エレクトラの教え ―愛を運ぶ船―
三人娘の女子会のあと、少し静かな時間です。
今回は、リヒトの過去に少しだけ触れる回になりました。レジェンディアにかつて乗っていたダンサー、エレクトラの話です。
彼女の言葉は、リヒトの中にずっと残っていました。
「この船は愛を見つけられる船だ」
レジェンディアがどんな船なのか。それを少しだけ感じてもらえたら嬉しいです。
三人娘が去ると、部屋は急に静かになった。
さっきまでの賑やかな笑い声が嘘のようだ。
レイコはソファに座り、小さく息をついた。
「……嵐みたいな人たちね。」
リヒトは苦笑する。
「海軍ですから。」
「納得だわ。」
しばらく沈黙が流れる。
レイコは視線を落とし、何か考えるように指先を見つめていた。
やがて顔を上げる。
「ねぇ。」
「なんでしょう。」
「エレクトラさんって、どんな人だったの?」
その名前に、リヒトは少し目を細めた。
「三人から聞いたのですね。」
「ええ。」
レイコは頷く。
「あなたがダンスバトルで組んだ人なんでしょう?」
リヒトはソファの背にもたれた。
少し遠くを見るような表情になる。
「……美人でしたよ。」
「でしょうね。」
「それに、仕事に関しては恐ろしく真面目でした。」
レイコは小さく笑う。
「ダンサーなのに?」
「だからです。」
リヒトは静かに続けた。
「プロ意識がとても高かった。」
少し考えるように言葉を選ぶ。
「特にダンスに関しては……」
一瞬、苦笑する。
「恐ろしいほど厳しかったですね。平手打ちも一度や二度ではありませんでしたよ。」
レイコは興味深そうに身を乗り出した。
「そんなに?」
リヒトは頷く。
「一度だけ、彼女が本気で怒ったことがあります。」
「何をしたの?」
レイコの問いに、リヒトは少し苦笑した。
「私が、ゲストの恋愛話を軽く流した時です。」
レイコは首を傾げる。
リヒトはゆっくりと思い出す。
その夜のことを。
そして静かに言った。
「彼女は言いました。」
低い声で、その言葉を再現する。
「DMCがどうだったかは知らない。」
「でも、この船は違う。」
レイコは黙って聞いている。
リヒトは続けた。
「この船は――」
少し間を置く。
「愛を見つけられる船だ。」
レイコの瞳がわずかに揺れた。
リヒトはさらに言う。
「そして彼女はこう言いました。」
少し笑いながら。
「“あんたがそれを見つけられなかったら――”」
「“レジェンディアは愛を運ぶ船にならない!”」
部屋に静かな空気が流れる。
レイコは小さく呟いた。
「……厳しい人ね。」
「ええ。」
リヒトは頷く。
「ですが。」
少し視線を落とし、そしてレイコを見る。
「最初のパーティーであなたに会った時。」
「その言葉を思い出しました。」
レイコは驚いたように瞬きをする。
「私?」
「ええ。」
リヒトは静かに続けた。
「……こういうことなのか、と。」
レイコの頬がほんのり赤くなる。
リヒトは柔らかく笑った。
「彼女がいなければ。」
少しだけ間を置く。
「あなたを好きだと思う自分にさえ。」
「気づけなかったでしょう。」
レイコは何も言えなかった。
ただ、リヒトを見つめている。
部屋の外では、レジェンディアのエンジン音が静かに響いていた。
北大西洋の海を、船は進んでいる。
レイコは小さく笑った。
「エレクトラさんに会ってみたかったわ。」
「マイアミにいます。」
「そう。」
レイコは立ち上がり、窓の外を見る。
夜の海が広がっていた。
「……ねぇ、リヒト。」
「はい。」
レイコは振り向く。
少し照れた顔で。
「あなた、ちゃんと見つけたのね。」
リヒトは首を傾げる。
「何を?」
レイコは笑った。
「エレクトラさんの言ってたもの。」
リヒトはゆっくり歩み寄る。
そして言う。
「ええ。」
静かに。
「見つけました。」
レイコの手をそっと取る。
「あなたです。」
ここまで読んでくださってありがとうございます。
レジェンディアの航海は、まだ北大西洋の途中です。この先はいよいよ船団航行やアラスカ航路に入っていきます。
海の緊張と、船の上の穏やかな時間。その両方を書いていけたらと思っています。
引き続き、レジェンディアの航海を見守っていただけたら嬉しいです。




