女王の港―古き友、リヴァイアサン
レジェンディアは、夜の地中海をバルセロナへ向けて航行しています。
昼間の空では戦闘機の編隊が通過し、海の上にもどこか緊張した空気が漂い始めました。
そして港の沖には、思いがけない船影が現れます。
今回は少しだけ、海軍の気配とエディの過去を匂わせる回です。
静かな地中海の夜をお楽しみいただければ嬉しいです。
夜の地中海は、どこまでも穏やかだった。
レジェンディアは静かなエンジンの振動を響かせながら、バルセロナへ向けて航行している。
昼間、空を横切った戦闘機の大編隊が嘘のように、海も空も静まり返っていた。
だが――
船内の空気は、どこか落ち着かなかった。
何かが動き始めている。
それを、誰もが感じていた。
ブリッジでは夜間当直が続いている。
通信士が新しい情報を持って振り向いた。
「キャプテン。港湾管制から連絡です」
船長が顔を上げる。
「何だ」
通信士は声を落とした。
「フランスが原子力空母の派遣を決めたそうです」
副長が眉を上げる。
「空母?」
船長は短く言った。
「……リシュリューか?」
通信士は頷く。
「そのようです。間もなくバルセロナ沖に到着するとのことです。」
ブリッジに短い沈黙が落ちた。
リヒトがレーダーを見ながら呟く。
「地中海に空母ですか。ずいぶん物騒な寄港になりそうですね」
船長は窓の外の夜の海を見た。
「早朝から出撃を決めたということか。これはいよいよ嵐の匂いがするな」
副長が続ける。
「それに伴い、港湾当局から要請が来ています」
「言ってみろ」
「当初一週間の予定だった本戦のバルセロナ滞在は最大四日間に短縮。
軍艦の受け入れ準備が整い次第、速やかに出港してほしいとのことです」
リヒトは小さく息を吐いた。
「軍艦優先というわけですね」
船長は頷いた。
「当然だろう」
そして静かに言う。
「フェンリルも同じ条件のはずだ」
その頃――
VVIPデッキでは静かな夜風が吹いていた。
レイコは手すりに軽く寄りかかり、遠くの灯りを眺めている。
水平線の向こうに、都市の光が浮かび始めていた。
バルセロナだ。
夜の海の上に、黄金の街が現れる。
背後から足音がした。
エディだった。
「港が近づいています」
「ええ、見えるわ」
レイコは微笑む。
「でも……少し空気が違うわ。鉄の匂いが強い気がする。」
エディも海を見た。
沖合には多くの船影がある。
クルーズ船。
貨物船。
その中に――
黒い影。
軍艦だった。
「海軍の数が増えています」
エディは静かに言う。
「中東情勢の影響でしょう」
遠くで汽笛が鳴った。
どこかの船が入港している。
そのときだった。
エディの視線が、ある一点で止まる。
港の外海。
暗い海の上に、巨大な艦影が浮かんでいた。
細長い船体。
鋭い艦首。
背の高いマスト。
一目で軍艦と分かる。
エディはほんのわずかに目を細めた。
「……珍しいですね」
レイコが振り向く。
「何が?」
エディは静かに答えた。
「あの船が地中海にいるとは」
レイコも海を見つめる。
「知っている船?」
エディは、少しだけ微笑んだ。
懐かしむような表情だった。
「ええ」
そして短く言う。
「古い友人です」
暗い海の上に浮かぶ巨大な影。
ロイヤルネイビーの大型駆逐艦。
その名は――
リヴァイアサン。
レジェンディアと軍艦は、同じ港へ向かっていた。
静かな地中海の夜に、二つの航跡がゆっくりと重なっていく。
その先に待つものを、
まだ誰も知らない。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
バルセロナは地中海でも屈指の大きな港で、多くのクルーズ船や貨物船が集まる場所です。
そんな港に軍艦の影が現れると、海の空気は一気に変わります。
次回はレジェンディアのバルセロナ入港。
港の灯りとともに、物語も少しずつ動き始めます。
引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。




