56話 薔薇の造花
「……よし、ありがとう、それじゃあ失礼するわね」
色葉が出ていった後、俺はいくつかの質問をされていた。共鳴時に意識はあったのか?、覚えている事は〜などと、結構な時間聞かれた。
「やっと終わった」
解放されて伸びをする。
「お疲れ様、伊織君」
紗奈が労いの言葉をかける。
「お兄ちゃん、終わった?」
「まぁ、終わったけど」
「なら、何か食べに行こ!」
先程まで退屈だからとゆあを引き連れて色々なところをまわって来たらしいが。
「お前外行ったときに食ってないのか?」
わざわざ、俺が終わるのを待って居てくれるたのなら、正直もう帰りたかったが一緒に行くのもやぶさかではない。
「え?食べたけど」
当たり前でしょとばかりに首を傾げる。
「……帰るか」
「お兄ちゃん!たこ焼きにしよ!」
「いやお前さっきも食べただろ、なんか他のにしようぜ」
結局食べにいくことになった俺たちは何を食べるか歩きながら見ることになった。
「他のやつは食べたばっかだし、ね?ゆあちゃん」
他のやつってここら一帯だけでも結構な種類があるぞ。
「私的にはもう食べれないんだけど」
詩と同じだけ食べて居ないとしても普通そうなるだろう。
少し他の場所を見ようと思い歩き出そうとした時。
「あれ、津田伊織くんかな?」
いきなり声を掛けられ顔を上げる。中性的な顔立ちに小柄な体。コイツどこかで……
「どうしたトモ……って津田伊織と……!」
もう一人のデカい方は俺の名前を読んだ後紗奈の方を見て「やべっ」みたいな顔をする。何だコイツ?
「ああそう言えば自己紹介をしてなかったかな?階級試験以来だね。と言ってもそんなに経ってないけど自分の名前はチダトモよろしく」
「えっと、俺はヤクモブキ、よろしく」
そう言えばコイツら人間君とか言う奴を押しつけて来た二人じゃねぇか。そう言えばラブラブだったな。見たのは一瞬だったが。
「で、何?お前らはデートか?」
今の時代多様性は大事だ。そのことに関して特に言う事もないが。LとかGとかBとか、そう言う枠組みを作っている時点でそこに"普通"の種類が増えただけのような気もする。例外だってあるだろうに。そんなことを考えているうちに皆と自己紹介は終わらせたようだ。
「そうかな」
「ちょっおい」
トモが断言(語尾のせいで分かりにくい)するのに対しヤクモを焦ったようなそぶりを見せる。
「いいじゃん、女の子としてはそう言うことも――」
え?おん?
「「え?」」
俺とヤクモの声が重なる。何だお前ら「マジかよ」みたいな顔して。つーか、ヤクモお前はダメだろ。
「ヤクモ、ひどいかな」
「あ、いや……すまん」
確かにそんなふうに思われてたら傷つくだろう。
「でも、ヤクモはそんな垣根関係なしに思ってくれてたのかな」
違かったようだ。つーか、人前でイチャつき始めてんじゃねぇ。
「よし、行くか」
俺たちは無言で歩き出した。
「おいひー」
詩はたこ焼きを頬張りながら感想を言う。
「どっか座らない食いにくいんだけど」
結局のところ詩はたこ焼きを買い、俺らは自分の食べたいものを買ったはずだったんだが。「これ美味しかったよ」などと言って選ぶ前に詩から焼きそばを渡された。流石に歩きながらは辛い。結構人も居るしな。
俺たちは近くの座れそうな場所に腰を下ろす。
「地面硬い」
仕方ないだろ。詩は文句を言いながら下にクッションを敷き、食事を続ける。それあるならいいじゃん。
「ん、美味いなこれ」
「伊織君これ美味しいよ」
紗奈にたこ焼きを突っ込まれる。間接キスとか言う前にクソ熱い。何とか咀嚼して飲み込む。と言うかまた、たこ焼きかよ。
「どうだった?」
紗奈に聞かれる。いや熱くて分からん。
「美味しかった」
「そう、なら良かった!」
紗奈が笑う。眩い。
そんなこんなでその日は遅くなるまで楽しんだ。
「はわ〜眠い」
キタキが思わずあくびを漏らす。
「キタキさん我慢してください。人が来るんですから」
「お前硬いな」
ホウの言葉に対しジュウジはそう言う。
「僕は阿木さんみたいに甘くないんですよ」
「阿木が甘い?」
ジュウジは首を傾けるが足音が聞こえ話を中断する。カケイだ。
「……」
「どうした?黙りこくって?」
「ジュウジさん何度も喋れないって言ってるでしょ」
後ろからついて来た卦都がそう言と、そうだっけかと言いながら離れていく。
「お、来たようだな」
今いる場所はとある倉庫。使われなくなって久しい此処をとある人物との接触に利用しようと考えた。
「いやぁ、お待たせしました」
男は感情のこもった声で挨拶をする。
「阿木さんはどちらに?」
すぐさま阿木の不在を確認する。
「阿木さんなら――」
「此処だ」
ホウの言葉を遮るようにして発せられた声を辿れば阿木が外から戻ってきた。
「これはどうも、阿木さん。先程は」
「では、早速話に移ろうか、相間彰晃」
阿木の言葉に相間は笑みを浮かべた。




