第6話 再起の導き
配信を始めて1年、私は『ソルジャーアドバンス』である女性配信者と親しくなっていった。彼女のチームは、天将のチームと肩を並べるほどの人気を誇っていた。
(炎上のショックはまだ胸の奥に残っている。でも、このままくじけてはいけない。仲間がいなければ、もっと辛いままだ……)
意を決してチームのキャプテンに声をかけた。
「私も、このチームに入れていただけませんか?」
だが、返ってきたのは期待とは違う答えだった。
「ごめんね。今はチーム内でちょっとトラブルがあって……新しい人を迎えるのは慎重になってるんだ」
定員は10人。まだ空きがあるように見えた
(レベル78まで頑張ってきたのに……最近は、ひとりじゃ難しいクエストも増えてきたのに……それでも、だめなんだ)
胸の奥がじわりと痛んだ。焦りと、孤独が、静かに広がっていく。
翌日、1年ぶりに「ミラクルワーカー」の面々と顔を合わせた。
「久しぶり。元気にしてた?」
ミラクルキッドの明るい声が響いた。
「はい、おかげさまで」
自然と笑みがこぼれる。
「うちは今、チームメンバーが7人まで増えたんだ。光さんは、どこかのチームに?」
少し間を置いて、正直に答える。
「……実は、まだどこにも所属していなくて」
「レベルは?」
「78です」
その瞬間、ミラクルキッドの声が一段やさしくなった。
「すごいじゃないですか。頑張ったね。……よければ、うちに入る?」
その言葉に、張り詰めていた気持ちが、ほどけていくのを感じた。
「本当に……いいんですか?」
「もちろん。これから一緒にがんばろう」
「……よろしくお願いします!」
画面越しに次々と「おめでとう!」という声が飛び交う。
ずっと一人で頑張って来たことが報われたような気がした。
(やっと私にも居場所ができた)
一一そのとき。
ランドリーは少し遅れてログインしていた。
(なんだろう、この空気……誰か、新しく入った?)
すぐにミラクルキッドの声が響く。
「ランドリー、今日からうちのチームに入ってくれた蛍野光さん」
その名前を聞いた瞬間、ランドリーの心が軽くざわついた。
(蛍野……あの時の、彼女?)
「えっ……あ、以前お会いしましたね。ランドリーです。よろしくお願いします」
意識せずとも、自然と声にも笑みが滲んでいた。
(また会えるとは思ったが、まさか、同じチームになるなんて……)
そのとき、新しい声が飛んできた。
「はじめまして。クロウです。これからよろしくお願いします」
画面に現れたのは、黒装束に身を包んだ忍者アバター。落ち着いた声が印象的だった。
続いて、元気な声が響いた。
「私はゆずっち。仲間が増えてうれしいな~。一緒に頑張ろうね!」
彼女は長い金髪の騎士で、シルバーの鎧を身にまとっている。胸や肩は覆われているが、腹部は露出し、黒いショートパンツを履いている。
「わっ、ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします!」
挨拶が一通り済むと、勇気を振り絞ってランドリーに話しかけた。
「このゲーム、やっと操作に慣れてきたんですが……チームに入るのは初めてなんです。いろいろ教えていただけたらうれしいです」
「僕でよければ、何でも。気軽に聞いてください」
ランドリーは、自分でも驚くほど自然に言葉が出た。その表情は画面越しには見えないけれど、彼女が自分に頼ってきた事がうれしかった。
チーム戦の説明をしていくうちに、彼女の素直な反応や、真剣な声が、少しずつ胸に響いてくる。
(……何でこんなに気になるんだろう)
そんなとき、遠くから呼び声が飛んできた。
「ランドリーくん、ちょっと来て~!」
「あっ、うん。今行くよ。……ごめんなさい、ちょっと呼ばれちゃって」
「大丈夫です。行ってきてください」
光の声に名残惜しさを感じながらも、ランドリーはそっと応じた。
一方、光の耳には、その女性の明るい声が残っていた。
(……誰だろう、あの人)
その日は、それっきりランドリーが戻ってくることはなかった。