第5話 婚約報道、王都を騒がす
翌朝、村に届いた王都便の早馬を見て、俺は全身の血の気が引いた。
差出人は「王国広報局」。
そして、封書の宛名にはでかでかと書かれていた。
『賢者リオ・クラウス殿 ―王国特報について―』
嫌な予感しかしない。
封を開けると、羊皮紙にはこうあった。
『新たなる時代の象徴として、“共鳴の賢者リオ・クラウス”が竜族の王女《水竜セリア》と婚約を結んだことを、ここに王国全土へ発表する。
王国はこの契約を祝福し、人と竜の新たな同盟成立を宣言する。』
「……………」
読んで、しばらく無言になった。
ガルドが肩を覗き込み、目を丸くする。
「なぁリオ、これ、まさか……」
「まさかじゃねぇ。現実だ。」
ジークは爆笑した。
「うわぁ! すげぇ! 王国公認の婚約かよ!」
「笑うな! 笑うなって!」
ソフィアは静かに手を合わせて言った。
「おめでとうございます。歴史に残る偉業ですね」
「偉業じゃねぇ! 俺の人生の誤植だよ!」
外に出ると、村の掲示板にはすでに王国公報の写しが貼られていた。
「竜族との盟約」
「辺境の賢者、竜姫を娶る」
「平穏を愛した男、世界を動かす」
どれも勝手に俺を主人公に仕立てた記事ばかりだ。
平穏が遠ざかる音が聞こえる気がした。
「これ、どうすればいい……?」
俺は頭を抱えた。
「どうって、祝賀の準備しなきゃな!」とガルド。
「そうだ。王都から来賓も来るだろう」とジーク。
「新しい服を仕立てておきますね」とソフィア。
「違う。お前ら話聞け。」
その日の昼、王都から早馬第二便が到着した。
中には金色の封蝋で封じられた正式書簡。
開くと、王国宰相の署名入りでこう書かれていた。
『陛下は御婚約を祝福され、竜族との祝宴を王都城で催されたいとのこと。
賢者リオ殿には、七日後の王都来訪を命ずる。』
「命ずる、て。」
呟いた俺の声が震えた。
ガルドは目を輝かせる。
「すげぇ! 王都入りだ!」
「いや、すげぇじゃなくて。俺、行きたくねぇんだよ!」
「陛下直々の招待だぞ?」
「招待っていうか召喚状だろ!」
そんな中、湖面から水音が響いた。
あいつだ。
水竜セリア。
金の瞳を揺らしながら、俺の前に姿を現した。
『リオよ。王の招き、受けるのだろう?』
「……ああ、たぶんな」
『共に行こう。我も汝の伴侶として』
「いや、伴侶って言葉を軽く使うな!」
『婚約とは誓い。誓いは信頼。信頼は平穏。汝が望むものではないのか?』
「その理屈で全部壊されてるんだよ俺の平穏は!」
だが、セリアの表情(竜だけど)はどこか嬉しそうだった。
……いや、表情があるように見えるだけかもしれないが。
「リオ、いいじゃねぇか」
ジークが笑う。
「王都に行って、美味いもん食って帰ってくれば」
「そうだぞ」とガルドも続く。
「竜姫連れの賢者なんて、王都でも英雄だ」
「……それが一番嫌なんだよ」
結局、逆らう余地はなかった。
王都からの使者が到着し、祝宴用の馬車と服が用意された。
村人たちは歓声を上げ、花を投げ、まるで嫁入り行列のように見送る。
「……おい、これ俺の葬式みたいだぞ」
「違う違う。新婚旅行の出発だ!」
「どっちにしろ地獄行きだろ!」
馬車が走り出す。
振り返ると、湖のほとりでセリアが静かに見送っていた。
その瞳は穏やかで、少しだけ切なかった。
もしかして、本当に悪い奴じゃないのかもしれない。
彼女もまた、孤独の中で誰かの“共鳴”を求めていたのかもしれない。
そんなことを考えていたら、隣に座っていたガルドが言った。
「なぁリオ」
「なんだ」
「王都で“共鳴団”の支部つくろうぜ!」
「やめろぉぉぉぉ!!!」
馬車はそのまま王都へ向かって走り抜けた。
俺の“静かな暮らし”は、どうやら国境を越えてさらに遠ざかっていくらしい。
――平穏、またも爆散。
次回予告:「第6話 王都の祝宴、再び爆発」
王都の城で祝宴が開かれるが、共鳴スキルが暴走。
王族・貴族・竜族を巻き込む未曽有の大惨事へ――。




