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Legendiaより愛をこめて〜ホルムズ危機、そして私たちは恋を知る   作者: おーがすてぃーぬ


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祝福の入港—白薔薇の誓い

海を越えてきた想いが、ようやく届く。


その瞬間は、思っていたよりも静かだ。

「— Crystania, this is Reikou.

Reduce speed. Maintain present course. Stand by for pilot boarding.

(クリスタニア、こちられいこう。減速、現進路維持。水先案内人乗船に備えよ)」


『— Reikou, this is Crystania.

Speed reducing. Maintaining course. Standing by for pilot.

(れいこう、こちらクリスタニア。減速、進路維持。水先準備完了)』


「— Crystania, confirm draft and maneuvering status.

(喫水および操船状態を報告せよ)」


『— Draft forward 8.6 meters, aft 9.2. Maneuvering normal.

(前部喫水8.6、後部9.2。操船正常)』


「— Roger. Tug assistance arranged. Stand by on channel 12.

(了解。タグボート手配済み。チャンネル12で待機)』


『— Standing by channel 12.

(チャンネル12待機)』


「— Crystania, this is Southampton VTS.

Proceed to berth as cleared. Wind 210 at 8 knots.

(サウサンプトン港湾管制。着岸許可。風210度8ノット)」


『— Southampton VTS, Crystania. Roger. Proceeding to berth.

(了解、着岸進入)』


 


「— Dead slow ahead.(微速前進)」

「— Port 10.(取舵10度)」

「— Midships.(面舵)」

「— Stop engine.(機関停止)」


 


れいこうの艦橋では、短いコマンドだけが飛ぶ。


「面舵」

「取舵五」

「取舵十」

「微速前進」

「停止用意」


無駄はない。動きだけが正確に重なる。


 


埠頭にはレッドカーペットが敷かれていた。

タラップの前からまっすぐに伸びる。


周囲を彩るのは白と赤の薔薇。

日本の国旗の色と、イギリスの国花。


沖にはシードラゴン艦隊の駆逐艦群が整然と並ぶ。


 


やがて、二隻はほとんど音を立てずに接岸した。


タラップが下りる。


 


クリスタニア側の先頭に現れたリヒトを見た瞬間、レイコは息を呑む。


記憶にある彼とは違う。

威厳と気品が、自然に備わっている。


目が離せない。


 


同時にリヒトも、レイコを見つけていた。


白に、銀の薔薇の花びらを散りばめたドレス。


わずかに目を細める。


(……綺麗だな)


言葉にはしない。それで足りる。


 


リヒトは護衛艦艦長と並び、ハワード提督の前へ進む。

形式は崩れない。


 


そのとき、花束を持ったレイコが歩み出る。


 


リヒトの表情が、わずかに緩む。隠しきれない。


 


レイコは目の前で立ち止まり、軽く会釈する。

花束を差し出す。


 


リヒトと艦長がそれを受け取る。


拍手が起こる。


 


セレモニーは、ここで終わるはずだった。


 


だが——


 


リヒトは花束をオフィサーへ預け、一歩前へ出る。


 


「この場にいる皆様にお願いがある」


声は落ち着いている。


 


「私は最愛の人を迎えに来た」


 


一拍。


 


「今この場で思いを伝えることを、許していただけないだろうか」


 


会場は拍手と微笑みに包まれる。


 


リヒトはポケットからネックレスを取り出す。


ヤグルマギク。プロイセンブルー。


光を受け、深く輝く。


 


「これは、ハワード提督から託されたものだ」


 


レイコを見る。


 


「レイコ。俺と結婚してくれないか」


 


レイコは息を呑む。


 


「プロイセンブルー……それじゃ……」


 


「ああ」


短く頷く。


 


「提督に、許してもらえた」


 


レイコは思わずリヒトに抱きつく。


 


「もちろんよ!」


 


迷いはない。


 


隣で艦長が穏やかに微笑む。

会場から大きな拍手と歓声が広がる。


 


ハワード提督が一歩前に出る。


 


「この日は我々にとって最良の日だ!」


 


誇らしげに声を上げる。


 


「皆さんと分かち合えることを光栄に思う!」


 


その瞬間——


 


クリスタニアの長音が響く。


続いて護衛艦。さらに駆逐艦群。


重なる汽笛が空気を震わせる。


 


どこからか声が上がる。


 


「Crystania with Love!」


 


レイコはリヒトを見上げたまま、答える。


 


「to love」


 


花弁が舞う。


 


その日、海は静かに祝福していた。

祝福は、言葉よりも先に響く。


海もまた、そのひとつだった。

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