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96話 シロカミ≠シラガ


 旧鳰家には趣を感じさせる蔵がある。

 家が潰され、人がいなくなってからも管理こそ誰も行っていないが建物は依然としてそこにあった。

 蔵もその1つである。白い壁に瓦屋根と言った風貌でいかにもな見た目をしている。それは重要文化財にしても良いほどだと思えるほどだが、そんなことはできない理由もまた、この蔵の中に隠されていた。


 蔵の中には重要な資料が多くあった。家の歴史、異能に関しての資料、様々なものがあるがそのすべては秘匿し管理しなければならなかった。

 とは言え、そんな重要な蔵を簡単に開けられるわけもなく、家がつぶれた後、様々な者が侵入を試みたが叶うことはなかった。

 蔵、及びその他の重要施設は封印が施されていたのだ。物理的方法、術的方法、時に家の血筋――つまり、かなめの血液を採取し利用したが失敗に終わった。

 それからは時間とともに人々の記憶から風化したった数年のうちに忘れ去られていた。所詮中身を知らぬ宝箱などそこまでの価値はないのだ。


 そして今、そんな蔵の前に一人の少年が来ていた。

















 数時間前。


「これは……」


 それを見つけたのは偶然だった。

 たまたま荷物の整理をしていた時に隙間から出てきたのだ。

 一枚の折りたたまれたメモ用紙。

 書かれているのは簡単な地図だ。そこそこ大きなスーパーに後は目印になりそうな郵便局、銀行なんかが書かれていてそして左端に『いえ』と書かれた建物の絵があった。簡単な道が書かれそこには赤い線で矢印が引かれて家からスーパーまでをつないでいる。


 これを見て懐かしいと思う反面、かなめの記憶にはこれに該当するものはなかった。

 確かにこの紙のことはおぼろげだが覚えている。しかし、これをもって買い物をしに行った記憶はない。

 

「……スーパーの名前は確か……エンカ、だったか」


 ふとスーパーの名前を思い出す。

 そしてある考えが頭をよぎる。

 これを使えば鳰家の所在が分かるのではないかということを。

 というのもかなめは引き取られてからというもの当時の記憶もあやふやで家の場所を覚えていなかったのだ。それに加えて、周りの大人たちも決して鳰家に関しての情報を与えようとしなかった。そのため、興味が湧いてしまったのだ。


「まぁ、最近勉強ばかりだったし、散歩と思えば悪くないか」


 それに、明確に行くなと言われたわけではないのだ。少しくらいならいいだろう。

 そんな考えのもとかなめは支度を済ませるのだった。

















 家に行くと言ってもすぐに出発するわけではない。

 スーパーの名前がわかってもそれなりの数を展開している店舗のようで、さいあく鳰家が県外にある場合も考えると、そう迂闊な真似もできなかった。

 とは言え、地図には周辺の情報が載っていたこともあってか割と簡単に見つけることができた。インターネットすげぇと思った次第である。


 そして、どうやら鳰家はそれなりに近くにあるらしい。幸い今日は平日でありながら授業は午前中で終わっている。今から行って周辺の散策しても夕飯までに十分帰ってこれるくらいだ。

 そうと決まれば早速とかなめは家を出発したのであった。


















 家を出発してから交通機関と歩き含めて四十分。高校生の移動範囲からすると思ったより近いなと思いながらスーパー『エンカ』の前まで来ていた。

 昼神家から近いところにもあるので別にそこまで目新しさや懐かしさは感じないが――というか当時五歳の子供の行動範囲などたかが知れているため特に街全体の雰囲気からも懐かしさは感じられない。

 だが、かなめは思わぬ所で懐かしさを感じるのだった。


「あれ?かなめじゃん!」


 聞き覚えのある声に顔を上げるとよく見る――というより午前中も見た顔があった。

 特徴的な白とも灰ともつかぬ色、アラキだ。


「そう言えばお前の家ここらへんか」


 当たり前と言えば当たり前なのだが高校になるとそれまでよりも広い地域から集まってくる。そのため割と遭遇するなんてことは珍しくないのだがまさかこいつとは。


「そうそう!ってそういえばって会いにけてくれたんじゃねぇの?」


「なんで、オレが学校でもないのにお前の顔を拝まなきゃならないんだ?」


「そいう言うなよ、隣のクラスの女子なんかわざわざ忙しい勉強の合間を縫って拝みに来るんだぜ」


「ただ暇な休み時間に見に来てるだけだろ」


 忙しい中みたいな風に言っているが実際、暇な女子たちが顔をのぞかせるくらいだ。

 と、そこで、アラキの後ろに少女が立っていることに気付く。白い髪の少女。アラキを見慣れてるため気にならないが珍しい色だ。


「で、そっちの子は?」


 アラキの髪色がどういったものか知らないがどうせ血縁者だろうと思いながらも聞いてみる。


「ああ、こいつは俺の妹の――」


「美紀です。えっと、かなめさんですよね、よろしくお願いします」


 美紀というようだ。中学生くらいだろうか。


「昼神かなめ、よろしく」


 少し不愛想な返しではあったが美紀は「はい!」と答えた。


「で、かなめは何してんだ?」


「ちょっと、散歩」


 正直に話そうとも思ったが人に話すようなことでもないと思いそういってはぐらかす。まぁ、実際魔石とか言っても信じないだろうし。


「ふーん、そうか」


「お前たちは?」


「ただの買い出し。ここにな」


 まぁ、スーパーに来てるんだからそりゃそうかと納得する。

 それにしても、妹がいたことは知らなかったが。


「案外仲いいんだな」


「まぁな」


 それから挨拶を交わして三人は別れた。

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