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天より落ちし光の柱は魔石を運ぶ  作者: えとう えと
第六章 鳥取ダンジョン編
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78話 主観と客観と全観


 月宮紗奈は日高蒼介が嫌いだった。いや、正確には本人の性格なんかではなく偶々の環境によって生まれた感情ではあるのだが。


 紗奈が蒼介を嫌いな理由は主に津田伊織関係だ。


 今更だが、津田伊織には友達が少ない。今でこそ、話せる人数が増えてきてはいるがそれ以前までは男友達は日高蒼介だけといっても過言ではなかった。


 そして紗奈と会話をする際基本的に夕食の時間になる。その時には妹である詩もその場にいる。すると常日頃接している3人つまり月宮紗奈、津田詩、日高蒼介の内、津田伊織の食卓での日常会話に登場するのはその場にいない日高蒼介が主になる。


 そして、伊織の口から、やれ、蒼介は凄いだのなんだの聞かされることになる。


 口を開けば蒼介、蒼介としか言わない。(と言うよりそれ以外の話題がない)


 そして、その結果月宮紗奈は嫉妬した。


 月宮紗奈が嫉妬することは少ない。そもそも、伊織の壊滅的な社交性もあり人が寄ってこないのはあるがそれ以前に自分に圧倒的なスペックを誇っているからだ。


 紗奈は伊織を誰よりも幸せにして守る自信がある。それ故に手を焼きすぎて自分では何もできないダメ人間に日々近づいている伊織だが紗奈としてはそれはそれでと思っていたりする。


 だが、どんな女にも惹かれない(そもそも、関わりがない)彼が蒼介の話をする時だけ楽しそうに笑う。それが許せなかった。別に蒼介に危害を与えるつもりもない。そんな事をすれば伊織が悲しむのはわかっているし、仮に伊織のことを考えなくともそんな事をする気はない。


 する気はないのだが、伊織といる時には抑えられる口調に棘が出てしまう。それだけ伊織のことを好いているとも言えなくもないのだが、あまり良い傾向ではなかった。本人はそれを理解し直そうとは試みているがそれが改善される機会はなかった。


 当の蒼介は紗奈の口調の変化は伊織がいないことに起因していると思ったようだが実のところその原因は蒼介であった。その証拠に紗奈は普段から伊織のいない場所でも伊織にするような口調ほど砕けてはないがそれでも相手を不快にするような言動はしていなかった。


 そういう意味では蒼介は紗奈にとって伊織の特別なのかも知れなかった。

















「どうしたんですか?」


 目の前の少女は心配したようにこちらを見遣る。黒髪に特徴的な紺のメッシュを揺らして顔を傾ける。いや、そりゃいきなり話していた相手がフリーズすれば不思議には思うだろうが今の俺にはそんな余裕はなかった。


 だって、今、目の前にいるのは任務開始前に資料で確認した沖田イオその人だったのだから。


 なんでこんな所にいる?さっき俺を転移させたのとゴートマンにアイテムを使ったのは隠れていたこいつって訳ではなさそうだが。いや、それよりも何でこいつがモンスターに囲まれてたんだ?いや、あえて無害そうにアピールしてんのか?


「――おーい、聞いてる?」


「と、すまん、何だって?」


 取り敢えずここは穏便に行こう。こちらが確保しようとしてると知られれば逃げられるかもしれない。


「何だってって、大丈夫かって聞いたんだよ」


「そうか、大丈夫」


 咄嗟に答えた事で敬語ではなくなっているが相手は気にした様子はないので良いだろう。資料では確か一つくらい上だった気がしたけど。


「それよりも、君の方は怪我はない?」


「あー、私は大丈夫、迷惑かけちゃったね」


「いや、気にしなくて良い。それよりも何であんなに囲まれてたんだ?あれじゃ、まるで――」


 わざとモンスターを誘き寄せていたかのような。


「まるで、モンスターを誘き寄せていたかのようなって?」


「――ッ!?」


 気づかれないように刀に手をかける。


「そう、その通り!よくわかったね」


「え?ああ」


「実はここだけの話私のスキルに『魔物誘導』っていうのがあるんだけどね」


 そう言って説明をし出す。何考えてんだ?


「それでそのスキルは普通にモンスターを誘き寄せる時に使うような魔力によるものじゃなくて精神干渉して文字通り操るスキルなんだ」


 「凄いでしょ」と笑う彼女の桃色の瞳が印象的だった。


「で、さっきのはミスって誘き寄せすぎちゃったって訳」


 どうやらレベリングの最中だったらしい。本当かどうかは怪しいけどな。


「じゃあ、さっきはありがと、私はこれで」


 そう言って自然に別れようとする彼女を引き留める。このまま逃げられるのはまずい。


「なぁ、どうせなら一緒に行動しようぜ」


 今別れるよりはマシだと思いそう言った。

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