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経験値は   になる  作者: 杏原 千鶴


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11/12

元には戻せない

「ラルシ、サナラ」


僕たちを呼ぶ声が聞こえ、二人揃って後ろを振り返った。

背後にいたのは父さんだった。


「あっ、父さんおはよう」

僕が父さんにおはようと返しても

父さんは僕の方をみるだけ、父さんは机に置かれていた木製の水差しから、

水を汲み一気に飲み干した


「ん、おはよう」

父さんは僕たちに目線だけ向け、水差しを机に置いて立ち上がった


「あ、父さん!」

とサナラは嬉しそうに背後にいた父さんの背中に

勢いをつけて飛び乗ろうとした


が、父さんは何かを感じたのか僕たちの方向に振り向いてしまう


だから、サナラは勢いはそのままに


父さんの腹ではなく鳩尾に突撃してしまった、


ぶつかってきたことによる衝撃で


父さんは「うっ」と低く呻いて


そのまま父さんはよろめいた、その拍子に机に置かれていた水差しに手が当たった


机は大きく傾いて机に置かれていた木製の水差しが


宙を舞い床に落下していく 


父さんは慌てて手を伸ばす


だが間に合わない



パキッ



乾いた音を立てながら、水差しは床で砕けた


「……あ」


僕 サナラ 父さんの声が重なった

割れた水差しから、父さんと僕らの足元に水がゆっくりと広がっていく


「……」


父さんは怒った様子もなくただ淡々と割れて粉々になった水差しの欠片をしゃがんで拾い始める

僕とサナラも、割ってしまった水差しのかけらを、拾い始めようとしたら

その手首を父さんが掴んで止めた


「やめろ 危ねぇから下がってろ」

父さんは鋭い眼光で僕たちには水差しの残骸を触らせまいと僕たちを拒否した


「でもっ!」

サナラが声をあげて父さんに何かを言おうとしたが


それを遮るように

「いいから、」

と父さんの落胆する声と一緒に父さんは僕たちから背を向けた


僕ら二人は玄関の前で立ち尽くした


割れてしまった木製の水差しの欠片がどんどん父さんの手の中に増加していく

「はぁ」

父さんの残念がるような悲しそうなため息が僕らの耳にも聞こえてくる

父さんの手には大きいカケラの他にも細々としたかけらも増えていく


この状況でこの質問はしない方がいいのに僕はしてしまった


「父さん、その水差しって」


大事なものだったの?と聞く前に父さんがその言葉を遮った


「これは俺がソフィアと婚約する前に俺の母さんから婚約祝いでもらったもんだったんだよ」


ソフィアというのは僕たちの母の名前だ

父さんの母さん、僕たちの祖母は10年以上前に魔獣による災害で亡くなっている 

父さんはその時はもう母さんと一緒に住んでいたから実家にいなくて

父さんの母さんはその魔獣に喰われていたのか、まるでその家に誰も住んでいなかったように何も残っていなかったらしい


僕は青ざめた

横にいるサナラも自分が父さんに突撃したことで起こしてしまった出来事の重大さに青ざめていた


「ハァ。」

父さんの落胆するような声が玄関に響いた

________________________________



「ご、ごめんなさい!」

サナラと僕はやらかしてしまったことの重大さに気がつき

頭を下げて父さんに謝った


横にいるサナラをよく見てみると顔は青ざめていて両手は小刻みに手震えていた

父さんは僕とサナラを見ないまま割れた水差しの欠片を床を拭いて絞った布に全てのかけらを包んだ


「サナラ」

父さんの冷えた声がサナラの方に目線が向く

サナラの横に立っている僕は父さんの方に目線を向けることが怖くなり

目線を逸らした


だけど父さんの声は低く、僕たちの心にズンっと重くのしかかる


「お前が人に抱きつくことが好きなのは、父親として重々承知しているつもりだったが」


「だがな、サナラ」


父さんの声がまた一段と低くなっていく、

ふと父さんは僕を見た

「ラルシ、お前もだ、俺から目逸らすんじゃねぇ」

今度は僕の方に父さんの紺色の目が向いた

「と、父さん。」

サナラが声を出した

父さんはサナラの方に視線を向け

「なんだ。サナラ」とサナラと目線が合った

「ごめんなさい、それ大切なものだって、」

サナラの声が途切れる 知らなかったでは済まされないことを僕らはしてしまった

「サナラ そしてラルシ」

父さんは僕とサナラの目を見て続ける

サナラと僕は目を逸らしたかったが無理だった

父さんは手に持っていたかけらを僕たちの目線よりやや下らへんに下げて

僕たちに欠片を見せる


「二人ともよく覚えておけ」


「この水差しのように壊れたものは元の姿に、綺麗に戻すことは不可能だ」


その言葉が重くのしかかる

だが父さんは続ける



「だから、人が人を悲しませるようなことはするな、たとえ家族でも、所詮は他人だから、傷つけ合えば人は自分を見捨てるんだ」


聖人になれとは言わねぇ



せめて 人を思いやれる人になれ



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