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Legendiaより愛をこめて〜ホルムズ危機、そして私たちは恋を知る   作者: おーがすてぃーぬ


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13/80

酔いと距離 ―あなたが悪いんです―

バルセロナ寄港の夜。

レジェンディアのVIPラウンジは、パーティーの余韻に包まれていました。


酔いと、距離と、ほんの少しの油断。


航海士リヒトとレイコ・オーガスティアの間に、

思いがけない出来事が起こります。


夜の船は静かですが、

人の心はそう簡単には静まりません。

VIPラウンジは、夜の静けさに包まれていた。


船内のどこかでは、まだパーティーの余韻が残っている。

だがこの場所だけは、別世界のように落ち着いていた。


リヒトは豪華なドアの前で一度呼吸を整え、静かに扉を押した。


中では株主たちが、グラスを片手に談笑していた。


「おぉ!ヴァルナー航海士!」


一人の紳士が声をかける。


「さきほどのダンスは見事でしたぞ。」


「オーガスティア様とあれほど息を合わせるとは、なかなかですな。」


リヒトは胸に手を当て、軽く一礼する。


「光栄です。」


そして周囲を見渡した。


「失礼ですが……オーガスティア様の執事を見かけませんでしたか。」


給仕のクルーが答える。


「エディさんなら、リヴァイアサンの艦長をお送りに行かれました。用が済めばすぐ戻るそうです。」


リヒトは小さく頷く。


(執事のくせに、主人をこんなに無防備にさせるとは。)


そのときだった。


ラウンジの奥で、グラスが小さく鳴る。


レイコ・オーガスティアがソファに腰掛けていた。


アクアマリンのように輝くダンスドレス。

肩には白いファーショール。


頬はほんのり赤く、グラスの中のシャンパンがゆっくり揺れている。


リヒトは一瞬、言葉を失った。


レイコがこちらに気づく。


「あら?レジェンディアの王子様。」


柔らかな声だった。


「ごきげんよう。」


リヒトは近づき、静かに礼をする。


「オーガスティア様、ごきげんよう。」


レイコはグラスを揺らしながら微笑んだ。

淡い金色の泡が、ゆっくりと昇る。


「さっきのダンス、とても素敵だったわ。」


「こちらこそ。本船に栄誉をお与えくださり、ありがとうございました。」


短い沈黙が落ちる。


レイコはふと首を傾げた。


「でも少し危険よね。」


「危険?」


「だって、女性をあんな風にリードしたら―絶対勘違いされるわ。」


リヒトはわずかに苦笑した。


「そうでしょうか。」


レイコは立ち上がる。


だが、一歩踏み出したところで体が少し揺れた。


「……」


リヒトがすぐに腕を支える。


レイコは小さく笑った。


「少し飲みすぎたみたい。」


距離が近い。


思ったよりも近い。


「お部屋までお送り致します。もうお休みになってください。」


レイコはひらひらと手を振る。


「そのうちエディが戻るわよ。」


「あなたの執事には伝えておきます。」


「んもぅ……あなたのせいなんだから。」


レイコが小さく呟く。


リヒトは給仕に伝言を頼み、彼女を横抱きにした。


それを見ていた株主たちは、にやにやと見送る。


「絵になりますなぁ。」


「レジェンディアで恋の予感、ですかな。」


VVIPフロア担当のクルーが慌ててやってくる。


リヒトは短く指示した。


「オーガスティア様は酔っておられる。部屋へお連れする。」


「執事が戻ったら、私が連れて行ったと伝えろ。」


リヒトは早足でVVIP区画の通路を進んだ。


「ねぇ、降ろしてちょうだい。恥ずかしいわ。」


「今のあなたの方が、よほど恥ずかしいのでは。」


レイコは足をばたつかせる。


 


部屋の前に着くと、クルーが急いで扉を開けた。


「ありがとう。君は下がってくれ。」


 


部屋の中でレイコを降ろすと、彼女はそのまま床へ座り込んだ。


「エディはどこー?」


「まだ戻っていません。」


「早くお着替えになって、お休みください。」


「あー……ドレス脱ぎたい……疲れたー。」


レイコはキラキラしたヒールを脱ぎ捨て、

ふらふらと立ち上がり、ドレスの肩に手をかけた。


「オーガスティア様。私がいることを、お忘れに?」


「あぁ、後ろのファスナー下げてくれない?」


リヒトは小さく息を吐く。


「……お待ちください。ガウンを。」


「そこにあるわー。」


クローゼットから白いバスローブを取り出し、レイコの肩に掛ける。


「失礼します。」


ガウンの内側から手を入れ、背中のファスナーをゆっくり下ろした。


(俺の仕事ではないんだが。)


ファスナーが下りる。


レイコは振り向いた。


「ありがとう。楽になったわ。」


その瞬間。リヒトの表情がわずかに変わる。


次の瞬間、彼はレイコの背後の壁に手をついた。


逃げ道を塞ぐ体勢になる。


レイコは驚いて目を見開く。


「あなたが悪いんです。」


低い声だった。


レイコは目を瞬かせる。


「え?私?」


リヒトは困ったように笑う。


「VVIPのあなたが、こんなに無防備でどうするんです。」


レイコは頬を膨らませる。


完全に酔っている顔だった。


「……あなたが悪いのよ。」


そう言うと―


突然、リヒトの頬に唇を触れさせた。


ほんの一瞬。


それだけだった。


レイコはくすっと笑う。


「おやすみなさーい。」


するりと腕を抜け、シャワールームの扉を閉めた。


水音が流れ始める。


リヒトは動けなかった。


部屋には静けさだけが残る。


しばらくして、彼は小さく息を吐いた。


「……何をしているんだ、俺は。」


夜のレジェンディアは静かだった。


だが――


彼の心だけが、荒れていた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


クルーズ船では、夜のパーティーのあとに

思いがけない出来事が起こることもあります。


華やかなラウンジの外には、静かな通路や客室があり、

そこにはまた別の時間が流れています。


今回の回では、

リヒトとレイコの距離が少しだけ近づきました。


とはいえ、物語はまだ航海の途中です。


レジェンディアの夜は続きます。

次の出来事が、どんな波を呼ぶのか――


次話もお付き合いいただければ嬉しいです。

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