第14話 優しさの代償
暗い部屋、青白いモニターの光だけが揺れる夜。
スマホに届いた一通のメッセージが、ランドリーの胸をざわつかせる。
そして、ランドリーとみなとの過去が、少しずつ明らかになる――。
暗い部屋に、モニターの青白い光だけが揺れていた。
その光の中で、ランドリーはスマホの通知に目を留める。みなとからだった。
> 「ごめん。軽い気持ちで話してしまった」
メッセージを見た瞬間、スマホを強く握りしめた。
全身に嫌な予感が走った。それは、カフェで光に「ただの友人」と言ってしまった瞬間と同じ感覚だった。
「仲良くしてた人がいたけど、他に好きな人がいるみたい」
その一言が、コメント欄をざわつかせ、光と自分との関係を憶測させたらしい。
光を傷つけるような、心ない言葉が飛び交うかもしれない。
頭の中が真っ白になる。焦りと、過去の記憶が同時に蘇った。
それは、配信仲間の集まりの帰り道のこと。
一人で帰ろうとした僕に、みなとが声をかけてきた。
「ねぇ、一緒に帰ろうよ。方向、同じだし」
みなとは人気配信者で、僕より年上。落ち着いていて、どこか頼もしい存在だった。
キッドとも、僕がミラクルワーカーに入る前から親しく、チーム戦の相手になることも多かった。
公園のベンチに腰を下ろすと、彼女は僕の横顔を見つめ、静かに言った。
「ランドリーって、優しいよね」
「そうかな」
「うん…でも、その優しさって自分を守ろうとしてるだけじゃない?」
その言葉は、鋭い刃物のように胸に突き刺さった。
夢を追っても結果が出ず、誰にも弱さを見せられなかった僕は、いつしか「優しいランドリー」という仮面を被って、自分を守っていた。
「ほんとの優しさなら、もっとちゃんと向き合うんじゃない?」
何も言い返すことができなかった。
元恋人の言葉が、ふと蘇る。
――「それって、いつまで続けるの?」
彼女はただの問いかけだったのかもしれない。だが僕には、夢も、そして生き方そのものも否定されたように聞こえた。
少し沈黙した後、みなとは俯いて言った。
「ねえ……もし私がランドリーのこと好きだって言ったら……どうする?」
薄々、彼女の好意には気づいていた。
僕は逃げるように言葉を紡ぐ。
「……ありがとうございます。でも、ごめんなさい。今は、人を好きになる余裕がなくて」
みなとは少しだけ寂しそうに笑い、肩をすくめた。
「そっか。まあ、分かってたよ。ランドリーって誰にも興味なさそうだもんね」
その笑顔の奥に、ほんの少しの諦めと、深い寂しさが滲んでいるのが分かった。
それでも彼女は、変わらず冗談を飛ばし、僕を気遣うメッセージをくれた。
だが僕は、自分を守るために、みなとから距離を置いた。
そして、そんな臆病な僕の前に現れたのが、光だった。
画面越しの彼女に、僕は強く惹かれていた。
どう接していいかわからず、つい素っ気なくしてしまうこともあった。
だが、気づけば無意識に彼女の声を待っている自分がいた。
光は、他の誰とも違った。
オフ会で初めて会ったとき、なぜか懐かしさを感じた。
まるで昔から知っているような安心感。そして、強烈に惹かれる自分がいた。
夢を追い、傷つき、それでも迷いながら前に進む光の姿は、まるで自分の写し鏡のようだった。
しかし、彼女は僕にはない強さを持っていた。
どれだけ打ちのめされても、倒れても、必ず立ち上がろうとする。
そのまっすぐな眼差しが、まぶしくて仕方なかった。
(僕に、彼女を守れるだろうか)
守りたいと、強く願う自分と、軽々しくその言葉を口にできない臆病な自分がいた
スマホの画面を伏せ、ベッドに身を横たえる。
瞼の裏に、光の屈託のない笑顔が、楽しそうな声が、そして少しだけ不安げな表情が浮かび、消えなかった。
読んでくださり、ありがとうございます。
次回は、みなとの視点でお届けします。
叶わない想いが心を揺らす瞬間を描きます。




