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Legendiaより愛をこめて〜ホルムズ危機、そして私たちは恋を知る   作者: おーがすてぃーぬ


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17/42

駆け引き ―降りろ。降りない。―

バルセロナを離れたレジェンディア。


船内ではパーティーが開かれていますが、

その裏では航路変更という重大な判断が下されていました。


そしてもう一つの問題。


ニューヨークで下船するか、

それとも船と共に帰るのか。


レイコとリヒト、

それぞれの立場がぶつかります。


第17話

「駆け引き ――降りろ。降りない。」


お楽しみいただければ嬉しいです。

レジェンディアのサロンでは、予定通りパーティーが始まっていた。


楽団の音楽。

シャンパンのグラス。

料理の香り。


だが、乗客たちはどこか落ち着かない様子だった。


その視線の先に、船長が立つ。


 


「皆様。」


船長の声で、会場は静まり返った。


 


「本船の航海について、ご説明申し上げます。」


乗客たちが顔を上げる。


 


「皆様ご存知のとおり、現在地中海および中東情勢は急速に悪化しております。」


一拍。


「そのため本船は予定を変更し、ニューヨークへ直行することになりました。」


 


ざわめきが広がる。


 


「ニューヨークで下船される皆様には、本社が航空機の手配を進めております。」


船長は静かに続けた。


 


「ご不便をおかけしますが、皆様の安全を最優先とした判断でございます。」


一礼する。


 


「それでは、どうぞ今夜はお楽しみください。」


 


拍手が起こった。


だがそれは、どこかぎこちない拍手だった。


 


その様子を見ながら、リヒトは会場を見回していた。


 


――いない。


 


レイコの姿がない。


 


船長の話が終わる。


リヒトは船長へ近づいた。


 


「キャプテン。」


 


「分かっている。」


船長は小さく頷く。


 


「ヴェイル少佐と話がある。」


 


そして続けた。


 


「ヴァルナー、君も来い。彼女を説得せねばならん。」


 


 


レイコのスイート。


 


ドアを開けると、レイコはソファに座っていた。


エディと何やら話していたようだった。


 


机の上には海図。


北大西洋の地図だった。


 


レイコは難しい顔でそれを見つめている。


 


船長が静かに言った。


 


「オーガスティア様。」


 


レイコが顔を上げる。


 


船長は続けた。


 


「ニューヨークで下船なさってください。」


 


レイコは黙っていた。


 


船長は言葉を選ぶように続ける。


 


「アメリカ第五艦隊の基地が攻撃を受けたという情報があります。」


 


リヒトの眉が動いた。


 


「米海軍は空母打撃群の出撃準備を進めているとの噂もあります。」


 


沈黙。


 


「英国海軍の空母も動き始めました。」


船長の声は低い。


 


「我々の使命は、一刻も早く日本へ帰ることです。」


 


部屋に沈黙が落ちる。


 


レイコは何も言わなかった。


 


「どうか、ご決断を。」


 


船長はエディに目を向ける。


 


「ヴェイル少佐、少し話がある。一緒に来てくれ。」


 


「はい。レイコ様、少し失礼致します。」


 


二人は部屋を出た。


ドアが閉まる。


 


部屋には、レイコとリヒトだけが残った。


 


 


レイコが言った。


 


「私は、レジェンディアと帰るわ。」


 


リヒトはすぐ答えた。


 


「全員降ろせと、本社が言っています。」


 


レイコは動かない。


 


「我々には帰路でゲストにサービスすることも出来ません。」


 


「安全も保証できません。」


 


レイコは海図を見たまま言う。


 


「必要ないわ。」


 


リヒトが眉をひそめる。


 


「この一週間で戦局はもっと悪化する。」


 


レイコは静かに続けた。


 


「それに……NATOが動いていると見ているの。」


 


リヒトは黙った。


 


レイコが地図を指す。


 


「北大西洋航路で協調運航してこい、そう指示が出たのでしょう?」


 


「違う?」


 


沈黙。


 


レイコは続ける。


 


「この船では、かなり厳しい運航になるはずよ。」


 


「この海域は以前からロシア機や潜水艦が目撃されているもの。」


 


レイコはリヒトを見た。


 


「そんなところに、レジェンディアだけを行かせるなんて……」


 


少し息を吐く。


 


「私には出来ないわ。」


 


リヒトは強く言った。


 


「本船だけではありません!」


 


部屋に声が響く。


 


「本船は、我が社の船たちを連れて帰る使命があります。」


 


リヒトは言葉を押し出すように続けた。


 


「飛行機のチケットを本社が準備しています。」


 


沈黙。


 


レイコは何も言わなかった。


 


リヒトはゆっくり振り返る。


 


そして部屋を出た。


 


ドアが閉まる。


 


廊下でリヒトは壁に頭を押しつけ、深く息を吐いた。


 


小さく呟く。


 


「頼む……降りてくれ。」


 


 


翌日。


 


世界情勢は、案の定悪化していった。


 


戦闘は拡大し、近隣諸国まで巻き込み始める。


カタール。

バーレーン。

UAE。


 


もはや衝突は


中規模戦争へと発展しつつあった。


 


船内の空気も、次第に重くなる。


誰もがニュースを見ていた。


 


そして――


 


バルセロナを出港して二十九時間後。


 


レジェンディアはジブラルタル海峡に到達した。


 


海峡の向こう。


 


そこには、すでにBMMの船たちが集まり始めていた。


 


巨大なコンテナ船。


自動車運搬船。


タンカー。


 


レジェンディアは、その中心へ進んでいく。


 


ブリッジで通信が入る。


 


「BMM船団より入電。」


 


通信士が振り向く。


 


「各船、ニューヨークでの補給と乗客の下船が完了するまで待機するとのことです。」


 


船長が頷く。


 


「了解。」


 


窓の外に、巨大な貨物船の影が見える。


 


彼らは待っている。


 


レジェンディアが帰ってくるのを。


 


その船団の先頭に立つのが――


 


この船だった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


大型船の運航では、状況によって

「船団」を組んで航行することがあります。


特に外洋では、複数の船が情報を共有しながら

協調して航行することも珍しくありません。


今回、レジェンディアの前に現れた船たちも

その一つです。


次回からは、いよいよ

北大西洋の航海が始まります。


物語の舞台も少しずつ広がっていきますので、

引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。

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