85話 コイツよく敵の前で話すよな
魔力だ。
膨大な魔力。
俺では逆立ちしても対処できないほどの実力がある事がわかる。
モンスターの魔力の多さは人間とは違い多ければ多いほど単純に強くなる。
イオはきっと気づいていたのだろう。本当はこのモンスターが強いと言う事を。だが、俺が逃げなかったせいで怪我を負った。
それに強くなったつもりでいたがそうでもなかったようだ。
黒帯はモンスターでありながら魔力を抑えている個体がいる事に気づいていた。
魔力が少ない割に強いモンスターと遭遇しなければ気付いていなかったかもしれない。本来モンスターは魔力のコントロールをし、抑えるなんて事は出来ない。その為気づくのが遅れてしまった。
いや、そもそも、幹部達の【鳥之目】のような馬鹿げた能力でもなければ広範囲を見渡し見つけ出すなどそう簡単にできるはずもない。
未だ予測の域を出ないが、おそらく先程のリーダー格の七体を軽く凌ぐモンスターたちが二桁以上はいる。
本来なら我が弟子である津田伊織を一刻でも速く此処から避難させるべきだがそうも言ってられそうにないのでここは信じる事にしようと思った。
「ああ、やっぱりか……」
その頃黒帯と同様、蒼介達も気づいていた。
「モンスターは魔力を抑えられないって聞いたけど」
紗奈はそう言う。
「確かに結構なランクのモンスターでも垂れ流しだからね。特にダンジョンから出ないモンスターは魔力を抑える必要なんてないから」
ダンジョン外で発生したとしたら話は別だが高濃度の魔素の満ちたダンジョン内で活動しているモンスター達は魔力を垂れ流していても何ら問題はない。例え、ダンジョン外で発生しても普通は自然消滅するのでそんな個体は生まれるはずもなかった。
――ドサ、ドサッ
何かが落ちた事に気づいた3人は自分の体を見渡した。
どこも、欠損していない。腕も脚も首だってついている。
では何が落ちたのか……
腕だった。
いや、人間の腕ではない。モンスターの腕だ。先程容易くグヤを殺したモンスターの腕が落ちていた。
「あ、大丈夫?」
そう気の抜けた声に前を向くといつの間にか二つの人影あった。
「……シトイさんとトンナさん」
奇しくも立っていたのは先程噂をしていた二人だった。
「――――」
イエティは何か言っている。
たが、俺は人間だ。わからない。
わかることは人間かのように魔力を抑えていたこと。しかも完全に消すわけではなくそれなりの強さに偽装していた。
コイツには勝てない。
逃げるしかない、逃げるしかないのだが、その方法が見つからない。
身体強化と魔法の重ね掛けを行い全力疾走したとしてもすぐに追い付かれる。
しかも、こっちには怪我を負ったイオがいる。
腕の中でグッタリとしている彼女をみる。傷は先程までに倒してきたモンスターの影響で癒えてはきているがそれでもすぐに回復はしそうもない。
もう既に流石の俺もコイツが元凶だとは思っていない。いや、このモンスターが強すぎて制御に失敗したとかかも知れないが俺を守るために怪我をしたのは事実だ。だとすれば俺を身を挺して庇ったコイツを置いて逃げるわけにもいかない。と言うかしたとしても逃げることは叶わないのだが。
だが、どうする?
結局そこに戻ってくる。
闘うのは論外として逃げるにしてもそう簡単にも行かない。だが、転移なら?いや、無理だ、俺はその手のアイテムは持ってない。
何か、何かないのか?
魔法は所詮火を出して殴るだけで効果はない。
なら、スキルは……そういやなんか『喰魔』とか言うのがあったなあれなら……
たが、問題は俺がスキルを発動できるかと言うこと。
実際、喰魔の力はよくわからないがそれ以外のスキルは全てバッシブだと思われる。その為、使用の仕方かわからない。
「……なぁ、こんな時になんだがスキルの発動の仕方、教えてくれないか?」
こんな時だが、今聴くことができるのはイオだけだ。いきなりのことで少し驚いているようだが答えてくれる。
「……い、いきなりだね……でもそんな、のは、使おうと思えば……」
何を当たり前のことをと言う表情をするが、そこで、ふと、言葉が途切れる。
それに不思議に思う前に再びイオが口を開く。
「……いや、スキルを……発動する、に……はその対価を捧げなければ……ならない。『身体強化』だったら第一属性魔力を、『魔力感知』だったら周囲の魔素に干渉できるだけの魔力を……そ、して、それらとは一線を画す、例えば、喰魔のスキルの場合はそれ以上のモノを対価として捧げる例えば他のスキル……とか、ね」
スキルを捧げる?
それよりも、何故喰魔のスキルを?
いや、ならさっき言ってたスキル自体がなくなって使えないって言うのは……
たが、今はそんな事よりも。
やるしかない。
やらなければどうせ死ぬ。
スキルの喰わせ方など知らないが許可でもしてやれば喰うのだろうか。
まぁ、いい、とにかく……
「――喰え、喰魔」
その瞬間、俺の一部、俺を構成する要素のほんの一部が跡形もなく消えてしまった気がした。




