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Legendiaより愛をこめて〜ホルムズ危機、そして私たちは恋を知る   作者: おーがすてぃーぬ


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11/30

余韻―恋に気づいた航海士

レジェンディアの夜会で踊られた「黒い瞳」。


情熱的なタンゴの余韻は、まだボールルームに残っています。


けれど、ダンスが終わったあとに残るものは

拍手だけではありません。


航海士リヒトの胸にも、静かな波が立ち始めていました。

恋心に気づいた航海士は…


今回は、そんな夜の余韻のお話です。


黒い瞳の旋律が、ゆっくりと終わりへ向かう。


最後の一歩。


リヒトはレイコを強く引き寄せ、静かにポーズを決めた。


音楽が止まる。


一瞬の静寂。


そして次の瞬間――


ラウンジは割れんばかりの拍手に包まれた。


「ブラボー!」


「見事だ!」


「素晴らしい!!」


レジェンディアのVIPたちは興奮した様子で二人を見つめている。


レイコはまだ、少し息を弾ませていた。


リヒトは静かに彼女の手を取る。


そして、その手の甲にそっと口づけた。


「光栄でした、オーガスティア様。」


レイコが小さく息を呑む。


リヒトはゆっくり顔を上げた。


そのまま胸に手を当てる。


航海士の礼だ。


だが、次に口にした言葉は――


低く、そしてどこか苦しげだった。


「あなたに出会わなければ、こんなに苦しむことはなかったのに。」


それは「黒い瞳」の一節だった。


レイコの瞳が大きくなる。


リヒトはそれ以上何も言わない。


ただ静かに一礼すると、そのままフロアを離れていった。


 


拍手はまだ鳴り続いている。


だがレイコは動けなかった。


胸の奥で、さっきの言葉が反響している。


――こんなに苦しむことはなかったのに。


レイコは小さく息を吐いた。


「……何よ……」


けれどその頬は、少し赤かった。


 


拍手はまだ続いていた。


だがリヒトは振り返らなかった。


メインラウンジを出ると、静かな廊下を早足で歩く。


やがてクルーラウンジのドアを開けた。


中には数人の航海士たちがいた。


コーヒーを片手に、くつろいでいる。


ドアが開いた瞬間、全員が振り向いた。


「おや!副長!いや、プリンス・オブ・レジェンディア!」


「カッコよかったですよ!」


「株主相手にタンゴとはねぇ!」


にやにやと笑う声。


リヒトは無言でコーヒーを取る。


だが一口も飲まずにテーブルへ置いた。


「完全に恋人のダンスでしたねぇ。」


「うるさい。」


短く言う。


「仕事中だ。」


航海士たちは顔を見合わせて笑う。


「副長があんな顔するとはねぇ。」


「オーガスティア様、美人だからな。」


「そりゃ航海士も操船ミスしちまう。」


笑い声が広がる。


リヒトはため息をついた。


一人の航海士が肩をすくめる。


「副長、素直になった方がいいですよ。」


「誰がどう見ても、あれは惚れてますって宣言でしたし。」


リヒトは立ち上がった。


「……頭冷やしてくる。」


「うわ、逃げた。」


「副長、頑張ってくださいよー!」


背後からそんな声が飛んできたが、リヒトは振り返らなかった。


 


廊下を抜け、デッキへ出る。


夜の海風が頬を打った。


ムーンカフェデッキ。


この時間、乗客はほとんどいない。


リヒトはジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩める。


そのままソファに腰を下ろした。


テーブルに置かれた水のグラスを手に取る。


氷が小さく音を立てた。


そして――


背もたれに身体を預ける。


「……参った。」


低く呟く。


「こんなはずじゃなかったのに。」


 


地中海の夜空に、星が広がっていた。


 


そしてレジェンディアは、

静かな港でゆっくりと眠りについていた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


クルーズ船の夜会では、音楽やダンスが終わったあとも

船内のどこかにその余韻が残ります。


静かなデッキやクルーラウンジで過ごす時間は、

船乗りにとっても大切なひとときです。


今回の回では、リヒトの内面が少しだけ見えました。

そしてレイコの心にも、わずかな変化が生まれ始めています。


次回、夜のレジェンディアで物語はもう少し静かに動きます。

引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。

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