63話 好きで続けるから天才が生まれるのか、好きで努力するから秀才が生まれるのか
津田伊織。
発見時【Nest】の調査では確認されていなかった二種の魔法の保有者。故に特例という特別な処置がとられる。
そして彼が二種の魔法の所有者であると言うことはある一つの動画を皮切りにネット上などで拡散された。それから本人が転移に巻き込まれて10ヶ月程度転移先で過ごしていたらしい。その影響からか世間のからの興味は離れていった。だがそれは表向きの話。実際津田伊織はこの界隈ではトップクラスと言えるほどに有名人だ。【黒帯】は学生と関わる機会が少ない為【Nest】が提携している七校の生徒たちの認識は分からないが、少なくとも【Nest】に所属している者なら理解に差があったとしてもその名前を忘れることはない。
そして先日の青鷺高等学校での校内第6位との模擬戦で見せた力。ひと目見てわかった。【黒帯】はそれを見たことがあった。いや、見たことがなくともその答えに辿り着くだろう。アレが喰魔石だと。
その一件から世間の目は再び津田伊織に向けられることになったがそれよりも【Nest】関係者たちの関心が数十倍、数百倍にも引き上がった。
当たり前だ。件の少年は前代未聞であった二種魔法の持ち主であり、幹部でも見たことないものもいると言う喰魔石の所持者、注目されないはずがない。
そんな時秋沙から一本の電話がかかって来た。何でも津田伊織が指導者を探しているらしいと。元々興味は有ったその為二つ返事で引き受けた。
そして闘ってみた結果だが。
期待外れだ。
いや、期待はずれというのは正確ではない。
津田伊織は十分に実力はある。独学とは思えないほどに動けている。それに身体が強化されているからかめちゃくちゃな攻撃も剣自体はブレていない。
そして特筆すべきはその膨大な魔力保有量と魔法操作能力だ。
まず魔力についてだが、彼が攻撃の際に刀に炎を纏い攻撃する際それを使い加速や攻撃力を高めているのだがそれを彼と同じ三級、あるいは下位の部類の二級にやらせたとする。その場合彼のように戦闘中ずっとぶっ通しで使用など出来ない。必ず何処かで魔力が切れる。そしてそれは彼の切り札、闇炎にも言えることだ。二種の魔法の同時発動つまり単純計算で一つの魔法の使用時より二倍の速度で魔力が底をつく。しかも彼は闇炎の使用時、常時魔法を出力を上げ垂れ流している。その為二倍どころでは済まないと少し考えただけで出てくるくらいだ。そんな事を平気な顔をしてしているのだから異常とも言える。
そして魔法操作。これは体内魔力の操作のことではなく体外に出力した魔法の操作の話だ。体内魔力の操作で言えば彼は現時点では並以下と言える。本来なら体外での操作より体内で完結する魔力操作の方が簡単な筈だし何より魔法を使っていくうちに体が勝手にある程度までは教えられずとも魔力を抑え体内に留めるようになる筈だがその膨大な魔力量もあってかそうではないようだ。そして肝心の魔法操作だがこれに関してはとても優れている。炎を刀に纏い加速するなどという技は真似できるものは少ないだろう。戦闘中にあの少ない面積の上にピンポイントで炎を出し最適な角度で噴射するなどと少なくともそんな事が出来るものを【黒帯】は見たことはない。出来るとしても幹部相当かとも思うが、見た事がないので分からない。そして闇炎だ。あの湧き出す黒い炎を刀に纏わすのは相当な技量が必要である。そもそも闇炎はとても魔法とは呼べない代物であることは実際目にしてみてわかった。あれはただ垂れ流した二属性の魔力を操作しているだけのもの。とは言ってみるがやはり理解できるものではない。魔法ですらない形のないものを操作などとはもはや意味がわからない。本人曰く魔法を登録できる枠が少ないとかで自分で操作しているらしいが。【Nest】内ではそんなやつ珍しくもない。だが、津田伊織のように魔法の操作ができる奴はいない。
ここまで語って来たがここまでのものを持っていて期待外れだと言ったのは、強さに関してはそうでもないからだ。と言うより、攻撃力がない。
映像こそ閲覧制限が掛かっていたが記録では人間君の中でも一番強いやつを倒したと記されていたが多分喰魔石が影響しているのだろう。
だが、それを差し引くと本人の力は低く見える。階級試験でマジックタイガーを倒す時でさえ自身へのダメージは抑えたとは言えそれを覚悟して闇炎の発動なしには瞬時に倒せなかった。
そこから考えられるのは津田伊織には才能というものはないと言うことだ。
実際、魔力量や魔法操作は才能ではないのかと訊かれればそうとも言い切れない。尋常でない魔力量であってもそれは彼と同じ階級がそれより少し上の人間と比べた時の差だ。もちろん彼の魔力量はもっと上でも通用するくらいに膨大ではあるが。そして魔法操作においては彼より強いものはそれを必要としない。何故ならばモンスターを切るときに態々魔法で加速しなくともダメージは彼より与えられる。そもそも、そこまでの技能は必要とされていないのだ。
とは言え【黒帯】は津田伊織がさらに強くなれることは確信していた。ならばと特訓のための内容を今日何度目になるか分からない彼の攻撃を受け流しながら考えていた。




