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Legendiaより愛をこめて〜ホルムズ危機、そして私たちは恋を知る   作者: おーがすてぃーぬ


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青の記憶—騎士はサウサンプトンへ

誰かを想う気持ちは、少し不器用なくらいでちょうどいい。


それでも、人は会いに行く。

サウサンプトンに、クリスタニアと護衛艦れいこうが入港する二時間前。


車は静かに走っていた。

窓の外には英国南部の穏やかな景色が流れている。


だが車内は、どこか落ち着かない空気に包まれていた。


レイコは膝の上で手を重ねたまま、ほとんど動かない。

視線も、どこか定まっていなかった。


 


「……どうしたの?」


隣に座るローズが、やわらかく問いかける。


レイコは少しだけ顔を上げる。


「分からないの。彼にどんな顔をすればいいのか」


 


ローズはわずかに目を細めた。


「今さら?」


からかうような響き。


レイコは小さく息をつく。


「そうかもしれないけど……」


言葉を探すように視線を落とした、そのときだった。


 


「そのピアス」


ローズの指先が、レイコの耳元を示す。


レイコは反射的にそれに触れる。深い青。


 


「ヤグルマギクでしょう?」


「ええ」


 


「プロイセンブルー。ドイツでは騎士の象徴よ」


レイコは、わずかに目を瞬かせる。


 


ローズは続ける。


「昔ね、お祖母様がお母様に贈ったネックレスがあったわ。同じヤグルマギクのものよ」


少しだけ首を傾げる。


「どこにいったかしらね」


 


レイコは何も言わない。

ただ、指先でピアスに触れたまま。


 


ローズはふっと笑った。


「紅海で商船たちを励ましていた、あの船。クリスタニア」


一度、言葉を区切る。


「まるで騎士みたいだったわ」


 


レイコの視線が、わずかに動く。


 


「今回の護衛艦も、“れいこう”でしょう?」


少しだけ楽しげに。


「あなたを迎えに来る気だったのね。最初から」


 


冗談めいた口調。


 


レイコは、わずかに笑う。


「そんな大げさなものじゃないわ」


そう言いながらも、完全には否定しきれていない。


 


ローズはそれ以上何も言わなかった。

ただ静かに前を向く。


 


車は、そのまま港へ向かっていく。


 


——その頃。


 


サウサンプトン沖。

クリスタニア船内。


 


リヒトは廊下を歩きながら、わずかに眉をひそめた。


視界に入るものすべてが、どこか違う。


装飾。花。照明。


 


「……なんだ、これは」


思わず漏れる。


明らかに、いつもの状態ではない。


 


そこへクルーの一人が足早に近づいてくる。


「キャプテン!」


少し緊張した様子だった。


「今日は、失敗できない日……ですよね?」


 


リヒトは一瞬だけ言葉を失う。


意味は分かっている。

だが、それを言葉にする必要はなかった。


 


視線がわずかに遠くへ向く。


レイコの顔が浮かぶ。


ほんのわずかに、口元が緩む。


 


「……ああ」


短く、それだけ。


それで十分だった。


 


「サウサンプトンまで、あと三十分です」


クルーが告げる。


 


リヒトは頷く。


(喜んでくれるといいんだが)


 


外には、静かな海が広がっていた。

迎えに来る理由は、もう言葉にしなくていい。


その距離は、静かに縮まっている。

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