第15話 嫉妬の影
街で再会してしまった。
追わなければよかったのに、どうしても目を離せなかった。
そして、見てしまった──彼が私以外の誰かと、あんなに幸せそうに笑う顔を。
心に芽生えた嫉妬は、やがて配信の世界に波紋を広げていく……。
初めて彼に会ったのは、配信者仲間の飲み会だった。
キッドが主催したその場に、ゲーム内でのクールなアバターとは全く違う、少し照れたように笑う彼の可愛らしさが、私にはひどく眩しかった。
それから、ランドリーに想いを伝えたのは、しばらく経ってから。
勇気を振り絞った告白は、静かで優しい拒絶に終わり、彼は私との距離を遠ざけた。
それでも私は、リスナーに悟られないように、ゲーム内で変わらず声をかけ、時折メッセージも送っていた。
忘れたい気持ちと、どうしても忘れられない気持ちが交差する中、駅前の雑踏を歩く彼の姿が、突然、私の視界に飛び込んできた。
声をかけようと一歩踏み出した。
けれど、軽やかな足取りでまっすぐに歩いていく彼の背中を見ていると、なぜか声が出なかった。
気づけば、心が吸い寄せられるように、後を追ってしまっていた。
人目を避けて角を曲がり、少し距離を保ちながら歩く。
ランドリーは駅から少し離れた、人通りの少ない路地に入り、その奥にある小さなカフェに消えていった。
配信仲間から、光さんとの噂は耳にしていた。
こんな分かりにくい場所まで歩くなんて、きっと彼女に会うのだろう。
予感は確信へと変わる。
しばらく息をひそめて待ち、意を決して扉に手をかけた。
(見なければ、このまま知らなければ楽なのに)
頭の片隅で囁く声を振り切り私はドアを押した。
カフェのドアを開けた途端、コーヒーの香りと、店内に響く楽しげな声に、私の心臓が激しく脈打った。
視線は吸い寄せられるように奥の席へ。
そこにランドリーがいた。
そして、その向かいには、噂の光さんだろう女性が座っている。
ランドリーは、心底楽しそうに声を上げて笑っていた。
その声は、私が知っているどの声よりも弾んでいて、私の心に鈍い音を立てて響く。
光さんもそれに応えるように、柔らかな笑みを浮かべている。
彼女の纏う温かい雰囲気は、まるで太陽のようだった。
二人の間には、私には決して立ち入れない、親密な空気が漂っていた。
「……ランドリー?」
気づけば、私は二人のテーブルのそばに立っていた。
醜い好奇心に突き動かされた。
私の声に、ランドリーの表情は一瞬でこわばる。
その笑顔は嘘のように消え、どこか気まずげに視線が泳いだ。
「えっ……あ、こんにちは」
「へぇ、珍しいね。女の子と一緒なんて。デート?」
冗談めかしたが、私の目の奥は全く笑っていなかっただろう。
心臓がドクドクと不規則に脈打つ。
「いえ、ただの……友人です、よ」
ランドリーは私にだけ聞こえるように、焦りを隠しきれない声で答えた。
光さんの柔らかな笑顔もふっと消え、その表情がすべてを物語っていた。
私の胸の奥がチクリと痛み、同時にどこか薄暗い満足感が湧いてくる。
二人の間に流れる重い空気に、私はその場を離れた。
カフェの外に出て、冷たい秋風に吹かれるまで、必死に笑顔を保ち続けた。
(ずるい……)
私がどれだけ頑張っても開かなかった扉を、どうして彼女はあっさりと開けられるの?
私が欲しかった彼の隣に、どうして彼女は当たり前のように座っているの?
家に帰っても、ランドリーの楽しそうな笑顔が頭から離れない。
その夜、雑談配信でリスナーから質問が飛んできた。
「好きな配信者いる?」
私は一瞬躊躇った後、少しだけ含みを持たせて答えた。
「うーん、どうだろうなー?前は仲良くしてた人がいたけど、今は、他に好きな人がいるみたいだし……冗談だけど」
コメント欄には憶測が飛び交う
>「誰のこと?」
>「ランドリーと前は仲良かったよね?」
>「違うチームなのによく絡んでたし!」
>「今は、光さんと仲良いよね!」
私は焦りながら話を逸らしたが、暫くその話題に触れてくる。
「はい。冗談だからその話題は、終わり。終わり。」
配信が終わり、夜の静けさが戻った部屋で冷静になり考える。
スマホを手に取り、ランドリーに送る言葉を探す。
平静を装いながら、震える指で送信ボタンを押した。
スマホをベッドに放り投げる。
堪えていた涙が一気にあふれ出した。
声にならない嗚咽が、夜に沈んでいった。
読んでいただきありがとうございます。
ランドリーとの距離に揺れながらも、自分の気持ちと向き合おうとする光。
試されるような出来事の連続が、彼女の心をさらに成長させていく。
次回もお楽しみに。




