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第9話 沈黙の後に

今日は、いつもより少しだけ特別な日。

負けたくない。勝ちたい。ただのゲームじゃなくて、自分の居場所を賭けた、大事な日。

でも――試合の先に見えたのは、胸の奥をざわつかせる言葉と、ほんの少しの沈黙。




イベント当日の朝。

目覚ましが鳴るより早く、自然と目が覚めた。


寝不足気味なはずなのに、不思議と眠気はなかった。代わりに、胸の奥が妙にそわそわしている。


(ただのゲームじゃない。配信者として結果を出したい。)


自分に言い聞かせるように深呼吸をする。

今日は、これまでで一番大きな対戦イベント。チームメンバーとの連携が問われる、勝負の日だ。



ログインすると、すでに何人かが決戦場所に集まっていた。


「おはようございます!」


少し緊張の混じった声で挨拶すると、すぐに明るい返事が返ってくる。


「おはようございます。今日はよろしくお願いします」


ランドリーの声は、いつも通り穏やかで落ち着いていた。

その声を聞いただけで、なぜか少しだけ肩の力が抜けた気がした。


続いて、シナチクの元気な声が響く。


「光ちゃん、おはよー! 今日、絶対勝とうね〜!」


「うん、よろしくね」


ゲーム内の音だけが流れる戦場に、笑い声がふわりと混じった。


(負けたくない。ちゃんと、自分の力を出しきりたい)


そんな思いが、強く胸を占めていた。



時間になると、ミラクルキッドの声が全体チャットに響く。


「よし、全員そろったな。これより、チーム戦を開始する!」


BGMが切り替わり、緊張感が走る。


それぞれのメンバーがマイク越しに操作を始める音が、まるで心音のように耳に響いた。



「右側、少し押されてます。光さん、カバーお願いできますか?」


「了解です!」


即座にポジションを切り替える。

ランドリーの指示は的確で、反射的に指が動いた。


チームの連携は悪くない。動きもスムーズだ。

だけど、相手チームは一枚も二枚も上手だった。


「正面中央、突破されました。回復急ぎます!」


「中盤支援、少し遅れます!すみません!」


焦りはない。けれど、ほんのわずかな遅れや読み違いが積み重なっていく。

その小さな誤差が、勝敗を決定づけた。


結果は――完敗だった。



「……お疲れさまでした」


最後の試合が終わったあと、


「いい試合だった! 」


明るい声で笑ったのは、相手チームの女性プレイヤーみなとだった。


「ランドリー、ほんと上手だね。うちのチームに来てくれたら嬉しいのに……」


その一言に、胸の奥がキュッと締め付けられる。


ランドリーは、少し沈黙したあと、落ち着いた声で答える。


「ありがとうございます。でもここが楽しいんで……」


マイク越しのやり取りはどこまでも平静だったけれど、彼のその沈黙だけが妙に印象に残った。


メンバーだけのボイスチャットには、ミラクルキッドが明るく声をかけた。


「まあ、今回は負けたけど、ちゃんと戦えてたと思う。ナイスファイト!」


「次は勝ちましょう!」


「また、対策立てよう!」


前向きな声が飛び交い、空気が少しずつほどけていく。


そんな中、クロウが光に声をかけてきた。


「光さん、二戦目のあの位置、やりづらかったでしょ。フォロー遅れてごめん」


「ううん、全然。私の判断も遅かったし、次はもっと上手くできると思います。」


言葉だけのやり取りなのに、画面の向こうで笑い合えているような不思議な気持ちになった。



クロウがその場から離れると、ランドリーの声がふいに聞こえた。


「……クロウさんとは、もともと知り合いなんですか?」


「え? ううん、今日ちゃんと話したのが初めてかも」


「そうなんですね……」


ただそれだけの、短いやり取り。


だけど――

ランドリーが誰かとの関係をそんなふうに尋ねるのは、どこか珍しかった。


「ランドリーさん、次は……勝てるといいですね」


「はい。次こそ、勝ちたいですね」


平常通りのやり取り。

けれどその中には、ほんのわずかに滲む“悔しさ”と“決意”があった気がした。


私はマイクをミュートにして、深く息を吸い込んだ。


(もっと、上手くなりたい)


チームとして。仲間として。

そして――声だけで繋がるこの世界でも、もっと自分の居場所を作りたいと思った。



最後まで読んでくれて、ありがとうございます。

そして――次はいよいよ、初めて直接会うオフ会のお話。

画面越しじゃない、“本当の距離”で何が起こるのか。

よかったら、次回も見てもらえると嬉しいです。


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