二メートルの世界 <5> (から三十五センチ上の世界)
『「大きい」なんて言葉 空には小さすぎるわ』
【ギルバート・グレイプ】より
私の身長は百五十五センチ、そして大陽くんはなんと百九十センチある。その身長差はなんと三十五センチ。真横に立っていても、大陽くんの顔は私より遙か上空にある。
三十五センチというのはエスカレーターに乗れば、良い感じに顔の位置が揃うそんな距離感。三十五センチ、近いのか遠いのか?
その違いは生物学的にも大きい。多分人間図鑑に掲載されているなら、私と大陽くんは別のページに分類されるに違いない。私のような体型の人が渋谷の雑踏歩いていても、誰も避けてくれず、人からぶつけられまくるので、雑踏ではまるで敵チームを避けつつゴールを目指すストライカーのような動きをしなければならない。しかし大陽くんだと体格からくる威圧感なのか自然に他人の方が避けていき、彼は真っ直ぐ歩くことができる。なんと羨ましい状況だろうか? 私があまりにも雑踏に揉まれるので、最近では先に大陽くんが歩き私は、彼に手をひかれその後を誰ともぶつかることなく歩いていけている。
二人から見えている世界というのはかなり違うようだ。
「あんな所に、猫がいる!」
大陽くんの声に私はキョロキョロと見回すがそれらしい陰はない。
「え? 何処?」
彼処、ほら 屋根のトコと指さすが、私の視点では屋根の下が見えるだけ、でも彼にはトタン屋根の上の風景が見えるらしい。
「見えないよ、私には……」
「え、嘘!」
そう言って、大陽くんはしゃがんで私の目の高さに合わせて屋根を見上げ驚愕する!
「ホントだ……、ゆり蔵さんチッちゃ!」
「いえ、私は標準だけど、なぎ左右衛門さんがデカ過ぎるだけ」
一緒にお客様から頂いたチケットで歌舞伎を見に行ってから、二人の間ではこういう巫山戯た呼び方が続いている。
「失礼な、俺は標準だよ!」
ムっとしたふりをする大陽くん。
「フリーサイズが入らない人が、標準を語らないように!」
私はチッチと、指摘する。大陽くんは私の頭から足までをジローと一回視線を巡らせる。
「なら、ゆり蔵さんは、フリーサイズ入るんだ……」
痛い所を付いてくる、確かにフリーサイズは微妙に大きくダボっとする。
「うん、入るよ! 余裕でね」
でもあえて、そう答えてやる。
「ゆり蔵さんは、チンチクリンだから、着れるけど、裾引きずってるんでは?」
こんな感じの会話が、私達の間でよく交わされる、二人の持ちギャグ。
私が写真を撮っていると、『どれどれ』と液晶で私の視点を楽しそうにみてから。大陽くんも私のカメラで彼の視点での写真を撮ってくれる。
三十五センチという距離感も、前ほど大きくは感じなくなってきた。
――とは思っていたけど、今私は、大陽くんのサイズに呆然としている。
十二月十二日は、大陽くんの誕生日。私は彼の誕生日プレゼントを購入しようとファッションビルに来ていた。着る物に無頓着な人なので、なんか良い感じの洋服を買おうかなと思ってきてみたのだが……。ちなみに二ヶ月程前の私の誕生日には、カシオのTripperという時計をもらった。私の腕にはややゴツイけれど、その重さがなんか嬉しかった。なので、私が喜んだのと同じくらい相手が喜ぶ物を探したいものである。
一軒目で、襟とカラー色合わせがなんともお洒落なフリース素材のポロシャツを見付ける。なんか似合いそうだし、気やすそうだ。その良い着こなしの仕方などを店員さんに聞きながら私は満足げに店員さんに頷く。
「なら、これの3Lってありますか?」
と言った途端に、店員さんの顔が引きつる。
「プレゼントされる方は、ちなみにどういった体型なのでしょうか?」
「身長が百九十センチで、体重九十キロくらい?」
素直に答えたら、店員さんが頭を抱える。
「申し訳ありませんが、ウチのお店はやや細身のスタイルものが多くて、その体型の方の着られるお洋服は取り扱いなくて。本当に申し訳ありません」
深々と頭を下げられてしまう。
そして、巡ること十数軒……。
なんか大陽くんが、ファッションに興味なくなるのも頷ける。
私は生まれて初めて、デパートの大きい人サイズのコーナーに足を踏み入れる。掛かっている洋服から、姿見までがなんか大きい。縮みクスリを飲んだアリスの気分になってくる。
そこで、モスグリーンの襟に大胆なチェックのネルシャツを見付ける。暖色系で色合わせがヨーロッパテイストで素敵だ。手触りも柔らかくて良い。そしてサイズもバッチリ!
「プレゼントですよね? ラッピングしますか?」
その言葉に私は悩む。どうせなら、コレに合うマフラーや手袋等の小物もつけてあげたい。その旨を話すと、ならば、『その小物を売っている売り場でこの商品も渡せば、一緒にラッピングしますから』といった答えが返ってくるのでそうすることにする。
そして、小物売り場で。ネルシャツに似合う色のマフラーと手袋を店員さんと楽しく選び、なかなか素敵なセットが出来上がった。なんか、プレゼントの買い物って凄く楽しい。
お会計をすまし、私はこれらを全部セットした状態でプレゼントとしてラッピングをお願いする。
笑顔で快くラッピングを受けてくれた店員さんは、隣にある紳士服コーナーから箱を持ってくる。そして『あれ?』と謎の声をあげる。
「あの、お客様、コチラの商品ドチラの階でお買い求めになられました?」
困ったように聞いてくる。
「六階ですが」
答える私に、『ああ、それで!』と声をあげ、『少々お待ちください!』と言って、上りエレベーターにのってどこか行き、暫くすると先程もっていた箱より大きめの箱をもって戻ってきた。
大陽くんのお洋服は、普通サイズの箱に入らないほど大きかったらしい。
誕生日に、その苦労して買って来たプレゼントを渡すと、大陽くんは子供のように喜んでくれた。この笑顔をみれば、苦労した甲斐もあったというものだ。
そして次の週、大陽くんはその服を着てきてくれた。大胆なチェックでも顔も派手で大柄の彼には思った通り似合っていたし、早速着てくれた事も嬉しかった。
さらに次の週、大陽くんはその服を着てきて――。
私に気を利かせたというより、何も考えてないだけなのかもしれない……。
ギルバート・グレイプは私の大好きな映画!
この作品でジョニー・デップという役者に惚れました!
またジョニデの繊細で素晴らしい演技も見所なんですが、それだけでなく
この作品、弟役を演じるレオナルド・ディカプリオの演技がまた素晴らしいんですよね。タイタニックにうっかり出てしまった事で、アイドル視され正当な評価をされにくくなり苦しむ事になったレオナルド・ディカプリオ。(最近はようやく、演技を評価されるようになりましたが)
これを観たら、この二人が本当に素晴らしい俳優さんだという事を実感できるのではないでしょうか?