83話 視界がクルクル
魔力を可視化させるまでに青く発光する黒帯のクロウホノマと魔素を物質としてその場に固定させた、正に魔力の塊とも言えるミノタウロスの黒斧がぶつかる。
ものすごい音が鳴り響き、その轟音をも掻き消すほどの魔力が吹き荒れる。
黒帯は動じる事なく構え直す。それはミノタウロスも同様であった。
次の瞬間二つの攻撃が再びぶつかるが先ほどまでとは違う結果になる。
ミノタウロスの黒斧はクロウホノマと接触した瞬間、接触部が吹き飛んだ。
「ムォ!?」
驚きのあまりミノタウロスが声を発す。
まるでいつかの喰魔同士の魔力相殺のような技に見える。
だが、実際のところそんな高尚なものではなかった。
この攻撃は反魔力の応用であった。
反魔力――つまり第二属性魔力は一般的に『身体強化』のスキルなどを使用した際に空気中の魔素に含まれる第一属性魔力を使用した際に排出されるものであるとされる。
そのため、空気中の魔素がなくなった場合、一見体内で循環させるだけで魔素の消費がない『身体強化』のスキルも呼吸で言う酸素の役割を果たす第一属性魔力がなくなった場合使用が不可になると言うのが通説だ。
そんな第二属性魔力だが、これには魔素同士の結合を妨げる性質がある。
それを使用したのだ。
攻撃の瞬間クロウホノマに反魔力を通し、相手の武器に送り込むだけ。
それだけで、簡単に相手の武器は壊れる。
それだけと言えど実際【Nest】内では上位のものにしか扱えないこの技だが、それでも黒帯には簡単な事だった。
そしてこの攻撃により相手に隙が生まれる。このチャンスを逃すような黒帯ではなくミノタウロスに攻撃を打ち込む。
「ムオォオオオ!!」
ミノタウロスもすぐに我にかえり魔素を集め斧を再現する。
だが、次の瞬間には黒帯によって武器は壊れる。そこにまたもや攻撃が迫る。
そこからは同じことの繰り返しだった。
ミノタウロスが同じように魔素を集め、黒帯が攻撃を入れる。それだけ。
そして、黒帯が勝った。
黒帯はクロウホノマを担ぎながら考えていた。先程の戦いでミノタウロスが斧に固執した理由を。
はっきり言って異常であった。最期まで魔素を使い斧を生成しつつけた。最期の方には棒とすら呼べない塊で攻撃しようとしてきた。
そもそも、一番初めに武器を破壊された時点で素手でも良いから攻撃するのが普通であろう。ただでさえ真っ向からクロウホノマと素手で打ち合えるのに斧にこだわる理由がわからなかった。
単に、モンスターだから知能が低かったのか、それとも何か理由があったからなのか、それは定かではないが少なくとも他のモンスターを率いている立場ならそれなりの知能はありそうなものだが。
と、そこで黒帯はある事実に気づいた。
もともと、特に飛び抜けて魔力及び生体反応が高い七体が現場の指揮をとっていたはずだ。それなのに黒帯はミノタウロスの周りにモンスターの反応を確認していないことを。
「終わっちゃいましたね」
イイツはそう呟いた。この時、既に指示を出していたと思われる七体、全てのモンスターが倒された。
「イイツちゃん、仕方ないよ」
そう言うのはグヤだ。
「そうそう、あの黒帯だって一体しかでかいの倒してないらしいぜ。しかも俺たちも含めて23人もここにいるらしいし」
「まぁ、俺たちは誰ともすれ違ってないけどな。それに、最後の三体は市問さん頓名さんそれに幹部の【鳩】さんだしな」
ギオとヤチが続けて言う。この情報はオペレーターを通して先程伝えられたことだ。
「あれ、シトイさんとトンナさんは【鳰】さんの方の部下じゃなかったですか?」
イイツが疑問に思い口に出す。
たしか、シトイとトンナは【鳰】の部下であり大規模術式の際には東と南東を請け負っていたはずだ。
「確かに結界の人だもんな」
「そうそう、結界の人な」
「結界の人って……いやまぁ、わかるけどさ」
イイツの言葉に同調する二人を見てグヤは呆れた表情を見せる。
だが、【鳩】達が作戦に参加するとは聞いてない。ふと疑問に思い腰に付けた端末を取ろうと腰に手を伸ばすが違和感に気づく。
――おかしい、端末を持つ感覚がない……いや、それ以前に腕先の感覚がない。
何かおかしいと思い腕を見える位置に持ってくる。
「……は?」
腕がない。
手首から上がない。
切断されたような切り口から血が噴き出している。
いつ?
いや、それよりも、今は警戒を。
急いで三人に呼びかける。
「警戒しろ!モンスターがいる可の――」
視界が一転した。




