二メートルの世界 <1> (の9ヶ月前)
『人生の節目となる瞬間は、自分でそれと分からない。』
【フィールド・オブ・ドリーム】
さて、『大陽渚』とは誰かというと、説明は難しい。
友達? 親友? それとも――
一番当たり障りのない言葉で説明すると、母にも語ったように私の小学校時代の同級生である。
私と大陽渚は、北九州市の工業地帯にある小学校で幼少時代を過ごした。私はその小学校に二年生から六年生まで過ごし、彼は小学校一年生から六年生の一学期まで過ごす。
よく、そんな二人が、関東で再会できたと思われそうだけど、そこまで意外な状況でもなかったりする。
というのは、私達の通っていた小学校が工業地帯の近くにあった。その校区の八割がある二つの大企業の社宅だった。その社宅に住む家庭は、大体が同じような転勤ルートを辿る。
その為関東に、かなりの人数の同級生が暮らしている。それに加え、一人とてもマメな人物がいて結構定期的に同窓会が行われていた。
私も大陽渚も毎回出席していたわけではなく、たまたま今年行われた同窓会で顔を合わす事になった。
私は、同窓会において、旧友との再会を楽しんでいたのだが、一人謎の人物がいる。
その人物の印象は一言で言うと、『バカでかい』。私からしてみたら身長二メートルくらいあるように思えた。そしてガッチリとした体格で、やや長めの髪に太い眉にギョロ目で唇のラインがクッキリした大きめの口。
つまり何処とってもデカくて太いインパクトのある人物。
「ねえ、あの大きい人誰? 私知らないんだけど」
一緒に参加した、幼なじみに聞いてみると『大陽くんだよ』と応える。しかしその名にも覚えはなかった。私があまりにも、マジマジみていたので向こうもコチラが気になったようだ。
私は笑みを作りとりあえず自己紹介する。
「月見里さん?」
相手もやはり私を覚えてないようだ。
「きっと、一度もクラス一緒にならなかったんですね!」
私達は、そう結論つけて、『初めまして 宜しくお願いします』と、同窓会としては相応しくないような挨拶を交わした。
家に帰って、卒業アルバムで確認して驚いたのだが、小学校六年の時にクラスが同じだったようだ。しかし私は、二学期の半ばで転校していなくなってしまった男の子の事なんて綺麗に忘れていた。
今より遙かに小さかったとはいえ、なんでこんなインパクトの強い人の事、忘れ果てていたのかが不思議で堪らない。あの時代ならではの視野の狭さの成せる技なのかもしれない。
その時、メルアド交換したことで大陽くんとの、メールのやり取りが始まる。
好きなジャンルは違うものの互いに映画が好きだということで、それなりに楽しいメールのやり取りが続いた。
同じ映画好きが交流続けると当然流れとして、『じゃあ、映画でも行きましょうか?』という事になる。観に行ったのは、私の大好きな俳優さんが主演の文学系の作品。
普通に他愛ない話を楽しみ、映画館に入る。そして映画が始まり三十分後。私は隣からおかしな気配を感じる。見ると、寝ている。静かに寝てくれるならいいけど、イビキまでかき出す始末。
私は慌てて突く、すると起きるわけではないけれど音は止む。イビキが出てきたら、突いて音を止めるという周りに気を遣いながら、かなり恥ずかしい思いをしながらの映画を鑑賞となった。
映画鑑賞していて、これほど屈辱を感じ恥ずかしい思いをしたことがない。
映画が終わった後、大陽くんは大きく気持ち良さそうに欠伸した後「なかなか、面白かったね~」とヘラっと笑った。
『面白かったのは映画ではなく、夢ですよね? それは』私はツッコもうとも思ったけれど、止めた。疲れたから。
おまけに、その後食べに行った焼肉食べ邦題の店でも、大陽くんは爆睡した。彼は徹夜明けだったらしい、私は好意的に考えることにしたが、彼への友情は若干下降する。
「また、良かったら映画観に行きましょう」
別れ際の大陽くんに、曖昧な笑みを返し、心の中で『えぇ~、それはチョット……』と思ったのは言うまでもない。
でも何故、そんな男が、蟹を私に送ってくるかって? 今では、ほぼ毎日メールか電話で会話し、毎週一緒に一緒に出かけているから――。
【物語の中にある映画館】にて
この時月ちゃんが、友達と観たという設定の映画
「シングルマン」
http://ncode.syosetu.com/n5267p
の解説があります。