兄の真実 前編
私は、兄のことが好きではない。別に嫌いではないのだが、好きにもなれないのだ。
兄の名は、千夜といい「千夜一夜」という言葉からインスピレーションを得て「暗い難しい夜のような世の中を何度でも越せるように」という意味合いでつけた名前らしい。兄は、むっつりで怖い節があり、気難しいからきっと1000回も無限大数回でも世の中に飲み込まれず越せると思うのだが…。こうやって嫌味を言っているが、昔はそうではなかった。むしろ、兄に頼りきる甘えん坊な妹だった。
あれは、三年前のこと、確か兄は中学一年生で私が小学五年生だった。私は、私立小学校に通っていて学校が少し遠い場所にあったので電車通学していた。一方、兄は徒歩で通える私立中学校に通っていたので私より帰宅が早いことが多かった。
「ただいま!」
と元気よく自宅のドアを開くと、必ず母と兄が「おかえり」と返してくれた。その日は、兄からの返事がなかった。兄は、ソファに座っていて私の方を見もしない。私は、心底不思議だった。
「千夜兄、どうしたの?元気ないの?」
そう、普通に心配しただけだったのに
「お前は、能天気で良いよな」
そう、一言返ってきた。かなり、ショックだった。大好きな兄に否定されたような感覚を覚えた。
その日以降、兄は毎日愚痴のように、嫌味のようにあの言葉を私にかけてきた。もう、距離をとるほか少女の私に出来ることはなかった。




