表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/18

第13話 揺れる境界線

穏やかの時間のはずが、心に小さな影が落ちる。

揺れる気持ちと、言えない本音。




二人きりで過ごした、あの穏やかな時間から数日が経った。


コメント欄に


>「最近ちょっと仲良すぎじゃない」?


なんて言葉が並ぶようになってから、私は少し距離を置くべきなのか悩んでいた。


配信者としての自分と、現実の彼と過ごす時間――その境界が、曖昧になっていくのが怖かったのかもしれない。


それでも。

ランドリーからの誘いを、どうしても断れなかった。


(少しだけでも一緒にいられたら)


そんな気持ちが、気づけばすぐ返事を打たせていた。



配信のあとにメッセージを交わしたり、ときどきゲーム内で二人でパーティを組んだり。

そんな何気ないやり取りだけで、胸の奥がほっと温かくなるような日々だった。


ある日、二人で再び訪れたカフェ。

そこには、静かで柔らかな時間が、緩やかに流れていた。



そのとき、不意にかかった声――


「…… ランドリー?」


顔を上げると、そこに立っていたのは、帽子とサングラス姿の女性だった。


「えっ……あっこんにちは」


ランドリーが少し驚いたように答える。 女性は私に視線を向け、ゆっくりと笑みを浮かべた。


「へぇ珍しいねえ。ランドリーが女の子と一緒にいるなんて……。デート?」


冗談めかした口調。けれどその奥には、明らかに探るような色が混じっていた。


「いえ、ただの……友人です、よ」

ランドリーの声は、途端に小さい声になったが、はっきりと私にも聞こえた。


「ただの友人」―確かに、私たちはまだ付き合っているわけじゃない。


頭ではわかっているのに、胸の奥で確かな痛みが広がった。自分がこの関係に勝手に期待していたことを、まざまざと突きつけられたようだった。


作り笑いをしようとしたが、頬がこわばって動かない。


目の前のテーブルに視線を落とした。


「そっか、……ごめんね、お邪魔して」


軽く手を振って、彼女は何事もなかったように去っていった。 けれど、その背中は確かに何かを残していた。



カフェを出て駅までの道。 さっきまで弾んでいた会話は、自然と途切れがちになった。 歩幅だけが並び、言葉が見つからなかった。


改札前で私はようやく口を開いた。



「……さっきの人、みなとさんだよね」


「声でわかった」


「うん。びっくりした……」


そして、もうひとことだけ


「……あの人って、前に……ランドリーさんに気持ちを伝えた人、だよね?」


ランドリーが、小さく息を飲んだのがわかった。


「うん。……だいぶ前の話だけど」


私の中のざわつきが、やっと形になった。 だからだった。あの笑い方、あの探るような視線――


「……やっぱり、そうなんだ。」

呟きながら、胸の奥が苦しくなった。


ランドリーは何か言いたげだったけど、結局、何も言わなかった。


「今日は、ありがとう……」

「……こちらこそ」

二人の間には、冷え込む秋の空気が沈んでいた。


私は改札を抜け、ふり返らずに電車へ向かった。 背中にランドリーの視線を感じながらも、振り返れなかった。


***


その夜、ランドリーはひとり、編集作業をしていた。 暗い部屋に浮かぶモニターの光が、やけにまぶしく感じる。


画面には、数日前に光とパーティ組んだときの映像。 笑い合う声。自然な掛け合い。 心から楽しかったあの時間。


けれど今、その映像の中の彼女が、少し遠く感じた。


(……あんな顔、させてしまった)


後悔が胸を刺す。


ただの友人――それが、どれほど彼女を傷つけたのか。 しかも、みなとの前で。


言えなかった。「大切な人」―― たったそれだけの言葉を。


「ただの友人」――それは、誰よりも自分を守るための言葉だった。


でも、本当に守りたかったのは、彼女だったはずなのに。


罪悪感と自己嫌悪が、じわじわと胸を締め付ける。


優しいふりをして、本音から逃げて、彼女を遠ざけるような自分が、情けなかった。


そして今はただ、暗い部屋で光るモニターを眺めることしかできなかった。



読んでくださってありがとうございます。

次回、ランドリーの過去と心の傷が明らかになります。

二人の関係はさらに揺れ動きます。ぜひご期待ください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ