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題辞

 

 キッシュを切り分ける、お前のことが嫌いだから少し小さめに。本当の所を知っているのは結局のところ一人もいないのだけれど、それに気づくはずもなかった。まだ一言も話していないから。兎も角、A4大の用紙の天辺に堂々と書かれたそれを読み上げよう。


『シングル・カットについて』


 ワーナー・レコードの役員が十二人そこに並んでいて、こちらに一様に銃を突き付けていれば良かった。にっちもいかず首を縦に振っていたに違いない。だがそこには誰もいない。いいだろう、二つほどの影だけがそこにはある。人の心よりは僅かに厚いペラ紙一枚によって、魂まで売り渡す契約だった。


「どうして後半を切り落とすのかって?」そして笑って続ける。

「シングルってのは、曲を切り落とすからだ」


 レジェンドたちが住む世界、そこを何と名付けよう?残念なことにここいらの土地には命名権がもう残っていない、皆買い占められたのだ。だから倣って呼ぼう、天命の土地。成功だけがへばり付いた残滓。ビバリーヒルズ。


「美しさとポップは両立しない」

「他人の所為にするなよ。両立できないのはお前の責任だ」

「だけど、羽のない鳥は飛べるかい?」

「助走をつければな」


 浜地、浜地、浜地。浜、浜、浜。あとは残り滓だろう。金の出ない土地でも紛いモノの金が採れるんだから、身の回りを着飾るのは難しくもない。だけど本当に重要なこと。本当に重要なことの内の一つ、その前提条件の内の一つ、そのための初等教育の内の一つ。


 初めてここにやって来た時にある違和感を覚えた。チェックインの時にも感じた。電話が掛かってきたときも、オフィスの中でもプールサイドの縁でも、歯にモノが詰まっていた。要するに、その間違いを誰も糺そうとはしなかったことが幸運だったのだ。気づいたら消えてしまう、霧の中の怪物。だけれどその霧中を彷徨う少年少女に差し出すライト、その電池は切れかかっている。


 もう間に合わないとしても、最後の一投が逆転にならなくても、とりあえず空襲警報みたいなサイレンがそこいらに響き渡るまで終わりそうもない。


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