68話 肉持ってるやつと青いやつは強い
牛狩りを延々と繰り返した翌日、平日ということもあり学校に来ていた。と言っても昨日も平日だったが。牛狩りをしていたのは放課後の話だ。そのせいで今日は若干寝不足である。
「ふあぁ〜」
「眠そうだね、伊織」
寝不足のせいで口を大きく開け、欠伸をする俺に向かって蒼介が話しかけてくる。
「まぁな、昨日は師匠に牛の近くまで転移させられて遅くまで放置されたからな」
結局黒帯が帰ってきたのは暗くなってきてからだった。その時黒帯が引き連れてきた人たちに「お疲れ」とか「後は任せろとか」言われたからその人たちが本来仕事をするのだろうが二桁はいたぞ。本当なら文句を言ってやりたいところだが疲れていたので出来なかった。
「そうなんだ、大変だったね」
「もうあと3年は行きたくない」
と言うかあの牛はもうごめんだ。
「でも、明日は僕も含めて皆んなで鳥取だよ」
「え?……は?」
どう言うことだ?蒼介も行くとなると黒帯は無関係なのだろうが。
「あれ、端末の方に連絡行ったと思うんだけど」
蒼介に言われネストに支給された端末を開く。画面には何やら通知が来ているようで表示される。
「でも、何すんだよ?ティラノサウルスレースか?」
「てぃら……え?まぁ、いいや。一応詳細は端末に届いたものを見れば分かると思うけどわからないことがあったら聞いてね」
HRが始まる時間が近いとあって話を切り上げ蒼介が席に戻ると担任がちょうどのタイミングで入ってくる。そんな調子で今日も学校が始まった。
ネストの転移ゲートの技術は素晴らしくあらゆる交通機関をも凌駕する。現在日本にはゲートが数多く設置され国内であれば設置されている場所何処へでもゲートを通るだけで短時間で移動することが可能だ。
そんな訳で今回もゲートを使い移動していた。とは言えゲート自体はネストの施設内にありさらに権限がないと使用できない為一般人からしてみれば存在こそ知っていても使うことなど出来ないものという認識だろう。
例え人類がどんなに高性能なロケットを開発して、どれだけニュースメディアで世の中に知らしめようとも実際にその目で見ることが出来るのは、ほんの一部、更に搭乗出来るのは厳しい試験を受け、受かった者たちだけだ。多分そんなような感覚なのだろう。
その筈なのだが……
「おい、何でここにいる?」
俺は愛しき我が妹に疑問をぶつける。
「何でって、わっふるが来ていいのに詩が来ちゃダメなのは可笑しいでしょ!」
「いや、別におかしくねぇよ。仮にもコイツはネストに登録されてるし」
詩は兎も角わっふるは届出をわざわざ出している。そして何故か当の本人――本犬は胸を張っている。詩の腕の中で。
「わっふん!」
詩は気にした様子もなくわっふるを撫でると「別にいいでしょ」と言いながらさっさと行ってしまった。
「伊織くん、行こ」
止まっていた俺の手を引いた紗奈に連れられてゲートを潜った。
鳥取。
危険区域。
12月22日に発生した転移被害によって地形の入れ替えが行われた。
そして。
まず転移のない地球上ではあり得ないほどの魔力濃度。無限にいるのではないかと思ってしまうほどのモンスター。その代名詞とも言えるダンジョンが発生していた。
その調査を兼ねて現地に向かった黒帯は津田伊織を放り出した後本来の目的を果たし報告を行なっていた。
「悪いな、態々来てもらって」
そう声をかけるのは【Nest】幹部である【鳰】だ。彼は疲れた様子を一切隠さずにその皺一つないスーツとは対照的な少し乱れた髪を指で弄りながら報告を受ける。
「いえ、そんな事ありません」
対する黒帯は態度こそしっかりしているがその服装はシャツは皺だらけで来ているアウターはくたびれている。そしてそのダメージの入りすぎたジーンズに関しては古着の範疇にすら収まっていない。
そんな対照的な二人を壁側でで眺めていた部下の一人スキタの目にはひどく奇妙な光景に見えた。
「それで、どうだった?」
ひどく抽象的な質問だが予め【鳰】に任せられた黒帯には意図がはっきりと通じていた。
「少し、調べて見ましたが……やはりモンスターたちの動きがおかしいです」
これは黒帯が現地に行く前から言われていた事だった。と言うより今回黒帯が現地に行く事になった原因はこの話があったからだ。
事前に支部から上がってきていた報告は不自然なモンスターの活発化。
それだけでなく。
「モンスターの統率された行動。コレに関しては私が現地に赴いた際に確認しています」
「なら、それを率いている奴もいるってことか?」
【鳰】の言葉に黒帯は頷き言葉を返す。
「ええ、ですが。未だその個体は見つかっていません」
黒帯は支部の協力も得て捜索を開始したがまだ発見は出来ていない。それもその筈、そもそも、今回のダンジョンに至っては既存のものと違いすぎるだけで無くとにかく広い。そのせいで見つからないのは当然とも言えた。
だが対する【鳰】は何か思い当たった様な顔をして口を開いた。




