ? あと、奥に転移ゲートがあったから、アイテム使わずに中立エリアに戻れそうかな?』

『おおっ、さすが薫っち! 装備屋はどんな感じだった?』

『昨日3つドロップした大麻袋? あれが8千ギルで売ってた。あと、マントとピアスと矢束は、性能いいのあったよ~』

『むっ、じゃあ俺金持ってるから、買っておこう。その間にNPCから話聞いておいてくれ』

『それも済ませておいた~、クエが3つ出て来たね~』


 **カオルのクエスト・噂レポート**

 ……クエ編……

天使の腕試し。『光の呼び水』を奥の魔法陣にトレードせよとの事

地上に最近出来た街の食べ物を食べてみたい。『チェリーパイ』を持ってきて

タウロス族の弓術は、昔から素晴らしかった。使い古した弓を持って来れば、教えてやる


 ……噂編……

昔袂を分けたタウロス族は、今は凶暴なので気をつけて!

私達の集落の店の品揃えは、他の街にも勝るものだ

集落の外の魚人やインプの争い事は酷いものだ

タウロス族と天使と妖精は、昔から仲が良い。大樹に取り付く魔女は共通の敵だ


 用意周到な薫の調査能力は、まさに脱帽モノ。弾美は感心しつつも、クエストの内容にかなり興味を惹かれた様子だ。光の呼び水は、確か瑠璃が持っていた筈。弓術を伸ばしている美井奈もパーティにいるので、使い古した弓クエも是非進めてみたい。

 美井奈が使い古した弓と言うのは、耐久度が0の状態かと訊ねて来た。弾美が恐らくそうだろうと答えると、今は持っていないが、スキル技を使えば割と簡単に出来ると楽し気である。

 死ぬ思いで立ち寄ったタウロス族の集落だが、どうやらまた今度訪れる事になりそう。


 美井奈が矢束は自分のお金で買うので、弾美にはお姉ちゃま方のお土産をお願いしますと頼まれて。性能をギルド会話で確認し、闇市の装備と比較して選んで貰う事に。

 スキル+装備なだけあって、割と高いが防御も高く良い性能。弾美は自分用にも買う事に。

 ――砂嵐のマント 風スキル+3、敏捷度+4、防+8

 ――砂塵のピアス、土スキル+3、体力+1、防+3

 ――大麻袋 ポケット+3、HP+5、SP+5%

 ――砂嵐の矢束 複・攻撃力+16


『この矢束……高いと思ったら、ひょっとして範囲攻撃出来るタイプなんでしょうか?』

『あ~、本当だ。風系の魔法扱いかな? 風は無属性扱いだから、かなり使い勝手いいぞ』

『へ~っ、じゃあ高いけど……2セット程買っておきますね!』

『買い物終わったら、戻って瑠璃と合流するぞ~。瑠璃、レストランでチェリーパイ買っておいて』

『えっ、チェリーパイ? わ、分かった』


 何の事か良く分からずも、弾美の言う事に素直に従う瑠璃。初っ端から諸事情でごたごたしたが、ようやく四人はめでたく中立エリアで合流を果たす。

 エモーションでお互い挨拶を交わす姿は、どれも生き生きとしていて嬉しそう。弾美が買って来た装備をさっそく配りつつ、パーティに瑠璃を招く。ようやくの四人パーティ結成である。

 各自出来る事や新スキルなどを報告しあって、お互いの隙間を少しずつ埋めて行く。

 


 片手剣スキルが50台に突入し、攻撃力アップの補正スキルが2段階に突入したハズミン。素の削り力も冴えを見せ始め、複合スキル技のトルネードスピン共々、前衛としていい感じ。

 更に風と土系で、2種類のタゲ取り魔法を覚え、盾役としてその防御力を生かす道が開けて来た。風魔法の《風鈴》は、サイドステップの使用時に、敵の注意を引き付ける事が可能。土魔法の《石つぶて》は、逆に敵に対して使用する。つぶてをぶつけて、敵の注意を引く魔法である。

 弓矢を持つのを止めて、大麻袋でポケットを増やしたのも、大きな変更点と言える。いざと言う時には、装備の変更で遠隔釣りも行う予定ではあるけれど。

 魔法で一番スキルの高い闇属性の《グラビティ》での足止めで、戦術にも変化が付けられる様に。ソロでも粘れるキャラに成長しているハズミンである。



 名前:ハズミン 属性:闇 レベル:27

 取得スキル  :片手剣53《攻撃力アップ1》 《二段斬り》 《下段斬り》

                  《種族特性吸収》 《攻撃力アップ2》 《複・トルネードスピン》 

           :闇48《SPヒール》 《シャドータッチ》 《闇の腐食》 《グラビティ》

           :風23《風鈴》 《風の鞭》 :土23《クラック》 《石つぶて》

 種族スキル  :闇27《敵感知》 《影走り》 :土10《防御力アップ+10%》


 装備  :武器 魔人の剣 攻撃力+17《耐久14/14》

      :盾 豪奢な大盾 体力+4、防+12《耐久8/8》

      :筒 大麻袋 ポケット+3、HP+5、SP+5%

      :頭 暗塊の兜 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+15

      :首 鬼胡桃のペンダント HP+8、体力+2、防+6

      :耳1 砂塵のピアス、土スキル+3、体力+1、防+3

      :耳2 遺跡のピアス 器用度+1、HP+5、防+2

      :胴 ゾゲン鋼の鎧 体力+2、HP+8、防+12

      :腕輪 暗塊の腕輪 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+15

      :指輪1 サファイアの指輪 腕力+3、SP+10%、防+5

      :指輪2 古代の指輪 体力+1、防御+5

      :背 砂嵐のマント 風スキル+3、敏捷度+4、防+8

      :腰 マジックベルト ポケット+3、MP+2、防+2

      :両脚 魔人の下衣 攻撃力+3、体力+2、腕力+2、防+10

      :両足 暗塊のブーツ 闇スキル+5、土スキル+5、HP+25、防+10


 ポケット(最大9) :小ポーション :小ポーション :万能薬 

            :中ポーション :中ポーション :万能薬

            :中ポーション :中エーテル :闇の水晶玉



 2日間完全休養で、レベル的には変化の見られないルリルリだが。金のメダルで光の術書を1枚購入して、念願の《ライトヒール》の魔法を覚える事が出来た。

 これで癒し手としても充分に働く事が可能になり、本人としても満足のいく所。しかも、ゾゲン鋼装備の購入により、前衛としての防御力にも大幅な上昇が見られる事に。

 光の特級リングの効果で攻撃距離が少し伸びたため、曖昧な攻撃での空振りが少し減る仕様になったのも嬉しい瑠璃である。大麻袋でのポケット数とSPの増加も、何気に心強い。

 ただ、相変わらずMPが250に達していないので、天使魔法の《エンジェルリング》を唱える事が出来ないと言う珍事は解消されておらず。このままネタ魔法に終わらせておくのは、あまりに勿体無い。

 弾美にからかわれるネタを、早く失くしてしまいたい瑠璃であった。



 名前:ルリルリ 属性:水 レベル:25

 取得スキル  :細剣40《二段突き》 《クリティカル1》 《麻痺撃》 

                 《複・アイススラッシュ》 《幻惑の舞い》

           :水48《ヒール》 《ウォーターシェル》 《ウォータースピア》 

               《ウォーターミラー》   

           :光30《光属性付与》 《エンジェルリング》 《ライトヒール》

           :氷30《魔女の囁き》 《魔女の足止め》 《魔女の接吻》

 種族スキル  :水25《魔法回復量UP+10%》 《水上移動》


 装備  :武器 天使のレイピア 攻撃力+14、知力+2、MP+8《耐久14/14》

      :盾 大亀の大盾 耐水魔法効果、防+10《耐久15/15》

      :筒 大麻袋 ポケット+3、HP+5、SP+5%

      :頭 流氷の髪飾り 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+8

      :首 サファイアのネックレス 腕力+3、SP+10%、防+5

      :耳1 天使のピアス 光スキル+3、知力+2、MP+8、防+3

      :耳2 流氷のイヤリング 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+5

      :胴 薔薇のローブ ポケット+2、HP+10、MP+10、防+9

      :腕輪 ゾゲン鋼の手甲 体力+2、HP+6、防+10

      :指輪1 光の特級リング 光スキル+4、HP+15、攻撃距離+4%、防+4

      :指輪2 水の指輪 水スキル+3、精神力+1、防+1

      :背 クモの巣のマント HP+7、MP+7、防+7

      :腰 マジックベルト ポケット+3、MP+2、防+2

      :両脚 流氷のスカート 水スキル+5、氷スキル+5、MP+25、防+10

      :両足 ゾゲン鋼の戦靴 体力+2、HP+6、防+10


 ポケット(最大11) :小ポーション :中ポーション :万能薬 

             :中ポーション :中ポーション :万能薬      

             :中エーテル :中エーテル :闇の水晶玉  

             :大エーテル :水の水晶玉



 母親の参入で、病床中にもかかわらずにレベルを1つ上げてしまったミイナだが。うっかり妖精装備で風スキルが+5されているのを忘れ、腕とマント装備を固定化してしまうという大失態を演じてしまった。弾美に怒られたのは言うまでもないが、敏捷度が上がった事で弓矢の回転率もかなりの上昇を示している。

 その際覚えた風スキルの《風の陣》は、敵からの攻撃を軽減してくれる防御系の魔法。使い勝手はいいのだが、後衛のミイナが覚えると言う事態は微妙。

 タウロス族の集落で購入した範囲攻撃の矢束により、攻撃面ではより凶悪さを増した。遠隔でさらに範囲攻撃のスペシャリストへの道を、確実に進んでいるミイナであった。



 名前:ミイナ 属性:雷 レベル:24

 取得スキル  :弓術36《みだれ撃ち》 《貫通撃》 《近距離ショット1》  

           :光32《ライトヒール》 《ホーリー》 《フラッシュ》 

           :雷22《俊敏付加》 《俊足付加》

           :風10《風の陣》 :水10《ヒール》

 種族スキル  :雷24《攻撃速度UP+3%》 《雷精招来》


 装備  :武器 大樹の長杖 攻撃力+11、知力+3、MP+20《耐久12/12》

      :遠隔 雷鳴の弓矢  攻撃力+17、器用度+4、敏捷度+4《耐久12/12》

      :筒 貫きの矢束 攻撃力+14

      :頭 飛竜の兜 敏捷度+4、腕力+2、HP+10、防+8

      :首 幸運のお守り ポケット+2、移動速度UP、耐呪い効果、防+2

      :耳1 血色のピアス 耐呪い効果、HP+10、防+2

      :耳2 金のピアス 敏捷度+2、MP+4、防+2

      :胴 鉤爪付きの上衣 雷スキル+3、器用度+2、防御+8

      :腕輪 超プニョンの緑篭手 風スキル+2、敏捷+1、防+6

      :指輪1 遺跡のリング 器用度+2、HP+5、防+3

      :指輪2 サファイアの指輪 腕力+3、SP+10%、防+5

      :腰 マジックベルト ポケット+3、MP+2、防+2

      :背 砂嵐のマント 風スキル+3、敏捷度+4、防+8

      :両脚 鉤爪付きの腰布 雷スキル+2、器用度+1、防御+7

      :両足 編み上げブーツ 攻撃力+3、防+6


 ポケット(最大8) :小ポーション :中ポーション :中ポーション 

            :小エーテル :中エーテル :万能薬    

            :中エーテル :雷の水晶玉



 弾美パーティと合流して、確実な成長を見せているカオルではあるが。長槍スキルオンリーで伸ばしているだけあって、メンバー中最低レベルだが、かなりの前衛能力を備えている。

 獲得魔法の数こそ少ないが、前衛とは元々そんなもの。基本戦法は《炎属性付与》と《俊敏付加》を自分に掛けて、ひたすら殴るだけのシンプルさなので問題なし。

 妖精装備の同化も終了し、お金は掛かったものの良品と交換出来た。NMドロップの腰袋でポケットは最大の12になっているのも、レベルが低いのに前衛を任されている負担を軽減している。弾美と比べると、どうしてもHPが100程度低くて見劣りするのだが。

 長槍の新取得スキル技の《石突き撃》は、たまに長槍の石突き部分で追加攻撃をするというもの。ダメージは大した事は無いのだが、SPも貯まるし良い補正スキルかも知れない。

 武器の交換で、前衛としての削り力は更にアップ。攻撃間隔では片手武器に遅れを取るが、一撃の威力は更に高まっていくであろう。



 名前:カオル 属性:風 レベル:21

 取得スキル  :長槍48《二段突き》 《攻撃力アップ1》 《脚払い》 《石突き撃》

           :炎15《炎属性付与》 :雷15《俊敏付加》 :風13《風鈴》

 種族スキル  :風21《回避速度UP+3%》 《魔法詠唱速度+6%》


 装備  :武器 トライデント 精神力+2、攻撃力+25《耐久11/11》

      :筒 絹の腰袋 ポケット+4、HP+10、SP+10%

      :頭 迅速の兜 炎スキル+4、雷スキル+4、器用度+2、防+7

      :首 金のネックレス 敏捷度+2、MP+8、防+3

      :耳1 遺跡のピアス 器用度+1、HP+5、防+2

      :耳2 銀のピアス 器用度+2、HP+4、防+2

      :胴 超プニョンの赤鎧 火スキル+3、腕力+2、防+14

      :腕輪 迅速の腕輪 炎スキル+4、雷スキル+4、腕力+2、防+7

      :指輪1 迅速の指輪 炎スキル+3、雷スキル+3、防+4

      :指輪2 遺跡のリング 器用度+2、HP+5、防+3

      :腰 迅速のベルト ポケット+3、器用度+2、防+7

      :背 迅速のマント 炎スキル+4、雷スキル+4、防+7

      :両脚 迅速のズボン ポケット+2、腕力+2、防御+7

      :両足 迅速のブーツ 腕力+3、器用度+3、防+7


 ポケット(最大12) :小ポーション :小ポーション :万能薬     

             :小ポーション :小ポーション :万能薬

             :中ポーション :中ポーション :万能薬

             :中ポーション :中ポーション :炎の水晶玉



『美井奈っ、お前は一体いくつ装備を固定化すれば気が済むんだっ!』

『ごめんなさい~、でもマント渡してくれたのお兄さんじゃないですかっ!』

『敏捷度上がるから欲しいって言ったのはお前だろっ、そんな事言う奴は明日お仕置きだっ!』

『ごめんなさい~~、お姉ちゃま助けて~!』


 何と言っていいか分からない瑠璃は、取り敢えず手持ちの金のメダルの枚数の報告。ライフポイントを売りまくったお陰で、招待状の元が取れて何と27枚も残っている。

 それならお高いカメレオンジェルも買えると瑠璃が言うと、裏エリアに入るのに使うからあまり無駄使いするなと釘を刺された。地上のエリア構成に疎い瑠璃は、そう言われても良く分からず。

 それを聞いて、薫が助け舟を出す。エリアの情報を簡単にまとめておいたらしい。


 **カオルのクエスト・噂レポート**

 ……エリア編……

クエストエリア――全部で3つ。クエストを受ければ鍵が貰える。金貨や報酬が入手可能

遺跡エリア――全部で2つ。仕掛け有り。レベルアップ果実、葉っぱが入手可能

イベントエリア――25以上でないと駄目。葉っぱ入手可能。次の扉を開く条件でもある

裏エリア――全部で??? インに金のメダル必要。闇市の噂では、レア装備が入手可能?

フリーエリア――大きいのが1つ。様々なNM、トリガーNMも多い? タウロス族の集落あり


『おおっ、さすがクエスト大臣、情報に抜かりがない。当分は遺跡とクエストエリア中心かな?』

『薫さんはクエスト大臣ですか~、お姉ちゃまは何?』

『私はカバン大臣なんだって~、美井奈ちゃんは何かな?』

『私は何ですか、隊長?』

『お前は釣り人だ、今日も程ほどに頑張れよ。薫っち、景気付けにNM行こうか、どこかある?』


 薫は確かあったと言い、星の鍵のエリアにNMの目撃情報があると報告した。それに行くか、先に遺跡エリアで葉っぱを回収するか、どちらもポピュラーな選択肢らしい。

 美井奈は美井奈で、自分は釣り大臣だと一々言い直している模様である。気楽な会話を繰り広げている内に、時間は既に8時から10分以上経っている。

 病み上がりを抱えるパーティとしては、夜遅くまでプレイしている訳にも行かない。弾美はまず先に遺跡エリアに行こうと宣言すると、瑠璃と美井奈が入り口はどこかと訊いて来た。


 弾美も実は良く知らないので、薫が皆を先導して中立エリアを横断。東西に長いエリアの、丁度北の中央に大樹をのぼって行くイベントエリアの入り口があるらしく。

 遺跡エリアはその丁度右、つまり東側にあって、キャラバン隊の集落の反対側にあたる。さらに東に進めば、フリーエリアの入り口になっている模様である。


 遺跡エリアも地下でこなして来た攻略エリアと同様に、各パーティが占有出来る仕様であるらしい。つまり、フリーエリアと違って、他のパーティに出会う確立は全くのゼロ。

 弾美達にとっては、敵のレベル補正に苦しめられるエリアでもあるのだが。


『んじゃ、パーティの戦闘配置とか、前もっての打ち合わせ通りにな。瑠璃は殴りか回復支援か、場面によって変えてくれ』

『分かった。闇市の方が薬品安かったから、買い込んでおいたよ。今から配るね~』

『ありがとうございます、お姉ちゃま~!』

『ありがと~、瑠璃ちゃん』


 瑠璃がパーティの皆に、先ほど買い込んだ薬品とHPやMPが30分アップする食事を配って行く。それをポケットに押し込んで全ての準備が整うと、ようやくの突入指令となり。

 実に久し振りのエリア攻略開始。しかも、初の四人体制での突入である。ようやくの感もあるが、やっぱりワクワクしてしまう一同は、勢い込んでエリアに飛び込んで行く。



 遺跡エリアはその名の通り、昔の建物が廃墟となって広がっていた。風化し、苔や樹木が好き勝手にはびこっており、時折進めない場所も出てくる始末。昔は綺麗に整備されていたであろうタイル舗装の路地も、がたがたで見栄えが悪いことこの上ない。

 進の情報通り、敵の姿は最初は全く見えなかったのだが。歩を進めて行く内に雑魚らしき蟻型の蛮族やスライム、シャドー族やアンデット族などがちらほら出て来た。

 虫型の敵も多く、サソリや団子虫、その他色々。クモが出て来た時はびびったが、それ程敵の数も多くなく。


 オートマップで確認しても、やっと3分の1程来たくらい。マップの広さは、どうやら下の層のステージの大きい方くらいだと思われる。その割には、敵の数はずっと少ないけれど。

 入り口から迷いつつも、ようやく大通りらしき道に出た一行だが。通りの端に案内板を見つけ、みんなで眺めて思案顔。大通りの西に大きな塔が、東に大掛かりな広場が、北に公共の施設らしき建物があるようだ。見ただけでは、さっぱり目的の葉っぱがどこにあるのか分からないが。

 3方向のいずれかにあるのだろうという事で、意見は一致。


『じゃあ、どこから行こうか?』

『建物の中より、外の方が葉っぱ落ちてる確率が高いんじゃないかな?』

『なるほど~、じゃあ東の広場ですかねぇ?』


 そんな訳で、揃って東に進む一行。敵影はやっぱり少なく、殆ど障害の無いままに東の外れに着いてみれば。見えるのは公園のような整備されたタイル張りの地面。

 その中央の場所は、綺麗に半円にすり鉢状にへこんでおり、何かの絵が描かれているようだ。風化によってよく見えないが、ちゃんと降りれるように階段もついている。

 降り切った底の部分には、台座のような仕掛けが見えた。


『……なんでしょうか、ここ?』

『なんかの仕掛けなのは間違いないよなぁ、闘技場とか野球場にも見えるな』

『降りた所のあれが、スイッチみたいだねぇ……』


 黙って見ていても仕方が無いし、時間も勿体無い。弾美を先頭に、階段を恐る恐る降りて行く一行だが。降り切って何も起こらない事に、逆に不安になってしまう。

 終いにはミイナがその辺を走り回って、どこかの誰かを挑発してみたり。結果はこれも不発で、俊足魔法の掛け損な感じ。底から見ると、野球のグランドに立っているみたいに感じるが、観客などいる筈も無く。うら寂しい雰囲気が、そこら中に蔓延しているのみ。

 正直、確かに闘技場にいるような気もしてきた弾美だが。


 瑠璃が台座を調べてみると、奇妙なマークが時計の数字状に12個描かれていた。どこかで見た事があると思ったら、星座のマークに間違いないと瑠璃は断言。

 そしてやっぱり、起動スイッチがあるよう。弾美が隊長命令で、美井奈に押してみろと催促。


『分かりました! 釣り大臣として、仕掛けのスイッチを押しましょう!』

『まぁ、何でもいいからそれで頼む。おっと、各自戦闘準備な~』


 強化魔法を掛け終わった一同を確認し、美井奈は起動スイッチを押してみる。その瞬間、降りて来た階段が壁で遮断され、パーティは完全にすり鉢の底に隔離されてしまった。

 どこからか不気味なアナウンスの声が鳴り響く。台座は不気味に光を放ち、星座の旅をお楽しみ下さいとか何とか、そんな囁きのログが表示されたと思ったら。

 台座の左側に突如出現する大きな天秤。子供が腰掛けられそうな秤が二つ、均等に左右に配置されバランスを取っている。


『……天秤、はかり?』

『左側に、金貨みたいなのが乗ってる様に見えない、コレ?』

『あ~、あるな……金のメダルが7枚乗っているってさ』

『は~、バランスいきなり崩れてるじゃ無いですか?』


 美井奈の言う通りなのだが、クリックして天秤を調べてみても『等しき対価を』との表示のみ。意味が分からず戸惑う一行を尻目に、台座の光が2回目の瞬き。

 次の瞬間、左斜め奥に、サソリのモンスターがポップ。驚く一同にスッと接近して来ると、容赦なく攻撃を仕掛けて来る。分かり易い敵の出現に、しかしパーティも張り切って殴り返す。

 敵は中ボス仕様なのか、HPが多く強敵だったが。程なく倒され、そして間を置かず湧く次の敵。


『タウロス族? あっ、これって射手座だ。この仕掛けは星座の順番なんじゃない?』

『あ~、そうだね薫さん! って事は12種類湧くのかなぁ?』

『少なくとも天秤は攻撃して来ないけどな。あれも謎を解かないといけないのかも』

『お姉ちゃまに任せとけば、あんな謎はイチコロですよっ!』


 少しは自分も考えろと、弾美などは思うのだが。薫もその案に便乗しているようで、歳上の威厳もどこへやら。とにかく遠隔仕様の相手に近付こうと、弾美と薫が駆け出そうとすると。

 何故かいきなり、更に3つ同時に仕掛けが作動。山羊頭の魔人と古代魚のような大きなモンスター。その中間に出現した大きな水瓶は、フィールドをいきなり水場に変化させて来る。


 湧き上がる悲鳴に全くお構い無しに、戦場は水浸しで移動力は半減。しかも古代魚はまさに水を得た魚状態で、嬉々としてこちらに接近して来ている始末。

 射手に取り付くのを諦めた弾美は、古代魚をブロック。遠隔組に射手の始末を頼むと、薫と二人で魚を料理に掛かる。天秤の反対側での戦闘と言う事は、これでやっと半分らしい。

 遠隔組は、範囲ギリギリからのアタックで射手の削りに従事しているよう。山羊頭の魔人に、瑠璃が足止め魔法を掛ける。魔法の反撃が来そうになって、慌てて範囲外に脱出。

 美井奈は自分に《風の陣》を掛けての、真正面からの矢の射掛け合い。威力の程は、美井奈に分があるようだ。瑠璃が《ウォータースピア》で手助けすると、射手のHPは一気に半減まで落ち込んで行った。


『まずいよ~、山羊さんがフリーになってる。魔法解けちゃう!』

『薫っち、魔人頼む! ってか、瑠璃にこいつをマラソンして貰えは良かったな』

『魔人了解~、早めにサポートお願いします~』


 古代魚はもうすぐ倒せそうなのだが、敵の数も多くて大変。射手の方も、美井奈と瑠璃の頑張りで、あと3割といった所。回復をあちこちに飛ばす瑠璃は、水上移動の種族スキルのお陰で苦労せずに水上を走り回っている。

 薫と魔人は程なく接敵、戦いの火花を散らせ始める。3匹の中で一番厄介な敵だけに、薫も気を引き締めての戦闘だ。


 程なくタウロス族の射手と古代魚は、ほぼ同時に没。瑠璃は種族特性の機動力を生かして、薫の側まで駆け寄ると、スキル技を駆使して魔人削りの手助けを始める。

 美井奈は弾美の指示で《ホーリー》と《俊敏付加》の魔法を使用した後にヒーリングに入る。まだまだ戦闘は続きそうな雰囲気に、薬品節約の工夫も大切である。

 水瓶もタゲれますけどと、ヒーリング中の美井奈の言葉。コイツを攻撃して破壊すれば、水没の状態が解除されるのかも知れないが、そうでないのかも知れない。

 台座の右側に羊とミノタウロスが湧いた事で、水瓶は結局無視の方向に。


『牛と羊押さえるぞ~、魔人は行けそうか?』

『もうすぐ終わりそう~、終わったら私もヒーリングしていい?』

『おっけ~、薫っちはすぐこっち来いよ~』

『は~い、水瓶は無視でいいって事ね?』


 大きな斧を振るうミノ牛を一人で相手をしつつ、羊に《グラビティ》でちょっかいをかける弾美。ところが、羊はそのモコモコした毛に水を吸い込み、10歩も歩かない内にやる気を失ってしまったらしい。勝手に元の場所に戻って消えてしまう、見事な自滅っぷり。

 パーティ会話で、今のは何? と混乱した言葉が飛び交うが。どうやら水瓶を取り除かない事でも、ちょっとした恩恵は与えられるのかもとの推測が。


 この調子なら薬品の消耗を避けてのクリアも平気かなと思い始める弾美。魔人のドロップが凄いとのログも心地良く、ミノ牛戦も、ソロでも充分な程の好調さ。

 いつもの如く、調子に乗り始めた頃から暗雲が立ち込め始めるのは如何な事か。次に湧いた双子のゴーストは、いかにも儚げで大して強くも無さそうである。

 ヒーリングの終わった瑠璃が駆け寄って来て、1匹持つよと殴り掛かったのだが。


 何と渾身の複合スキルのダメージがゼロ! 焦った美井奈も攻撃を仕掛けるが、やっぱりダメージは皆無。逆に殴り掛かられ麻痺まで受け、混乱した遠隔組は魔法に頼ってみたものの。

 やっぱり、魔法攻撃にもダメージはゼロ。渾身の《ホーリー》がゴーストに効かないという事態は、弾美にとっても寝耳に水だったり。


『ミノ終わった、そっちに行くぞ!』

『えっと、今何だっけ。双子座? そこにヒントがあるのかな?』


 薫の冷静な考察を遮るように、巨大なカニが台座の真後ろに出現。弾美は謎解きを女性陣に任せると、単身カニを押さえ込みに掛かる。こっちも正直きついのだが、何とかポケットの補充の時間が取れている分だけマシな感じ。

 一方女性チームは、ゴーストを1匹ずつ瑠璃と薫で受け持っていたのだが。正直、ただ後衛の美井奈に近付けさせないと言う消極的な盾作戦。美井奈の破魔矢も駄目だと言う報告に、もう打つ手が無いと思った瞬間、ゴーストが初のダメージを受けた。

 理由は不明なのだが両方同じだけの量のHPの消耗に、薫がさすが双子と思った瞬間。閃いたように敵の特性を推測。


『瑠璃ちゃん、多分こいつ同時攻撃じゃないと傷付けられない! ちょっと同じペースで殴ってみて!』

『えっ、あっ! 了解!』


 瑠璃の攻撃のペースに合わせる様に、薫の突きが炸裂。薫の読みは正しかったようで、ゴーストはたった2撃でヘロヘロになって行く。元々HPは少ないようで、だったらと美井奈が範囲攻撃の矢尻を装てん。

 矢弾による範囲攻撃で、呆気なく双子のゴースト昇天。


『やった~、薫姉ちゃま凄い読みですっ!』

『えへへ、やっぱ最年長だしね~』


 そんな言葉を交わしている間に、ハズミンは黙々とカニを一人で平らげて行く。大型モンスターは一撃が当たると怖いのだが、モーションの大きさで特殊技の発動を読みやすいのだ。

 弾美くらいのレベルになると、完封するのも容易い程。


『カニ終わった~、次は何だ~?』

『後は、獅子座と乙女座……かな?』


 薫の言葉を受けるように、獅子頭の黒マントを羽織った大柄の戦士が出現。一目見て強そうだと直感した弾美は、近付く前に武器をレイブレードに交換しようとしたのだが。

 いきなりの獅子の咆哮で、全員が座り込みスタン状態。パーティ内に上がる悲鳴が終わらぬ内に、ゆっくりと近付いて来た両手剣持ちの獅子は薫に斬撃を見舞う。

 たった2撃で薫のHPは半減。ようやくスタン状態から復帰したパーティから回復魔法と遠隔攻撃のタゲ取りが飛ぶ。弾美も取り替えた武器を手に、ようやく接敵に成功する。

 仕掛けの最後に、とんだ強敵が出現である。

 

 獅子の戦士は、今度は容赦ない範囲攻撃。範囲内にいた弾美と薫は、避け切れずにモロに被弾する。それでも殴り返して、ようやく敵のタゲを弾美ががっちりキープ。

 正面からの《トルネードスピン》で反撃の狼煙を上げる弾美。続いて横から近付いた瑠璃が《アイススラッシュ》を見舞う。はっきり言って、卑怯なくらいの追い討ちの畳み掛け方。

 それでも、HPも多い獅子は怯む様子も無く。


 熾烈な戦闘は、しかし数の優位は最後まで揺るぐ事も無く。四人での削りは凄い勢いで、こちらの被害を最小に抑えての勝利に辿り着く。ようやく強敵が倒れてしまうと、一行ははやんやの喝采。それでもあと1体残っていると薫が口にすると。

 MP持ちは慎重にヒーリング、前衛陣は油断無く湧き待ち状態に。


 ところが、最後に湧いた乙女は何とNPC。トコトコと一行に近寄って来ると、祝福の光を注いで呆気にとられている一行を無視して一礼。その場でスッと消えてしまう。

 乙女の祝福は、パーティの傷や魔力をフル回復したばかりか、どうやら武器の耐久度も直してくれたようだった。一同は拍子抜けしつつも、何となく感謝の言葉を述べてみたり。

 そして残ったのは、割と大量な戦利品と最初に湧いた天秤。水瓶は乙女と共に消滅したようだ。


『戦利品は大量だけど、未だに階段は消えたままなのよねぇ』

『天秤の謎を解かないと、ここから出られないって事じゃないか?』

『お姉ちゃま、お願いします!』


 術書などもそうだが、薬品類やら水晶玉やら、他のドロップも豊富。特に最後の獅子戦士からは、大剣や質の良いベルトもドロップ。瑠璃の思案中に、分配に湧く他の面々。

 相談の結果、ベルトは弾美が貰う事に。

 ――獅子王のベルト ポケット+2、攻撃力+4、HP+15、防+8


 他の人間もちょっとは考えろと、パーティ会話が騒がしくなる中。薫などはひたすら戦利品を数え上げている模様。どうやら、早解きではほとんど敵も仕掛けも無視して来たため、一度にこんなドロップを見る事が無かったらしい。

 瑠璃は取り敢えず、対価というキーワードから思考を拡げて行く。金のメダルの対価とは、銀のメダル5枚か、お金だと確か3万ギル。しかし、7枚分のお金など持っている筈も無く。

 そう言えば、連戦でのドロップでやたらと今回、術書や水晶玉が入手出来た。術書が水や土や闇と3枚、水晶玉がそんな感じで5個もドロップした。

 お店で買うとしたら、金のメダルで8枚分だと思った瞬間謎が解けた。


『あ~、術書とか水晶玉が1つで金のメダル1枚分だから……』

『あっ、なるほど! 反対側の秤に、7つ分それを乗せればいいんだ。頭いいっ、瑠璃ちゃん!』

『そうかっ、じゃあ要らない術書とか放り込め~。土龍の尻尾っていらないな、幾らだっけ?』


 それも確か1枚だった筈と、皆がそれぞれストックを瑠璃に差し出す。イベントエリアで必要になるのではと薫辺りは心配気味だったが、退路など必要ないと弾美は強気。

 結局必要のなさそうな土龍の尻尾や炎の術書辺りを処分的な感じで秤に置いてみると。天秤と階段を封じていた壁が消滅。仕掛けのクリアと共に、金のメダル7枚ゲットの知らせ。

 いきなりの大盤振る舞いに、一同大喜び。


『すご~いっ、こんなに儲かって良いのかしらっ?』

『よし、道が開いた。次は反対側行ってみるか!』


 何しろ、既に突入して30分くらい経過している。星座の仕掛けで、結構時間を取られてしまったようだ。急ぎ足で大通りの案内板の所まで引き返し、今度は逆の西の塔を目指す。

 目的が何かをすっかり忘れてしまっていた弾美は、薫にもう一度確認。遺跡エリアって、一体何する所?


『葉っぱが1枚あるみたい、それからレベルアップ果実?』

『おお、そうだった。じゃあ、ラスボスとかいないのかな?』

『クエストエリアはいないらしいねぇ。ここはどうなのかよく分からないけど』


 初のエリアの攻略なのだし、慎重に行こうと言っては見たものの。釣り大臣の美井奈は、ほとんど敵がいなくて見せ場が無いとブツブツ愚痴をこぽしてみたり。

 お陰で移動はかなりスムーズなのだが、確かにレベル上げには向かない仕様。3分余りで辿り着いた街の端の塔は、外見は廃墟の建物の1つっぽくて、所々壊れたり植物の侵食を受けていたりと荒れ模様。

 入り口の扉は壊れていて、エントランスも明かりに困らない程なのだが。侵入者撃退用のロボに襲い掛かられて、一同驚きつつもそいつらを撃退する。


 1階には撃退ロボの小型のタイプがうろちょろしていて、入り口に塔の案内図が見付かった。奥の部屋には宝箱が2つ。開けると素早さの果実と聖水が1つずつ。

 ホールに戻った一同は、やっぱり2階にあがるべきかと相談し始めるものの。


『エレベーターと回廊、どっち使おうか、ハズミちゃん?』

『エレベーターは定員二人らしいですよ? 一気に全員は無理ですねぇ』

『運動不足を自覚している奴が、階段を使うべきだ』

『うん、それはそうだと思うけど、これは分断トラップでしょw』


 喧々諤々、取り敢えず前衛と後衛を混ぜて分かれようと、瑠璃と薫組をエレベーターに放り込む事に。絶対怖い目にあうと駄々をこねる瑠璃だったが、弾美とペアを組んだ美井奈が、これも強固に嫌がったのだから仕方が無い。

 ところが、先に敵の急襲にあったのは、階段組の弾美と美井奈ペアだった。回廊は何故か手すりの無いタイプで、落下の仕掛けが怖いとは思っていたのだが。

 実際の仕掛けは、シャボン玉攻撃。どこかから漂って来た透明な玉は、キャラに近付くと破裂してダメージを与えて来る。仕方なく殴って壊していたら、シャボン玉に混じって敵影が接近。

 宙を漂っているマンタに乗っているのは、いつか見たクラゲ人間。しかも結構、数がいるよう。


『敵が出ましたよ~、ってか、シャボン玉が邪魔で射線が確保出来ません、隊長!』

『面倒だから、範囲矢弾に取り替えろ。こいつらHP別々にあるから厄介だぞ!』


 一方、戦況の変化を聞きながらエレベーターに乗り込んでいた瑠璃と薫ペア。向こうの心配をしつつも、こちらも絶対何かあると勘繰っていたのだが。

 階数指定など受け付けない封鎖空間は、なんだか不思議な造りになっているよう。上昇する感覚は確かにあるのだが、それは四方がガラス張りになっているから。

 周囲は壁だったり吹き抜けだったりするのが当然なのだが。気が付けばいつしか、小さな二人乗りの箱は宇宙空間らしき場所を移動しているのだった。

 遠くで瞬く星や、壮大な天の川。ほうき星が視界を横切っていく。


『わぁ、綺麗……これは宇宙疑似体験装置なのかなぁ?』

『どこに辿り着くのか不安だけど、ちょっと神秘的だねぇ……』

『美井奈、そこの階段ヒートトラップだ! 移動しないと火傷でダメージ喰らうぞ!』

『うにゅっ、いつの間にっ! お兄さんっ、2階はまだですかっ!?』


 2階に辿り着くまでに、マンタとクラゲのペアを何とか殲滅した弾美と美井奈ペア。シャボン玉の地雷(?)地帯からも抜け出して、ようやくひらけた場所に。しかし2階フロアで息つく暇も無く、今度は大型の侵入者撃退ロボの手荒い歓迎を受ける破目に。

 これがまた硬くて手強く、しかも2台も出てくる始末。


『わ~っ、こいつ硬いから時間掛かるかもっ! 美井奈、1匹マラソンしてろっ!』

『お兄さんっ、ミサイル飛んで来ますっ! タゲ取って下さいよっ!』

『あっ、宇宙空間終わっちゃった……ここどこ?』

『わっ、ハウス……温室みたいだねぇ。綺麗な花がいっぱい咲いてるよ、瑠璃ちゃん!』


 正反対なログなのは、2組とも重々承知なのだが。だからと言ってどうする事も出来ず、片方は熾烈な戦闘を、もう片方は現在状況を報告するのみ。

 弾美は1台目を、容赦なくスキル技の連打で屠ったようだ。弾美の《グラビティ》でマラソンに余裕を得た美井奈は、離れながらの遠隔削りでそれを手助け。

 2台目も何とか壊し終えた弾美と美井奈組は、宝箱の鍵が出たと一転はしゃぎ始める。休憩して一息つくと、宝箱を探し始めた模様。


 一方、温室を探索していた瑠璃と薫の周辺でも、ようやく動きが起き始めた様子である。なんだかのっぺりとした、壁のようなゴーレムが出現したとの報告がログに入る。

 変な植物が頭上に取り付いており、弾美達が回廊で出合ったマンタとクラゲ人間のように、各部位でHPが存在するよう。取り敢えず殴ってみるねと、薫が勢い良く突進して行き。

 戦闘は結構な乱戦となっている感じ。頭上の植物に呼応して、周囲から蔦がパーティを絡めようと伸びて来ているのだ。


『きゃ~、瑠璃ちゃん何とかしてっ!』

『水晶玉使うね、薫さんっ。頭の奴を倒したら蔦の攻撃止まるのかなぁ?』

『美井奈、宝箱あったか? こっちは上への階段しかない』

『あっ、こっちに2つ並んで置かれてますっ、隊長っ! お母ちゃまが見つけてくれました!』


 お母ちゃまは、今日も一緒に参加しているらしい。もはや慣れた弾美は驚きもしないが。薫のログからは、やっと下のゴーレムが倒れたとの報告。向こうも苦労しているらしい。

 鍵付き宝箱からは、星人の腕輪という光と闇スキルをプラスする珍しい装備と、闇市で売っていて既に購入済みの遺跡のピアスが入手出来た。喜ぶ弾美と美井奈ペア。

 ――星人の腕輪 光スキル+2、闇スキル+3、MP+8、防+8


 先程までの苦労もどこへやら。まだ宝箱があるかもと、喜び勇んで3階への回廊をのぼり始める弾美・美井奈ペア。ところが今度は、所々腐敗した階段が行く手を阻む。踏み外すと下まで落ちて、当然ながら落下ダメージを喰らってしまう。

 仕掛けが判明すると弾美が先頭に立って、そのすぐ後ろを美井奈がべったり付いて回る作戦に。それでも落ちる少女に、弾美は冷たい表情とログ通達。


『美井奈……母ちゃんに代わって貰っても、気付かない振りしててやるぞ?』

『心配無用、余計なお世話ですっ! 絶対自分の力でのぼりますからっ!』


 瑠璃・薫ペアは、何とか危機を乗り越えたようだ。こちらも宝箱の鍵が出たので、いそいそと宝箱を探し始めるのだが。見付かったのは巨大な蜂の巣で、温室での第2ラウンドスタート。

 薫が前線を維持している間に、瑠璃が魔法で蜂の巣を潰してしまおうと奮戦中。その間にも宙に放たれた蜂の数はとうとう5匹を数え、薫一人では手に負えそうも無い。

 ようやく蜂の巣を壊してしまうと、蜂の群れに混乱が。麻痺中の薫から安堵の声が漏れる。


『瑠璃ちゃん、ちょっと離れようっ! タゲが今乱れてる、また来たら怖いっ!』

『了解~、麻痺治すね~、薫さん』

『美井奈~、早くのぼって来いっ! 3階で敵に絡まれたっ!』

『い、今行きますからっ!』


 今度のログは、お互い混乱状態中の報告。弾美のいる3階は、下の階より少し小さな間取りで、出て来た敵はのっぺらゴーレム2体。温室に出たタイプだが、植物の付加は無い模様。

 美井奈の遅れでやや劣勢に立たされている弾美だが、防御の硬さとHP量は伊達ではない。軽快にステップを踏みながら、巨体の敵を華麗に翻弄してみせる。

 相手は数の有利を活かせずに、接敵場所の取り合いにオタオタ。


 温室での瑠璃・薫ペアの戦闘は、どうやら一息ついたよう。しかも、思いがけず蜂の巣の奥に宝箱を発見したらしい。向こうのペアは、和気藹々な感じのトークテンポに変わっている。

 瑠璃の開けた2つの宝箱からは、星人の帽子という頭装備と遺跡のリングを入手出来たよう。喜びのコメントの中に、美井奈のやっとのぼれたとのか細い声が。

 弾美は既に1体を屠っており、美井奈はしゅんとなりつつも戦闘参加。離れた場所から慰めの声を掛けるお姉さん達。


『あ~、美井奈ちゃん、こっちだったら活躍出来たのにねぇ。組分けしたハズミちゃんが悪いよ』

『そうそう、ちょっとくらい遅れて来るのが女の子のテクニックなのよ』


 何のテクニックだと、弾美は思わず突っ込んで聞きたかったが。程なく弾美組の戦闘は無事終了を迎え、今度は階段脇に置いてあった宝箱を開錠する。星人のマフラーという首装備と、土龍の尻尾が入手出来た。

 しっかり美井奈ちゃんをエスコートしなさいと、うるさい外野に従った訳ではないけれども。4階には二人一緒に到達、今回は進路を妨害する敵や障害は全く無し。

 かと思ったら、瑠璃と薫にばったり出会う。この階の4割を占める温室は探索済みとの言葉。更に左側は階段まで辿り着くまでに通って、何も無かったとの報告。

 残るは階段の右側のみ。四人揃ったパーティは慎重な足取りで進み始める。


『あれっ、屋根が半分無くなってますね、ここ』

『本当だ……しかも、温室からの樹木が変な育ち方してるねぇ』

『むっ、奥の暗闇に何かいるなっ? みんな、戦闘準備しとくぞ』


 外から差し込む光が、逆に部屋の奥に影たまりを作っていた。そこでカサカサと動き回っているのは、どうやら小さな虫の群れのよう。強化の終わったパーティがそろりと近付くと、そいつ等は暗闇で赤く光る眼をこちらに一斉に向けて来た。

 赤黒い甲殻を持つそいつは、最初はただの虫の群れかと思ったのだが。陰から飛び出してみれば、1匹の大カマキリとナナフシを掛け合わせたような細長い不気味な生物。

 どうやら別々の虫達が、塊となって巨大な姿を模っているようだ。

 

 弾美の号令で、前衛二人が一斉に敵を殴り始める。硬い甲殻の大蟲は、攻撃手段も豊富のよう。殴り手段だけで大鎌と小鎌の2セット持ち合わせており、長い尻尾は特殊攻撃が発動するたびに、切り離されて増えて行く。

 口の部分からの毒霧攻撃と、大鎌の振り回しは範囲攻撃扱いらしい。どの特殊技が来ても、被害を受けたメンバーと回復役から大きな悲鳴が上がる。

 切り離しの小蟲が湧くたびに、瑠璃が素早く対応を迫られる。基本的に弾美と薫は本体オンリー。美井奈は場合によって、瑠璃を助けたり本体にスキル技を放ったり。

 後衛組は、リーダーの指示を受けて臨機応変な戦い振り。


『HPは減って来たけど、何か嫌な感じだなこいつ、ひょっとして分離するんじゃないか?』

『えっ、分離はもう3回くらいしたよ、ハズミちゃん?』

『ええっ、全部位の分離って事? それはヤバイんじゃない?』

『念のため、SP貯めておきましょうか、隊長?』


 余裕があればそうしてくれと、弾美はさらに削る事に集中して行くのだが。4本の鎌の攻撃は弾美に集中したり、たまに薫の攻撃に反応したり。何度目かのスキル技の応酬で、やっと大蟲のHPは半分にまで減って行き。

 その途端、弾美の懸念していた事態が事実となってしまう。耳障りな音と共に大蟲が仰け反ったかと思うと、爆ぜるように各部位が分裂して行ったのだ。弾美が素早く反応するも、タゲを取れるのはどうやっても精々が2~3匹程度。

 ばらばらになった小蟲は全部で10匹。パーティは大わらわ。


 美井奈は離れた場所にいたので、その為に幾分かショックは少なかったようだ。待ってましたとばかりに、いつかの必殺技、範囲可能の砂嵐の矢での《貫通撃》を見舞う。

 その威力はやっぱり凄まじく、範囲にいた5匹以上があっという間にHPを減らして行く。しかしそのせいで倒し切れなかった敵が、わんさかミイナへとたかってしまう事態に。大慌ての美井奈は、反対方向に逃げる素振り。

 瑠璃の水晶玉の使用も一足遅く、美井奈は3匹の敵を引き連れてフロアを逃走して行く。


『わっ、わっ、倒し切れませんでした、隊長っ!』

『小さいのは弱いから、そんな焦るなっ。適当に引き回して戻って来いよ、美井奈っ!』

『こっち後5匹くらい~、すぱっと倒しちゃおうっ!』


 小蟲のHPは、幸い大して多くも無かったため。三人掛かりで、何とか素早く倒し切る事に成功。後は美井奈がマラソンしていった奴だけと、連れて戻るように話し掛けたのだが。

 何だか様子がヘン。パーティ表示のミイナのHPバーはどんどん減って行っている。皆が大慌てで駆けつけた時には、雷少女は《雷精招来》を発動中だったり。

 小蟲は3つでタイヤの形に合体変形しており、遠距離からの轢き逃げスタン技で、美井奈をサンドバック状態に。


『助けて~、死んじゃう~!』

『わっ、わっ、美井奈ちゃんっ!』


 皆で駆け寄り、無理やり必死にタゲを取り返す。危うく向こうが仕掛けた場所以外で、各個撃破されるところだった。瑠璃に回復を飛ばして貰って、少女は放心状態ながらも、見た目は無事な状態に戻って行く。

 敵が完全にいなくなっても、しばらく美井奈は呆けている印象のまま。


『ん~、美井奈がタゲ取った時用に、装備を硬くさせるべきか?』

『これから先、範囲攻撃が必要な時も出て来るだろうしね~』

『今はスキルアップ装備ばかりなの? それは危ないね~』


 こう何度も雷精招来をされたのでは、過重労働で雷の精もヘソを曲げかねない。弾美は思案しつつも、取り敢えず生き残った事へのねぎらいの言葉を少女に掛ける。

 美井奈は何も言い返さず、何となく落ち込んでいる感じにも見えて。そんな空気を読んだ弾美は、明日は美井奈の強化のためにメダルを使おうとパーティに提案する。

 瑠璃と薫が喜んで承諾すると、少女はおずおずと口を開いた。


『あの……やっぱり私、足手まといじゃないですか?』

『そんな事は全然無いよっ? 美井奈ちゃんがいなかったら、私達は地上に来れなかったよ。そうだよねぇハズミちゃん?』

『そうだな、少なくとも俺はこのメンバーで、期間限定イベントを最後までクリアするつもりだからな。途中下車は不可能だぞ、美井奈』

『そうだね~、せっかく知り合えたんだから、一緒に頑張ろうよ~!』


 どうやら少女は、感極まった状況に陥った様子。娘はしばらく操作不能なので、次の敵を見掛けるまで付いて行くだけになりますと、母親がログで告げて来る。

 どういう状況なのかよく分からないが、そこは優しさで皆敢えて触れない事に。薫が、さっきの敵の戦利品と宝箱の話題を振って来たので、弾美が率先して回収に向かう。

 宝箱は2つ、星人のローブとグランドイーターの果実が出て来て、果実の融通により薫は22へとレベルアップ。大蟲からは両手鎌や蟲の腕輪、精神の果実や薬品類がドロップ。

 パーティで何とか使えそうなのは、星人シリーズではローブくらい。

 ――星人のローブ 光スキル+2、闇スキル+3、MP+12、防御+12




 塔にはもう、仕掛けも敵もいないようだ。そんな訳で、階段を使用して一団となって外に降りて行くパーティ。何にせよ、目的の一つは達する事が出来たのだ。

 遺跡エリアであと残るは、北の1方向のみ。恐らくそこにメインの目的の葉っぱがあるのだろう。マップ攻略の段階で、一番奥はやっぱり一番怪しいので。弾美はいつも、癖のように後に取っておく事が多いのだが。

 今回もやはり、怪しさを嗅ぎ取る嗅覚は衰えていなかったよう。


 塔でも20分くらい時間を取られてしまい、しかし北に直進する大通りは脇道もほとんど無く順調な道のり。敵もほとんどいないので、一行の行く手を遮る者もなし。

 そんな事を考えていたら、意外な超大物が行く手を阻む事になるのだが。薫が建物に入れる脇道を見つけ、次いで瑠璃がすぐそこに何か仕掛けがありそうだと報告した。

 どっちを先に調べるか迷った弾美だが、大通りの何とかポイントはすぐそこにある。


『ん~っ、先にポイント調べてみるか。一応みんな戦闘準備な~』

『了解~、道の奥はもう行き止まりっぽいね~。ラスボス出て来るかも?』

『美井奈ちゃん、そろそろこのマップも終わりだよ~』

『りょ、了解です、お姉ちゃまっ!』


 強化魔法を掛け終わると、ぞろぞろとポイント前に向かうパーティ。ところが代表者が調べる前に、強制イベントが発動。ムービー動画に出て来たのは、何とフリアイールの魔女その人。

 空を浮遊した人影は、冒険者達を見下ろしながら楽しそうな笑みを浮かべている。その腕が上がったかと思うと、魔女の遥か上空の分厚い雲に異変が。

 厚い雲が雷鳴と共に真っ二つに割れ、隕石が地上目掛けて落ちてくる映像。


『うわ~~っ、最強魔法のメテオだ~~!!』

『きゃ~、やだっ、ちょっとタイム~!』

『あんなのぶつけられたら死んじゃう~!』


 画面のブレは相当なもの。パーティの混乱も同様で、こんな終わり方があって良いものかとの思いの中。イベントにもう一つの飛翔する影が出現し、魔女に果敢に攻撃を仕掛ける。

 白い翼の天使と黒いローブの魔女は、宙を飛び交いながらやがて小さくなって行った。


『あれっ、敵……行っちゃいましたねぇ?』

『あぁ、隕石で路が通れなくなってる……そういう仕掛けの布石だったのかな、魔女の出現?』

『メテオすげぇ……でも、天使を初めて見たプレーヤーは、話の筋分かり難いかもなw』

『本当だねぇ……美井奈ちゃん、あの悪い魔女、絶対一緒にやっつけようね!』

『はっ、はいっ、お姉ちゃまっ!』


 美井奈がようやく元気を取り戻したのは良いが、通れなくなった大通りはもうどうしようもない。先に進めそうな通路は、先ほど薫が見つけた脇道のみである。

 全員でその細い路を辿って行くと、それはどうやら建物の外縁に取り付けられた階段のよう。いつの間にか屋上に出る事が出来て、見晴らしの良い景色が一行の前に拡がる。屋上は何だかんだで通行が可能になっていて、辿って行くと北の端に辿り着けるよう。

 さらに、屋上の隅に設置された宝箱からは、転移の棒切れが人数分ドロップ。歩いて帰らずに済む親切設計だが、肝心の葉っぱが何故かまだ見付からない。

 屋上は迷路のように入り組んでおり、高低差の把握をしないと途端に行き止まって引き返す破目に。敵はいないが、段々と一行のフラストレーションは貯まって行く。


 瑠璃と美井奈のコンビが、いつの間にかかなり先行していた。道順を教えながら、なおも丸太の道を進んで行くと。何となく見えて来た、古く厳めしい遺跡のゴール地点。

 それは奇妙な彫刻が施された、入り組んだ外観の建物だった。そこの屋上には、何かの怪物をかたどった石像も見受けられたが、有り難い事に動き出す気配は無い。

 その場所の草のクッションの中、空色の木の葉が地面からほんの少し浮いて存在していた。


『あったよ~、美井奈ちゃんと見つけたよ~っ、ハズミちゃん!』

『えっと、これを全員で触れば良いんでしたっけ?』

『そうそう、全員8枚分集めないと、次のステージに進めないらしいからな。取り忘れるなよっ!』


 最後の迷路で少し時間を取られたが、何とか遺跡エリアの探求はお終い。見事にクリアとあいなって、全部で1時間ちょっとの冒険。何とか順調に攻略を済ます事が出来たようだ。

 全員触ったのを確認して、パーティは揃って転移の棒切れを使用する。


     *     *


 地上に出て来て初のまとまったエリア攻略に、結構神経を使った気がする一行である。弾美は他のメンバーにまだ大丈夫かと訊ねるが、みんな平気だとの元気な返事。

 次の予定は、クエストエリアの攻略となっている。1エリア廻り切るのに、大体1時間と聞いていたので2つ行けると踏んでいた弾美。ただ、入り方をどうしたら良いか知らない弾美は、薫に進行役をバトンタッチ。

 薫は全員、まずはクエを受けて貰わないとと、中立エリアをテクテクと案内し始める。あっちでNPCに依頼を受けて、こっちで噂を入手して、全員で広いマップを行き来して回り。薫の下調べは完璧で、時間短縮に役立つたのは言うまでも無い。

 それでも鍵を渡して貰って、全ての準備が整ったのは10分程度が経過してから。


『時間取られちゃったけど仕方ないな。これで後は、鍵使ってイベントエリアに入るだけ?』

『そうそう、クエの報酬は色々だろうけど、NM情報は間違いないと思うよ?』

『ん~、中でも時間取られそうだったら、最悪NMだけでいいか……』

『これって、受けた依頼は全部同じエリアでこなせるの?』

『そうだよ、今日受けたのは、全部星の鍵のエリアのクエストばっかりだよ~』


 薫の答えに、ちょっと納得の様子な瑠璃。美井奈に頑張ろうと振ると、少女も病み上がりとは思えない張り切りよう。母親が隣についているのなら大丈夫かと、弾美は心配しない事に。

 入る前に、フリーエリアで集めた素材収集クエを終わらせておけばとの薫の振りに。そう言えば苦労して集めた素材があったと、弾美は合成屋へとダッシュする。

 お礼に貰った装備は、なかなか良さ気なベルト装備。相談の結果、美井奈が貰う事に。

 ――複合素材のベルト ポケット+4、器用度+4、MP+8、防+6


 用意はだいたい整ったと、買い足したポーション類を整頓しつつ、突入の指示を出す弾美。四人が今回入り込んだエリアは、割とのどかで広々とした感じの景色を見せる。

 入った場所にはワープ用の魔法陣があって、その後ろは牧場で見かけるような柵が長く続いている。太陽は天高く昇っており、原っぱの景色が遠くまで続いている感じ。

 遠くに森の木立や、古ぼけた建物が辛うじて見えているのが、ちょっとした変化だろうか。


『えっと、研究者の迷子探しと、変わった苔の持ち帰りと……目撃情報が、妖精の泉と山の中の薪釜付近のNMだったっけ?』

『そんな感じかな? あと、倉庫の工具を置き忘れって、これもクエ?』

『よく分からないけど、同じエリアらしいね~。持って帰れば、報酬貰えるかも?』

『とにかく探してみましょうか。どうやって探索しますか?』


 弾美はちょっと考えて、行き止まりの後ろ以外の3方向に散らばってみようかと提案。弾美が左を、瑠璃が右を、レベルに不安のある薫は美井奈と一緒に真っ直ぐ進んでの探索へ。

 最初の5分は、パーティで散らばってのマップ作成。幸い敵はほとんどおらず、いてもノンアクティブの様子。弾美は好奇心で殴ってみたが、それほど強くは無い印象を受ける。

 真っ直ぐ進んだ薫と美井奈組は、前方にポプラの田舎道を発見との報告。


『左に進むと、古い建物の建ってる場所に辿り着くようですね~』

『こっちは森に辿り着いたよ~、モンスターがちらほらいるかな?』

『ソロじゃ危ないな。瑠璃はそのまま左に進んで、道まで出れるか?』

『わかった~、美井奈ちゃん達と合流するね~』


 10分も経てば、クエストに関係あるっぽい怪しい家屋の軒並みを発見出来た一行。そのほとんどが廃墟で、中には壁だけしか残っていない建築物も。廃墟の入り口で合流した一行は、他には主だった怪しい場所も発見出来なかったため。

 ここに賭ける意気込みは割と大きく、全員一丸で廃墟の探索に挑む事に。


 廃墟にはネズミのモンスターがうじゃうじゃ。全然強くないのだが、邪魔だとばかりに弾美と薫が大掃除。釣り大臣としては探索にいい所を見せたい美井奈は、瑠璃と一緒に怪しい場所や迷子を見つけようと大張り切り。

 ところが見つけたのは、何とフリーエリアの沼で出合ったNMの大蛇だった。弾美に釣って来いといわれ、そこから廃墟の通りの真ん中で殴り合いの遣り取り。

 ネズミは全部逃げて行き、結果的にすっきり。四人がかりて、結局大蛇も倒し切る。


『あれっ、迷子は大蛇に呑み込まれていたとかってオチはないかな?』

『ネズミがいっぱい、あの建物に逃げて行ってましたけど。ホラ、痛みの少ないあの赤い建物』

『むっ、それはヒント? ちょっと入れるか試してみようか』


 建物は入れるようになっていて、邪魔なネズミを倒しながらあちこち探索してみると。のぼれる階段を上がった突き当りの1室に、何と迷子の研究者というNPCを発見。

 その手掛かりを見つけた美井奈は狂喜乱舞。

 

 ――おおっ、外にいるあの大蛇を退治してくれたのか。あいつが外をうろついていたせいで、この建物から出る事が出来なくて困っていたのだよ。

 助かったよ、有り難う。後で私の研究所まで来てくれないか? なに、見送りは結構!


『やった~っ、美井奈ちゃん大手柄だよ~!』

『よく見つけたな、これで1つクエ終了だ。時間もそんなに掛けずに済んだし、良かった』

『有り難うございますっ! 次も私が見つけますよっ!』


 ところが少女が次に見つけたのは、廃墟の裏に広がる墓場。ちょっと不気味な雰囲気で、あまり近付きたくないのだが。インプが数匹飛んでおり、さらに嫌な感じ。

 瑠璃はクエを先に進めようと、敵は相手にしない方針をパーティに提言する。苔と倉庫と泉の探索をさっさと終わらせた方が、精神的にも楽になる筈だと。

 時間も惜しいしそうしようと、一行は敵を無視して再び探索に神経を集中する。


 廃墟の近くに小さな川が流れているのを、今度も美井奈が発見した。これを辿って行けば、ひょっとして妖精の泉を発見出来るのではないかとの憶測だが。

 近場で倉庫を見つけたのは薫だった。丁度、墓場の向こうに離れた感じで農家の家屋の廃墟が建っているそうだ。その隣に大きな倉庫が建っていて、中にモンスターの影が見えたとの事。

 近場から片付けようと、一行は農家の倉庫前に集合。


『あれっ、日が暮れてきましたね……ここは時間が存在するっぽい?』

『だな、ダンジョンとは違うみたいだし』

『メイン世界じゃ当たり前だけど、何か新鮮に感じるよねw』


 そんな夕暮れ時に、倉庫の中のモンスターと一戦交える冒険者達。巣くっていたのは、巨大な黒い体躯のケルベロス。3つ頭と尻尾の蛇は、いかにも強そうに弾美達を威嚇している。

 戦闘はいきなりの咆哮とブレスで、一同大ピンチ。戦況を建て直す前に、ハズミンのHPは半減までに追い込まれるものの。巧みなタゲコントロールで、他のメンバーは傷を負っていない事がかなりの余裕を生む結果に繋がった。

 立ち直りも素早く、反撃に転じる弾美達。


 敵のHPは豊富なのはある程度予想出来たが、攻撃の回数が多いのが盾役のハズミンを苦しめる。3つの頭での噛み付き攻撃は、全て避けるのは不可能に近い。横で削っている薫にも尻尾の噛み付きが何度も襲い掛かって来る。

 回復に追われて瑠璃と美井奈は、なかなか攻撃に集中出来ず。それでも瑠璃の氷系の複合スキルがヒットすると、3頭巨犬は苦しそうに呻り声を上げる。


『おっ、瑠璃のアイススラッシュ効いているな、ブレスが来なくなった』

『私も貫通撃行きますよ~!』


 解毒や回復に追われていた二人が、間隙を縫って攻撃に転じ始めると。あっという間に3頭巨犬のHPは削られて行き、ようやくHP半減まで敵を追い込むパーティ。

 それに応じたケルベロスの逆襲か、形態が微妙に変化。赤黒い炎が身体を覆い、殴る度に炎ダメージをこちらに与えて来るようになった。しかも3つの頭が同時に呪文の詠唱を開始し、渾身のHP吸収魔法を唱えて来る。《シャドータッチ》でHPを吸われたメンバーは悲鳴の嵐。

 殴っても魔法を止められなかった弾美は、モニター前で思わず悪態を付く。

 

『きゃ~、ちょっと何でこんなに強い敵が、こんな倉庫の中とかにいるのよ~!』

『たいした宝物守ってる訳じゃないのにね~?』

『むかつく~! 瑠璃、魔法で削ってくれっ。殴ったら反撃が厄介だ!』


 了解との言葉と共に、瑠璃の水の槍魔法と、ついでに美井奈の光の槌魔法が炸裂。魔法攻撃の2発目で何と、3頭巨犬を覆っていた炎のガードが解けてくれた。

 ポーションで自己回復をしていた前衛陣も、これなら安心して削れるとラストスパート。弾美は次の魔法が怖いので、瑠璃に《麻痺撃》のスタンバイを頼みつつ、薫と共にスキル技を放つ。

 凶悪HP吸収魔法は、結局2度目の詠唱は来ず仕舞い。そのせいと言う訳でも無いけれど、何とかパーティは大きな被害を出さずに勝利を収める。


『勝った~、しんどかったね~』

『戦利品、意外としょぽいな……宝箱隠されてないか?』


 倉庫の中には宝箱など無く、代わりに工具セットというアイテムを発見。クエアイテムらしいので、それぞれ持ち帰る事に。すっかり薄暗くなった農家の周囲を探索するが、やっぱり何も無し。

 薫がこの戦闘で、23へと順調にレベルアップ。ここまで来ると、両手武器の攻撃力はパーティの重要な戦力である。皆に祝福されつつ、薫はパーティ間のレベル差が埋まって来た事に安堵の表情。

 これでそれ程、足手まといの存在にはならなくて済む。


 探索を続けようと移動しようとしたパーティは、しかし夜の墓場で異様な影を発見してしまう。今度は川沿いに探索しようと来た道を戻る近道を選んだのだが、それが仇となる事に。

 あれはちょっとヤバイと、弾美でさえも怯むモンスターは、墓場の中央で静かに佇んでいた。引き返そうかと相談する一行に、墓場の地面の下からご無体なお出迎え。

 気付けばスケルトンやグールが、ポコポコと湧いて出て来る事態に。


『わ~っ、これってヤバい?』

『ソウルイーター、もう反応してるかもっ!』

『やばいっヤバいっ、余裕ある奴は聖水をポケットに入れ替えろっ!』


 そんな余裕は、湧き出た死体の群れに与えては貰えなかったが。気付けは最悪の死霊、ソウルイーターがパーティを丁寧にお出迎え。死肉で出来たヘドロ男のような容貌だが、その特殊能力は冒険者キラーとして悪名高い。

 やけっぱちに殴りかかった弾美に、いきなりの片手剣の耐久度減のログ表示。思いっきり怯みつつも、何となく予期していた事態でもある。これもやっぱり、ソウルイーターの特殊能力。

 この特殊能力がある限り、奥の手のレイブレードにも交換出来ない。


 湧き出たスケルトンやグールは、戦力的にはただの虚仮脅しだったのは助かったが。パーティで殴り始めた死霊のボスが、それならこちらもと周囲に呪いを撒き散らす。キャラの頭の上に急に現れた数字は、20から順にカウントダウンを始めて行く。

 その特殊効果に、パーティ一同大パニック。


『わ~っ、何ですかこの数字はっ、不吉!?』

『はやく聖水を使えっ! 0になったら強制死亡だぞっ!』

『たっ、確か、聖水も1分くらいしかもたなかった筈だよねっ?』


 初めて死のカウントダウンを喰らった美井奈は、その怖さを知らないようだったが。薫の言う通り、聖水を使っても秒読みはジャスト1分間止まるだけである。

 それでも一時止まるだけマシと、一同はウィンドウを開いての聖水の使用。全員何とか1桁になる前に静止出来たが、死の宣告はソウルイーターを倒さない限り解除されないと来ている。

 冒険者をここまで必死にさせる仕掛けも、滅多に無いだろう。


 聖水使用のモーション中攻撃されっ放しだった弾美も、やけっぱちの反撃を繰り出す。連続スキル使用からタゲを取り、光系の魔法での削りを仲間に要請する。

 美井奈が渾身の《ホーリー》を放ち、瑠璃も光属性の掛かった細剣で削りに参加。パーティ一丸となっての削り作業、回復魔法など飛ばしている暇も惜しむ程だ。

 しかし殴れば殴るほど、武器は腐食して行くと言う仕様、はっきり言って酷い。


 1分が過ぎても、もちろん戦闘は続いていた。ソウルイーターのHPはようやく半分程度。聖水は瑠璃の補給のマメさに救われた形で、パーティ全員在庫をもう少しは抱えているものの。

 2度目の使用のごたごたで、皆の頭上の数字は1桁に突入。美井奈はエーテルを使っての《ホーリー》の連打に踏み切ろうとしたが、お返しにソウルイーターの特殊技の死霊召喚が発動。

 雑魚のゾンビにたかられて、魔法処ではない状況に。


『あと3割っ、あと30秒くらいだっ、美井奈踏ん張れっ!』

『頑張りたいけど、ゾンビが邪魔で魔法が撃てません~!』

『そっ、そうだ……あの魔法試してみていい?』


 瑠璃がエーテルを連続使用したかと思ったら、光魔法の詠唱に入る。ルリルリの初使用の《エンジェルリング》は何とも派手なエフェクトで、周囲を明るく照らし出す。

 頭上の数字が、いつの間にか消滅しているのに気付いたのは、薫が一番先だった。その眩しい光には、雑魚ゾンビも一瞬動きを止めるほど。滑らかな動きで美井奈のヘルプに入った瑠璃は、いとも簡単にゾンビの群れを倒し切ってしまう。

 戦況は一気に好転し、美井奈の《ホーリー》と弾美の《トルネードスピンで》強敵のソウルイーターはようやく活動を止めた。攻撃を一手に引き受けていた弾美はボロボロ。

 ゾンビにたかられていた美井奈も、同じくボロボロ。

 

 ただ一人だけ、頭上に天使の輪を載せたルリルリだけは、HP自動回復状態にある模様。一人だけ浮いた存在だったが、キャラも見事輪っか効果で浮いている。

 MPだけはスッカラカンだったが。本人も呪い解除効果の発動には、驚いている様子。


『すごいですっ、お姉ちゃまは天使ですよっ!』

『MPぎりぎり足りてたんだな、瑠璃。しっかし、この魔法すげ~!』

『食事のMPアップ効果で、辛うじて足りてたんだけど。さすがに全部MP使い切るのは怖いから、使うのは自粛してたの』

『今の魔法って何!? すごいじゃないっ、瑠璃ちゃんっ!』


 入手からの事情を知らない薫も興奮しているが、初めて見たのは皆一緒。激戦の後の興奮に浸りながら、墓場からそそくさと離れつつ、感想などを言い合っている。

 ソウルイーターのドロップは、闇の術書や命のロウソク、呪いのピアスや呪いの斧など。命のロウソクは金のメダル3枚の価値があるので、結構な報酬である。

 さらに美井奈が25に、瑠璃が26にとそれぞれレベルアップ。美井奈はイベントエリアの入場資格を得た事になり、瑠璃はMPの余裕が少しだけ上がった。


 クエストエリアも侮れないと、弾実は思わず内心を口にしたが。確かにその通りと、他のメンバーも同じ意見。パーティ会話で、油断しないようにとの意志の統一が為されていたり。

 休憩が終わると、先ほどの予定通りに川沿いの道を進む事にした一行。大きな満月の下の散歩もオツなものだと、はやくも緊張感の無い会話が始まってしまう。

 その道中に、星の輝きだと思っていたのが、実はグランドイーターの枝から発せられる魔方陣の光だと気付いた一行。その神秘的な円形の光は、あっという間に冒険者達を魅了してしまった。

 大きな森の塊だとおもって眺めていたのは、どうやら例の大樹の一部だったらしい。


『キレイですね~、魔方陣のイルミネーションが、まるで花火みたいです!』

『本当だね~、天使との出会いの話もみんなに聞いて理解出来たし。ようやく私も、話の筋が分かって来たよ!』

『そうそう、あの魔方陣に私達は捕まって、連れて来られたって設定らしいしね~』

『美井奈、ちゃんと前見て歩け。川に落ちてるぞ』


 川沿いに何故か残っていたレンガ造りの建物跡のせいで、パーティはいつの間にか分断されていた。思わぬ襲撃があっては不味いと、余所見を後悔しつつ一同はぐるぐると合流のための移動を繰り返す。

 誰かが止まれば早かったのだが、先ほどの大慌ての死霊戦がまだ頭の中にあったのか。どこかパーティ全員が切羽詰った行動振り、はっきり言ってコントの一幕のよう。

 そんな騒ぎの内に、美井奈がふとレンガの1つがクリック出来る事に気付いて。調べてみたら、苔の付いたレンガというアイテムを偶然入手出来た。

 全員やいやい言いながら、クエが一つ片付いたと大喜び。


『美井奈ちゃん、ナイス! 早くもクエが3つ片付いたよっ♪』

『まだエリアインして30分だけど、順調だね~』

『後は妖精の泉と山の薪釜ですかね? 張り切って見つけましょう!』


 意気揚々と、まだ続いている道を先頭で進んで行く美井奈。段々と夜は朝へと変わって行き、道も山道のように荒れて来る。川の流れも急になって行き、大きな石もゴロゴロした風景に。

 そうなると、モンスターもちらほらと木陰から姿を見せるようになって来て。アクティブな敵は、絡まれるより先に経験値に変えてしまえとの弾美の号令の元。戦闘をしながらの山道ハイキング。

 朝日が射し始める頃には、一行は小さな滝の元に行き着いていた。


『あっ、あそこ見てっ! あった、ポイントだ~♪』

『んっ、ここであってるのか? 名前がちょっと、ヘンな気がするのは俺だけか?』

『呪いの装備とか丁度持ってますし、見付かったのはラッキーですよ!』

『ヘンな気はするけど、取り敢えず妖精をトレードしてみるね~?』


 瑠璃が代表で、ちょっと名前の変なポイントに妖精をトレードしてみる事に。しかし弾美の懸念の通り、出て来た妖精は微妙な身振りで肩を竦めて来る。


 ――ザンネン、ここはそんなに清浄な土地では無いようだわネ。ワタシの嗅覚によると、フリーエリアの沼の端っこに、清浄な泉が存在する筈なんだケド☆

 もし興味があるのなら、ひとっ走り行ってみたら? そうそう、ワタシが上げた装備で使い古したものがあったら、まとめて持って来て頂戴☆ そうネ、5個くらい集めてくれると嬉しいナ♪

 ワタシの存在に興味がある人がいるって? 良く分からないケド、泉の水でも汲んで渡しちゃえばいいんジャ?

 

『あれ、妖精の泉って探す感じのクエだっけ? 何か、ここは違うって言われたけど』

『どうだっけ? ってか、はるばる来たのに無駄足?』

『何か妖精が、泉の水ってアイテムくれたよ? 一応みんな、入手しておいた方がいいのかな?』


 そんな訳で、全員妖精騒動に振り回される結果となった感じである。泉のある広場から、道はまだ山の奥へと続いているよう。泉の水をゲットした一同は、まだ時間もあるしついでに言ってみようと意見が一致。

 細く険しいのぼり道は、約2分間で小さな開けた場所に出てお終いとなった。小さな小屋と薪を焼いて木炭にする釜が、その広場の端に並んで建っており。

 釜にはポイントの表示が、どうやら呼び水トリガーをトレードする場所のよう。


『おっ、やっと発見、NMポイントだっ! 瑠璃っ、トリガー投げ込めっ!』

『えっと、ここは……土かな?』

『みたいですねぇ、何で釜が土なんですかねぇ?』


 戦闘準備しとこうかと、一応薫辺りは慎重なのだが。瑠璃辺りは、瀬戸物を焼くのが土を連想させるのではと、美井奈と連想ゲームを繰り広げている。弾美は弾美で、トリガーNMは昔からドロップが良いと、期待を高めてて嬉しそう。

 限定イベントでも期待が出来ると話すと、美井奈からもちょっとワクワクした感じのコメントが帰って来て。はやく見たいのでお姉ちゃまお願いしますと、元気な催促を口にする。

 皆の用意も整って、瑠璃の持っていた土の呼び水をトレードすると、ポンと湧き出る大きな影。


『『……へそくりニャンコだ~~っ!!』』


 瀬戸物っぽい光沢のあるその外観は、やはり土属性の証だろうか。メイン世界でも超有名なそのトリガーNMは、出現と同時に甲高い奇妙な鳴き声を奏で始める。

 へそくりニャンコとの出会いに、最高潮の盛り上がりを見せる一行。戦闘の興奮よりもその後のドロップを想像しながら、パーティは各々得意な武器を振るい始める。





 ――最後の戦いの締めに相応しいドロップに、パーティが湧くのはもう数分後の話だったり。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ