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半径三メートルの箱庭生活  作者: 白い黒猫
太陽の力で、月は輝いている?
20/23

二メートルの世界 <4>

『大切なのはどれだけ相手を愛するかではなく、相手にとって自分は何かを知ることだ。』

   【偶然の旅行者】より

挿絵(By みてみん)


 大陽くんと過ごす週末は、気が付けば当たり前になっていた。

 『来週も良かったらどこか行く?』ではなく、『来週は何観る?』といった感じ。時には、『こんなイベントがある』『こういうモノが今話題になっているらしい』といった事もあり、二人で盛り上がりソコに行く。毎日のようにメールか電話で話をして、そして週末は一緒に遊ぶ。冷静に考えてみたら不思議過ぎる関係に私自身全く気が付いてなかった。

 星野秀明に電話で指摘されるまでは――。 

 そして、二つの疑問が浮かび上がる。 


 私にとって大陽くんは何なのか? 

 大陽くんにとって私は何なのか?


 最初の方の答えは、自分自身の事なのですぐに答えが見つかる。


 ――私は気付く、大陽くんという存在を、家族よりも、友人の誰よりも大事に思っていて、必要としていたと言う事を。

 でも、もう一つの答えはどうなのか? 私はさらに悩むことになった。

 そう悩みながらも、今日また二人で映画を観に来ている。大陽くんの顔はいつものようにニコニコしていて楽しそうだ。

 私は珈琲を注文し、彼はフルーツパフェというなんとも似合わないものを食べている。こんな感じ。なので、いつもウェイトレスさんは、間違えて私にスィーツ、大陽くんに珈琲を置いていく。

 大陽くんはあまり飲み物には拘らない、そして大の甘いもの好き。なので、こんな珈琲の美味しそうな喫茶店でも、珈琲は頼まず、クリームソーダ-とかこういったモノを注文する。

 どういうお店でも彼の興味を惹くメニューがそういった系統なので、それはそれで仕方が無い。

 それに、私もパフェの一部をご馳走になったりしているしね。

 そして、私は大陽くんから異様なモノを手渡され、ソレをシゲシゲと眺める。 

 熊の顔だけのマグネット。顔はどちらかというとリアルで、怒って吠えている感じ。その熊を異様に見せているのは肌の感じ。なんか変。緑色で血管が浮かび上がっているようにも見える。

「なに? コレ……」

 『凄いでしょ?』といった表情の大陽くん。

「メロン熊! 富良野の方のキャラクターで、メロン畑をいつも襲っていた熊が、呪いで身体がメロンなったとか!」

「へえ~、なかなか凄い運命を背負ったクマさんな事……」

 凄い設定の熊さんだ……。なるほど、この緑の肌はメロンの模様だったのか。

「ゆり蔵さんなら、絶対喜ぶと思って買ってきたんだ! 凄いキャラクターでしょ?」

 確かに面白い、私が逆の立場でも、同じように大陽くんに買ってきて、同じように紹介するような気がする。

 観ているうちに可愛くみえ、なんか笑えてくる。

「うん、サイコー。面白すぎる! ありがとう嬉しい」

 私の言葉に、誇らしげな感じで大陽くんは笑う。

 そう、大陽くんは面白たがり、面白い映画、本、新名物、ゆるキャラ、事件、面白かった事、興味深い事を見付けて、人生を楽しんでいる。

 それらを、メールや電話で、私に色々伝え、私も負けずにそういった、大陽くんが喜びそうな面白い事を見付けては報告する。それが二人の主なコミュニケーション。

 そのコミュニケーションが発展して、映画だけでなく、谷根千やねせん(谷中・根津・千駄木の総称)猫探しツアーとか、都内アンテナショップ巡り日本一周日帰りの旅等、二人で様々なイベント計画し楽しんできている。


 最初はその関係を純粋に楽しんでいただけだったと思う。でも気付いたら、閉塞感がある世界で息苦しさを感じながらもそれを愛想笑いでごまかし生きてきた私が、思いっきり笑っていた。

 私の世界が閉塞しているというよりも、私が自身で壁を作り閉塞させ息苦しくしていただけなのだが、自分の壁だらけで迷路のようになってしまっている箱庭世界も大陽くんと歩けばなかなかのワンダーランドで冒険しがいのある世界となる。

 私はこの大陽くんに救われていたことに、今更気が付く。

 でも私はどうなんだろう? 私はその問いに何も答えられない。 

 冗談めかして、聞いてみる。

『なぎ左右衛門さんにとって、私って何? どう見えてる?』 

『チンチクリンの珍獣?』

 良く分からない答えが返ってきた。


 ※   ※   ※

 

「月ちゃん! また楽しい東和薬品さんの日々が始まりました~」

 原稿を見ながら、版下を組み立てていると、声がして顔を上げる。黒くんが東和薬品社名の入った袋を振りながら笑いながらコチラにやってくのがみえた。

 私は、取りあえず作業を中断して、机のスペースを作り黒くんを迎える準備をする。

「待ちわびていたでしょ~」

「いや、ベッツに~」

 定番の会話を交わす。

 そして黒くんに手を伸ばして原稿を受け取ろうとすると


 バチッ


 何かが弾ける音がする。

「イタッ」

 黒くんがビックリしたように手を引っ込め原稿が落ちる。

 (あっ、またやってしまった……)

「何? 今の……静電気か」

 落とした原稿を拾いながらつぶやく。

「ごめん、今の時期、私凄い電気貯めやすくて……人に放電しまくって迷惑かけまくっています」

 私は、取りあえず頭を下げる。そう冬の私は危険である。どうも静電気を帯びやすく、人に指を向けるとかなりの割合で放電することが出来る。

「只者じゃないとは思っていたけど、そんな技を持ってるなんて、電気兎!」

 黒くんは、ニヤニヤとした笑いを浮かべる。

 『電気兎』か……私が『珍獣』というのは、ある意味正しいのかもしれない。

 前の席で、三池主任がニッタ~と笑っている。

「おぉぉお、火花散らして仕事しているよ! 若いっていいねぇ」

「今後、主任にも火花散らす事もあると思いますので、宜しくお願いします!」

 私は、そう答えておく。

コチラの物語に出てくる『メロン熊』は本当にあるキャラクターです。

北海道富良野市発祥のキャラクターでなかなかの味わいあります。

良かったらググってください。

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