表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
のんびり暮らすはずが、隣人全員チートでした ~仕方なく俺も覚醒します~  作者: 妙原奇天


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/20

第10話 眠りについた街で

 平穏が戻ったはずだった。

 空は青く、風は涼しく、人々は笑っていた。

 ――そう、見えていた。


 朝の市場。

 露店の主人がパンを焼き、子どもが走り回る。

 何もかもが、いつも通りのはずだった。

 だが、どこかがおかしい。


 ジークが眉をしかめて言った。

「なぁリオ……この街、静かすぎねぇか?」

「いや、前より喧しいくらいだろ。」

「そうじゃねぇ。声が、全部同じトーンなんだ。」


 確かに。

 耳をすませば、人々の笑い声が波のように揃っていた。

 笑うタイミングも、言葉の抑揚も、まるで一人が喋っているかのようだ。


「おはようございます、賢者様。」

 パン屋の夫婦が同時に頭を下げる。

「おはよう。……元気そうだな。」

「はい。平穏って、いいですね。」

「……またそれか。」


 その言葉をきっかけに、通りのあちこちから同じ声が重なる。

 「平穏って、いいですね。」

 「平穏って、いいですね。」

 音が層になって、街全体が低く共鳴した。


「……おい、これまたやばくねぇか?」

「やばい。すごくやばい。」

 ガルドとジークが同時に呟く。

 ソフィアは冷静に記録を取りながら言った。

「リオさんの共鳴が、完全に意識層に定着しています。

 人々の思考が同調して、平穏という言葉を“合言葉”にしてるんです。」

「要するに、俺のせいだな。」

「ええ、間違いなく。」

「即答すんなよ!」


 街の外から鐘の音が聞こえる。

 教会だ。

 鐘はゆっくりと鳴り響き、一定の間隔で止まる。

 そのたびに、街の人々が一瞬だけ動きを止め、微笑む。

 まるで合図に従っているようだった。


「何かを、待ってる……?」

 俺の呟きに、ソフィアが頷いた。

「おそらく“次の共鳴”です。」

「次って何だよ!」

「“平穏”が行き届いた次は、“眠り”です。」

「眠り?」

「心を静かに保つ最終段階。“完全な安らぎ”。」

「つまり、眠らされるってことか?」

「はい。永遠に。」


 背筋が冷たくなる。

 その瞬間、鐘がまた鳴った。

 人々が立ち止まり、ゆっくりと目を閉じる。

 広場の中央から、白い光が立ち上る。


「共鳴波だ!」

 ソフィアの声が響く。

 地面が震え、空気が重くなる。

 俺は反射的に手を突き出した。

「やめろっ!」


《共鳴発動》


 光と光がぶつかる。

 鐘の音が歪み、空気がねじれる。

 静寂と喧騒が交錯し、世界が揺らいだ。


 次の瞬間、全ての音が止まった。

 通りの人々が、立ったまま眠っている。

 目を閉じ、穏やかな表情のまま。

 倒れたわけでも、死んだわけでもない。

 ただ、眠っている。


「……やっちまったか?」

「いえ。」

 ソフィアが首を振る。

「彼らは、あなたが守ったんです。共鳴の波が暴走しかけた瞬間、

 あなたが“拒絶”したことで、力が中和された。」

「つまり?」

「いま、王都全体が“夢を見ている”状態です。」


 セリアがゆっくりと湖の方を見た。

『リオ。汝が望まぬ限り、彼らは目覚めぬだろう。』

「また俺のせいかよ……。」

『汝の心は強すぎる。だが同時に、優しすぎる。

 その優しさが、眠りを許してしまったのだ。』

「それ、褒めてんのか呪ってんのかどっちだ……。」


 見渡す限り、眠る街。

 風はなく、時間はゆっくりと流れている。

 太陽だけが、何事もなかったように昇っていた。


 ジークが空を見上げて言った。

「リオ、お前どうする?」

「どうするって?」

「このまま放っときゃ、国中が夢の中だ。」

「……起こすしかないよな。」


 ソフィアが微笑んだ。

「でも、どうやって?」

「うるさい奴の声で叩き起こすしかないだろ。」

「誰のこと?」

「お前ら三人に決まってんだろ。」


 俺たちは顔を見合わせ、思わず笑った。

 その笑い声だけが、止まった世界に響いた。


 セリアが静かに言う。

『リオ。汝の“平穏”は試され続けるだろう。』

「もう試さなくていいんだけどな。」

『それでも、汝が願う限り、世界は応える。

 ――だから、次の朝はきっと騒がしいぞ。』


 遠くの空に、淡い光が瞬いた。

 まるで、夢と現の境目を示すように。


 ――平穏、またも爆散。


次回予告:「第11話 声を忘れた少女」

眠りの中で、ただ一人だけ目を覚ました少女。

彼女はリオの過去と、“共鳴”の原点を知っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ