第12話 変わり始めた関係
オフ会後、二人の距離は急接近。カフェと公園で紡がれる、初めての二人だけの時間。
オフ会から数日が過ぎた。
あの夜、ランドリーと並んで歩いた帰り道の記憶が、今も胸の奥で淡く脈打っている。
――また会いたいです。ゲームじゃなくて、こうして。
スマホを手に取るたび、無意識に彼からのメッセージを確かめてしまう。
ある日、静かな部屋で、机の上のスマホがかすかに震える。
> 「日曜日、もしよかったら……カフェとか、行きませんか? あのときみたいに、ちょっと話したくて。」
心臓が跳ねる。手が少し震える。頬が熱くなるのを必死で抑えながら、返信を打った。
ランドリーが選んでくれたのは、駅から少し離れた小さなカフェ。
少し遅れて到着した彼はラフな服装ながらも清潔感があって、「好き」の輪郭が静かに浮かびあがる。
「すいません……お待たせしました」 「ううん、全然。私も今来たばかりだから」
ぎこちないやり取りさえ、どこか愛おしい。
店内に差し込む柔らかな日差し。コーヒーの香りに混じって、焼きたてのスコーンの甘い匂いがふわりと広がる。
ようやく肩の力が抜けた。
「オフ会、楽しかったですか?」
「うん、最初はちょっと緊張したけど……でも、会えてよかった」
ランドリーはカフェラテをひと口飲み、小さく微笑む。
「僕も同じです。ずっと声だけで話してたけど……会ってみて、もっとちゃんと知りたいって思ったんです」
「……え?」
「光さんのことを」
「本当は、同じゲーム配信者としてはあまり良くないのかもしれないけど……」
ジェットコースターで登りつめ、すぐに急降下していくような感覚。
コーヒーを口に運ぶ。いつも飲み慣れたはずのブラックコーヒーが、今日は妙に苦く感じた。
私は言葉を探すこともできずにいた。
沈黙を破るように、ランドリーが、口を開いた。
「そういえば、光さんもお菓子作り、得意なんですか?」
配信で「一緒にやりましょう」と言われたときの、嬉しかった記憶が蘇る。
「……あのとき勢いで『挑戦してみようかな』って言ったけど、実は、お菓子作ったこともなくて、料理も苦手で……」
ランドリーは笑って、「僕でよかったら教えますから」と言ってくれた。
話題は自然にゲームや音楽の話に流れ、気づけば時間はあっという間に過ぎていた。
「……少し、歩きませんか?」
会計を済ませると、ランドリーがそっと提案してくれる。 公園まで二人並んで歩く。
夕暮れの公園は優しいオレンジ色に包まれ、池のほとりで立ち止まる。 風で髪が揺れ、肌寒さに気づいたランドリーが、ベンチに座るよう促す。
二人は、少し距離をあけて腰掛ける。小さな沈黙。ランドリーが遠くを見ながら、ためらうように口を開いた。
「……以前にチーム対戦した、みなとさんのこと、少し話してもいいですか?」
「うん」
「仲のいい配信仲間だったんです。でも、気まずくなって……今は距離を置いてます」
みなとの話はそれだけだったが、チーム対戦後のランドリーがみなとに見せていた反応を、ふと思い出していた。
ランドリーは視線を落とし、言葉を探すように続ける。
「僕、人前で話すのがあまり得意じゃないんです。でも、一生懸命やれば誰かに楽しんでもらえるかもしれないって……そう思って続けてきました。正直、やめようかと思ったこともあります」
その言葉には、迷いながらも前に進もうとする彼の誠実さがあった。
「……私もやめたくなったことがあるよ。炎上して、つらくて」
ぽつりとつぶやくと、胸の奥が少し軽くなった。
「光さんは話しやすくて。僕、普段人に弱いところって見せられないんだけど……」
「うん。私も」
視線が重なり、自然に微笑み合う。
帰り道、二人で歩いていると、ふいにランドリーが足を止めた。
「そうだ……前に好きって言ってましたよね? よかったらどうぞ」
ガチャガチャのカプセルを私の手のひらにそっと置いた。 その中には、私の好きなキャラクターのキーホルダーが入っていた。
「これ、なかなか出なくて……何回も回して……」
彼が私の些細な一言を覚えていてくれたこと。さらに、私の好きなキャラクターを当てるまで諦めずに挑戦してくれたこと。そのまっすぐな気持ちに、心が満たされていく。
「ありがとう……すごく、うれしい。大事にするね!」
駅の改札前。
「……今日はありがとうございました」
「こちらこそ。誘ってくれて、本当にうれしかった」
少し迷ったように視線を揺らしながらも、ランドリーはしっかり目を見て言ってくれる。
「また、行きませんか? 二人で」
「……うん。行きたい」
彼の言葉が残した温もりと、かすかな不安が、そっと重なり合っていた。
読んでくださってありがとうございます。
次回は、二人の距離がさらに近づいていきますが、思わぬ試練も待ち受けています。
次回もお楽しみに。




