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Legendiaより愛をこめて〜ホルムズ危機、そして私たちは恋を知る   作者: おーがすてぃーぬ


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33/80

コディアック沖待機 ―本社も嵐の真っ只中―

海が荒れるとき、船の中では不思議なことが起こります。


外の世界が緊張しているほど、船の中は妙に穏やかになることがあります。


新造船が派遣されるとすれば、それは余程の事態といえますが、極めて稀です。物語では、それほど海運会社が危機感を持っている、ということになります。


この回は、そんな嵐の前の時間です。

ジブラルタルを出て十三日目。


レジェンディア船団は、ついにアラスカ海域へ到達した。


コディアック島南東沖。広い外洋。


ここが低気圧をやり過ごす待機海域だった。


すでに海は変わり始めている。


遠くから届く、長く重いうねり。


船体がゆっくり持ち上がり、そして静かに沈む。


風も少しずつ強くなっていた。


まだ嵐ではない。


だが北太平洋の海は、確実に荒れ始めている。



デッキはすでに閉鎖されていた。


防護シャッターも降ろされている。


外の景色はほとんど見えない。


照明も落とされ、船内はやや暗い。


それでも船の中の空気は、意外なほど明るかった。


レイコの部屋では、クルーたちが集まっている。


食糧や飲料が運び込まれていた。


日持ちのする菓子。水。温かい飲み物。


「ずいぶん用意したのね」


レイコが笑う。


リサが肩をすくめた。


「嵐だし。備えは多い方がいいでしょ?」


クルーの一人が冗談を言う。


「まあ、レジェンディアなら沈みませんけど。鬼の副長いますから」


小さな笑い声が起きる。


「間違いない!ヴァルナー万歳!」


まだ余裕はあった。


嵐の本番は、まだ先だからだ。



一方、ブリッジの空気はまったく違っていた。


スクリーンには北太平洋の気象図。


巨大な低気圧。

中心気圧は968ヘクトパスカル。


予報どおり、徐々に発達しているようだった。


リヒトは腕を組み、画面を見つめていた。


その時、通信士が振り向く。


「キャプテン。本社回線です」


船長が短く言う。


「繋げ」


スピーカーが開く。


だが流れてきたのは、整った報告ではなかった。


会議の音声だった。


回線が開いたままになっているようだった。



本社の声が響く。


“Sending Cristania is too risky!”(クリスタニアを出すのは危険すぎる!)


別の声。


“Legendia is already on site!”(レジェンディアが現地にいるだろう!)


さらに別の声が被さる。


“We can’t lose a new ship!”(新造船を失うわけにはいかん!)


ミカエラが小さく笑った。


「……あちゃー。あっちも大荒だね」


アレックスが呟く。


「クリスタニア出すって、よっぽどヤバいんだよね。きっと…」


エディは静かに言う。


「当然だ。コンテナ船が被弾しているからな」


その時、別の声が割って入る。


“Cristania has the newest systems.”(クリスタニアには最新システムがある)


“Navigation, radar, everything.”(航法もレーダーも、すべて最新だ)


すぐに反論が飛ぶ。


“Legendia has the experienced crew!”(レジェンディアには熟練クルーがいるだろう!)


会議は完全に混乱していた。



しばらくして、別の声が聞こえた。


落ち着いた声だった。


“Legendia… if you can hear us.”(レジェンディア、もし聞こえているなら)


ブリッジが静まり返る。


“We’re sorry.”(すまない)


“We’re still deciding.”(まだ決断できていない)


回線はそこで途切れた。


沈黙。


ミカエラが小さく言う。


「……えらいこった」


船長ヘンリーは短く答えた。


「陸の話だ」


そして静かに続ける。


「クリスタニア派遣を考えるほど、本社は危機感を持ったのだろう」


「我々も、あらゆる事態を想定しておかねばならない」


北太平洋の空は暗くなり始めていた。


遠くで嵐が生まれている。


レジェンディア船団は、その海で静かに待っていた。

今回少し触れた「本社の混乱」ですが、海運会社では有事の際に実際によく起こることです。


船は一度海に出ると、すぐに港へ戻れるわけではありません。そのため本社では


・航路変更・待機海域の設定・護衛の要請・他船の派遣


といった判断を同時に検討することになります。


ただし船を動かすということは、それ自体が大きなリスクになります。物語では、新造船を出すべきか、既存船で対応するべきかで意見が分かれますが、実際にここまでになると、私たちの生活もきっと穏やかではなくなるでしょう。



現場の船と、会社の判断。その間には、いつも難しい決断があります。


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