73話 凄い人は極端に凄い
雷鳴。
一条の光が雲を突き破り地面に落ちる。
「……雷か?」
その状況に疑問が湧く。雲があると言っても不穏そうな雰囲気を漂わせる黒色の雲ではない。色は白く、そんな気配は見えない。昼下がりに野原で寝転がって見れば全くの負の感情を生むどころかそのふわふわした見た目に呑気にあれが綿飴だったらなとそんな馬鹿げたことを考えてしまいそうだ。
故にこれは――
「魔法……」
だが、あんな威力の魔法は見たことがない。あれは既に自然災害をも凌駕しうる力を持っている。
『七つのうち一体の魔力、及び生体反応がロストしました』
耳元からそんな情報が通り抜けるがそんな事言われなくともわかっている。魔力を感じることが出来るものであれば今の一撃にどれほどの魔力が乗っていたか想像に難くない。
だが威力を見るに集団で発動させる魔法とかだろうか?それにしては以前発動まではされないもののこの目で見た大規模術式の想定される威力と比べてしまえばそこそこではあるが。
まさか1人で発動したとは思えないし、使えたとしてもこんなもの使ったら多分暫く動けなくなりそうだ。
詩はモンスターの消滅を確認するとスマホを開きマップを出す。次の目的地を決めるためだ。
『詩さん、大丈夫ですか?』
相当な疲労が出てしまうだろうと通信をしている女性は問いかける。だが、詩はさもあらんという表情で大丈夫だと返す。
「今、カフェの場所見てるから、少し待って」
そして詩はそう続ける。目的地とはカフェであった。詩は先程歩いていた時に見つけたが回りきれなかった店やカフェをチェックしていた。そんな詩の状況を確認してオペレーターは少し驚いてしまう。
というのも【Nest】には津田詩がここまでの魔法を放ったときに疲労や魔力消費がどうなるのかを計測しておらず情報かなかった。そもそも、これだけの術を出せる場所は【Nest】施設内にはない。単純に施設が耐えられるかということもあるがそれ以上にそれだけの術が使えるのならば計測の必要もなくそのまま一級行きなのだ。
「あ、ここにしよ」
ようやくお目当ての場所が見つかったことで詩は歩き出した。
沖田イオはあいも変わらず黒いパーカーに黒いショートパンツと言う出立であった。実際のところ本人もめんどくさくなったのだ。それはモンスターを倒すとどうしても付いてしまう汚れやそれ以前にダンジョンに入れば進むだけでそれなりに汚れるせいであった。結局のところ黒が一番目立たないのだ。
それに黒い服は汚れだけでなく着ている本人も目立たなくすることが出来る。ただし夜だけ。
「昼間に目立たない色って何かなあ?」
そんなことを思う。黒っていうのは昼になると意外と目立つ。というより、そもそも、全身黒の人間など高確率でインキャか不審者だそんな服で目立たないわけがない。
目立たないと言えば迷彩だが生憎それを着たいとは思わなかった。フッションとしてなら別だが今の場合自衛隊のようになるだけである。あれはあの人たちがやるからかっこいいのだ。
そんなこんなで考えているうちにモンスターが集まってくる。否、沖田イオはモンスターをスキルを使い操り集めていた。
『あと50メートルで接敵します』
既にもうシルエットは見えている。それは仁王立ちをしていた。灰色の毛に覆われた頭からカールしたツノが生えている。それは正しく羊であった。
「牛の次は羊か?」
だが似たような風貌をしてはいるが牛など足元にも及ばないであろう事は対峙すればすぐにわかる。やはりこれがリーダー格の存在。
「……種族はゴートマン」
蒼介が鑑定結果を教えてくれる。
そのまんまだな、また人間とかふざけた種族なのでは無いか少し疑ったがしっかりとモンスターだった様だ。ゴートマンが息を漏らすと若干空いた口から何か蒸気の様なものが出る。正直キモい。
「僕が拘束するから伊織と紗奈さんは攻撃して!」
そう言うとゴートマンの周りを回る様にして注意を引きつつ手を向ける。
「《鎖》」
蒼介が口ずさんだ瞬間、鎖がゴートマンを拘束する。そして、鎖を見て驚愕する。そしてその時俺もまた驚いていた。以前見た時とは明らかに違う。俺が見たことがあるのは精々日常生活で登場する一般的な鎖の大きさまでだ、だが今ゴートマンを拘束している鎖は碇でも先端に繋ぐのかと聞きたくなるほどの強度と大きさをしていた。
ゴートマンが振り解こうとすると鎖の冷気で氷に張り付いた皮膚が至る所から剥が傷つく。
「紗奈いくぞ!」
すかさず俺は紗奈に声をかけ同時に攻撃に移る。そして2人の攻撃がゴートマンに命中した。




