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Legendiaより愛をこめて〜ホルムズ危機、そして私たちは恋を知る   作者: おーがすてぃーぬ


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株主の知恵熱 ―海はつながっている―

船の上では、ときどき「知恵熱」が出ます。


航路、情勢、エネルギー、船団――考えることが多すぎると、人はつい頭を働かせすぎてしまうものです。


今回はそんな夜のレジェンディアのお話。少しだけ、優しい時間です。

レイコの部屋。


窓の外では、レジェンディアの船団が静かに北へ進んでいた。


部屋の灯りは落とされ、非常灯だけが淡く壁を照らしている。


ベッドの上で、レイコは毛布にくるまっていた。


リヒトは椅子に腰掛け、湯気の立つカップを差し出す。


「少し飲め」


甘い香りがふわりと広がった。


「ジンジャーハニーティーだ。体が温まる」


レイコは少し驚いた顔をする。


「あなた、こんなの飲まないでしょう?」


「今日は特別だ」


そっけない言い方だったが、その目は優しかった。


レイコは小さく笑い、カップを受け取る。


「ありがとう」


一口飲む。


「……おいしい」


その時、ドアがノックされた。


「失礼します」


入ってきたのはエディだった。


ロイヤルネイビーの制服姿のまま部屋を見渡す。


ベッドの上のレイコ。

その隣に座るリヒト。


エディは腕を組み、少し考えるように言った。


「ふむ」


そして穏やかに口を開く。


「レイコ様。もしかして、考え事をしていませんでしたか?」


レイコは目をぱちぱちさせる。


「……え?」


エディは微笑んだ。


「いつもの知恵熱ですね」


リヒトが顔を上げる。


「知恵熱?」


「はい」


エディは落ち着いて答える。


「レイコ様は、考えすぎると熱を出します」


レイコは少し気まずそうに笑った。


「そんなこと……」


エディは肩をすくめた。


「地中海の危機が始まってから、何度もタンカーたちのことを考えては熱を出していたんですよ。」


「タンカーたちが心配だったんだもの…」


リヒトはレイコを見る。


「今回は何を考えていたんだ?」


レイコは少し黙り、やがてぽつりと言った。


「原油市場よ」


リヒトが苦笑する。


「この状況で?」


「だからよ。原油価格が高騰するでしょ?それは一時的ではあるけれど。」


レイコの表情が真面目になる。


「ロシアがどう動くのか。それによっては今回のアラスカ航路でもリスクが増えることにもなるでしょ?」


エディが静かに頷いた。


レイコは続ける。


「それに、もしエネルギーの流れが止まれば、日本の海上輸送にも影響が出る」


少し間を置き、恥ずかしそうに笑う。


「……だから、スターフラワーたちのことを考えていたの」


リヒトが眉を上げる。


「フェリーか。北海道や九州航路の。」


レイコは頷いた。


「もしエネルギーが止まったら――」


そして静かに言った。


「あの子たち、ご飯食べられなくなったら可哀想だなって。」


部屋が少し静かになる。


リヒトは小さく息をついた。


「心配するな」


「スターフラワーはLNGだ」


「燃料が止まっても、すぐ困る船じゃない」


レイコが顔を上げる。


リヒトは続けた。


「あいつらは日本の船だ」


「簡単に止まる仕事じゃないし、BMMにはそれなりのネットワークもあるし、燃料に関する仕組みはかなりしっかりしている。原油価格が高騰したとしても、彼らが止まることはない。」


少し間を置き、言う。


「だから今は考えるな」


毛布を少し整える。


「休め」


「船のことは俺たちがやる。BMMの株主なんだから、もう少し信頼してくれ。」


エディが腕を組んで微笑んだ。


「リヒト様の言う通りです」


そして穏やかに続ける。


「ですが……今の言葉をスターフラワーのクルーが聞いたら、きっと泣きますね」


レイコは少し驚いた顔をする。


エディは静かに言った。


「船員は、自分たちの仕事を覚えていてくれる人を忘れませんし」


「まして株主がそこまで考えてくれているとなれば」


レイコは照れくさそうに笑う。


「そんな大げさよ。」


エディは軽く首を振った。


「いいえ」


「海の仕事は、そういうものです」


リヒトはため息をつく。


「お前は休め」


そして静かに言った。


「東京に戻ったら、スターフラワーに会いに行こう。」


レイコは安心したように目を閉じる。


窓の外では、レジェンディアの船団が北へ進んでいる。


カナダへ。


静かな海を、ゆっくりと。


海は、どこかで必ずつながっています。


地中海の出来事が、遠く日本の航路に影響することもあります。それでも船は走り続け、人はそれぞれの場所で海を支えています。


レジェンディアの航海も、まだ北へ。船団はカナダへ向かっています。

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