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Legendiaより愛をこめて〜ホルムズ危機、そして私たちは恋を知る   作者: おーがすてぃーぬ


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35/80

低気圧接近 ―北太平洋の魔物―

北太平洋では、嵐は突然始まるわけではありません。


まず遠くから長いうねりが届き、次に風が強まり、そして海はゆっくりと姿を変えていきます。


この段階では、まだ船は航行できます。しかし海を知る者ほど分かります。


「本体は、これから来る」


今回の回は、その嵐の入口です。


北太平洋の海が、少しずつ牙を見せ始める瞬間を描いています。

それから半日が過ぎた。


北太平洋の空は完全に暗くなり、風はさらに強まっていた。


うねりは高くなり、波も荒れ始める。


レジェンディアはゆっくりと持ち上がり、そして落ちる。


数秒後、再び大きく持ち上がる。


長いうねりが船体を押し上げ、そして突き落とす。


北太平洋特有の、重い波だった。


嵐の本体は、確実に近づいている。


闇の中で、海そのものが唸っていた。



通信が入る。


先行している大型タンカー船団からだった。


“Hey girls!”


(お嬢ちゃんたち!)


無線の奥から豪快な声が響く。


“Looks nasty out here!”

(こりゃヤバそうだぞ!)


さらに別の声。

“Bear’s starting to dance!”


(熊がダンス始めたぜ!)


次の瞬間。


ドオォン!!


無線の向こうで大きな衝撃音が響いた。


船体が波に叩きつけられるような音だった。


“Oops!!”


誰かの叫び声が聞こえる。


ブリッジに小さな笑いが起きる。


ミカエラがマイクを取る。


“Take care out there, darlings!”

(気をつけてね、ダーリンたち!)


すぐに返事が返る。


“Thanks!”

(ありがとよ!)


そして豪快な声が続いた。


“Watch out for whales and flying bears!”

(クジラと空飛ぶ熊に気をつけろよ!)


通信が切れる。


その頃には、海の様子が明らかに変わっていた。



夜が深まるにつれ、波はさらに高くなっていった。


レジェンディアは大きく持ち上がり、そして落ちる。


ドオォン!!


船体が水面を叩き、巨大なうねりが船体を押し上げる。


船首が空へ向かい、空を飛ぶような錯覚を覚えた。


ブリッジの窓から見える海面が、急激に遠ざかる。


「うわっ……!」


アレックスが思わず声を上げた。


次の瞬間。


船体が急角度で落ちていく。


ドォン!!


ブリッジが軋み、一瞬飲み込まれたかのように波が打ちつける。


ミカエラは、舵を握りしめて思わず叫んだ。

「ロデオかよ!」


リサが歯を食いしばる。

「テキサスかよ!」


アレックスが悲鳴混じりに言う。

「エレクトラさんの方がマシだーっ!!」


レジェンディアは再び持ち上がる。


今度は横から風が叩きつける。


巨体がわずかに横へ流された。


ミカエラが叫ぶ。


「風に押されてんじゃん!!」


リサが計器を見る。

「船位がズレ始めてる!!」


アレックスが言う。

「ヤバイ!ドリフト始まったっ!!ムリムリムリっ!」


ブリッジの空気が変わる。


船長ヘンリーは静かに立ち上がり低い声で指示した。


「お前たち、ヴァルナーを呼ぶ。変われ。」


短い命令だった。


「船が風に流され始めている」



その頃。


レイコの部屋では、無線の音が静かに響いていた。


リヒトが通信を聞く。


船長の声。


“Valner. Bridge.”

(ヴァルナー、ブリッジへ)


リヒトは立ち上がった。


レイコを見る。


何も言わなくても分かる。


不安や恐れなど、全く感じさせない顔をしている。


レイコは静かに微笑んだ。


そしてリヒトに近づき、そっとキスをする。


「レジェンディアをお願いね」


リヒトは頷いた。


「もちろんだ」


ドアを開ける。


外では風が大きく唸っていた。


波が船体を叩く音が、低く響いている。


リヒトはブリッジへ向かった。



部屋に残されたレイコは、静かに床へ腰を下ろした。


祈るように手を組む。


目を閉じる。


窓の外では、嵐の海が暴れていた。


北太平洋の夜。


そこに潜むのは――


海の魔物。


嵐の夜は、まだ始まったばかりだった。

クルーズ船が嵐に遭遇した場合、基本的には「戦う」のではなく「やり過ごす」操船を行います。


大型船であっても、波や風に真正面から立ち向かうのは危険です。そのため多くの船は、船首を波へ向けて速度を落とし、海の動きに合わせて耐える形を取ります。


これを「ヘッドシー(向かい波)」の姿勢と呼びます。


横から波を受けると船は大きく横揺れ(ローリング)してしまうため、出来る限り船首を波に向け、上下の揺れ(ピッチング)に変えるのです。


またクルーズ船の場合は、客室や設備を守るため

・デッキ閉鎖・家具の固定・シャッターの降下・照明の減灯

など、船内の安全対策も同時に行われます。


航海士たちはレーダーや気象データを確認しながら、「どこで嵐をやり過ごすか」を判断します。


嵐の海では、速さよりも安定が重要なのです。


船乗りたちはよくこう言います。

「嵐に勝とうとするな。嵐が通り過ぎるのを待て」


海は、人間よりもずっと大きいのです。

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