57話 氷は音を立てず
青鷺高校文化祭から2日後。当たり前だが月曜日なので学校に来て居た。俺たちの学校で文化祭があった訳でもないので普通に学校だ。
「HRはこれで終わり、進路の紙は今週中だから忘れんなよ」
そう言って教室を出ていく担任。そう言えば文化祭で有耶無耶になっていたがそんなものもあったな。
「伊織、結局決めた?」
「ん?まぁ、なんとなく青鷺みたいな高校には入ろうと思ってはいるけど」
思ってはいるが七校もあるとなるとどうしようか迷う。どうせゲートを使っていくだろうし距離は関係ないだろう。一番近い青鷺でもいいが。
「お、やっぱり津田、青鷺入んのか?」
やっぱり?
「えっと、青鷺ってあれか?【Nest】のやつ、今日もニュースやってたもんな」
話を聞いていたであろう金髪とヨメキが入ってくる。それにしてもまたニュースか。
「それ、私も見たよ。でもネットのほうがすごかったね」
ヒヨウも入ってくる。今俺は4人と話している。ちょっと前までボッチだったのに感慨深い。
「そうそう、津田のやつな」
「俺のやつ?」
はて、何だろうか?たまたま中継に映ったとか?
「え、津田くん知らないの?」
信じられないみたいな顔を向けてくる。
「そんな顔されてもな」
知らないものは知らない。
「インキャなのにネット見ないのか?SNSとかでは結構話題になってたけど」
「インキャだからネットを見ないんじゃなくてインキャだからSNSをしねぇんだよ」
してるインキャは星の数ほどいるが、と言うよりインキャと言うよりボッチなのでそう言うのがなかった。仮に俺の周りで流行っていてもそれは俺まで伝わらない。
「いやでも、友達とかと……あ」
「チッ」
「そ、そんな事より、津田くんのやつの話だよ」
「そうだよ伊織」
蒼介もそう言うが。
「お前は知ってたのかよ?」
「ごめん、皆んな話してるからとっくに知ってると思ってて」
なんか傷付いた。
「で、何の話なんだよ」
「津田くんと色葉葉月の模擬戦だよ」
ヒヨウが答える。模擬戦って言うとアレか……喰魔石がどうこうとか言う。
「そうそう、二人の試合が凄すぎて【Nest】のボスの【鴉】が出て来たって」
そこまでバレてんのか。一応黙っておいてくれとは言われているけど。これじゃあ意味ないな。
「でもさ、実際【鴉】が幼女だったとは驚きだよな」
「え?【鴉】はムキムキの大男じゃないの?」
「俺は老人だったって聞いたんだけど」
金髪、ヒヨウ、ヨメキの順で自分の知っている情報を話すが。どう言う事だ?
「何でお前ら全員違うこと言ってんだ?動画とか見たんじゃないのか?」
トモのことを男だと思っていた俺が言うのもなんだが、あの、姿なら仮に性別がわからなくても子供だと言うことくらいわかる気がするが。
「それなんだけどな、肝心の動画がひとつもなくて」
「一つも……全くってことか?」
「俺、結構最初というか、模擬戦終了の数分後に探したけど【鴉】が映ったのは無かったぞ」
金髪がそう言うが、怪しいな。
「私も、津田くんたちが映ってたのはあったけど……」
「俺もだな、しかもお前らが映ってるのでさえほぼ無かったし」
どう言うことだ?あの場には数え切れないほど人が居たし、ネットは一度投稿したら一生残るってよく言うが。
「そだ、当たり前だけど津田くんは見たんだから教えてよ」
今更だがヒヨウがそう言う。
「悪いけど、俺意識なかったんだ。それに口蓋もダメだってさ」
「え〜」
あの時【鴉】の事については口蓋するなと言われた。実はそのあと一度会ってはいるのだが、模擬戦の時は本当に意識なかったからな。
昨日、10月29日。
【Nest】本部、情報部。
「助かりました日高くん」
職員は少年――日高蒼介に感謝の言葉を送る。
「いえいえ、僕だけの力だけではないです。実際昨日は帰宅後しか出来ませんでしたし」
「とは言え、どうやったんです?例の動画の消去なんて簡単にできる事じゃないでしょう」
例の動画――つまり、津田伊織と色葉葉月の模擬戦映像である。と言っても【鴉】が映ったものを中心に消していたため消すのが遅れてしまったものもあるが。
「いえ、少し貸しのある人たちに協力して貰っただけですよ。それに全て手動と言うわけでもありませんし」
蒼介はあらゆる人脈を使い【Nest】に協力し、あの動画を消した。普通なら、というかどんなにこの分野に優れていようとも、どれだけ人を集めようともインターネット上から全て消し更に端末上にまで介入しデータを消すなどあり得ない。だがそれをした少年を目の前にした職員は素直に賞賛を送るしかなかった。
「私なんかは学校で一度投稿したら絶対に消えないからって教わったけど……こんなことが出来るとは」
「はは、僕もですよ。こう言う教育は変わらないんですね」
この少年は何をしたんだ?そんな疑問が湧きそうになるが、考えたら負けだ。そう、自分に言い聞かせた。




