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Legendiaより愛をこめて〜ホルムズ危機、そして私たちは恋を知る   作者: おーがすてぃーぬ


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18/29

マンハッタン ―私はこの船としか帰らない―

ニューヨーク寄港。


本来であれば、ここは穏やかな航海の途中のはずでした。


しかし世界情勢は急速に悪化し、

レジェンディアの航海も大きく変わろうとしています。


そしてもう一つの問題。


この船と帰るのか。

それとも降りるのか。


レイコの決断が、

リヒトやエディ、そして船長を巻き込み始めます。


第17話

「マンハッタン ―私はこの船としか帰らない―」


お楽しみいただければ幸いです。

マンハッタンの朝は、冷たい風が吹いていた。


レイコは港を見下ろすカフェの窓際に座っている。


遠くに見える白い船体。


レジェンディアだ。


埠頭では、BMMの社員たちが慌ただしく動き回っていた。


補給車両。

整備クルー。

通信担当。


クルーズ船とは思えないほどの速度で作業が進んでいる。


その様子を見ながら、レイコはタブレットを開いた。


画面に現れたのは、英国の邸宅のサロンだった。


「レイコ。」


柔らかな声。


ハワード夫人だった。


「おば様。」


少し雑談を交わしたあと、レイコはふと尋ねる。


「ねぇ、おば様。」


「なあに?」


「おじ様に恋した時って、どんな感じだったの?」


夫人は一瞬驚いた顔をした。


そして小さく笑った。


「あぁ……とても甘かったわ。」


レイコは黙って聞く。


「完全にロイヤルのようだったの。」


「ロイヤル?」


「ええ。」


夫人は紅茶を持ち上げる。


「言ったら聞かない人だったわ。」


「とても押しが強くてね。」


少し遠くを見る。


「でも……守ってくれるなら、この人かなと思ったの。」


レイコは静かに頷いた。


「そっか。」


すると夫人は、優しい目で言った。


「ねぇ、レイコ。」


「はい?」


「あなたが幸せなら、それでいいのよ。」


レイコは黙る。


「船を愛するように誰かを愛するのは……」


夫人は穏やかに微笑んだ。


「とても素晴らしいことだと思うわ。」


通話が終わる。


レイコはしばらく港を眺めていた。


 


その頃。


レジェンディアでは補給作業が続いていた。


貨物クレーンが唸る。


燃料補給。

食料補給。

整備。


BMMアメリカの社員たちが走り回る。


まるで軍港のような光景だった。


レイコはその様子を見ながら、隣に立つエディに言った。


「私、レジェンディアと帰るわ。」


エディは静かに頭を下げた。


「畏まりました。」


それだけだった。


 


やがて出港時間が決まる。


翌朝七時。


その情報はすぐにブリッジへ届いた。


航海士たちが集まる。


「オーガスティア様は降りてくれるのでしょうか。」


誰かが言う。


船長は腕を組んでいた。


「もし我々と帰るというなら……」


ゆっくり言う。


「ヴェイル少佐を軍事アドバイザーとしてブリッジに入れる。」


リヒトが顔を上げる。


「少佐を?」


「彼の主人はオーガスティア様だ。」


船長は窓の外を見る。


「本社も渋々納得するだろう。」


そして付け加える。


「……だが、降りてくれればそれに越したことはない。」


 


そのすぐ近くの埠頭には、巨大な影があった。


アメリカ海軍原子力空母。


ウォーアドミラル。


灰色の巨体が、夜の港に沈黙している。


艦載機が並び、出撃準備が進んでいた。


通信士が言う。


「地中海では主力艦隊が敵艦船を次々撃沈しているそうです。」


誰かが小さく呟く。


「……そのうち出ていくのが、あいつか。」


空母を見ながら、船長は言った。


「戦争だな。」


 


夜。


レイコはエディと食事をしていた。


静かなレストランだった。


エディが言う。


「レイコ様、やはり降りてください。」


レイコは首を振る。


「嫌よ。」


「危険です。」


「分かっているわ。」


レイコは静かに言った。


「私が降りるなら……」


エディを見る。


「あなたも当然降りるわよね?」


エディは答えない。


レイコは鋭く聞いた。


「……船長と一体何を話していたの?」


長い沈黙。


やがてエディは、絞り出すように言った。


「……レジェンディアを守るため、BMMの商船たちを帰港させるため……」


「え?」


「アラスカ航路で、私の力を貸してほしいと頼まれました。」


その瞬間。


レイコの表情が変わる。


「……なんですって?」


椅子が音を立てた。


「あなたがレジェンディアに残るのに!」


レイコは怒りで震える。


「主人の私だけ降りろですって?!」


レストランの視線が集まる。


「冗談じゃないわ!」


レイコは立ち上がる。


「レジェンディアに戻るわ!」


 


船に戻ると、慌てた様子のリヒトが駆けてきた。


「オーガスティア様!」


レイコは振り向く。


「お願いです。降りて下さい。」


「降りないわ!」


リヒトは息を整える。


「あなたしか残っていないのです。」


レイコは怒鳴った。


「聞いたわよ!!エディをブリッジに入れるですって?!」


周囲のクルーが固まる。


「彼だけ置いて行けというの?!」


「彼は元軍人です!」


リヒトが言う。


「でもあなたは民間人です!」


レイコは叫ぶ。


「危険なのは民間人だろうが軍人だろうが同じよ!」


沈黙。


レイコは言った。


「だったら、レジェンディアといるわ。」


その声は震えていた。


「死ぬ可能性があるというなら……」


小さく言う。


「私はこの船と一緒がいいもの!」


レイコはそのまま部屋へ向かった。


ドアが勢いよく閉まる。


リヒトが追う。


「オーガスティア様!」


だが扉は開かない。


「聞き分けのないことを言わないでください!」


リヒトの声が廊下に響く。


「あなたの安全は義務なんです!」


中から返事はない。


「クソッ!!」


リヒトは拳を握る。


そして早足でブリッジへ戻った。


 


船長はその様子を見て、ため息をついた。


「……明日の朝だな。」


静かに言う。


「降りると言わなければ……」


窓の外を見る。


夜のニューヨーク港。


 


「そのまま連れて行くしかあるまい。」


 


「我々には時間がないのだ。」


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ニューヨークは世界最大級の港のひとつであり、

多くの船が行き交う海の玄関口でもあります。


本来ならば、ここは旅の終点であり、

新しい旅の出発点でもあります。


ですが今回のレジェンディアは少し違います。


世界情勢の影響を受け、

航海そのものが変わろうとしています。


そして次はいよいよ――


出港。


女王船レジェンディアは、

北大西洋へ向かいます。

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