53話 クロ
遅れて申し訳ないです。
黒と白が咲き乱れ宙を舞う。
津田伊織と色葉葉月の魔力が入り乱れる。
「流石第6位と言う事だけありますね。」
フィールドにある幾つもの席のうちの一つに男は座っていた。
男の名前は相間彰晃。【Nest】の開発部に所属し色葉葉月に喰魔石の共鳴を促した張本人だ。
色葉葉月には夜夜田莉世の退学の件について上に掛け合うことを条件としたが本人はそのつもりは全くと言ってない。そもそも、この男は開発部の中でも新人、そこまでの権限はない。
今回の行動も彼が独断でした事であり、上は全くと言って関与していない。
それにしても色葉葉月を動かす為の使いやすい莉世があったのはラッキーだったと内心ほくそ笑む。
ランキング一桁台ともなると我の強いものが多い。そんなものを動かすのは本来であったら面倒だっただろう。
「まぁ、第6位とか関係なく喰魔石の有無で決まるんですけどね」
それにしても凄い魔力だ。あの2人がいる場所の魔力濃度は計り知れない。フィールドと観客席の間には魔法なんかを防ぐ為の防壁があるが、もしそれがなかったらと思うとゾッとする。
「さてさて、見せて貰いましょうかね」
相間は記録用媒体を用意しながら不敵に笑った。
「ね、ねえ、アレ何?」
ゆあが若干の動揺のが混ざった声で隣にいる蒼介に訊く。
「……僕も詳しくは知らないけど、多分喰魔石と言うものが関係していると思う」
蒼介も念のためにと【鳰】に教えてもらっただけで詳しい事はわからない。何か起こるかもしれないから注意しとけとは言われているが。
「でも、色葉さんも凄い魔力だけどアレもそうなのかな」
「多分だけどそうだと思う。喰魔石同士が共鳴した事例がある事は聞いたけど……」
誰が持っているかなんて知るわけがない。第一、喰魔石は相当貴重らしくそう簡単には使用者に出会ったりはしないと聞いていた。そうはいっても万が一があると思い気を張っていたが、目の前で起きてしまうなんて。注意力が散漫になっている気がする。ここ最近の伊織の端末への違法アクセスなんかに気を取られ過ぎていたのかもしれない。
「アレってまずいんだよね?誰止めに行かないの!?」
少し焦ったように聞いてくる詩だがそうも行かない。
「あそこにはそう簡単に行けないよ」
先ず第一に障壁があるしそれをクリアしてもあの2人を止めるのはもはや自分の力では不可能だと蒼介は考える。
「少し落ち着きましょう」
今にも飛び出しそうな詩の様子を見ながら紗奈がそう言うが、実際内心自分に向かって言っていた。
人の器に入った二つの喰魔は同時に手を翳す。
「「――――」」
何かを唱えるとお互いに高濃度の魔力を放出する。二つがぶつかるとものすごい音をたて衝撃を生み二つの魔力が掻き消える。
その瞬間には双方地面を蹴っていた。
既に手のひらには魔力が凝縮されている。同時に其れを相手へと叩きつけ先程のように魔力が掻き消える。本来起こるはずは無いであろう魔力同士の相殺。偶然成し得る事はあっても意図してそれをする事は本来の器の持ち主である二人には出来ない。だがこの二つの喰魔がいれば最早それは必然だ。
お互いの攻撃を相殺し保たれた均衡。それは両者がお互いを上回らんと攻撃を繰り返しその度に攻撃を対処して相殺した結果であった。
だが魔力を相殺したと言ってもそのエネルギーが無に変えるわけでは無い。エネルギーは衝撃となってフィールド内を駆け巡る。
フィールドに張られた障壁――つまり魔障壁だがそれが耐えることの出来る魔力は今の攻撃と比べると心もとない。そもそもこんな出力を出す人間など想定して作られてはいない。もし、どちらかの攻撃が相手を上回った時障壁がどうなるかはわからない。
そして、そんな事は知らないとばかりに喰魔は魔力を放つ。
「凄いなぁ、あれ!」
幼女がいた。黒い髪に黒を基調としたラフな格好。蒼い瞳を光らせそれを見ていた。
「う〜ん、でも、流石にこれ以上はダメかな?」
目の前で行われているのは魔力の相殺合戦。一見似たような事を繰り返しているだけに思われるかもしれないが、身近で見るとこれはなかなか面白い。と言ってもずっと見ているわけには行かない。ゆっくりとまるで老人のように腰を上げる。
「止めるか」
「何のようですか?先輩?」
相間は囲まれていた。相手は昨日まで職場で共に働いていた人達だ。
「何ですかとは酷いじゃない?」
相間を取り囲んだ内の一人澳塩紀伊奈はそう呟いた。こんな事をしでかして置いてなんですかは無いだろう。
「そうですかね?」
「ええ、そうよ。貴方は勝手に色葉葉月に接触し喰魔石の共鳴を図った。残念だけど相間彰晃、君はここで――」
「それは無理ですよ」
言い切る前に相間は言葉をかぶせた。
月が綺麗ですね(直訳)




