表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半径三メートルの箱庭生活  作者: 白い黒猫
太陽の力で、月は輝いている?
22/23

一メートルの世界 <10> (から、途中下車)

『女は度胸だ!』

   【天空の城ラピュタ』より

挿絵(By みてみん)


 三時頃になると、フロアの女性が動き出す。


 ウチの会社では三時にお茶を飲み、一息入れるという風習がある。その為女性が課の人全員のお茶を用意する事になっているからだ。営業なので、その課の女性が出払っている場合もあり、その時は隣の課の女性がいれる事になる。

 私はチラリと隣のグループを見ると、西河美和ちゃんがおらずボードにも外勤中なのを確認する。となると、そちらの分もいるかと、そこにいた周防係長と堀部主任と黒くんに飲み物の注文を受けてから、ロッカーに一旦立寄り、給湯室へ向かう。

 早めに行動した派が給湯室から出て行く所なので丁度良かったかなと思う。さてと、問題は手に持っているコレをどう分けるかと、私は悩む。

「月ちゃん、ウチの課の分、俺持っていくから」

 肩を叩かれ振り向くと、黒くんが立っている。お茶をいれてもらって当然といった態度の年配者とは、黒くんはこういう所が違う。

「あ、大丈夫だよ、手間変わらないし」

 あれ? 黒くんの先程の紳士的な顔が、一転、何か企んだようなニヤリ顔になっている。視線は私の手元。

「それ、何! ケーキ?」

 こういう、目敏い所も、黒くんという人物。 仕方が無い、二つの課で分けるか……。

「今日、バレンタインでしょ? だから課の人に作ってきたんだ、食べる?」

「月ちゃんの手作り? 食べる食べる!」

 私は、チョコケーキを十等分にして、黒くんの課の人用のケーキを外出中の人分も含めて紙皿に五切れ載せ渡す。

「お菓子作れるって凄いよね~! しかも旨そう!」

 えらく嬉しそうに感心しているのを見ると恥ずかしくなる。男性は女性がこうしてケーキを焼いていくと、やたら感心して大喜びするけど、スポンジケーキなどメレンゲで膨らませるケーキとは異なり、ベーキングパウダーで膨らませるタイプの焼き菓子は混ぜるだけで、簡単に作れるという事を知らないらしい。

 我が家にはフードプロセッサーがあるので、私がやった事といったら、材料の計量と、型に種を流し込んでオーブンに入れて出しただけである。だから褒められるとかなり照れる。私は『お口にあえばいいんだけど……』とゴニョゴニョとした言葉を返すしかできなかった。


 隣の課のケーキは黒くんに任せて、私は飲み物だけを配る、自分の課の上司には飲み物とともに一皿ずつチョコケーキを振る舞う。

「バレンタインなので。作ってきました」

 ウチの課のオジサマ上司達は、ケーキを珍しそうな顔で見たが、嬉しそうに受け取ってくれた。

 ただ前に座っている三池主任だけは、ニヤニヤとヤラシイ笑みも浮かべる。

「このケーキは、おこぼれってヤツか~?」

「何言ってるんですか~日頃のご恩に、感謝と愛を込めて作ったんじゃないですか~」

 私も笑顔で答える。

「大丈夫だよ、月ちゃん、味見と毒見・・は責任もってしてやるよ!」

 バレていますね、シッカリ。はい、そうです。大陽くんへのチョコケーキを作るついでに、皆様の分を作りました。

「お願いします」

 変に言葉を繕っても通じないので、そう答えておく。

「旨いな、コレ! たださ、愛を込めてるならもっとスィ~トにしても良かったと思うけどな~」

「ハイハイ」

 まあ、手作りです! と言って出して、『不味い!』という人はいないだろうが、食べてもらった人の評判は悪くはないようだった。材料のチョコをあえてビターに変えたのが正解だったのか、男性陣の口にあったようだ。


 一時間ほどの残業を終え、私は会社を後にする。

 そして、いつもとは違い、小田急線を登戸で途中下車し南部線に乗り換え大陽くんのマンションへと向かう。といってもマンションに大陽くんはいない。大陽くんは最近仕事が大変なようで、深夜残業の日々が続いているらしい。

 私はマンションの玄関に入り、宅配ロッカーに向かい彼の部屋番号を押すと空いているボックスの扉が開く。私はラッピングしたバレンタインプレゼントを入れ、扉を閉める。

 『お疲れ様! チョコケーキ焼きました。良かったら食べてね! 月見里百合子』

 ロッカーから出てきた連絡票に、そうメモを書き入れ大陽くんの部屋のポストに入れて、マンションを後にした。


 夜お風呂から出て、部屋で寛いでいると携帯が鳴る。大陽くんの『帰るコール』である。一緒に暮らしているわけではないけど、日が変わらず家に帰れる時は仕事が終わって会社を出たタイミングで私に電話をかけてくる。

「お疲れさま! こんな時間まで大変だったね」

「今日は、まだ早かったからいいよ、その日の内に帰れるし」

 私は、ロッカーにケーキを入れておいたことを話す。

「そうなんだ、嬉しい! まだ晩ご飯食べてないから、丁度良かった~」

 晩ご飯ですか……時計を見ると十一時四十分。晩ご飯にしては遅すぎるし、そのケーキ、晩ご飯にはあまり相応しくないし……。

 でも、ケーキに付けたバレンタインカード。このプレゼントで、自分の意志を伝える事は成功したと思う。

 さてと、どういうリアクションがくるのだろうか? 大陽くんとの電話が終わり、私は大きく深呼吸する。

 三十分後、携帯が鳴る。大陽くんからのメールだ。十二時を越えると、大陽くんとのやりとりはメールになる。

『すっげ~旨かった! 満腹♪ ありがと~』

 味の感想だけ……。しかも、結構量あったと思うのですが、全部食べ終わりました? この書き方は……。カードまで気付かず食べてしまったのではないかとさえ、不安になる。

 私はため息をついた。

ラピュタにおいて、ドーラがいうこの台詞いいですよね!

なんか凄い説得力があるし、好きです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ