第11話 画面越しのその先へ
オフ会の二次会、帰り道で二人きり。
胸の奥がざわついて、心臓が速くなるのを感じる——
この距離感、この時間——
この夜がずっと続いてほしい。
二次会は駅から少し離れた隠れ家的な居酒屋に移動した。道すがら、私たちは他愛もない話をしながら歩き、カラオケ付きの個室では、自然にランドリーの横に腰を下ろした。
「かんぱーい!」
「おつかれさまでーす!」
私もグラスを手に、つられて乾杯した。
久しぶりのアルコールに、体がじんわりと熱を帯びていく。
「光さん、お酒強いんですか?」
正面に座ったクロウが尋ねた。
「いいえ、そんなに……でも、今日はちょっと楽しくて」
笑いながら、ついもう一口。
空気に酔っていたのか、気づけばグラスは空になっていた。
「ランドリーさんは? お酒飲まないんですか?」
私の問いに、彼は申し訳なさそうに笑って首を振った。
「僕、あまりお酒呑めなくて……雰囲気だけ楽しんでます」
その控えめな笑顔に、また胸がふわっとした。
しばらくして、ゆずっちと楽しげに話していたシナチクが、スマホを見て席を立った。
「ごめん、ちょっと用事入って……先に出るね!」
「え、もう帰っちゃうの?」
と、仲良しのゆずっちが寂しそうにして言う。
「うん、残念だけど! みんな、あとはよろしくね〜♪」
笑顔で手を振って、彼女は去っていった。
なぜか、少しだけ息がしやすくなった気がした。
気づけば五杯目、グラスを持つ手がおぼつかない。頭がぼんやりと霞み、楽しかったはずの笑い声も、遠くの波のように聞こえる。
「光さん、大丈夫? 顔赤いですよ」
クロウが心配そうに聞いてくる。
「ん〜……大丈夫です。……」
「いや、送りますか? 帰れます?」
そのとき——
「光さん、家どのあたりですか?」
ランドリーの静かな声が割って入った。
「〇〇駅の方です……」
「タクシー呼びますか?」
「……ううん。ちょっと歩きたい……
夜風にあたりたいから」
「僕もそっちの方面なので、駅まで送りますよ」
一瞬、空気が止まった。
クロウが少し驚いたように口を開く。
「……大丈夫か? ランドリー」
「はい。無理はさせられないんで」
淡々とした口調。でもそこには、はっきりとした意志があった。
その横顔を見つめながら、胸の奥がぽっと熱を帯びた。
(……うそ。送ってくれるの?)
ほんの少しだけ、夢を見てもいい気がした。
「光さんを送るので、お先に失礼します」
ランドリーが挨拶した後、私も続けて挨拶をする。
周りを見ると、和太郎はマイク片手に熱唱中、ミラクルキッドはビール片手に笑いながらキャリーレイと話している。三人とも、二人の動きにはまったく気づいていない。
一連の流れを聞いていたゆずっちが、にこっと微笑みながら一言。
「お疲れ様。またね〜。」
その笑顔を見て、私は少し照れくさくて頷く。
「……じゃあ、行きましょうか」
***
クロウは、二人のやりとりをじっと見つめていた。
普段は穏やかなランドリーが、強い意志を見せていることに驚いていた。
そして、顔を赤くした光の隣に立つ彼を見て、ランドリーの本気さを痛感する。
「……気を付けてな」
そう言って、少しだけ俯いて、二人の背中を見送った。
***
静かな夜道を、二人で歩く。
酔いが少し引いてきて、代わりに気恥ずかしさが胸に広がっていく。
「ごめんね……なんか、送らせちゃって」
「いえ。酔ってるのに一人で帰すほうが、僕は心配ですから」
人気のない歩道を並んで歩きながら、勇気をだして尋ねた。
「……どうしてランドリーさんが私を送ろうって思ったの?」
静かな間が落ちる。夜風が髪をそっと揺らし、遠くで車の音が消えていく。
ランドリーは視線を少し逸らし、でも口元にかすかな笑みを浮かべた。
「……なんとなくです。ただ、自分がそうしたほうが自然だと思っただけで」
私は、無意識に歩幅を彼に合わせた。
「ごめんなさい。迷惑でしたか?」
「ううん。嬉しかった。……ちょっとびっくりしたけど」
私がそう答えると、彼は足を止めて、私をまっすぐ見つめた。
「……光さんって、今、誰か……恋人とか、いますか?」
息をのむ。
「いないよ。配信で手一杯だし、そういうの、ずっと避けてたから」
そして、街灯の下で静かに言葉を続けた。
「……よかった。変な意味じゃないんですけど……僕も、いません。理由はいろいろあるけど……」
その表情は真剣で、どこか優しさに満ちていた。
「……また、会いたいです。ゲームじゃなくて、こうして」
「……うん」
夜風がそっと吹き抜け、足音だけが静かな夜道に響く。
「……実は、今日会ったとき、ちょっと驚いたんです」
「え?」
「光さんが……想像してたより、ずっときれいで」
その言葉に、息が止まりそうになる。
彼は少し視線をそらしながら、照れたように笑った。
「……あまりこういうの慣れてなくて。伝え方、下手ですけど」
「ありがとう。……ほんとに、嬉しい」
二人の間に流れる沈黙は、心地よい余韻をまとっていた。
もうすぐ駅が見えてくる。
駅がもう少し遠かったらいいのに——
そんなふうに、思っていた。
読んでくださってありがとうございます。
次回は、二人でカフェへ——。
そして、ランドリーの過去に触れるお話です。




