6話 急がば潜れ
大きな長机が真ん中に陣取り11の席がそれを囲むように置かれている。
所謂会議室であった。
そのうち3つの席は空席だが今日来るはずの人間は既に揃っている。
「ねえ、【鶯】、情報は順調に、ばら撒けてんのぉ?なんか中学生にも聞いた渡したなんて聞いた時なんかびっくりしたよぉ」
胸元が大きくはだけだ服を着てそれに見合うほどのものを胸に付けた女性【鳩】は【鶯】の活動が順調か問いかける。
「ああ、あの子ですか、俺もビックリしましたよ、親の金でも何でもなく、自分で稼いだ金で情報量を払ってきた時は」
バイトすら許可されていないたかが中学生が稼げる額では無い。
「それと結構優秀ですよ、魔法とかが出てくるアニメやゲームなんか見て理解があったわけじゃ無いのに、初めこそ魔法の習得に苦戦してたようですが、まぁ、と言ってもその日のうちに出来たらしいですけどね、そればかりか次の日には魔力の流れから近場のダンジョンまで見つけて一層から二層の階段を見つけたらしいです、しかも学校に登校する前のわずかな時間にですよ」
「意外と豪快なんだねぇ、なんか前に耳にした時はもっとなんて言うか大人びていると言うかぁそんな感じだったのに」
【鶯】は聞かなくても知ってるじゃねぇかと内心思うが黙っておく。
この情報は直轄の部下くらいにしか話してないので先ず噂なんて形では聞こえてこない。
「私も会いたいなぁ」
こんなことを言い出した【鳩】にため息をつく。
「俺に言っても無駄ですよ、俺頼まれごとしちゃったんで後は【鳰】さんに任せんたんすよ」
【鳩】はグイッと首を【鳰】に向ける。
「ん、なんだ?」
「何だじゃ無いよぉ、その中学生に会いたいって言ってんのぉ、イケメンとも聞いたし」
【鶯】は容姿まで知ってるのかと思ったが【鳰】に託し考えるのをやめる。
「知らねえよ」
【鳰】は女性物のスーツを着て髪を後ろで結びながらぶっきらぼうに答える。
「……徐・坊や」
【鳩】がぼそっと言う。
「ブッぶくく」
「え、聞いてた通りそんなんで笑うんだぁ」
ツボに入ったようで暫く復唱しながら咳き込んでいる【鳰】を見ながらそんなに面白いものかと首を傾げる。
因みにだが日高蒼介が名乗っている名前だ。
「ぶくくっ、そ、それよりお前、会議始めろよ」
「え?あーだから皆んなスマホ見てたんだぁ、誰か始めろよぉとか思ってたよぉ」
そう言えば進行役を任されていたなぁなんて思いながら口を開く。
「じゃあ、会議始めまーす、えー議題は"23日ごろに起こると思われる大規模魔力災害"について」
ダンジョンと言えば冒険が醍醐味だが、ダンジョンの前に毎日通ってモンスターを外に誘き寄せ、ちまちま、倒してる奴がいるらしい。
蒼介の提案から数日、土曜日である。
当たり前だがダンジョンであるため先ず慣れないのに放課後だけでクリアするなんてのは、不可能だろう。
そもそも、帰りのことも考えると、使える時間はダンジョンを潜る時間の半分程度になる。
ということで、潜るのならば時間が多く取れる休日というわけだ。
俺も蒼介も部活がないので、丸一日使える。
「じゃあ、早速入ろっか」
そう言って、蒼介はリュックを背負って洞穴に入っていく。
ちなみに、リュックの中身は、食料と灯り、救急箱くらいしか入ってない。
武器は先日狩ったゴブリンが落とした石斧2本と小太刀だ。
小太刀と言っても日本刀のような立派なものでは無く、切れ味もいいとは言えない、剣より少しいいと言うくらいだ。
モンスターには普通の武器は効かないのでモンスターが落としたものを使うか、魔法を使うかくらいしかない。
「来たよ」
暫く進むとゴブリンを発見する。
ダンジョン内は通路になっており、大人でも二人程度なら余裕で並んで歩けるくらいには余裕がある。
「〈鎖〉!」
ゴブリンの足元から氷の鎖がのび、拘束する。
ゴブリンと言えど、動き回られたら厄介になる。
「ハッ!」
すかさず俺が近づき小太刀で一閃。
首を掻き切り、ゴブリンを倒す。
初めてトドメを刺した時、その感触が手を離れず、なかなか慣れる事は無かったがもう慣れた。
外に誘き出して倒したのは正解だったかもしれない。
そうして、ゴブリンを倒しながら進み、登り階段を見つける。
このダンジョンの入口は地上にあるが登ったら地上に出るなんて事はない。
ダンジョン内は別の空間になっているらしく、切り離されているらしい。
「僕が来たのはここまで、2人できたのもあるけど、経験値を得たことによってずいぶん早く進めたよでも、此処からは僕も入った事ない、気を引き締めていこう」
「一人で入ったのかよ」
意外とそう言うところがある、なんて思いながら階段を登る。
ちなみに、経験値が入った事によって、俺たちの身体能力は結構上がってるので、長時間の移動も苦ではない。
で、二層のモンスターは……
「ゴブリン……いや、ホブか?」
外見的特徴、緑色の皮膚や尖った耳はさっきまで戦ってきたゴブリン達と変わらないが大きく違うところが一つ、身長だ。
子供のようだった一層のゴブリンと比べその身長は平均的な成人男性より少し低いぐらいにまでなる。
それに加えて、纏っている空気が、一層のものとはまるで違う。
圧倒的な力を有しているのがわかる。
だが、それは、ゴブリンに限った話。
俺たちの敵ではない。
足を踏み込み、ボブゴブリンに迫る。
「〈鎖〉!」
鎖が拘束したのを確認すると。
小太刀を振るう。
たが、さっきとは違い、魔法を纏わせる。
炎を纏った刃によって、焼き切られる。
ボブゴブリンは声を出す暇もなく絶命する。
ちなみに、毎日魔力のコントロールをしたお陰で、今では武器に炎を纏わせるくらいなら瞬時にできるようになった。
何故ここまで熱心に練習したかと言われれば、俺が登録できるのは四つまでだからと言っておこう。
十二体倒したあたりで階段を発見する。
迷路のようではなく一本道なのはかなり有難い。
それを差し引いても、ここまで来る頃には昼は過ぎていると、思っていたのでかなり驚いている。
「結構早くついたからまだ昼前だけど、次いつ食べられるか分からないから、今のうちに食べておこう」
「そうだな」
そう言ってリュクから、サンドイッチを出す。
来る途中で買ってきた。
食べている時は襲われないとも限らないので一人が食べている間もう一人は見張り役をする、と言っても軽食のため、食べるのに5分もかからないが。
二人とも食べ終わると、少し休憩をとり、リュックを背負いなおし準備を整える。
休憩を取ったのは、二人とも肉体的な疲れはないが念の為だ。
三層に入り異変に気付く。
と言うか、気づかない方がおかしい。
モンスターがいないのだ。
一層と二層の大きさがほぼ同じくらいだったことを考えると、もう半分ちょっと歩いているのだが気配がない。
罠もないし、どうしたのだろうか?
「伊織、あれ」
少し歩いたところで蒼介が指を刺す。
何だと思って見てみると、扉、そしてその前にはボブゴブリンが二体門番のように立っている。
「もしかして、ボス部屋か?」
ダンジョンには色々な型式があるらしいが中にはゲームのようにボスの部屋があるものもあると、蒼介が言っていた。
「先ずは倒そう」
「おう」
蒼介の声に返事をする。
既に相手はこちらに気付いているようで、武器を構えている。
俺は、刀を構える。
一層のゴブリンが、小太刀持っていたようにボブゴブリンも刀を持っていた。
ただ、ゴブリンの時もそうだったが、奴らの持ち物は基本的に臭い。
刀、小太刀同様に、持ち手が布で巻いて有るのだが、それが本当に臭い。
それを取って新しい布を巻いて小太刀は使っていたのだが、二層の刀も同様に、布を剥がして持ってきた包帯で巻いてある。
ちなみに、炎魔法は魔力を燃やしてるため、燃え移る事はない。
正確には燃やそうと思えば燃やせるようだが、あえて燃やさない限りは大丈夫だ。
「〈鎖〉ッ!〈槍〉ッ」
蒼介が鎖で片方を拘束しもう片方を氷の槍で牽制する。
拘束された方を倒し、もう片方を倒そうとしたが。
「強すぎだろ」
牽制のつもりで放った槍が貫通していた。
「まあ、いいや、扉開けるぞ」
俺は扉を開けて中を覗く。
そこは部屋のような空間になっていて、手前には侍るように武器を持ったボブゴブリンが二体、後ろには玉座があり王冠をつけた大柄の肥満体型のゴブリンが腰掛けていた。
「キングってところか?」
俺は扉を潜り中に入る。
とその時真横から迫る剣をすんでのところで、刀でいなす。
金属同士のぶつかる音がして後ろに転がる。
「もう一体いたのか」
そこに居たのはボブゴブリン、扉から入った俺の死角から襲ってきたのだ。
魔力があって良かったな。
でなければ、気づかないで切られていただろう。
「伊織大丈夫?」
俺の後ろから入ってきた蒼介が声をかけて来る。
「ああ、まあな」
返事を返し、ボブゴブリンに一気に近づき首を落とす。
もうこれくらいなら蒼介の補助なしでもできる。
直ぐに、三体のゴブリンを見据える、もう、隠れている奴はいないようだ。
「伊織!、先ずは手前の二体からだ」
「了解」
再び足を踏み込みボブゴブリンへと迫る。
武器を振り上げようとするが、もう遅い。
既に鎖で拘束済みだ。
一気に二体の首を刈る。
二つの死体が床に転がる。
そこでやっと動き出す。
ゴブリンの王が。