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半径三メートルの箱庭生活  作者: 白い黒猫
星は、月と同じように空で輝くものの、とっても遠くにあります
9/23

三メートルの世界 <1>

『ハッピーエンドにしたかった、でも方法が分からなかった

 あの時チャンスがあったはずだが逃してしまった』

   【2046】より

挿絵(By みてみん)


 私は、『月夜の映画館』という映画ブログをやっている。

 観た映画の感想に、私の名前にちなんで、映画に対する満足度を月の満ち欠けの具合で表現するという感じのもの。まあよくある映画ブログ。


 このブログに『星』の名前でコメントいつも書いてくるのが、私の元彼。

 本名は星野秀明という。

 出会いは高校の時、『映画研究会』の一年先輩で、身長は百六十五センチとどちらかというと小柄で細め。眼鏡の奥の目がなんとも穏やかで静かな人、いつもニコニコしている印象が強い。

 同じ映画好きという事だけでなく、部員からも『一卵性双生児か!』とからかいの言葉を貰うほど、悉く趣味があい、私にかなり近い感性をもっていた。

 好きな映画だけでなく、その映画のどういう所が好きなのかまで同じ。一緒にレストランに行ってもメニューでコレ食べたいなと思ったものも同じ。それこそ親・兄弟よりも近い存在だった。

 他の部員の面白オカシく見つめる視線が恥ずかしかっただけに一年は普通の先輩後輩として付き合っていたものの、結局は恋人同士にとなる。


 人から不思議がられるのだが、感覚が同じすぎて 五年も付き合っていて彼とは喧嘩したことがない。穏やかで平和で楽しい五年間を過ごせ、自分で言うのも何だが最高のカップルだったと思う。

 しかし遠距離恋愛を乗り越えていく程の熱さが、二人には何故か無かった。

 彼のお父さんが倒れた直後ということもあり、旅館の実家も大変な状態だった。そんな状態だけに、彼も愛だの恋だの言っていられないというのもあるだろうし、私も言えなかった。

 『元気でね!』といいながら笑顔で、新幹線のホームで見送る以外何が出来たのだろうか?

 旅館の仕事も忙しいのだろう、二人で近況報告のメールのやり取りのみが続く。 

 就職活動にブログとかやっていると有利だとかいう話を聞いて始めたこのブログが。気が付けば、距離の出来てしまった彼と私を一番結びつけているアイテムとなった。

 思い出の映画について語ってみたり、この映画こうだったんだよと教えてあげたり、と彼にだけ伝えるような内容になっていった。

 個人的な事情で始めたのに関わらず、ブログがだんだん楽しくなってきた。ブログを通して知り合った友人も増える。その人達とオンオフで交流するにつれ、自分と違う意見というのも面白く感じるようになってきた。

 彼と離れた後、映画に一緒に行っていた人に対して感じてた、感性のズレに対する苛立ち。今になって思うと、それは私とのズレに対するものではなく『彼だったらそうは言わなかったんだろうな』と感じてしまう事への不満だったのかもしれない。その違いが星野秀明という人物の不在を、強く感じさせたから。最近では自分との感覚の違いを、むしろ楽しめるようになってきた。

 このブログを始めた当初、いかに自分の視野が狭く、意固地だったのかというのが、最近になって良く分かる。

 黒くんもよく覗きに来てくれて、コメントも残していってくれている常連である。会社で会ったときもブログ読んでいて、『アレ観たんだね、いいな!』とか話しかけてくる所からも、楽しんでくれているようだ。最近では実和ちゃんもよく訪れコメントを残してくれる。


 会社が社会というものを教えてくれた事と、このブログが私の視野を広げてくれた事、その二つが色んな事を私に学ばせ、成長させてくれた。

 今日観た映画の感想をブログにUPして、一息いれていた時、スマフォが震えながらある映画音楽を奏でる。私の大好きな映画の主題歌で、それを着メロに登録した人物は一人……。しかもメールではなく電話がくるのも久しぶりの相手。

 ディスプレイをみると、やはり『ひでくん』とある。恐る恐る通話ボタンを押す。

「もしもし……」

「あ、百合ちゃん? 久しぶり元気? 今たまたま、ブログみたら更新されたばかりだから、起きているかなと思って」

 懐かしい優しい声が電話から響く。確かに星野秀明の声だ。

「そうなの。元気だよ! 久しぶり。ひでくんも元気?」 

「元気だよ、旅館の仕事もようやく板についてきたかな? って感じだ」

「想像できるよ~あの笑顔でお客様迎えて、なんとも良い感じなんだろうね~」

 昔と変わらない、静かな笑い声が聞こえる。

「どうしたの? 突然」

「ん……」

 ちょっとの間沈黙する、電話。

「百合ちゃんに、伝えたい事があって」

「ん、何を?」

 なんか、その先に来る言葉、予測できた。

「俺、今度結婚することになったんだ」

「へえ! そうなんだ、おめでとう!」

 予想できたからこそ、対応もすぐできた。それに思ったよりも心が痛くない。素直に祝える自分もいる。大丈夫だ。

「お見合いなんだけど、相手の人はシッカリした人で、両親の方が喜んでいる状態なんだ」

「温厚で素敵な若旦那に、シッカリ者の女将さん最高の組み合わせだね! ますます素敵な旅館になるんだね!」

 クスクスという笑い声が聞こえる。

「ありがとう! 百合ちゃんも、そのうち遊びにきてよ、歓迎するから! 家族を紹介するよ」

「ホント! サービスしてくれる?」

 元彼女の私としては、行っていいものかのかは悩む所だが、そう答えておく。

「いいよ、良かったら『太陽くん』とでも」

 意外なワードに、私は言葉を詰まらす。

「え?!」

「彼氏だよね? ブログに最近コメントしている『太陽』くんって。百合ちゃんが、楽しそうにしているのを感じて、ホッとしている反面、チョット寂しかった」

「……」

 誤解であるが反論する事に意味もないので、あえて否定をするは止めた。  

「今更電話は迷惑だと分かっていたけど、僕自身、ケジメをつけるために、話をしたかったんだ。曖昧のまま離れてしまったから。ゴメン」

 本当にこの人は、私が欲しいと思っているタイミングで、欲しい言葉をくれる人である。昔も今も……。

「電話嬉しかったよ、有難う! お陰で私も前進める。いろんな事ひっくるめて、本当に有難う。幸せにね!」

 私達は、五年もかけて温めた愛を、三年以上もつかってやっと終止符を打つ事ができた。

 寂しくてほんのチョット痛い、でも心は少し軽くなった。

キムタクの出演で、それなりに評判になったこの作品。

物語を何だとか語るのではなく、ウォン・カーウァイの映画だけに雰囲気を楽しむものみたいですね。


星野秀明と月見里百合子との高校時代の物語はコチラでスタートしました。

http://ncode.syosetu.com/n6668q/

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