5話 闇追うものは炎に呑まれる
結果から言えばダンジョン内で炎魔法が使えるかという事に関してはわからない、としか言えなかった。
炎魔法は、魔力をエネルギーにして燃えている可能性も考えたが念のため止めるべきだと考えた。
「魔法以外の攻撃は試してみたけどあまり効果的とは言えなかったから魔法を武器として、入ろうと思ってたのに」
手ぶらで入らせるつもりだったのかよ。
と言うか、お前はもう入ってたのかよ。
「どうしようかな、他に魔法使えないし」
「使えるぞ、闇魔法」
「いいよ、冗談は、というか、魔法は一つしか覚えられないし」
「冗談じゃ無いんだけど……、本当なのか?ウグイスの情報が間違ってたとか、そういう事はないのかよ」
「僕も実際に試してみたさ、けど、無理だった」
「え?じゃあ、俺特別?」
そう言って手のひらから闇魔法を出して見せる。
紫色のオーラのようなものが出てきえる。
「本当だったんだ」
「信じてもらえなくて悲しい」
「でもどうしてだろうね?」
「うーん、謎」
何故、俺だけできるのか謎だが。
まあ、そんな事よりも。
「早くいこーぜ」
「それなら大丈夫そうだし行こうか」
今度こそ、と、足を踏み出したところで――
「ぐぎゃッ」
穴の中から人影が出てくる。
もちろん、人ではなくモンスターだ。
全身が緑色の皮膚で背丈はあまり高くない。
よく、フィクションで出て来る奴そのまんまだ。
ゴブリンだ。
「何で出てきてるんだ?」
「わからない、とにかく倒さなきゃ」
俺たちは手を構える。
「伊織、ゴブリンは魔法を使えばあんまり強くない、落ち着いて狙うんだ」
「〈ファイアボール〉!」
ゴブリンに向かって火球が飛んでいく。
直撃した瞬間、火傷をし倒れ動かなくなる。
「倒したのか?」
「うん、もう動かないみたいだね」
フラグではないらしい。
ゴブリンを倒したおかげで力が溢れて来る気が……する?
いやわからん。
「なあ、レベルアップとかしないのか?」
少し気になった事を聞いてみる。
「うーん、たくさん倒せば、強くなるとは聞いたけど実際、よく分からないんだよね」
わからない事はもう一つある。
「何で、勝手に出てきたかも気になるな。魔法と言っても闇魔法一回だぞ、俺が、二種魔法を使えるから危険を感じ出てきたのか」
「うーん、どうだろうね、機会があれば【鶯】に聞いてみるよ」
「ああ、悪いな」
そんなこんなで、結局、ダンジョンには入らず闇魔法を使って、誘き寄せることにした。
酸欠の件もあるが、単純な話、想像しやすい炎と比べ闇はやや攻撃力に劣るからだ。
あと、闇魔法を登録するのを忘れてたから、さっきのゴブリンが出て来なかったらそのまま入っていた。
さっきのゴブリンには感謝だ。
焼き殺したけど。
そうこう言っているうちに、ゴブリンが出てきる。
一体ずつ攻撃を当てると、倒れていく。
ちなみに死体は、ダンジョン内では、時間が経つと消えるらしい。
生憎外で倒しているので、帰りには洞穴に突っ込んで帰らなければならないだろう。
そして1時間経ちそろそろ帰ることにした。
初回だが27体も倒してしまった。
若干力が上がった気がする。
多分。
「そろそろ帰らないとまた、詩ちゃんに怒られるよ」
「その前に」
そう言って五体ほどのゴブリンを蹴って、放り込む。
ちなみに、ゴブリンが、魔法を感知して出て来るまで、差がある。
次々と出て来るわけではないので、その間に放り込むようにしている。
すぐ消えるわけではないらしいが(一晩くらいかかる)ゴブリンたちは死体を退かして出て来るので、入り口が詰まると言う事はなかった。
解散した俺たちはそれぞれの帰路についた。
「お兄ちゃん、今日は蒼介さんと出かけてたの?」
夕食中詩が聞いてきた。
「まあな、出かけたと言っても、公園で運動して来ただけだけどな」
ゴブリンを大量虐殺していたとは言えない。
「ふーん、私も誘ってくれればいいのに」
紗奈も話に入って来る。
「誘うってもそう楽しいものでもないと思うけどな」
私はそれでもいいけどとスプーンを口に運ぶ紗奈を見ながら自分も食べる。
うまい。
ちなみに、シチューだ。
一週間後の朝、俺は優雅にお茶を飲んでいた。
勿論、緑茶だ。
紅茶は飲めない。
そんな俺に詩が話しかける。
「お兄ちゃん、詩もう行くけど、そろそろ出ないとまずいんじゃないの?」
「ズズズズズッ、大丈夫だ、俺には秘策がある」
「よく分かんないけど、遅刻しないでね、詩はお兄ちゃんと違って友達いるから、行ってきまーす!」
「ズズズズズッ一言多くないか、いってらっしゃい」
てのが、数十分前の会話なのだが。
「やばい!やばい!やばい!」
俺は猛烈に焦っていた。
俺の秘策とはここ一週間で上がった身体能力を活かし登校時間を短縮する事だった。
ちょっと走れば、結構な短縮になるだろうと。
だか、緊急事態が起きた。
二度寝してしまったのだ。
椅子に座ってると、寝ちゃうよね。
と言う事で、今俺は民家の屋根から屋根に飛び移り移動していた。
危ないが、ただ走っただけではもはや、間に合わない、仕方なくやっているのだ。
前からやって見たいなと思っていたが仕方なくだ。
遅刻ギリギリで学校に行くとクラスメイトが田島の席に集まっていた。
とは言っても、あの日、石が落ちてからは毎日の光景だ。
ちなみに一週間経ったが俺たちはダンジョンへは毎日通いレベルアップに勤しんでいる。
レベル無いけど。
何故、田島の席に人が集まっているかと言うと、あの日俺達と同じく石を拾ったらしい。
まあ初めは、みんなの認識がちょっと綺麗な石くらいだったので、チヤホヤされていたのは初めの1日くらいだったが、その翌日ある噂が広まった。
曰く、ただの意思では無いらしい。
曰く、あの石を使えば魔法がつかえる。
だとか。
こう言う噂はもうネットなどでは広まっている。
やり方は広まってないため蒼介が流したのかと思いきや違うらしい、他にも独自で見つけたか、ウグイスに教えてもらった奴が、頼まれて広めてるのだろうか。
蒼介はと言うと情報を売る時に噂程度に広めてるらしい。
本気で信じている奴が何人いるかは知らないが、その影響もあって、人が集まっている。
正直邪魔だ。
俺の席はギリギリ射程範囲外だが日によっては占領される。
声をかけられない俺は、朝から立つ事を強いられるのだ。
おい、インキャ言うな。
「伊織、どう思う?」
そんな事を魔法を使う張本人がふざけて言って来る。
「さあな、魔法なんてあったら使ってみたいな」
ちなみに、俺と蒼介の席は窓側後列で蒼介、俺の順番で並んでいる。
更に因むと、田島の席は真ん中あたりなので教室内に居れば先ず基本的に避けられない。
田島に群がるクラスメイト恐るべし。
放課後、公園。
「今更なんだけどさあ、炎魔法、屋内でも使えるって」
「今更だなぁ」
「ごめんね、【鶯】と中々連絡取れなくて」
「ウグイス、忙しいのか?」
ウグイスっていうからには日向ぼっこでもしてるのかと思ったが。
まあ、巣で寝る事は少ないらしいから、更なる日向ぼっこを求めて放浪してるのだろうか?
「それを踏まえて、そろそろ、入って見ないかい?ダンジョン」
俺の心の高鳴りは遥か遠くで井戸端会議をしている主婦たちにも聞こえたという