84話 任せとけって!
「警戒しろ!モンスターがいる可の――」
「んだよ?」
そのいきなり出された大きな声に不機嫌そうにヤチとギオは振り向く。対してイイツは嫌な顔ひとつしない。それどころか既に構えている。何とも性格が現れた一面だった。
――ドサッ
何かが地面に落ちる。
とても無機物には出せないような有機物特有の鈍く重い音を鳴らす。
そして、その音と共に3人は理解する。目の前の人間はその人生に幕をあっけなく落としたのだと。
そして、その命を刈り取ったモノの姿を見る。
二足歩行をし白く長い体毛に覆われた大男。
だが、決して人間などとは呼べない。
その体はあまりに細く不気味であった。折れてしまいそうなほど細い二本の足で立ち同様に細く長い腕をぶら下げている。
「「てぇめ!」」
意図せず二人の声が重なる。だが、二人とも思い止まるほどには冷静であった。先程一瞬にしてやられたグヤは決して弱くなかった。そしてそれを他の誰よりも認めていた二人は同じ轍を踏まぬよう、警戒している。彼が最後に放った言葉に従うかのように。
――ドサ、ドサッ
だが、次の瞬間二つの何かが地面に落ちる音がした。
「おいおい、マジかよ……」
伊織は思わず目の前の光景に声を出す。
目の前には明らかに強そうなモンスター。
白く長い体毛にゴリラのように筋肉が隆起している手足は丸太のように太く、全長は3メートルにまで及ぶ。
どう考えてもリーダー格だ。
「津田くん、これはやばいね」
イオがそう返すが、実際伊織はイオが思い描いていたものとは違うことを思っていた。
まずい事になったと。
イオがことの発端であると考えればコイツを倒されるのは都合が悪い筈だ。この目の前のモンスター単体なら魔力量をから考えれば勝てなくもなさそうだが、倒されまいと伊織に攻撃を仕掛けてきた場合、このモンスターに加えて沖田イオも相手にするとなると勝機は薄い。
ニ対一の構図になるのは不味いだろうと考えていた。
「何かおかしくない?」
「何が?」
蒼介の呟きに若干の固さのある声で紗奈が聞き返す。
「いや、少し気になっただけなんだけど、さっき全てのリーダー格のモンスターは倒されたって言ってたよね」
「それは確か。私も聞いてた」
「だよね、でもさ、何かおかしくない?」
そう、おかしいのだ。そして、紗奈も気づいていた。
「モンスターの統制が崩れていない事?」
「そう、本来ならば全て倒したんだから、モンスター達は直ぐに思い思いに行動する筈なんだけど」
それがないのだと蒼介は言う。
「でも、他のリーダー格の次に強いモンスターが次のリーダーになったりするんじゃない?」
「でも、見た感じそんな強いモンスターは居ないんだよ」
実際観測されているモンスター達はそこまでの力を持つに至ってなかった。リーダー格を10だとすると5くらいまでのモンスターしか居なかった。9も8も7も6もなく5までしか居なかった。
だから蒼介は疑問に思った。
黒帯はミノタウロスの周りにその下についていたはずの下級のモンスター達が見当たらなかった理由がようやくわかった。
と言っても自身で解き明かしたと言うより答えの方がたまたま自分から会いに来たと言う感じなのだが。
【鳩】は既にダンジョン内に入っていた。
【鳰】に電話でここに向かってくれと言われ来たわけだが、【鳰】の部下を二人もつけられてしまった。これでは本来の目的が果たせない。
【鳩】だって、ただの親切だけでこんなことをしているわけではないのだ。
仕方なく道中大物二体を擦り付けてきたので別行動が出来ているわけだが、結局自分もデカい反応を持つモンスターと戦うとは思ってなかった。
とは言え未だ追い付かれてはおらず単独行動ができている。
これなら目的の沖田イオにも一人で会うことができるだろう。資料で一眼見た時から仲良くなりたいと思っていたのだ。
そんな興奮で【鳩】は自分の足が速くなるのを感じながら捜索を続行した。
白く長い体毛に丸太のように太い手足、二足歩行で立つその姿はイエティさながらだった。
「雪男ってのは雪山にしか居ないと思っていたんだが」
そんな事を言ってみるが関係ないとばかりにこちらに攻撃を仕掛けてくる。
何とか刀で防ぐが力が強く押し切られそうになる。
だが、その前に空いた胴にイオが蹴りを入れる。衝撃で仰け反ったイエティが一歩引く。
「津田くん!今のうちに逃げよ!」
イオは俺の手を引くが俺を遠ざけてコイツを倒させないつもりなのだろう。
だが、相手が何とか隠そうとしているのをみるに俺一人をこのモンスターと攻撃して倒すよりバレないように協力しているふりをするようだ。
イオが仲間アピールを続ける限り俺がコイツを倒しても多分ニ対一の構図になることはなさそうだ。
なら、ここでコイツを倒す。
「心配してもらって申し訳ないけど、多分コイツ倒せるわ」
とりあえず敵対せずに行動するためそう言って戦闘体制に入る。
「まぁ、見てろって――闇炎ッ!」
黒炎が辺りを照らし刀を纏われる。
そして、刀を構え――
次の瞬間、衝撃と共に吹っ飛ばされていた。
目の前にはイオの体がある。彼女が体当たりするようにして――
いや、違う。
そこでやっと、イエティが腕を突き出している事に気づいた。
体当たりをされたのではなくイエティの攻撃から守ってくれたのか?
意味がわからない。
あいつはイオが操っていて――いや、違う、イオは俺を庇って重傷を負っている。いや、これは敢えて攻撃を受けて――そんなレベルの怪我じゃない。
「……津田、くん、にげ……て」
次の瞬間、イエティから膨大な魔力を感じた。




