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半径三メートルの箱庭生活  作者: 白い黒猫
月が痩せているのは、星が綺麗に瞬くから
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測定不能距離での出来事 <1>

『片思いこそ 真実の愛』


【マレーナ】より


挿絵(By みてみん)


 私には、残念な従兄弟がいる。

 顔は、悪くない。まあ最近のジャニーズにいてもオカシクはないかな? くらいの顔はしている。といってもメインとなるイケメンではなく味わいあるメンバーの方。でも中身が兎に角残念。

 伯父伯母の間に、待ちに待ってやってきた子供だったこともあふり、滅茶苦茶可愛がられて甘やかされて育った典型的な一人っ子。いや、こういう言い方すると世間一般の一人っ子に申し訳ないくらいに、空気が読めない。

 いや、空気というか、周りから自分自身も何も見えてない。

 当時高校生だった兄がバイトして貯めたお金で、やっとパソコンを購入した際、小学生だった彼は兄に言い放った。

「それ、いくらしたの? ふ~ん、それなら僕のお年玉でも買えるんだ」

 兄の目に殺意を感じたのは私だけではないと思う。

 そんな従兄弟も、大人になった? のか大学生になり恋をしたようだ。

「百合ちゃん、まさるくんがね、何か悩んでいるみたいなの、百合ちゃんに聞いて欲しいっていっているの、だから相談に乗ってあげて」

 いや、大学生なら相談は、何年も会ってない従姉妹ではなく友達にすべきでは? と思うのだが、とりあえず電話には出てみる。

 後ろで、『賢くんは繊細なのだから、やさしくね』と母がささやいてくる。

「恋愛の相談なんですが、こういう事は経験豊富な百合子さんに聞いたほうがいいかなと思いまして」

 ……経験豊富って、この子からどう私は見えているのだろうか? たとえ私がその言葉に相応しい人生歩んでいたとしても、二十代前半のうら若き女性に向かって、失礼過ぎる言葉でしょう。

 私自身は、恋愛に関しては熱しにくく冷めにくい体質。なので、そう恋愛経験があるわけではない。正確にいうと、過去に一人の相手と五年間つきあっただけ。

「実はですね、同じゼミの女の子の事を好きになり、思い切って手紙を送ったら、それ以来何故か避けられるようになって」

「……どんな手紙を?」

 それは明かに Noのサインでしょ、察してやって! と内心思う。

「その手紙の何処が、悪かったのか分からなくて、読んで頂けないでしょうか? 今日コピーを速達で送りましたから!」

 は? ナンデスと?

「そういう事ですから、手紙届いたら電話して下さい、では」

 そして電話が切れる。ツーツーツーという電話の音を聞きながら、呆然とする私。

 私がココで、恋の終わりを呼んだラブレターを読む必要ってあるのでしょうか? それ以前に自分の想いの丈をつづった愛の手紙を何故、別の人にも送ってくるの? この従兄弟は何考えているの?

 そして、誰ですか! こんな男に『賢い』の文字を名前にしたのは!


 ※   ※   ※


 翌日、我が家に速達という赤い文字の入った手紙が届く。

 そして私は、その手紙を受け取り更に愕然とすることになる。

 まずその分厚さ! 私への手紙も入っているからかと思ったがそうでもなく、中身は見知らぬ女子大生へ宛てたラブレターのみ。

 内容はレポート用紙五枚にミッシリと書かれた愛の言葉。何故自分がその女の子を素敵だと思ったのかを身体の部位部位ごとに解説してあり、いろんな意味で重い……。

 メール全盛のこの時代に、これだけの超大作ラブレターを書き上げた根性は認めるけど、コレは、もらった女性は退きますよ。

 どうしたものかと悩んでいると、従兄弟の方から電話がくる。

 いや、昼間に手紙が届いたのを母に確認して、私が会社から帰る時間を見計らってかけてきたのだろう。

「どうでした? 何が不味かったか分かりますか?」

 と聞いてくる。流石に「全て」とは言えない。そう、従兄弟の賢くんは兄姉に揉まれて生きてきた私とは異なり、一人っ子で甘やかされて生きてきただけに、打たれ弱い。

「最近の女の子はね……あまりこういう感じの手紙は喜ばないと思うよ」

 いや、こないだまで大学生だった自分でも、この手紙は喜べませんが……。私もまだまだ十分女の子ですし。

「そうなんですか! でも直接告白するのも恥ずかしくて」 

 あんな手紙を出すほうが、もっと恥ずかしとは思わなかったのね……。 

「……あのね、人にはそれぞれ、他者との間にこれだけは欲しいという距離感があるでしょ? いきなりその距離を飛び越えてこようとする人には警戒心を覚えるものよ」

「そういうものですか?」

 うーん、察しが悪く、繊細な子に物事を伝えるのは大変なものである。

「だから、その子も、いきなり友達の枠を飛び越えてきた 賢くんにビックリしたと思う」

 相手の女の子は、恐らくビックリを飛び越えて、恐怖を感じたと思う。

「そうだったんですか! どうしましょう、僕はどうすれば良いのですか!」

 さて、どうする? 従兄弟をストーカーにさせずに、見知らぬ女の子を守る方法は?

「とにかく、その距離を守ってあげて! あとね、ガツガツと恋愛を前面に押し出す男性は、今流行ってないから! 自然な距離を心がけること」

 これで、大丈夫なのだろうか? 私の心に不安がよぎる。

「わかりました、彼女を驚かせないように、挨拶とかから始めれば良いんですね」

 ……って、そこもまだの段階の関係でした?


 後日、伯母から母へとかかってきた電話のついでに、怖かったが彼に出てもらい様子を聞いてみる。

「彼女とは、顔を合わせたら 挨拶するくらいのよい距離を保ててます」

 嬉しそうな声で答えてきた。

 とりあえず、このテンポなら当面の間、危険な事はないかな? とホッとする。

『マレーナ』戦争に翻弄された一人の女性の悲劇を描いた素晴らしい映画だと思うのですが、私は実はあまり好きではなかったりします。

こういうヒロインが虐められすぎる暗い映画って、なんか見ていて辛いですよね。

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