一メートルの世界 <2>
『僕たちは互いをよく知っている他人のようだった』
【ビックフィッシュ】より
千葉にありながら東京と頭に付くネズミのテーマパークと、その昔、源頼朝さんが幕府を開いた鎌倉、関東に住む人には定番のデートスポット。
この二カ所は、実は『カップルお別れスポット』としても有名。ここを訪れたカップルはかなりよい確率で別れると言われている。
鎌倉の方は『悲恋の歴史が多くその呪い』だとか真しやかに言われたりしているけれど、本当に理由は違う所にあるのは意外に知られていない。
一見、『現代チックなテーマパーク』と『情緒溢れる歴史の街』何の共通点もないようで、この二カ所で別れるカップルは同じような形で別れる事になる。
千葉のテーマパークはよほど慣れた人、もしくは、要領良い人なら思う存分楽しめる場所なのだが、大抵の人が『待ち時間』という洗礼を受ける。
この待ち時間を楽しく過ごすことが出来るかどうかでデートの成否がかかってくる。待ち時間にイライラしたりして、険悪になり喧嘩なんて事になると思い出は一気に最悪なモノになり、当然の結果へと繋がるというもの。
鎌倉も、一見散策しがてらに歴史デートと楽しそうに思えるが、意外に名所と名所の距離がある。その距離を楽しく過ごせなかったら、疲労が蓄積していくだけ。しかも女性が長時間歩くのに向かない靴など履いていくと、結構辛い場所にもなる。さらに鎌倉は人気観光地でもあることから、いつも混んでいてガイドブックに書かれているようなお店からそうでないところも長蛇の列で、入って休む事も難しい。
そういったアクシデントを乗り越えていけねば、喧嘩になる。
まあ、そういった時間やアクシデントすら乗り越えられないならば、そこで別れて正解ともいうべきだろう。逆に相性や相手の本質を見極めるのにも最適なスポットなのかもしれない。
無難なデートといったら『映画』ということになる。
子供から大人まで楽しめるリーズナブルでお手軽なレジャー。デートにも最適なようにも思える。
特に初デートの定番ともいえるコース。映画デートが、初デートに向いている理由は、三つほどある。
一つは二時間ほどの時間何もしなくても、自然に楽しく潰す事が出来る事。
二つめは、一番他人を身近に感じられるという横並びのポジションを、当たり前のように取る事が出来る事。
三つめは映画を観た後だから、映画の話が出来て、話題にも困らない事が挙げられるが、実は、最後の一点が問題。
映画が終わった後での、映画館でのカップルの会話を聞いていても分かると思う。
二人の感性、感覚が近ければ良いけど、そこにズレがあると悲劇が起きる。
一方が泣くほど感動しているのに、一方が感動の冷める一言でも言おうものなら、恋もそこで冷めるというもの。
逆に、また片方があまりのくだらなさに呆れているのに、片一方が無邪気に感動し楽しまれても、相手の趣味を疑いひいてしまう事もありえる。
映画デートが成功させるには、相手と同じベクトルの感性をもっているか重要になってくる。もし不安があるようなら、誰もがまあ感動できる、無難な作品を観るようにするほうがよい。
映画友達である黒くんは、映画好きなだけに、そんな初歩的な部分でのズレはなかった。
そのあと一緒に語る映画談義も面白かった。しかし登場人物の心情理解や解釈といった部分に、私と微妙なズレがあった。
映画談義を普通にしている分には、そのズレは楽しい。しかしその解釈から見えてくる彼の酷く一方的で独善的過ぎるその考え方に私は引っかかりを覚える。
映画に関わらず、映画、文学、音楽そういったものを人と熱く語り合うというのは面白い事だし、刺激にもなって意義はあるものの、互いの感性を剥き出しにしてしまう。
映画の登場人物の行動に対して、感情ではなく結果を重視し、アッサリと切り捨てるような発言をしていく彼に、どうしようもなく合わない感性を感じていた。 しかも、相手の意見を否定する事で、自分の意見を押し通そうとする議論の展開の仕方も、私はチョット苦手だった。
それ以前に恋愛対象として見られなかった一番の理由は、私の同期の友人の彼氏だったから。友達と仲良くラブラブで付き合っていたのを散々見ていただけに、友達の恋人としての印象が強い。
映画を思う存分語れる最高の映画友達であるものの、そういう色っぽい関係には今更なれない相手だった。
考え込んでいる私に信子先輩は、脈ありと勘違いした様子でさらに畳みかけて聞いてくる。
「で、どうなの? チョットは付き合おうかな? とか思った事あったの?」
「うーん 私の目指す恋愛は、もっとドラマチックな出会いでロマンチックな展開で……そこからいうと……」
ここは、ごまかしておく。
「無理無理! 意外にシビアで現実主義のチミには、そういう恋愛は一生無理。無難な所で手を打ちたまえ」
無難な所で手を打つなら、別に友達のままでも良いと思うのは私だけ? いや恋愛は無難な所で手を打って出来るものでもないような気もする。恋愛がなかなか出来ないのは、他人の所為というよりも、色々頭で考えすぎてしまう私に最大の要因があるようだ。
「まあ、私は気楽にいきますから! あ、コーヒー入れてきますけど、先輩の分もいれてきましょうか?」
私は先輩のマグカップも持って、その場を離れることにした。
コチラの映画は、私の大好きなティム・バートン監督作品。彼らしい幻想的な映像と、ハートフルな父と息子の再生物語で素敵な作品です。