第16話 魂の試練
胸に刺さる言葉や視線の影に、心が揺れる。
届くメッセージ、飛び交う噂、見えない圧力──
それでも、私は夢と自分自身を守ると決めた。
ランドリーとカフェで別れた夜、私は深く息をつき、気持ちを切り替えるようにしてゲーム配信に向き合った。
画面の中でモンスターを倒すたび、胸のざわつきが少しずつ和らぐ。達成感とともに、かすかな安堵が心に広がる。コメント欄に目をやると――
> 「おめでとう!」
> 「すごい!」
見慣れたリスナーの声に混ざり、知らない名前が、チラチラ目に入った。
> 「ランドリーと付き合ってるの?」 > 「二人、最近雰囲気怪しいよね」
思わず手を止めた。まさか――と思った瞬間、頭に浮かんだのは、みなとの顔だった。
ログアウト前、シナチクが声をかけてきた。
「ランドリーくん、今日どうしたのかな?光ちゃんもちょっと元気なさそう」
それから、軽い調子で笑いながら続けた。
「あ、そういえば二人、最近仲いいよね。」
茶化すような口ぶり。
私は、返す言葉を見つけられなかった。
救いだったのは、それ以上誰もランドリーとの件に一切触れずにいてくれた事だった。
配信が終わると、すぐにみなとの雑談配信アーカイブを探すが、今日の履歴だけはどこにもない。スマホを手に取り、DMを開くと、数件のメッセージが届いていた。
> 「みなとさんが、仲良くしてた配信者に他に好きな人がいるって言ってました。ランドリーさんと光さんの事ですよね?」
> 「ランドリーさんには、みなとさんが一番なんです。光さんは邪魔しないでください」
胸の奥を鋭い針で刺されるような感覚が広がる。
(やっぱり、みなとさんは今でもランドリーさんのことを……)
その直後、匿名掲示板やSNSの悪意ある書き込みが目に入った。
>「光、絶対ランドリー狙ってるよね」
>「みなと可哀想。裏で奪われてるじゃん」
>「ランドリーの雰囲気変わったの、光のせいだよ。」
>「ミラクルワーカーの空気悪くしてるよね」
個人からの非難に加え、顔の見えない群衆からの圧力が、私の心をさらに締めつけた。
それでも、私はソルジャーアドバンスを辞めるつもりはなかった。ここを手放したら、すべてが本当に終わってしまう気がした。
その日を境に、ランドリーの配信は止まった。
彼のSNSを毎日確認していたけれど、最後に残されていたのはただ一言。
>「暫く配信休みます。元気なので心配しないで下さい。」
それきり、更新も途絶えていた。
***
久しぶりに美月と通話をした。大学時代からの友人で、今は上京し、タロット占いの配信をしている。
「凛、声……元気ないね?」
その柔らかな声に、胸の奥に張りつめていたものが少しずつほどけ、抑えていた感情が自然に口をついた。
「……ランドリーさんが急にゲームに来なくなって。それだけなのに、全部が止まったみたいで……」
美月は静かに聞き、深く息をついた。
「覚えてる?前にタロットで見たとき、ツインレイのカードが出たでしょ。もうすぐツインレイに出会うって。魂の片割れだって。試される出来事があるとも言ったよね。」
ランドリーの笑顔、沈黙、距離感……その存在が、自然と“ツインレイ”という言葉と重なっていく。
「ツインレイは、出会っただけで終わらないの。お互いが自分になる時間が必要なんだよ。向き合う覚悟とか、心の準備とか……」
美月の言葉は静かだが、胸にしっかりと響いた。
「占ってあげることも出来るけど、今は、自分の気持ちをちゃんと見つめてあげて。怖いのは分かるけど、逃げずに向き合おうって決めたら、きっと次の扉が開くから」
「……うん、ありがとう、美月」
通話を切った。スマホの画面が暗くなり、しばらく静けさだけが残る。
彼が距離を取ったのは、きっと誠実さゆえだ。軽々しく言えない気持ちを、彼なりに抱えていたんだと思う。
――今なら、少しだけ分かる気がした。
美月の言うように、彼の行動を通して、自分の弱さや、過去の傷に蓋をしてきた傲慢さが見えた気がした。
恋をすることに期待しないふりをしながら、心の奥底では誰かに、“特別な私”を求めていた。
けれど、どれだけ想っても、今の現実は変わらない。
あの日の私に戻りたくはない。傷つくことを恐れて、自分を守るために心に距離を置いてきたあの頃の自分には。
私はもう、誰かの存在を自分の中心に置かない。
ランドリーがいない現実でも、自分の人生を止めることなく、前に進むことを決める。
傷ついても、たとえ報われなくても、自分自身と向き合い、この場所で成長することを。
だから、私はこの場所を、この夢を、絶対に手放さない。
そして、胸を張って彼と再会できるように。
そう、心の中で誓った。
読んでいただきありがとうございます。
これから先も、試練や選択は続くけれど、互いの覚悟があれば乗り越えられるはず。
ランドリーは、果たしてどうするつもりなのか!?
次回も、お楽しみに。




